「ホワイトアウト」というのは,主に大雪が降る地方で起こる,視界が一面真っ白になる現象のことです。
ストーリーの中では意味を持つ言葉なのでしょうか。
本作品はテロリストに占領されたダムに一人立ち向かう勇気ある男の話です。
1996年には「吉川英治新人賞」を受賞しています。
映画化されており,主人公の富樫を織田裕二さん,ヒロインの千晶を松嶋菜々子さんという豪華キャストです。
当時はとても話題になっていましたけど,結局観たことがなかったので,どうしても小説で読みたかった作品でもあります。
果たして,主人公はテロリストが制圧したダムを守ることができるのか。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 ダムを占拠するテロリスト
3.2 テロリストの目的とは
3.3 事件の意外な真相
4. この作品で学べたこと
● ダムを占拠したテロリストの目的は何かを知りたい
● テロリストに立ち向かう主人公のことを知りたい
日本最大のダムが、テロリストにより占拠された!! 峻烈(しゅんれつ)なる雪に遮(さえぎ)られ、警察すら打つ手のない中、人質となった亡き親友の婚約者を救うため、一人の男の戦いが始まる――。遭難者救助で事故に遭い、親友を失った電力所所員の富樫(とがし)。心に傷を残したまま3ヵ月が過ぎたある日、職場である奥遠和(おくとおわ)ダムにテロリストが侵入! 仲間たちが次々と殺される中、亡き友との約束を果たすため、富樫は一人、巨大な敵に立ち向かう!!
-Booksデータベースより-
富樫輝男・・・主人公。ダムの運転員
平川千晶・・・吉岡の婚約者。テロリストたちの人質となってしまう
吉岡和志・・・富樫の同僚。事件に巻き込まれる
宇津木弘貴・・テロリストの首謀者
笠原義人・・・テロリストの仲間の一人
1⃣ ダムを占拠するテロリスト
2⃣ テロリストの目的とは
3⃣ 事件の意外な真相
日本最大の貯水量を誇るダムである「奥遠和ダム」
このダムの運転員である富樫率いる第一班は,吉岡率いる第二班へ業務を引き継ぐ途中
「仙丈ヶ岳の中腹で,二人組の登山者がいるのをみた」
と報告してきます。
どう考えても登山ルートは外れており,「これは遭難している」と判断した吉岡は登山者を助けに行くのです。
ところがその途中,遭難者の二人のうち一人は沢へ滑落。
もう一人を吉岡は担ぎ,富樫と共に戻ろうとしていた時でした。突然吹雪がやってきます。バランスを崩した吉岡は遭難者とともに滑落。
救助隊を呼びに行くことになった富樫は,完全に視界を見誤ってしまいます。
「ホワイトアウト」が発生していたこの山ではどうすることもできない。山の恐ろしさを感じます。
そして悲しい無線連絡がくるのです。「吉岡の遺体を収容した」と。
一人だけ生き残った感の富樫は自分を責めているようでした。
吉岡には婚約者がいました。平川千晶という女性です。
なぜ婚約者が亡くならなければならなかったのか,彼女は吉岡の葬儀に出席し,心に誓うのです。「奥遠和ダムへ行こう」
そしてある日,富樫は千晶と会おうと決心するのです。
富樫にとっては苦しかったと思います。同僚のフィアンセが「あの時何があったのか」を問い詰めるわけですから。
しかし,千晶の案内をしようと待っている間,一本の無線が入ります。
「ダム近辺を登っている二人組がいる」
また正体不明の不審者が登場します。
どう考えても立ち入り禁止区域から登ったようなルートを辿っていました。
そして山頂になるレストハウスに向かっているようです。一体,何者なのか。
無線連絡を受けた富樫たちは後を追いますが,どうやらこの登山者,ただの登山者ではなさそうです。
手には「猟銃」を持っていて,富樫たちをめがけ,発砲してきたのです。
「テロリスト」の出現でした。
身の危険を感じていた富樫は必死で逃げます。銃声が鳴り響く中,富樫は何とか逃げ切ることに成功します。事務所へ戻った富樫。何かしらの違和感を感じているようでした。
その頃,千晶はダムへやってきていました。千晶を案内していたのは吉岡のかつての上司だった岩崎です。
「シルバーライン」というルートを通って発電所へ向かう千晶と岩崎の乗った車。
その途中のトンネルで,彼らは「テロリスト」と出会ってしまいます。
銃で撃たれてしまう岩崎。残された千晶はとうとう拉致されてしまいました。
そしてテロリストたちは発電所に辿り着き,千晶を人質にとって占拠したのです。その後,富樫は,千晶がテロリストたちに拉致されてしまったことを知るのです。
「かつて吉岡に何が起こったか」を伝えようとしていた富樫は愕然とします。
吉岡が亡くなった時に自分の責任を感じ,罪悪感をも感じていました。
一体,このテロリストたち,何者なのでしょうか。
そもそもこのテロリストの目的は何なのでしょうか。
どうやら目的はカネです。要求額は何と50億円。そしてその要求はダム・発電所に対してではなく,日本政府に対してでした。
24時間以内に50億円を要求し,しかも発電所を占拠したテロリストたち。
もしそれができなければ,ダムの水を放流するといいます。一気に放流してしまえば,下流の川はもちろん氾濫してしまいます。そしてそこにある町に大損害が発生するわけです。
人質は千晶ですが,ある意味下流の町の人々をも「人質」にとっているようなものです。
富樫は慌てます。この事態を何とかしなければならない。
しかし,テロリストの要求はかなり計画的でした。外部に電話はつながらないし,当然無線で繋がるはずもない。
発電所へ行くための「シルバーライン」は,テロリストたちによって通行ができないようになってしまっていました。
ただ富樫はその途中のトンネル内に「非常電話」が設置されていることを知っていました。
急いでトンネルへ向かう富樫でしたが,そこにはあの岩崎の遺体がありました。
そしてその電話も破壊され追い詰められ,絶望感いっぱいの気持ちになる富樫。吉岡という同僚を亡くし,さらに上司である岩崎をも亡くし,自分だけが生き残っていることに対して激しい罪悪感を抱えていた富樫はここで大きな決断をします。
テロリストを追い詰め「千晶を救おう」と。
ここから富樫は一人,テロリストの元へ乗り込んでいくのです。それにしても,一体なぜこのダムが標的になったのでしょうか。
そんな時,警報が鳴り響きます。冨樫は犯人一味によってダムの水が放流されたことに気づくのです。
一方,テロリストに占拠された発電所では,千晶が食事などの世話係をやっていました。テロリストには笠原という男がいました。なぜかこの笠原,ダムのことをよく知っているようなんですよね。
ん? ひょっとしてダムの関係者,あるいはかつての職員だったのか。
千晶は彼らの会話からいくつかの名前を聞き出します。戸塚,笠原,金子,皆川,などなど。
しかもいくつかのグループがあるようです。A, B, Cという最低でも3つのグループがあるようです。
会話だけではなく,電話でのやりとりなどが聞こえていて,会話の内容から多くのことを想像します。
富樫はその放流を止めるために動き出します。
その行動を犯人側も察知していました。どうやらダムの中から上がってこようとしている人間がいると。
ほとんどのルートを封鎖されていたダムで,富樫が選んだのはダムの中から千晶を助けようとしていたんですね。
「こちらウツギ。これから逃げた兔を狩り出しに向かう」
それはあるテロリストがトランシーバーで発した言葉でした。名前は宇津木らしく,どうやらリーダーのようです。ここから本格的な「富樫 vs テロリスト」の直接対決が始まります。
発電所の運転員である冨樫が銃を持ったテロリストにどうやって立ち向かっていくのか。
今回モデルになっている奥多摩ダムの高さは157Mもあるらしいです。すごい高さですよね。
このダムというの1階から上位の階までは階段もありますが,当然エレベーターもあります。
富樫は放流されたダムの開閉弁を破壊し,放流を止めることに成功しました。
そしてこのダムの上位階へ向けて動き出します。一人のテロリストを倒し,自動小銃を手に入れます。テロリストも動き出しました。発電所のある上から下へ向けて降りてくる。
富樫は慣れない自動小銃を手に,テロリストに立ち向かっていくのです。
螺旋状の階段を見つけ,上がっていこうとする富樫に対し,上からは二人組がやってきています。
富樫はこの二人を倒します。皆川と金子の二人でした。
この富樫の勇気はどこからくるのか。何が彼をここまで動かしているのか。普通なら恐ろしくて逃げてしまいそうなところを,彼はダムを守るため,千晶を助けるために闘い続けるのです。
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人質になっていた千晶を監視していたのは笠原という男でした。千晶は訴えます。
「地下に閉じ込められている職員たちに,水や食料を届けたい」
笠原はこの言葉の裏に何か企みがあるのかを警戒しているようでした。
千晶は「笠原は昔からいるメンバーではない」ことを会話から推理していました。千晶のカンなのでしょうか。笠原にはその要求が通じると思ったようです。
笠原は「俺が宇津木たちに言っても,それが通るかどうかわからない」と言いますが,何かしらの思いが笠原の心を揺さぶります。
千晶は,一人の勇敢な男が誰なのかを想像していました。
「婚約者であった吉岡と一緒に遭難者の救出に向かった人物ではないのか」
もちろんそれは富樫のことですが,吉岡の葬儀の時,千晶には何か感じるものがあったのでしょうか。
犯人グループは無線で警察とやりとりをします。50億という大金を払う前に話し合いがしたいと訴える警察。それに取り合わない宇津木はしびれを切らし,とうとう無線を切ってしまいます。
警察は想像します。犯人グループは大金を手に入れ,海外へ飛ぼうとしているのではないか。
警察は「ダッカ事件」を思い出すのです。
ダッカ事件
1977年,日本赤軍が日本航空機をハイジャックし,バングラデシュのダッカ空港において,人質と交換に,600万ドルの身代金をせしめた事件
-本文より-
テロリストは「赤い月」という名のグループでした。
テロリストの本気を感じた警察は,犯人たちの要求をのみます。
「かつて逮捕された『赤い月』のメンバー6人を解放し,さらに50億円を渡すこと」
ところがそれはフェイクでした。
部隊長,つまり宇津木の姿が見えないのです。混乱する笠原たち,そしてそれを見つめる千晶。
宇津木の目的は『赤い月』のメンバーを解放することではありませんでした。
そのことに気づいた笠原は千晶とともにスノーモービルで宇津木を追います。
宇津木に追いついた笠原は,彼と対峙します。
「宇津木一人で50億円という大金をせしめようとしていた」ことを追及する笠原。ところが宇津木は意外なことを言いだします。笠原の正体は「小柴拓也」だと。
小柴はかつて東日本電力に勤務していましたが,無差別テロで妻と子供を亡くしていました。
「赤い月」のメンバーの裁判に不満を抱いた小柴は,何と「赤い月」に潜入したのです。
そして内部から「赤い月」を解体してしまおうと。
宇津木はそのことに気づきながら,敢えて仲間に入れたのでした。
「きさま,最初から知っていやがったのか!」
そんな小柴は次の瞬間,宇津木から何発もの銃弾を浴び,亡くなってしまうのでした。しかし,それを追いかけている一人の男がいました。あの富樫です。
人質を乗せ,スノーモービルで逃げている宇津木を追い詰めようとします。
そしてスノーモービルを撃ち,雪崩を誘発させるのです。雪崩に巻き込まれるテロリストや富樫たち。
富樫は万時休すかと思われましたが,生きていました。恐ろしいほどの生命力です。
テロリストの方は亡くなっていました。ところがそのテロリストの顔を見て愕然とします。
それは冒頭で同僚の吉岡とともに助けようとした遭難者だったからです。
「何ということだ。。。」
テロリストたちは自分たちの計画のための下見をしていたというでしょうか。
富樫はテロリストの命を助けようとしていたという事実にさらに愕然としたようでした。富樫は生き延びました。そして千晶をも救うことができたのです。
奥只見の貯水量は六億トンと言われ,日本一らしいです。そんな最大級のダムを舞台にした本作品。
水力発電量も莫大なもので多くの世帯に電気を供給する役割だけでなく,新潟と福島の県境という山々からの水量もコントロールしているのです。
テロリストたちはそんな巨大ダムの特性を武器に政府に脅しをかけました。ダムが乗っ取られれば,ここまで多大な被害が及ぶのかと考えさせられました。
そして,それを防ごうとする一人の勇敢な主人公。
自分のせいで同僚を亡くしてしまったという自責の念は,ここまで一人の人間の勇気ある行動をも生み出すのか。
アクション路線の濃い作品で,どこにでもいる普通の人間である主人公がテロリストを全て倒すということには正直驚きましたが,一気読みでした。
● 日本最大級のダムを舞台にした作品の壮大さ
● ダムの構造,メリット・デメリットを理解した上で描いた作者の構成力
● こんな人間が本当にいるのかと思わせられるような勇気ある主人公に驚きました