かつて地方創生担当大臣だった石破茂さんに,当時衆議院議長だった伊吹文明さんが薦めたことで有名な作品です。まさに地方創生の話。
首都へ人口が移動していくというのはこれからも止まらないような気がします。
交通が発達し,遠いところへもすぐ行けてしまう現在の世の中。
僕が住んでいる街も,JRで片道4時間かかっていた場所が,新幹線が開通してわずか1時間半くらいで行けてしまうようになりました。
人口は都市へと吸われ,地方の過疎化はどんどん加速している状況です。この話は,その過疎化対策,つまり「地方創生」についてのアイデアが盛りだくさんの作品です。
読んでみればわかるんですけど,本当によく考えられて作られた作品です。
小説で地方創生をここまで描くことができる作家さんの一人がこの楡周平さんではないかと思います。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 本作品 3つのポイント
2.1 緑原町の町長になる
2.2 地方創生の問題点
2.3 プラチナタウン構想
3. この作品で学べたこと
● 地方創生に関する日本の現状を知りたい
● なぜ「地方創生」が必要なのかを学びたい
● 本作品での「プラチナタウン構想」がどのようなものなのかを知りたい
大手総合商社・四井商事の部長・山崎鉄郎は、中学時代の同級生・熊沢から、故郷である東北の田舎町・緑原町の町長になってくれと懇請され、酔った勢いで承諾した。エリート商社マンの職を捨て故郷に戻った山崎は、みごと町長に就任したが、生まれ育ったその緑原町は、莫大な借金をかかえた財政破綻寸前の自治体だった。私腹を肥やそうとする町議会のドン、さらに田舎特有の悪弊・非常識と闘いながら、山崎は町の再生を期して仰天の計画を案出する。それは老人施設を中心にした巨大テーマパークタウンの建設だった……。
-Booksデータベースより-
1⃣ 緑原町の町長になる
2⃣ 地方創生の問題点
3⃣ プラチナタウン構想
東北・宮城県内にある緑原町は,これまでは公共事業をたくさん請け負って潤ってきました。
しかし施設自体の収入が芳しくなく,毎年赤字を計上してとうとう100憶以上もの借金を作ってしまいます。
ここで,ある男が立ち上がります。四井商事の部長である山崎鉄郎です。
四井商事は日本の大手総合商社で,山崎自身は緑原町出身だったのです。この町の同級生たちが山崎の能力を認めていて「町長になって緑原町を救ってほしい」と依頼してくるのです。
山崎は町長になることに最初は抵抗感を感じていたようです。
しかし,自分の育った町が衰退していくこと,そして同級生の熱い思いを聞いて,山崎は一大決心するんですね。
経営を立て直す視点は2つあります。
一つは支出(歳出)を抑えること,もう一つは収入(歳入)を増やすということです。
歳入を税収だけで賄っているだけでは赤字が膨らむばかりなわけですから,何かしら追加の手段を考えないといけない。
緑原町の歳入を何で増やすかということが大きなテーマになるわけですね。緑原町も地元を活性化させようとするんですけど,なかなか改善策を生み出せないままでいました。
現在の日本の状況については冒頭で書きました。
世界的に見ても,東京の人口増加と経済発展は群を抜いていて,地方の過疎化は歯止めが利かない状況になっています。
ただ,これまでも日本では多くの過疎化対策は行われてきているのです。
国自体が地方創生に取り組みはじめたのが2014年と言われています。
石破さんが「地方創生担当大臣」になったのも2016年ですから,もうすでに6年が経過しているわけですね。
当初は「地方創生先行型交付金」として1700億円が使われたそうですが,2017年,2018年には1兆円を超えているようです。
しかし,日本が本気で取り組んでも,なかなかその成果に結びついてないというのが現状みたいです。
では地方では努力をしていないかというとそうではないと思います。
観光業を盛んにするために地方の魅力を伝え,多くの人々に観光へ来てもらうというのもその一つでしょう。
その土地の観光資産を「世界遺産に登録しよう」という動きもそうだと思います。
地方の自然や歴史に触れることができるようになればさらに魅力が増しますし,そこに多くの人が訪れれば,ホテル業,飲食業,観光地も潤ってくる。
そうすれば地方も活性化するだろうと考えるわけです。
ただ観光業が盛んなだけでは,一時的にはメリットをもたらしてくれるかもしれませんが,永続的な解決にはなっていないと思います。
そこで地方では,大企業の支社・支店を建設・誘致するなど,多くの企業を地方へ誘致し雇用を生み出そうとしています。
その証拠に,企業と「立地協定」を結ぶ市町村も増えています。
大都市へ行かなくても地方で働けるんだ,と今の若者たちが考えれば都市圏へ出ていくことは少なくなるかもしれません。
また,東京などに出ていたたとしても,将来的には自分の育った町に戻ってこれる。
地方も懸命に頑張っているのだと思います。
問題は過疎化であり,人口流出をいかに防ぐかということが一番の問題なわけです。
本作品でも同じようなことが描かれています。
若者に魅力的な町にしようと公共設備を作り、雇用を生み出すため大規模な企業誘致地を作るんですけど,その効果があまり見られず、巨額の借金だけが残ってしまいました。
そしてその広大な時が現在は使われずに残ってしまっているわけです。
雇用を生み出そうとすること。何とか地元に残ってほしいという思い。
何かが足りないでしょうか。アピールが足りないのでしょうか。
山崎たちは考えます。何かいい手はないのかと。
そして思いつくのです。それが「プラチナタウン構想」です!
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山崎は商社での経験を活かして,緑原町に「プラチナタウン」を建設することを提案をします。
このプラチナタウンは,手つかずになっていた広大な土地に,数千規模の世帯が入れる介護老人施設を作ろうとするものです。過疎化と同時に「少子高齢化」も進んでいるわけですから,いい案のようにも思えます。
しかし,老人施設ですから,介護士も雇わないといけません。
大規模な土地ということだから,その働き手もかなり増やさないといけないでしょう。
そして,大規模なショッピングモールなどの商業施設も作り,外部からの人口の流入も期待しているわけです。
今回の構想は,ただ大規模な施設を建設するだけではなく,老人が安心して最期を迎えるためのものなのです。
つまり「人生の最期はこのプラチナタウンで!」というコンセプト。
自分も年齢を重ねていくと,やはり気になるのは年齢を重ねてきた親のことです。
介護施設に入るのか,同居して一緒に過ごすのか,いろいろと選択肢はあるでしょう。
でも,安くで入居することができ,親が楽しみながら老後を迎えることができたらどんなに幸せなことだろうか。
年寄りが好きなゴルフやグランドゴルフ,フィッシング,キャンプなどが気軽にできて,地元の美味しい食材が手に入るような場所が身近にある。
また雇用を生み出してくれれば,安心して生活してもらえるし,そして我々も一緒にその街に住むという考え方もできます。
それが軌道に乗れば,若い介護士もたくさん働けるし,地元だけでなく首都圏からの移住者が増えるかもしれない。
また,商店街もショッピングモールを作ってそこで経営できれば,収入もあがるし,それに伴って税収も上がります。
これが「プラチナタウン」の真の目的でした。結果的に,プラチナタウンは大成功したのです。町の収入を上げるためには,多くの人に観光で来てもらおうという考えも一つだと思いますが,プラチナタウンは完全に逆転の発想です。
年齢のターゲットは年配者ではあるが,結果的には若い労働人口も増えるわけですから,人口も一気に増えるということなのです。
こういう考え方を持つことをできるのは,常に費用を削減し,売り上げを伸ばすという考え方で仕事をしてきた山崎の経験ならではなのだと思います。
行き詰った時には,それに逆らうような案を出すだけではなく,逆にその状況を受け入れ,それを利用した仕組みを考える。
このような逆転の発想ができるようになりたいですね。
本作品にあることが果たして通用するのかということはわかりません。
やはり人口を構成する年代も各市町村で異なるし,JR・地下鉄・市電・バスなど交通機関の発達状況も異なれば,すでに作られている道路状況も異なるし,そもそも人の価値観や考え方も違います。
今回は物語だから,と言ってしまえばそれまでの話です。
本作品の山崎のように,これだと思うようなアイデアを実際に実現していく気持ち。
自分たちが一生懸命考えたアイデアを信じ,それを実行しようとする勇気や決断の方がはるかに難しいのだと思います。
● 本作品での作者の「プラチナタウン構想」のアイデアと決断力に驚かされた
● 地方創生の現状と問題点を考えること
● 地方創生のアイデアは,実行してみないとその良し悪しはわからない
地方創生について学べる,本当に読む価値のある作品だと思います。
是非ご一読を!