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【死の淵を見た男】門田隆将|東電社員の覚悟を知る

死の淵を見た男

2022年7月14日,東京地方裁判所は,東京電力の元経営陣4人に13兆円もの損害賠償命令を下しました。史上最高額だそうです。

東京地裁損賠賠償命令新聞でこの記事を見て「死の淵を見た男」について,ブログに書こうと思いました。

こんな方にオススメ

● 東北大震災時の福島第一原発内で,何が起こっていたのかを知りたい

● 災害時,東電社員がどんな行動をとっていたのかを知りたい

● この未曽有の災害を防ぐことはできなかったのかを知りたい

作品概要

2011年3月、日本は「死の淵」に立った。福島県浜通りを襲った大津波は、福島第一原発の原子炉を暴走させた。日本が「三分割」されるという中で、使命感と郷土愛に貫かれて壮絶な闘いを展開した男たちがいた。
-Booksデータベースより-




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作者は「門田隆将」さんです。

門田隆将さんの紹介

1958年生まれ,中央大学法学部政治学科卒業

新潮社に入社され,作家活動も同時にされていたようです。

「死の淵を見た男」が,2020年に「Fukushima 50」として映画化

「そこまで言って委員会」でもおなじみの方ですね。

そこまで言って委員会2011年3月11日。東北地方,三陸沖にてマグニチュード9.0という日本観測史上最大の規模の地震が起きました。

地震と津波がこんなに恐ろしいものだとは思ってもいませんでした。

津波しかし,この地震で起こった災害はこれだけではありませんでした。

津波により,福島原発群が大打撃を受けました。

この時からだったと思います,原発の構造と原子力発電の恐ろしさを知ったのは。

福島原発この作品は,「Fukushima50」である50人の東電社員が生死をかけ,必死に行動したことが綴られています。

主な登場人物

吉田昌郎・・・福島第一原発の所長。映画とは違い,本作品の中心人物である。

伊沢利夫・・・福島第一原発の当直長。吉田の部下。事故鎮静化に尽力する。

本作品 3つのポイント

1⃣ 想定外の災害?

2⃣ 東電社員の決死の作業

3⃣ 「想定外」を繰り返さないために

想定外の災害?

あの地震の時には「想定外」という言葉をよく聞きました。

まさかあれほどの地震が発生するとは思わなかった

まさか津波のせいで冷却装置が電源停止になるとは思わなかった

日本の構造を見れば,4つのプレートが交差しあっている日本列島に大規模な地震がいつかやってくることは歴史的に見ても想定の範囲内ではあったのではないかと思います。

歴史的に見ても,大規模な地震というのは三陸沖でも周期的に起こっています。

また,現在恐れられている「東南海トラフ」も周期的な観点から考えればいつ起きてもおかしくないのでしょう。4つの地殻プレート日本列島沿岸に建設された原発がいつ被害を受けてもおかしくない。

しかし,代替案を考慮していてもその上をいく事態が起こる可能性はあるわけで,どんな場合でも万全な対策というのは難しいとは思います。

今回はその「想定外」のことが起きてしまったということなのでしょうか

東電社員の決死の作業

この大災害の大きなポイントは,冷却できなくなった原子炉の爆発をどうやって防ぐかにありました。

電源喪失により冷却の制御ができなくなった原発で,所長である吉田さんは大きな決断をします。

第一に「海水の注入」です。海水注入原子炉が冷却できなくなり,冷却水が蒸発して空焚き状態になったその原子炉内に海水を注入するというのです。

第二に,原子炉内の蒸気を外に逃がす「ベント」の実行です。ベントただ,電源が喪失していたので,このベントは手動で行わなくてはならない。

原子炉近くまで誰かが行き,ベントを行うということ。ではそれを誰が行うのか。

現場の責任者である伊沢が出したのは,比較的年齢が高く,職責が高い者でした。

ベント作業人選現場で事故処理に向かう人々の,放射能へ向かっていくという「恐怖」とはどのようなものだったのでしょうか。想像するだけでも恐ろしくなります。

決死の作業で「ベントに成功」しましたが,さらに大事故が起こります。

原発建屋を吹き飛ばした「水素爆発」です。あの映像を見たときは,「この原発は一体どうなるんだろう」と思いました。

水素爆発そんな中で吉田所長とともに東電の社員は決死の作業を行っていたのです。

そして,吉田所長は現場に関係ない人間を全員避難させる決断をします。

残ったのは実際には「69名」だったそうです。

まさに「原発と心中」するという,社員たちの覚悟を見せられたシーンでした。

そして「自衛隊」へ支援の要請をします。空と陸から放水を行います。

放水作業徐々に福島第一原発は冷却に成功し,「死の淵」にいた彼らだけでなく,原発も落ち着きを取り戻していったのです。

「想定外」を繰り返さないために

吉田所長が自宅に戻ったのは4月になってからだったそうです。

吉田所長は震災発生から8ヶ月後にステージⅢの食道がんが見つかっていました。

すでに東電を辞めていた吉田さんは,再び訪れた福島第一原発の緊急対策室に訪れ,全員から拍手が送られたそうです

拍手「チェルノブイリの10倍もの事故を乗り切った」

その吉田の言葉に東電社員は心動かされたことでしょう。

それ以上に,吉田さんの彼らへの感謝の気持ちの方が大きかったのではないのでしょうか。

吉田所長東電社員の中には生き残った人もいれば,災害で亡くなった人もいます。

その方々は本当に不運だったと思います。

しかし,生き残った人たちにもその無念な思いは残っているのだと思います。

想定外の災害から原発の暴走を防ごうと必死の思いで動いた人たち。

東電社員ただ,今回の原発事故は防げなかったのでしょうか。

作者は最後にこう結んでいます。原発事故を防ぐチャンスは2回あったと。

<原発事故を防ぐヒントになったはずの出来事>

1⃣ 2001年 9月11日 同時多発テロ

2⃣ 2004年12月26日 スマトラ島沖地震

「テロ」が発生した際にどう対処するかというのは,今の日本人には難しいのかもしれません。

日本自体は安全であると信じ込み,自分の国を自分たちで守るという意識が低いように思います。

それは僕も同じです。ま,大丈夫だろう,と。

いつまでもアメリカが守ってくれる,誰かが守ってくれるというのは正に平和であるが故の危機感のなさにつながっているのかなと思います。

同時多発テロそして「マグニチュード9.1」という,東北大震災と同じ規模の地震である「スマトラ島沖地震」でさえも教訓にならなかった。

22万人の死者を出したあの大津波を見ても,日本に起こるはずはない,未だに「想定外」と考えていたのだろうと思います。

スマトラ島沖地震ただ,そんな未曾有の災害の中でも,本当に死ぬ覚悟で動いていた人たちに私たちは感謝すべきだと思います

この作品で考えさせられたこと

● 放射能を大量に浴びる恐怖と闘いながら,原子炉へ向かう東電社員の覚悟

● 自分の社員だけではなく,自分たちの家族を守るための決死の行動力

● 万が一を想定し,何をすべきかを考えることの重要性

彼らの命をかけた行動や失われた命に対する敬意を表し,またそれを無駄にしないためにも,同じことを繰り返さないようにと願うばかりです。

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