ガリレオ長編シリーズです。もちろん作者は「東野圭吾」さんですね。
「容疑者Xの献身」「聖女の救済」も面白かったですが,この作品もよかったです。
過去の事件を捜査する元刑事が,何者かに殺害されるという事件が発生します。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 登場人物
4. 本作品 3つのポイント
4.1 元刑事の目的とは
4.2 トリックに疑問を持つ湯川
4.3 湯川の本当のやさしさ
5. この作品で学べたこと
● ガリレオシリーズの長編作品を読んでみたい
● 湯川がトリックを論理的に解決する場面を読んでみたい
● 湯川の本当のやさしさを知りたい
夏休みに美しい海辺の町にやってきた少年。そこで起きた事件は事故か殺人か。湯川が気づいてしまった真実は?
-Booksデータベースより-
1958年生まれ 大阪府立大学工学部卒業
電気メーカーへ就職後,執筆活動を行う。
これまで出版された作品は100作品ほどあります。
主な受賞歴
江戸川乱歩賞(放課後)・日本推理作家協会賞(秘密,天使の耳)・吉川英治文学賞(祈りの幕が下りる時)・直木三十五賞(容疑者Xの献身)・柴田錬三郎賞(夢幻花)など
舞台は「玻璃ヶ浦」というきれいな海があるところなんですけど,よく調べるとこれは静岡県の西伊豆にあるという架空の設定らしいです。
実際に撮影が行われたのは愛媛県松山市らしいです。
映像化された作品では実に鮮やかな海を舞台にしていました。
湯川 学・・・東都大学物理学の准教授。今回も論理的にトリックを暴きます
川畑成実・・・玻璃ヶ浦の環境保護に取り組む女性
柄崎恭平・・・湯川が偶然出会った小学4年生。湯川と同じ旅館に泊まることになる
川畑夫妻・・・成実の両親。過去に大きな秘密が。。
塚原正次・・・元警視庁捜査一課刑事。なぜか川畑一家を訪ねる
その場所で主人公の湯川学が海底鉱物資源開発の説明会のアドバイザーとして出席した際に,今回のキーポイントになる女性(成実)と出会います。
成美は「資源開発をすれば環境破壊につながってしまう」と訴えるんです。
そのタイミングで殺人事件が起こってしまいます。
塚原という元刑事がやってきたんですけど,なぜか殺害されてしまいます。
過去のホステス事件に成実がどう関わっているのか。
その捜査に湯川も加わることになります。
1⃣ 元刑事の目的とは
2⃣ トリックに疑問を持つ湯川
3⃣ 湯川の本当のやさしさ
冒頭での塚原の殺人事件が起こったと書きましたが,それには理由がありました。
玻璃ヶ浦にやってきた塚原の真意がなんだったのか。
彼は16年前,ホステス殺人に関わったとされる仙波という男を逮捕します。
しかしそれは「冤罪」でした。
おそらく逮捕してから気づいたのでしょう。
仙波は長い間刑務所で過ごし,退所した後も癌を患い,亡くなってしまいます。
成実は長年罪の意識から解放されることなく生きることになり,その真実に気づいた元刑事(塚原)が16年の時を経て近づいてきたわけです。
その塚原が海岸沿いで遺体となって発見されます。
湯川は,成実の両親がやっている旅館に泊まります。
そこには湯川が偶然会った小学4年生の恭平という男の子も泊まることになりました。
大の子供アレルギーの湯川でしたが,物理学の面白さを語りながら恭平と仲良くなっていきます。
塚原の死体は海岸で見つかったんですけど,死因が一酸化炭素中毒であることがわかります。
湯川は独自に捜査し,とうとうその旅館に目を付けました。
塚原の殺害のトリックは,旅館の押し入れの中にあるヒビから漏れた煙による一酸化炭素中毒でした。
地下にあるボイラー室から,屋上にある煙突を抜ける煙。
その煙が塚原の泊まっていた部屋に漏れていたということです。
しかし,湯川は疑問を持ちます。
いくらヒビが入っていたとしても,通常であれば致死量には満たないとわかったからです。
では一体なぜ塚原は死んでしまったのか。
今回のトリックは「決して利用してはいけないもの」でした。
ここからがこの作品の中での一番大事な部分です。
本作品を是非読んでみてください!
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実は煙突に「蓋」をした人物がいました。
それは恭平でした。
しかし小学4年生が意図的に一酸化炭素中毒を起こそうと思うわけがない。
恭平は指示されたのです。成実の父親に。
足が不自由だという理由で恭平を屋上に上らせ「蓋を閉めさせた」わけです。
これは許せない。成実の真実を隠蔽するために,塚原を殺害するためにトリックに子供を利用しました。
そして恭平は気づいてしまいます。殺人に加担したことを。
こんな許せないことがあるでしょうか。
成実の父親は成美を護るために気が行ってしまい,大事な親戚の子供である恭平の気持ちまで考えなかったのです。
怒りと同時に切なさを感じてしまいました。
彼はどんな感情を持ちながら成長していくのだろうかと。
すべての発端は16年前にあります。
ホステス殺害の真犯人は実は成実だったんです。
つまり仙波は成実が犯してしまった殺人の身代わりで捕まったわけです。
では,なぜ仙波は成美の身代わりになったのか。
この仙波が,実は成実の本当の父親だったからです。
つまり,成美は川畑夫妻の本当の子供ではなく,川畑節子が不倫の末に仙波との間にできた子供だったのです。
その時に正直に事実を伝えておけば,冤罪もなかったし,塚原も殺害されることはなかった。湯川はよく「理論や論理を重視する」人間に思われがちです。
でも,これまで解明してきた犯罪を見ていくと,人一倍加害者や被害者の感情を考えることができる人間なのではないかと思います。
湯川は二人の人物に声を掛けます。ある成美には,
「これまで以上に人生を大切にするべき」
そして,心に大きな傷を負った恭平には,
「お前と同じように,俺も一緒に同じ問題を抱え、悩み続けるぞ!」
と声をかけています。「お前は一人じゃない,俺も一緒だ」と。
湯川は,人の表情や心の動きに敏感で,人一倍人の気持ちを考える人なのではないかと思います。
ガリレオの長編シリーズは全て,湯川の本当の姿を現している作品のように思えます。
● 何かを隠蔽するということは,結果的には大きな代償があること
● 犯罪を実行するために,決して巻き込んではいけないものがある。
● 湯川は論理的に物事を考えると同時に,人の気持ちを考えることができる人間である
誰かが苦しんでいるときに近くで声をかけてあげることができる湯川のやさしさ。
それが偽りではなく,本心から言っている湯川のやさしさです。
湯川の大きな思いやりの心を感じることができる作品でした。