この作品は,今野敏さんが描いた「隠蔽捜査シリーズ」の第一作目で,そのシリーズはすでに8作品となっています。
今野敏さんの作品の中では一番好きなシリーズです。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 登場人物
4. 本作品 3つのポイント
4.1 竜崎の経歴と性格
4.2 警察の隠蔽工作
4.3 竜崎の覚悟
5. この作品で学べたこと
● どんなことにも動じない,鋼のメンタルを持つ主人公のことを知りたい
● なぜ警察が隠蔽しようとしたのかを知りたい
● 本作品を通して,生きる上で大切なことを知りたい
竜崎伸也、四十六歳、東大卒。警察庁長官官房総務課長。連続殺人事件のマスコミ対策に追われる竜崎は、衝撃の真相に気づいた。そんな折、竜崎は息子の犯罪行為を知る――。保身に走る上層部、上からの命令に苦慮する現場指揮官、混乱する捜査本部。孤立無援の男は、組織の威信を守ることができるのか? 吉川英治文学新人賞受賞の新・警察小説。
-Booksデータベースより-
1955年生まれ 上智大学文学部新聞学科 卒業
1978年に「怪物が街にやってくる」で作家デビュー
主に,警察小説を描いてます。というか,ほとんどが警察小説
主な受賞歴
問題小説新人賞(怪物が街にやってくる)・吉川英治文学新人賞(隠蔽捜査)・日本推理作家協会賞・山本周五郎賞(果断 隠蔽捜査2)
「竜崎真也」という警察庁の官僚が連続殺人事件に関わるんですが,この竜崎が人間的にも尊敬できる人物なんです。
思っていることはズバズバ言えるし,ムダなことは一切しない,常に効率的に行動する人間で,読んでいて気持ちがいいです。
竜崎真也・・・警察庁長官官房総務課課長。東大卒で鋼のメンタルを持つ主人公
伊丹俊太郎・・警視庁刑事部長。竜崎の同期で同級生
竜崎冴子・・・竜崎の妻。夫は「唐変木」だと言っている
竜崎邦彦・・・竜崎の息子。竜崎に「東大以外は大学じゃない」と言われ,浪人中
竜崎美紀・・・竜崎の娘。邦彦の姉で,結婚が決まっている。
そんな竜崎にも試練が訪れます。
この作品は竜崎に起こった試練を彼自身がどう乗り越えるか.
生きていく上で,とても参考になった作品なので紹介します!
1⃣ 竜崎の経歴と性格
2⃣ 警察の隠蔽工作
3⃣ 竜崎の覚悟
竜崎の役職は「警察庁長官官房総務課長」です。階級は「警視長」ということみたいです。竜崎はキャリア(エリート)なので,警部補から始まっていると思います。
すごいですね。上から三番目の階級ですよ。警視以上が全体の5%にくらいといいますから,相当すごいです。
ムダが大嫌いで原理原則を守り,効率主義という自分の信念に基づいて行動する竜崎。
あまりにもマイペースで愛想がないので,周囲からも「変人」と呼ばれていました。
そんな竜崎が,ある連続殺人事件の捜査に関わります。
ここで伊丹という人物が登場します。
伊丹は竜崎と同じ官僚で、警視庁の刑事部長であり,小学校時代の友人です。
伊丹も「警視長」という階級みたいですから,同じ小学校からキャリアが二人出たということですね。優秀な小学校だったのでしょう。
ただ友人というか、竜崎自身は昔この伊丹からいじめられていたということらしいです。
伊丹はそれを覚えてませんが,竜崎はよく覚えていたみたいですね。
いじめている方は覚えていないけど、いじめられた方は一生覚えていますから。
ともかく,この連続殺人事件を,竜崎と伊丹が協力して捜査することになるのです。
この連続殺人事件では三人の男性が殺害されます。
第一の被害者は,30代の男性で,廃工場の跡地で銃殺されました。
当初は暴力団員の仕業かと思われました。
第二の被害者も30代の男性で,スナックの跡地で銃殺されました。
第三の被害者も30代の男性で,平和島公園で鈍器により殺害されました。
共通点は,この三人には前科があったということです。
では,誰がこの三人を殺害したのか。
そう考えると,その前科をよく知る人物ということになります。
そう,犯人は「現職の警察官」だったのです。
ところが,警察庁の幹部と伊丹はこの事件をなかったことにしょうとします。
伊丹は上部からの指示に従い,隠蔽に走ろうとします。
しかし,そんな「迷宮入り」を竜崎が許すわけがありません。
この作品でも書かれていますが,かつて起こった「国松長官狙撃事件」と同様の展開になるのかということです。
この事件は1995年に警視庁公安部が,当時世間を驚かせた宗教団体の仕業であると踏んで捜査していました。
しかし捜査の半ばで,ある巡査長が捜査線上に上がり「自分が狙撃した」と自白してしまったらしいのです。
それを隠蔽しようとしたが,マスコミの執拗な追及で,とうとう事実と認めてしまったと。
本当の話かどうかはわかりませんが,いずれにせよ「隠蔽」はよくないですね。
今回の事件でも,マスコミがそのスクープを手にし,警察に圧力をかけてきます。
伊丹という刑事部長はこのシリーズでも,自分の上司に忖度し,建前を大事にし,出世を望むような印象があります。
まさに竜崎とは対極にあるわけなんです。そんなことを竜崎が許すはずかないのです。
警察の信用失墜させないために隠蔽工作しようとする警察上層部と伊丹。
原理原則に従い,警察こそが真実を明らかにしなければならないという竜崎。
一体,警察はどういう行動に出るのかがこの作品の大きなポイントです!
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
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連続殺人事件は,竜崎の主張したとおりに,巡査長の起訴でマスコミに報道させました。
しかし,竜崎にはもう一つ最大のピンチがありました。
それは,自分の息子である邦彦が「ヘロイン」を吸っていたのです。
ヘロインは「脳内に移行しやすく、モルヒネより強力で速く作用し、3倍から10倍強い鎮痛、多幸感などの作用する」らしいです。
邦彦はそれを煙草に仕込み,吸っていたのです。それを聞かされた竜崎の妻である冴子。
自分の息子の不祥事,それを「もみ消したい」気持ちでいっぱいだったでしょう。
邦彦は受験のプレッシャーがかかっていたのでしょうか。
「麻薬及び向精神薬取締法違反」これが邦彦の罪です。
誰でも揺れ動くと思います。それは僕も人の親だからわかります。なかったことにしてほしいと。
竜崎自身の懲戒免職,あるいは降格人事だけでなく,邦彦が目指していた大学受験,そして,竜崎の娘である美紀の縁談の解消。
「東大以外は大学と認めない」と言っていた竜崎は,自分自身を責めているような気もしました。自分がプレッシャーを与えたのではないか,と。
それでも,全てを失ってでも、例えそれが自分の息子の将来を棒に振ることになったとしても、竜崎は許さなかったのです。
それでも,竜崎は原理原則に従い,自分の息子に自首を勧めるのです。
これが竜崎の覚悟です。
今回の話は,竜崎との出会いの作品で,僕にとってはとても意味のあるものでした。
人間って,ミスや失敗,悪事を隠したいと思いますよね。
これまで生きてきて,仕事でも私生活でも多くの失敗をしてきました。
その失敗をもみ消そうと思ったことがあります。でも結局はバレてしまうんですよね。
どんな小さなことも,時間が経てば雪だるま式にどんどん大きくなって,気が付いたらとんでもないことになってることがありました。
「なぜそれを黙っていたんだ!!」
あれからでしょうか。ミスや失敗をすぐに報告するようになったのは。
どんなことにも動じず,効率主義で真っすぐに生きる竜崎。
周囲のことを気にし過ぎて自分のことがおろそかになってしまう人もいると思います。
でもそれは「人のため生きているようなもの」です。人は人,自分は自分です。
不安になったりしたときにはこの「竜崎真也」を思い出すのが,今の僕のスタイルとなっています。
● ミスや失敗,悪事を隠そうとすると,必ず大きな代償がくる
● 迷った時こそ,原理原則に従って行動することが大切である
● 周囲の目を気にせず,自分らしい生き方をした方がよい
どんなことにも冷静に対処する竜崎。
問題があればすぐに行動し,そしてその行動に誤りがない。
これまで多くの小説を読んできましたが,本当に尊敬できる人物です!