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【あの花が咲く丘で,君とまた出会えたら】 汐見夏衛

あの花が咲く丘で君とまた出会いたい

本作品を知ったのは,YouTubeか何かで福山雅治さんの「想望」という曲のPVを観たのがきっかけです。現代に生きる一人の女性が,戦時中にタイムスリップする映像。でもそこには「特攻」のようなシーンがあったので「いつかこの原作を読んでみたい」と思って読んだのがちょうど一年後でした。

百田尚樹先生の「永遠の0」が頭に思い浮かびました。特攻というものを違う角度から考えることができました。

2016年に描かれた汐見夏衛さんの本作品。出身地を検索してみて「なるほど」と思いました。本作品にも登場する「特攻資料館」というのはおそらく鹿児島県の知覧にあるものなのだろうなと。映画化されたのが2023年ですから,7年もの時を経て作られたんですね。

それにしても,読み始めたら一気読み。そしてこんなに大号泣したことがあっただろうかと思うくらい感動していしまいました。

是非,是非読んでみてください!

こんな方にオススメ

● 主人公の女性が,戦時中の日本を見て思うことを知りたい

●「特攻」というものについて改めて考えてみたい方

● 今,生きていることに感謝したい方

学校や大人たちに苛立ちを募らせる中学2年の少女・加納百合は、ある日突然、戦時中の日本にタイムスリップしてしまう。そんな絶望のなか出会った青年・佐久間彰の誠実さと優しさに救われた百合は、急速に彰に惹かれていく。だが彼は間もなく戦地で命を散らすことが決まっている“特攻隊員”だった――。
-Booksデータベースより-
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主な登場人物

加納百合・・・主人公。女子高生で,過去にタイムスリップする

佐久間彰・・・戦時中に生きる,特攻隊員

本作品 3つのポイント

1⃣ 戦時中へタイムスリップ

2⃣ とうとうその時がやってくる

3⃣ 本作品の考察

戦時中へタイムスリップ

高校三年生の加納百合が主人公。彼女は授業も真面目に受けず,先生や友人からもある意味一目置かれる存在でした。まるで不良少女のような彼女には勉強は退屈そのもの。学校をさぼって,自宅に担任から連絡が母親の元へ行きます。そして母親と百合のバトル。「お母さんが勝手に私を生んだんでしょ」などと,普段の感謝も微塵もありません。そういえば僕自身もこんな反抗期があったようなぁ,って思い出しました。

親子ケンカの後,百合は裏山の小さい丘へ向かいます。どこかで寝る場所を探しているようです。そこで百合は大きな穴を見つけます。それは防空壕でした。いい場所を見つけたとそこで寝てしまう百合。本当に自由奔放な少女です。

ところがここで大事件が起きます。百合が目を覚ますと,そこは辺り一面真っ暗でした。夜になってしまうほど眠ったのでしょうか。穴の奥に「扉」があるのを見つけます。恐る恐るその扉を開けると驚く光景が。。。電柱も,電線も,信号機もない。道路も学校も公園も何もない。街並みも古い建物ばかり。一体,何が起こったのか。

野原のど真ん中で呆然と立ち尽くす百合の元に一人の男性が現れます。

「おい,君,大丈夫か?」

彼が着ている服は,まるで戦時中の教科書に載っているようなものでした。百合はさらに混乱するわけです。彼の名は佐久間彰と言いました。ジャージ姿の百合は彼に「モンペはどうした」と聞かれます。

そう,どうやら百合はまさに戦時中にタイムスリップしてしまったようなんですね。その現実をなかなか受け入れられるはずもないですよね。
彰は百合を「鶴屋食堂」へ連れて行きます。そこには店主のツルさんという女性がいました。

その食堂にいた軍服の男性たちの会話を聞きながら,百合に衝撃的な言葉が耳に飛び込んでくるのです。「俺は出撃したら,絶対に敵の中枢に突撃します」と。そう,つまりこれは「特攻隊」のことなんですね。こんな時代にずっといたくない。そう思った百合は,タイムスリップしたと思われる防空壕へ行きます。

しかし,何度寝ても元の世界にもどることができません。唖然とする百合。どうやらそう簡単には戻ることができないようです。百合はモンペに着替えさせられ,鶴屋食堂を手伝うことになりました。悩む百合。

そんな百合を見かねたのか,ある日,彰は百合を連れてある場所に向かいます。

とうとうその時がやってくる

彰と百合が向かった場所。そこは,丘の上を埋め尽くす,無数の百合の花が咲く場所でした。あまりの綺麗な光景に,百合も感動します。「すごい,きれい。。。」
この丘で二人はいろんな話をします。彰は20歳で「赤紙」が渡されれば「特攻」に出撃しなければならないことも。

赤紙とは

戦争中は、多くの男の人たちが戦場に集められました。国内に残った女の人たちも軍の工場で働くなど、さまざまな形で戦争に関わっていました。

「赤紙」は戦場への呼び出し状「臨時召集令状」が、赤い用紙だったことから、こう呼ばれていました。人々は、この「赤紙」がいつくるか、恐れながら暮らしていたのです。まさに運命の赤い紙でした。

-総務省サイトより-

もちろん百合はそのことは歴史の授業で学んでいたので,特攻へ行くことがどういうことなのかを知っています。学校へ行くことが面倒臭いと思っていた百合も,学校で学べることがいかに幸せなことなのか,実感しているようでもありました。彰は「日本軍がアメリカ軍に勝てば,また元通りになる」と言いますが,百合は反論します。

「そんなことしてなんになるの? そんなことなら最初から戦争なんかやらなければいいじゃない」

百合は憤りを感じながら自分の思いをぶつけます。確かにそうですよね。戦争が普通に行われていた時代の人間の気持ちを,平和を取り戻した時代に生きる百合が理解できるわけがない。さらにはこの戦争で日本軍が負けるということを知っている百合にとってはなおさらです。でも彰はその予感はあっても,その現実を知らないのです。

誰かを救うために,誰かの命を奪わなければならないという戦争の存在を,百合に理解できるわけがないのです。確かに薩英戦争,日清戦争,そしてかのバルチック艦隊を撃退した日露戦争など,日本は多大な犠牲を出しながらも勝利している。そんな時代に,日本が負けると思っている人は少なかったのかなって思います。彰と百合の間には,未来を知らない者,過去を知る者の違いがあったのだろうと想像します。

1945年の7月,百合たちが住む場所に「ウーーーーーーン」というサイレンが鳴り響きます。そう空襲です。すぐに逃げ惑う人々たち。ここで多くの人々が命を落としてしまいます。空襲を経験し,百合はさらに戦争というものの恐ろしさを感じるのです。
百合は彰の助けもあって,何とか生きることができました。

しかし,自分の身近な人たちが亡くなってしまい,戦争に対する怒りも同時に湧いてくるのでした。百合にとって,彰はなくてはならない存在になっていました。彰をどんどん好きになる百合。彰はどう思っているのか。

特攻の出撃などきてほしくない。しかしとうとう,その日がやってくるのです。彰の元にも「赤紙」がきてしまったのでした。

本作品の考察

この後は実際に本作品を読んでほしいと思います。

本作品を知ったのは先にも書いた通り福山雅治の曲ですが,実際に読んでみようと思ったのは,パリ五輪から帰国した卓球の早田ひなさんのコメントがきっかけです。五輪で死力を尽くしてプレイした早田さんが行きたいところとして挙げた場所が2つありました。
一つは「アンパンマン・ミュージーアム」,そしてもう一つが「鹿児島の特攻資料館」と話したのです。つまり知覧の特攻平和会館のことです。

「自分が卓球をできることが当たり前じゃないことを感じたい」

というような内容だったと思います。彼女が本作品に影響を受けての発言だったのかどうかはわかりませんが。。。

僕自身もかつて一度行ったことがあります。特攻平和会館の前には実物大の,かの「ゼロ戦」の模型がありました。そして中に入ると特攻にまつわる多くのもの,武器や手紙,そして当時の写真まで。

そしてその手紙を読むわけです。涙が止まらなかったのを覚えています。そして写真の特攻隊員たち。明日にでも飛び立つかもしれない隊員の笑顔が忘れられません。どうして自分の行く末を理解しながら,あの笑顔が出せるのか。

現在,平和な世の中で生きる僕には理解できませんでした。それが当たり前の世の中だったからなのか。自分が飛び込むことで,大切な人を助けられると信じていたのか。
今,生きていることがいかに幸せなことなのかを早田選手と同じように感じました。

アンパンマン・ミュージーアムについては,なぜだろうって思いました。そういえばアンパンマンの作者である「やなせたかし」さんの弟さんが戦争に行っています。アンパンマンの歌の歌詞を聞くと,何かそういうことともリンクしているのかなって思ってしまいます。あくまで想像ですが。。。

ただ,早田選手の発言を深読みして「彼女は英霊に感謝している」という発言をする人もいて,ネットではその発言に世界中の人が反応したのも事実です。

ん~,なぜ早田選手の言葉そのものを素直に受け入れないのかなとも思いました。何を考えてあの発言になったのかは早田選手にしかわからないのですから。

現在も世界では多くの場所で紛争が行われています。最近では報道が少なくなってきましたが,未だにロシアとウクライナは紛争中。停戦へ向けて協議しようとしていますが,どうなるんでしょうか。そんな環境に,今の自分が置かれてしまったら,と思うと恐ろしくなります。本作品の主人公は,それに近い体験をしたのではないでしょうか。

世の中から戦争がなくなり,生きていることの幸せをもう一度考え直してみたい,そんな作品でした。

本当に良い作品なので,是非,読んでみてください!

この作品で考えさせられたこと

● 戦争,特攻というものがいかに無謀なものだったかということ

● 主人公が特攻隊員に寄せる思いの切なさ

● 今生きていることがいかに幸せなことかを考えて生きていきたい

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