「水木弁護士シリーズ」僕の大好きなシリーズの一つです。
基本的に法廷モノが好きな僕自身は,極めて論理的に法廷で発言する水木弁護士が,汚名を着せられ「冤罪」になると思われた被疑者を,逆転無罪にさせるところかなと思います。
小杉健治先生の作品を初めて読んだのは「残り火」で,すでに水木弁護士が引退しようとしていた頃の作品でした。
その「残り火」もそうですが,本作品もかなり印象に残っています。
二転三転しながら,最後は大どんでん返しという展開は小杉先生の得意技です。
一体「声なき叫び」とはどういうことなのか。
話は,ある男性が自転車に乗っているところで事故に遭うところから始まります。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 知的障碍者の事件
3.2 目撃者の証言
3.3 法廷での大逆転
4. この作品で学べたこと
● 本作品の冒頭の事件の真実を知りたい
●「冤罪」がなぜ起こってしまうのかを知りたい
● 水木弁護士が起こす「大どんでん返し」を読んでみたい
自転車で蛇行運転をしていた青年が警察官に捕まり、取り押さえられているときに死亡した。警察官の暴行を目撃した複数の人間がいるにもかかわらず、警察は正当な職務だと主張する。水木弁護士が警察を相手に法廷に臨んだのだが、裁判は著しく公正を欠く展開となった。水木は最後の賭けに出る。映像化作品、待望の文庫化!
-Booksデータベースより-
水木邦夫・・・主人公。敏腕弁護士
高尾翔太・・・自転車の運転中に逮捕され,亡くなってしまう
高尾宏・・・・翔太の父。息子の疑いを晴らそうとする
広野ゆかり・・事件の重要な証言者となるが。。。
1⃣ 知的障碍者の事件
2⃣ 目撃者の証言
3⃣ 法廷での大逆転
自転車で蛇行運転していた高尾翔太という青年が,警察に取り押さえられます。しかし警察は翔太が逃げようとしていると思い,暴行を受けてしまいます。そして何と翔太は亡くなってしまったのです。
警察は翔太が何か薬物をやっていると考えていたようでした。
実は翔太は発達障害を持っていました。「アー」という声しか発することしかできません。
翔太は軽度の知的障害者で,突然の出来事にパニックを起こしたようです。
薬物をやっていたという警察の主張などとんでもないと訴えますが,警察側はまともに取り合わず,翔太が悪者のような扱いをされます。
この事実を知った父親の宏は怒り心頭です。息子の死に疑問を感じ始めます。警察に説明を求めるも「暴行などしていない」の一点張り。
この事件,実は目撃者がいました。広野ゆかりです。
ゆかりは「マーメイド」というファミレスの窓際の席で,彼氏の加田と一緒に事件の一部始終を目撃していたのでした。
自転車で走っていた翔太は,サイレンを鳴らしたパトカーにマイクで呼び掛けられ,逃げているようでした。
パトカーが自転車に幅寄せしてきたため翔太の乗った自転車は倒れ,ガードレールを乗り越え歩道に投げられてしまいます。そこへ2人の警察官が,逃げていた翔太に足払いをかけ,さらに殴ったり蹴ったりし始めました。
青年は奇声を発しながら暴れていたがとうとう後ろ手に手錠をかけられ逮捕。
後でやってきた警察官にも蹴られていたようでした。
その時,翔太に異変が起きたようです。
仰向けになってぐったりした翔太に警官が心臓マッサージを始めたのです。
時間が経って,救急車がやってきて翔太を乗せていきました。
ここまでのことを,ゆかりはしっかりと見ていたのです。ゆかりの証言がこの事件を左右しそうです。
息子を亡くした宏に協力な見方が現れます。八田という編集者です。
周囲にいた人間で目撃者がいないかを探します。そこで見つけたのが広野ゆかりです。
ゆかりの証言を聞き,警察に非があると考えた八田は警察に詰め寄ります。それでも警察は事実を認めようと思いません。
警察は暴行していないと,明らかに真相を隠しています。そして検察側も警察寄りになり,真相を覆い隠そうとしている。
八田は知り合いの弁護士に依頼をします。その人物こそ水木弁護士です。
ここから証言を突き付け,裁判を有利にするはずでした。しかし,流れは思わぬ展開になっていきます。
八田が依頼したのが敏腕弁護士である水木です。
水木はゆかりの証言を聞き,何とか翔太の汚名を晴らそうと考えます。そして裁判が始まります。高尾,八田の二人にこのカップルの証言が加わることで,裁判も有利に進むと思われました。しかし,そうはならなかったのです。
やはり警察は真実の証言しません。そして検察も警察には非がなかったという方向へ導こうとしているようです。
しかも,それまで目撃者が多数いたのに,何者かが先回りして,いろんな取引で証言をさせないようにしてしまっているようでした。
とうとうゆかりにもその手が及びます。ゆかりが証言を撤回したのです。事実と異なる証言をしてしまいます。
唖然とする水木と八田。原因はゆかりの婚約者の加田にありました。証言をすると加田の出世に響くと言われたようです。加田の企業は実は不正を行っていて,逮捕者が出ると警察に脅されたようなんですね。
また,ゆかり自身にも考えがありました。婚約者である加田と幸せな家庭を築きたいと思っていたのです。
法廷で真実を証言すると言っておきながら,土壇場で撤回するのです。
自分の夫を守り,そして自分自身も幸せになりたい。
わからなくもないですが,罪なき人間が有罪になってしまうことに対しては何とも思わないのだろうか。
そして裁判官までもが何らかの取引を受けているのか,警察寄りの流れに持っていこうとする雰囲気がプンプンしてきます。
完全に八方塞がり。悪い流れになった水木弁護士。絶対絶命の大ピンチとなります。
しかし,ここから思ってもない展開が待っていました。
水木弁護士はこの「冤罪」をどうやって覆すのでしょうか。
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水木は窮地に追い込まれます。最大の証言者を失ったわけですから,計算外。水木は困り果ててしまうんですね。
そしてとんでもないことが起こってしまいます。
八田が何者かに殺害されてしまうのです。八田の行動力を嫌う人間がいるということです。
一体誰なんでしょうか。
水木弁護士と被害者父親の高尾宏の二人以外はすべて敵状態になってしまうのです。
ん~,どうやってこれを打開するんだろうか。
そう思っていたら強力な味方が現れるのです。満島という男です。彼はかつて,同様のやりくちで犯罪者となってしまった経験がありました。
それを知った水木弁護士は満島に協力を要請するのです。
水木弁護士と満島はどうやら犯人が誰であるかを推理しているようでした。
ある日,満島は加田に対してこんなことを言います。
「あなたの会社の人間が,八田を殺害した」
これに動揺する加田。自分の企業に対して不信感を持ち始めます。
会社の不祥事をもみ消そうとしている人間がいるのではないか。そのために邪魔な八田を殺めた人間がいるのではないか。
水木弁護士はここぞとばかりに加田を追及します。
「あなたたちは本当にそれでいいのか」と。
実は広野は加田子供を身ごもっていました。そして加田は思うのです。
「俺は自分の子供のために,真っ当な人間でありたい」それを聞いた広野も,自分の子供のために正直に証言することを決断するのです。
今回の事件は,自分たちは社会的に非難されるかもしれない。
加田と広野は自分の子供のために,
「胸を張って正直に生きたい」
勇気を持って真実を伝えることを選んだのです。
こうなると水木弁護士は攻勢に出ます。法廷では,真実が明かされ,翔太は無罪。水木弁護士だけではなく,息子の無罪を信じた父親の宏の気持ち。
それらがきっと広野や加田の心を揺さぶり,「冤罪」という最悪の結末を回避できたのではないかと思います。
警察,検察,そして裁判官までもが真実を隠蔽しようとするということ。
世の中には同じようなことで「冤罪」を受けてしまう人がいるんでしょうか。
司法,行政が隠蔽してしまえば,国民は誰を信じればいいのか。
自分たちの保身に走ってしまう人がいること。
警察も汚点を責められたくないし,組織人も「出世」などに響いてしまうことを恐れる。
もし自分自身が同じ立場になったら,と思うと確かに本作品の登場人物のような行動や考えをすることは全くないとは言えないです。
しかし,一度偽ってしまえば,おそらく永久に偽った事実を抱えながら生きていくことは間違いないと思います。
警察官に憧れていた翔太。
発達障害でまともに話すことができなかった心優しい青年。その「声なき叫び」が伝わってよかったと思います。
● 「冤罪」をなくすことの難しさを感じた
● 自分の保身に走ってしまい,真実を隠蔽することの愚かさ
● 自分の子供に誇れる人生を送りたいと思った