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【今はちょっと,ついていないだけ】伊吹有喜

今はちょっとついていないだけ

2022年に公開された映画の原作です。伊吹有喜先生の作品を初めて読みました。

伊吹先生って,女流作家だったんですね。男性を主人公に描かれた作品だったので,男性の方だとばかり思ってました。

「今はちょっとついていないだけ」というタイトルに惹かれ,購入しました。

今の自分の置かれた状況もあまり良い状況ではない時だったので,ストーリーや主人公の考えがとても身に沁みました。
映像化もされているようで,主人公に玉山鉄二が抜擢されています。

今の時代に合わせたストーリーで,新しいビジネスに取り組みたい方,婚活をしている方,過去の出来事に苦悩している方など,いろいろな登場人物を自分に投影しながら読むことができる作品かなと思います。

是非,読んでみてください!

こんな方にオススメ

● 新しいビジネスを始めたい方

● 自分はついてないなぁ,と思っている方

● 過去の忘れられない出来事に苦悩している方

作品概要

バブルの頃、自然写真家としてもてはやされた立花浩樹は、ブームが過ぎると忘れられ、所属事務所に負わされた多額の借金を返すうちに40代になった。カメラも捨て、すべてを失い。自分が人生で本当に欲しいものとは、なんだったのか? 問い返すうち、ある少女からの撮影依頼で東京へ行くことになった浩樹は、思いがけない人生の「敗者復活戦」に挑むことになる。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

立花浩樹・・・主人公。元有名なカメラマン

宮川良和・・・映像制作会社に勤務していたが,リストラに遭う

瀬戸寛子・・・化粧品専門店勤務

会田健・・・・かつて人気俳優だったが,現在は人気も下降している

巻島雅人・・・立花がかつて所属していた事務所の社長

本作品 3つのポイント

1⃣ かつての有名カメラマン

2⃣ 主人公の元に集まってくる人々

3⃣ 立花は変わることができるのか

かつての有名カメラマン

立花浩樹(ひろき)は入院している母に頼まれて,同室だった白髪の老婦人,宮川静枝の写真を撮ることになってました。タチバナコウキそこに静枝の息子である良和が現れ「写真家だったら機材を選んで写してよ」と言います。良和はカメラにも詳しいようで,浩樹に対して何かしらの不信感を持っているようです。やはり写真家がスマホで大事な写真を写すということが嫌なのでしょう。

浩樹の母は,自分の息子がプロのカメラマンであることを自慢していました。しかし浩樹自身はここ何十年もカメラに触れていません。カメラにカビのような白い粉が着くくらいに。

浩樹は持ってきていたアルミケースを肩にかけ,母の病室へ戻ろうとしたときでした。宮川が「K.Tachibana」という名前を目にします。疑問

おたく,ひょっとして,あのタチバナ・コウキ?

立花浩樹はかつて,ひろきを「こうき」と変え「ネイチャリング・フォトグラファー」としてテレビに出演していた人物でもあったのです。もちろん驚く宮川。彼もその番組が好きだった一人だったのです。

元々「ネイチャリング・フォトグラファー」という肩書は、当時所属していた事務所の社長だった巻島雅人が付けたものでした。

立花が出演していたテレビ番組「ネイチャリング・シリーズ」は世界の各国を撮影する立花を撮った番組でした。

アラスカ,北極,アマゾンの奥地やチベットの山々などの,秘境へと撮影旅行していた立花は一躍有名人だったんですね。ところがその番組も長くは続きませんでした。探検1990年代,バブルが崩壊してしまいます。そしてスポンサーが手を引いていったことで写真家のオファーも減っていったのです。

社長の巻島は多額の負債を残して自己破産します。運が悪かったのは,立花が巻島の連帯保証人であったことです。

立花は住む場所を失い、実家へ戻ってしまいます。そして借金の返済に苦しみながらも何とか返済していきました。

立花は依頼通りに携帯のカメラで写真を撮ります。そして静枝に、母がお世話になったお礼にと、フォトアルバムにしてプレゼントしました。

この縁で、静枝の東京に住む孫娘からダンスの公演のチラシやパンフレットの写真を撮ってほしいと依頼を受けます。

自分はあの番組に映りたかったわけではなく,やりたかったのは単純にカメラで写真を撮ることでした。立花は、母の退院を機にもう一度東京へ戻り、再び写真を撮ることを決心します。

時は経ち,静枝の息子・宮川良和は、東京の自宅で母のことを思っていました。実は静枝は入院先から介護施設に移ったのですが,風邪をこじらせてしまい,肺炎になって亡くなってしまいました。立花に撮ってもらった遺影を前に、母の事ではなく,自分のことばかり考えていた自分自身を責めます。母の遺影長年務めてきた製作会社で、宮川はリストラに遭ってしまい退職しました。そこから人生に絶望したのか,昼間から発泡酒を飲み、妻や娘からも邪魔者扱いされていくようになります。アル中だの,暴力をふるうだの言われ家を追い出された宮川。

ただ,娘の奈々子の舞台公演が気になり、こっそり会場へと向かいます。安い場所を選んでは泊まるようになり,さらに酒の量は増えていきます。

舞台の上で舞う娘の姿と母の姿が重なり、帰る場所のない自分に吐き気を覚えます。そしてとうとう会場の外へ飛び出した宮川は、植え込みに倒れ,動けなくなってしまいました。

目を覚ますと、かつて母の入院先で会ったあの立花の部屋でした。どうやら立花は、たまたま静枝からの依頼で,孫娘である奈々子の公演の写真を撮るため,その場に居合わせたようです。

立花が住んでいたのは「ナカメシェアハウス」という場所でした。中に入った宮川は,ふと飾られている写真に目が止まります。それは母が気に入っていた写真でした。朝日を拝む少女の写真です。宮川はここである決心をします。

ひとりに戻ってみようか。生まれ変わった気持ちでやり直そうか。

朝日の当たる場所から、もう一度。

主人公の元に集まってくる人々

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宮川はこのシェアハウスに引っ越すことにします。「ナカメシェアハウス」には、もう一人住んでいる女性がいました。瀬戸寛子です。彼女は化粧品専門店から,エステやメイクなど,美容に関するものをサロンにて腕を磨いてきました。

ところが店舗の縮小に伴いリストラされてしまいます。理由は自分でもよくわかっていました。確かに美容師の資格もあり、腕にも自信がある瀬戸でしたが、接客や人付き合いが大の苦手だったのです。ヘアサロン美容室といってもやはり接客業ですから,顧客とのコミュニケーションが重要ですもんね。新しい仕事に就こうと,ブライダルメイクの会社の面接を受けます。しかし和装の着付けができないと採用は難しく,結局不採用。

これからどうやって仕事をしていったらいいのだろうと思い悩む日々を送っていました。

ある日,後から引っ越して来た立花や宮川が、庭でなにやら女性の写真を撮っています。瀬戸は,立花がかつてのネイチャリング・フォトグラファーであることは知っていました。瀬戸自身も立花の番組を観たことがあり,それに惹かれた一人だったのです。

撮影されている女性は佐山と言いました。瀬戸は彼女へのメイクが少し気になっている様子。聞けば、婚活用の写真をお願いしているということで,なおさら違和感を感じている瀬戸。自分の納得のいくメイクをしたくて仕方がないような感じです。

瀬戸は、自分のメイク用具からチークを施しました。そうすると血色が良くなったように表情も明るくなりました。そして,立花が撮った佐山の写真をみて、この女性の婚活はきっとうまくいくと確信します。女性の写真なるほど,宮川が仕事を持ってきて,瀬戸がメイクをし,それを立花が写真を撮るという,まるでビジネスですね。

佐山の婚活はうまくいき,鈴木という男性と結婚することになりました。二人で旅行の計画も立て,佐山の心は弾んでいます。

ところがここで思ってもないことが起こります。鈴木が他の若い女性に惚れてしまい,結婚を白紙にしてほしいと嘆願されるのです。

佐山は相当ショックを受けます。理由は聞きますが,これ以上言っても何も変わらないな,というような感じでした。そして佐山は一人で南の島へ,旅に出るのです。

南の島で,佐山は現地の人間と恋に落ちます。運が佐山にも向いてきたようです。ところがそんな佐山に,あの結婚破断したはずの鈴木がまた言い寄ってくるんですね。どうやら相手の女性と合わなかった様子。

ん~,本当の気持ちとは言え,佐山としては許せないですよね。佐山は鈴木の言い訳を聞きますが,結局元に戻ることはありませんでした。

人と人とのつながりって,やっぱり最後は「信用」かなって思います。

次に「ナカメシェアハウス」にやってきたのは,大学時代、立花と同じ探検部に所属していた岡野健一でした。岡野は現在,立花が写真を今も撮っているということを知ってやってきたのです。

ある日,岡野は家族を喜ばせようと,家族を連れてバーベキューをすることになりました。家族と一緒にバーベキューをしている姿を撮りたかったようです。バーベキューところが,準備したバーベキューの時,火を起こすのに手間取り,妻から「慣れないことしないでよ」と言われます。岡野の家族は怒って帰ってしまいました。一人残された岡野は,立花たちと一緒にバーベキューをするのでした。

次に現れたのは,宮川を頼ってきた会田健という人物。彼はかつて,売れっ子の芸人でした。ところが人気が急速に衰え,事務所からも解雇されてしまったのです。

そんな会田は立花に頼みます。心機一転、なぜか裸のプロフィール写真を撮って出直したいと言い出すんですね。

仕事が激減し,自由な時間を筋肉トレーニングに打ち込んできた会田。会田は,岡野がカヤックの講習をするということに便乗し,会田のプロフィール写真の撮影をします。カヤック立花のアイデアで,会田が鍛え上げた腹筋を濡れたTシャツ越しに見せる写真を撮影します。「ギャップが人の目を惹きつける」立花がいれば何か起こりそうな気がします。

SNSにアップした会田の写真。しばらく時間が経ち,会田の後輩から連絡が入ります。「超ヤバいことになってますよ」と。

これを機に,立花、宮川、岡野、会田の4人はアウトドア関連の動画を制作し,日本内外に向けて配信を始めます。寛子は撮影用のヘアメイクを担当することになりました。ホントに立派なビジネスです。ビジネスただ,立花には忘れられない過去の出来事がありました。

立花は変わることができるのか

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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宮川はある制作会社へ通うようになりました。
その会社では、かつて活躍していた人々が今、どんな暮らしをしているのかという企画が上がっていました。

立花はこのような企画の出演を何度も依頼されてきたようですが,そのたびに断っていたようです。宮川も立花への依頼を受けていましたが,それとなく断っていました。依頼を受ける立花にとっては「過去の辛い出来事」がどうしても忘れられないようでした。その過去のことというのが,以前一緒に仕事をしていた巻島という人物がいたようなのです。その巻島の会社の連帯保証人に立花がなっていました。

ところがバブルがはじけ,巻島は自己破産,返済は立花にも降りかかったというわけです。実は,巻島からオファーがあったようなんですね。立花とすればもう二度と巻島とは会いたくないですよね。

ただ,巻島は立花に会いたいと思っているようなんです。しかし,仕事を受ければ宮川の仕事ができることになる。

悩んだ挙句,立花は巻島に会いに行くのです。宮川への思いやりなのか。それとも巻島との決着をつけたいのか。福岡に住む巻島の元へ,立花は向かいます。そこで会うなり「相変わらず立花は情に弱い」と言われます。巻島やはり昔と変わっていないと感じた立花はすでにキレそうになってました。しかし,巻島は言います。

でもそういう奴だから、格好よく撮りたいと思った。みんな、立花に夢中だったんだお前たちが今やっていることは「サナギ」の状態だから、美しく羽化するためにはメディアでも俺でも利用できる者は利用しろ

巻島から見て,立花という男は魅力的なのでしょう。それに対し,謙虚というか,お人よしな立花。ある決心をし,立花は再び東京へ戻ります。そして宮川にこう言うのです。

自分は心底、何を欲しているのかを考えた。20年近く経った今でも同じ、見たことがない景色が見たい

僕と組んでくれませんか

これまで意地を張っていた感じの立花が,素直に過去を赦し,人を頼ろうとしているのです。宮川ももちろん乗り気です。

ネイチャリング・フォトグラファーとしての過去を恥ずかしく思い、自分さえも否定して生きてきた立花。たちばなただ逆に言えば,それは番組に携わってくれたスタッフ,一緒に頑張った仲間さえも否定してきたことと同じなわけです。

辛かった過去を忘れようとするのではなく、受け入れて前に進む決心をします。新しい仲たちとともに。そして最後に立花は自分の母に贈り物をします。

追伸、ありがとう。ついてない時期は、抜けたようです

過去の許せない出来事,僕自身にもありました。逆に僕に対して許せない感情を持っている人もいたと思います。

時が経ち,それを許すことができるのかというのが一つのポイントだったと思います。
僕はそれを「赦すことができた」ことで,一歩前に進めたかなと思いました。

そして,仕事というものはどこでどう繋がるのかわからないなとも思いました。

全く関係のない者同士が,何かのキッカケでつながり,そして新しいビジョンが作られる。行動することこそが大切で,立花も同じ気持ちだったのではないでしょうか。

「ちょっとついてない時期」を脱した立花の姿がとてもよかったです。

この作品で考えさせられたこと

● 人生誰にも苦しい時期はあるということ

● その苦しい時期を乗り越えることができれば,また違った世界があるということ

● 人を「赦す」ということの大切さ

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