【塩の街】有川浩｜地球を襲った「塩害」とは

有川浩先生の作品。以前「海の底」という作品のブログを書きました。

「海の底」は，海の中から巨大生物が出現し，人々を襲い，それを海上自衛隊員の主人公が潜水艦に逃げ込んだ子供たちを救うという話でした。

本作品にも自衛隊が登場します。テーマは「地球を襲った塩害」です。

どうやらこれって「自衛隊シリーズ」三部作の一つらしいです。「海の底」もそうです。

共通するのは「日本の危機に自衛隊が挑む」ということでしょうか。

すでに塩害に侵された日本を舞台に，二人の人物が必死に生き延びようとする物語です。

街もそうですが，国民も「塩害」に侵されている。この「塩害」というのが特殊なものなのです。

何が原因でこのような世界になってしまったのか，どういう条件に当てはまった人々が「塩害」で亡くなるのか

その謎に想像が膨らみ，一気読みしてしまいました。

国家の危機，いや地球の危機を描いたストーリーです。

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話は，すでに「塩害」に侵された日本が舞台になっていました。

ここで言う「塩害」とは世間一般的な塩害，例えば「田畑に海水が入ってしまう」とか「潮風が作物に害を与える」というレベルのものではありません。

ある一定条件を満たした人々が少しずつ「塩化」していき，最後は塩の塊になって亡くなってしまうという恐ろしいものです。

一体，何が原因でこんな状況になってしまったのか。どうやら突然，謎の隕石らしき物体が東京に落下してきた様子。

日本各地に塩の柱が落下して，まるで白いタワーのように刺さっているのです。

日本の自衛隊や米軍はそれを防げなかったのか。落下中に迎撃できなかったのか。

この塩の柱，ただの柱ではなさそうです。隕石なのか，それとも宇宙人が故意に地球を狙ったものなのか。大気圏に突入するまでレーダーは反応しなかったところを見ると，ひょっとすると「故意」なのかもしれません。

そんな状況の中で二人の人物が登場します。秋庭という男性と，真奈という高校生です。

秋庭の生い立ちは謎なんですけど，真奈の方は両親を亡くしていたようです。今回の「塩害」の被害に遭って。

二人は一緒に行動していました。塩害に遭わなければ会うことすらなかった二人です。まずは谷田部遼一という人物に出会います。彼は何やらかなり思いリュックを背負ってどこかへ向かっているようです。

それは海でした。地球外から鋭く飛んできたあの塩の柱のある海。

彼はなぜ海に向かっていたのか。。。

とりあえず，秋庭と真奈の二人は遼一を車に乗せて海へ向かいます。

車と言っても，塩害で街中が形をとどめていないような場所を走るのです。

ガソリンスタンドは稼働していないし，もちろん街にはほとんど人影もない。車は塩害でうまく走らない。遼一は真奈たちに打ち明けます。実はリュックの中には衝撃的なものが入っていたのです。

それは遼一がかつて愛した女性，海月の体の一部が入った塩の塊でした。真奈はそれを見て驚愕します。

つまり遼一は，海月の塩の亡骸をリュックに詰め込んで，それを海に戻してあげたいというのです。

長い時間をかけて海に辿り着いた遼一は，リュックから海月の亡骸を取りだし，海に戻すのです。その時，遼一の手から「塩」がふいていました。彼も「塩化」の症状が出ていたようです。

そして，遼一自身も海に入り，海月と一緒に海へ溶けていくのでした。

次に出会ったのは何やら銃を持った男。トモヤと言いました。秋庭と真奈は脅され，車に乗せることになります。

何をそんなにイライラしているのか，って思うような態度で二人と接してきます。

どうやら，それまで刑務所にいたみたいです。何か罪を犯して逮捕され，治安が維持できていない刑務所から脱走した様子。真奈のことが気に入ったようで，真奈が嫌がることを平気でするんですよね。

銃や包丁を持って二人を脅すし，何度も何度も真奈にちょっかいを出していたのにキレたのか。秋庭が動きます。

「ボキッ」と秋庭は男の腕を折ってしまうんです。しかしその腕を見て驚きます。何と肘の部分が塩の結晶ができていました。

この男もいつかは亡くなる運命だったんですね。「刑務所に入っている人間なんか，お前たちはどうでもいいと思ってんだろ？ 虫ケラだと思ってんだろ？」

男は何か卑屈になっているようです。

「優しくしてくれよ。頼むよ。虫だと思われたままで虫みたいに死にたくねえんだよ。だから逃げてきたんだよぉ」

とうとう男は嗚咽をもらしてしまいます。真奈はその姿を見て，男の頭を静かに撫でてあげました。

イヤなことを散々されたのに，本当にこの真奈という女性，本当に優しい人間なんだなぁって思います。

そんな真奈に慰められながら，トモヤはこれまで人生を後悔しているようでした。

最後の瞬間になってわかることってありますよね。あの時こうしていればよかった。うんうん，よくあります。

しかし，それがトモヤの最期の瞬間でした。目は白く濁り，とうとう体は白く，そして硬くなり動かなくなってしまったのです。

こんな最期を迎えるなんて，本当に「塩害」の恐ろしさを感じます。

トモヤの遺体は自衛隊が持ち去っていくことになりました。

「塩化確認。対象確保！」この隊員は「治安維持法塩害特例により口外を禁止しますが，よろしいですね？」

という話をします。この「塩害」という異常事態にいろいろな法律もできているようです。

塩害さえなければ，遼一もあんな終わり方はしなかっただろうし，トモヤも罪を償って新しい人生を送れたかもしれない。

そんな希望も何もかも奪い去ってしまいそうなこの「塩害」という事態。

二人は秋庭の自宅に身を寄せることにします。

ある日，自宅のチャイムが鳴ります。「あーきば」

やってきたのは入江慎吾という人物でした。秋庭とどんな関係なのか。そして入江はとんでもないことを話し出します。

「大規模テロなんてしてみたくない？」

この入江という人物，何か企みがあるようです。どことなく冷静さ，いや冷徹さを持った人間に見えます。

情熱的で素直でない部分はあるが，実は心優しい男性である秋庭とはまさに対照的です。

そして入江は秋庭と真奈を連れ出してある場所へ向かいます。

秋庭は言います。「習志野か？ 府中？ いや，立川か？」ん？ これって，自衛隊がある場所じゃないっけ？ ひょっとして入江は自衛隊員？ ってことは実は秋庭も？

行き先は「陸上自衛隊 立川駐屯地」でした。やはり秋庭は自衛隊員，元自衛隊員？

「秋庭二尉！」やはり秋庭は自衛隊員だったんですね。ということは入江は秋庭の同僚なのか，上司なのか。

入江は何を企んでいるんでしょうか。何を秋庭にさせようとしているのか。

実は入江は飛来してきた結晶のことを研究していたようです。

「見たら伝染る（うつる）」つまり，結晶を見た者がどんどん「塩化」していくというのです。

このことを入江は「暗示性形質伝播物質」と呼んでいます。暗示がかかりやすいのか否か。

ウィルスとか細菌とかが原因なのかと思ってました。ということは人から人へは伝染らないってことなのかな？

しかもこの飛来が，東京湾の埋め立て地を狙ったもの，つまり「故意」だということらしいんですね。ということは地球外生命体が狙ってきたってことなのか。

広大な宇宙に生物がいる確率はどう考えても高いのはわかるけど，一体何が目的で狙ってきたのでしょう。

これから先，地球外から攻撃がある可能性って，ないとは言い切れないですよね。

それにしても，入江は秋庭に何をさせようとしているのでしょうか。

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真奈は，立川駐屯地で生活するようになります。掃除をしたり，選択したり，自衛隊員の身の回りのために行動するようになります。まるで自衛隊員の仲間になったかのように。そして入江の企みが判明します。真奈が自衛隊員の会話を聞いてしまうのです。

「本気でする気かな，厚木襲撃」

真奈はハッとさせられます。襲撃。。。もしかしてその襲撃に出るのが秋庭なのではないか。

どうやら，入江たちは米軍の厚木基地を襲撃して，戦闘機を強奪するつもりのようです。

そして，その戦闘機で東京湾の結晶を攻撃する。なるほど，これが入江が言っていた

「テロ」だったわけなんですね。米軍相手にうまくいくのでしょうか。

この衝撃の事実を聞いて，真奈は思うのです。

「私，秋庭さんのこと何も知らない」真奈は自分の本心に気づくのです。自分が秋庭のことを愛していることを。

それは秋庭も同じなのでしょう。地球を，いや愛する人間を守るために命がけで米軍に潜り込み，戦闘機を奪って結晶を攻撃するということ。

秋庭が狙うのはF14戦闘機。現在航空自衛隊が使用しているのはF15J，いわゆる「イーグル」と呼ばれる戦闘機らしいです。

高嶋哲夫先生の「ミッドナイト・イーグル」という作品を思い出しました。あれも，戦闘機の話でした。

F-14とは

アメリカ合衆国のグラマン社が開発した艦上戦闘機。愛称は「雄猫」を意味するトムキャット

F-15Jとは

アメリカ合衆国のマクドネル・ダグラス社（現ボーイング社）が開発した制空戦闘機。愛称はイーグル

F14は日本には配備されていないようです。そのF14も操縦したことがない秋庭が，果たして乗れるのか。

そしてとうとう秋庭は厚木に乗り込みます。米軍の攻撃が来ることを警戒しながら。ところが秋庭は何かしらの異変を感じています。あまりにも計画がうまくいきすぎる。

確かに米軍は攻撃してはいるが，わざと攻撃を外しているようなんですね。

そこで秋庭はこれが「出来レース」だと気づくわけです。入江が裏で米軍に手を回していたようです。

『猫は巣を飛び出した！』という無線が立川に入ります。

つまり先に書いたように，猫＝F14ということ。秋庭は無事にF14に乗り込んだようです。

そして立川に戻ってきました。しかし，塩害が解決したわけではない。

あの「結晶」への攻撃はこれから始まるのです。しかし真奈は秋庭が戻ってきたことにホッとした様子でした。

「おかえりなさい，秋庭さん」

もう二度と会えないかもしれないと思った真奈でしたが，やはり秋庭は帰ってきました。本当に強い人間です。

実は本作品，この続きがあります。この塩害の後，日本はどうなっていくのか。

秋庭は真奈と愛を確かめ合い，一緒に暮らすことになるのでした。この後もいろいろなエピソードが出てきますが，今回はここまでにしたいと思います。

塩害から復興を遂げていない世界で，二人がどんな生活をしていくのか。

ルポライターのノブオという人物と出会ったり，あの入江が追い込まれたり。

結構楽しめるストーリーになっているので，是非読んでほしいと思います。