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【かがみの孤城】辻村深月|鏡の中の世界の真実とは

かがみの孤城

2014年に発刊された辻村深月先生の渾身の一作。販売数が累計200万部という数字からも本作品が評価されていることがわかります。漫画化,そして映画化された本作品。SNSで,今でも話題になっている作品です。2023年12月に公開され,まだ映画は観ていませんが,小説を読んで想像しながら本ストーリーを堪能してしまいました。

読んで思うのは,辻村先生からの強烈なメッセージがあるということです。それは作者の意図とは異なるかもしれませんが,僕自身が思うのは,まさに今の時代を表しているテーマなのではないかということです。若い世代の抱える悩みとは。。。

上下巻あったので,なかなか読むのをためらっていましたが,読み始めたらあっという間に2冊とも読了。いろいろなことを考えさせられる,貴重な作品になりました。

是非,ご一読を!!

こんな方にオススメ

● 「かがみの孤城」とはどんな世界なのか知りたい

● いろいろな悩みを抱える小中学生の存在を考えてみたい

● 本作品の最大のテーマは何なのかを考えてみたい

作品概要

学校での居場所をなくし、閉じこもっていた“こころ”の目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。 輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。 そこには“こころ”を含め、似た境遇の7人が集められていた。 なぜこの7人が、なぜこの場所に―― すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。  受賞歴:2017年啓文堂書店文芸書大賞・大賞、『ダ・ヴィンチ』BOOK OF THE TEAR特集 小説ランキング部門・1位、『王様のブラインチ』ブランチBOOK大賞2017・大賞、第11回神奈川学校図書館員大賞(KO本大賞)・大賞、埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本2017・1位、熊本県学校図書館大賞2017・大賞、第15回本屋大賞・1位、第6回ブクログ大賞 小説部門・大賞
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

こころ・・・中学一年生。いじめに遭い,不登校となる

リオン・・・中学一年生で,ハワイ在住?

アキ・・・・中学三年生。姉御肌の女性

スバル・・・中学三年生。どこか達観したような青年

フウカ・・・中学二年生。ピアノが得意

マサムネ・・中学二年生。鏡の中の世界でゲームに明け暮れる

ウレシノ・・中学一年生。すぐに一目惚れてしまう

本作品 3つのポイント

1⃣ 鏡の中の世界

2⃣ パラレルワールドの世界?

3⃣ 本作品の考察

鏡の中の世界

まず登場するのが安西こころという中学生。彼女は入学して一ヶ月で不登校になってしまいます。当初は東条萌という仲がいい友達もいましたが,徐々に避けられるようになってしまいます。つまりイジメです。

母親の勧めでフリースクール『こころの教室』に通う予定でしたが、当日になると急にお腹が痛くなって,なかなか行けずじまい。

フリースクールとは

勉強についていけない、クラスでいじめられている、先生が苦手、学校が嫌いなど、さまざまな理由から学校に行かなくなったする子供がいます。

不登校生やひきこもりの子どもたちをサポートしてくれる教育機関のことをフリースクールといいます。

-不登校サポートナビサイトより-

クラスメイトのリーダー格の真田美織に陰口をたたかれます。それはこころが以前付き合っていた池田という少年の取り合いのようなものです。女性関係って,なかなか難しいです。学校へ行かないといけないと思いつつも,足が向かないのです。それを母親にも,担任にも言えずにいました。

ある日,こころの部屋にある大きな姿見(鏡)が光っているのを見つけます。手を伸ばすと中へ入り込んでしまいました。こころは別の世界へ入り込んでしまいます。そしてそこには狼のお面をつけた少女と出会うのです。誰かの声が聞こえて目を開けると、こころを待っていたのは狼の面をつけた女の子でした。

そこは狼の面をかぶった少女(オオカミさま)だけでなく,同年代らしき6人の人物がいました。そしてオオカミさまは言うのです。

「この城には誰も入ることができない『願いの部屋』があって,その願いの鍵を見つけた一人だけが願いを叶えることができる」と。

しかしそのゲームのようなものは期限が3/30と決まっていました。それ以降は城へ入ることもできないし,記憶もなくなってしまうらしいのです。毎日,城にいられる時間は9時から17時まで。もし違反したら大きな狼に食われてしまい、さらに他の人間も連帯責任となる。大きな狼に食べられてしまうというのです。まるで「赤ずきんちゃん」の話みたいですね。

ここのことを誰かに話してもいいが、その場合は安全を考慮して鏡は城と通じなくなってしまう。こころたちはお互い自己紹介することになります。

こころ以外にも,アキ,フウカの少女たちだけでなく,リオン,マサムネ,スバル,ウレシノといった少年たちがいました。なぜ彼女たちは選ばれたのか。共通点がありました。それは全員「学校へ行っていない」ということです。それぞれの面々には部屋が与えられていました。

最初はお互い警戒していたような感じもありましたが,徐々にお互いのことがわかりはじめ,各々が来たいと思う時間に城へ来るようになります。目的は「鍵を見つけること」です。ただその目的の期限がまだ先だからなのか,本気で鍵を見つけようとする雰囲気もないんですよね。

まず,こころが気になる人物がウレシノでした。どことなく気持ち悪い印象のウレシノは,最初はアキのことを気に入り,次はこころ,そしてフウカと乗り換えていきます。この性格に少女たちは困っている様子。

学校が夏休みに入った頃,フウカが誕生日だったことを知ったこころは、誕生日プレゼントを買おうと久しぶりに外出します。何か心が躍るような気分でしたが,自分と同じジャージを着た生徒を見ると警戒します。それでもお菓子を買うことができ、フウカにプレゼントします。フウカは喜びます。こころは頑張って外出した甲斐がありました。

ところが仕事に行っているはずのこころの母親が,家に靴があるのにこころがいないことに気づきます。母親は問い詰めようとしますが,こころはある意味逆ギレします。何か試されている気がするこころ。

この辺りからこころだけでなく,他の人物にも変化が現れるようになります。それはやはり「学校へ行かなければならない」と心のどこかで思っているからでしょうか。スバルは茶髪にします。そしてウレシノは二学期というタイミングで学校へ行くと言い出すのです。

本当に大丈夫なんだろうか。。。

リオンは日本の学校ではなく,ハワイに一人暮らししているようで,すでに学校へ行っています。時差の関係で,来れる時間帯を決めているようなんですね。ところがある日,ウレシノが顔にガーゼを当て、腕に包帯を巻き、顔を腫らして現れます。

クラスメイトにやられたもの。しかし決していじめではないとウレシノは訴えます。ウレシノの性格からするといろいろ意地悪なことを言われそうですよね。結局,また不登校になってしまうのです。ここに彼らの学校生活での息苦しさを感じてしまいます。

パラレルワールドの世界?

さて,こころが通おうとしていたフリースクールには,喜多嶋先生がいました。喜多嶋先生は、こころに寄り添い,周囲の人間と一緒に闘っていると言ってくれます。しかし,こころはなかなか学校へ足が向きません。

10月になった頃,アキとマサムネが「みんなで協力して鍵を探さないか」と提案します。全員で相談し、もし鍵が見つかったら願いを叶える誰か一人を決めること、ここに一日でも長くいられるように、鍵を見つけても最後の日まで願いを叶えないことを決めます。
みんなこの鏡の中の世界を失くしたくない,鏡の中の世界で出会った友人たちを失いたくないと思っているようです。

ところが「オオカミさま」が現れて重大なことを言い放ちます。願いを叶えた瞬間に、全員ここでの記憶を失うということでした。あまりの衝撃に全員言葉を失います。そもそも彼らはなぜ選ばれたのでしょうか。そのヒントになったのが,ある日アキが制服姿でこの世界に入ってきた時でした。既視感に襲われる面々。その制服の右胸のポケットには校章がついており、それはまさにこころと同じ『雪科第五』の証でした。

そうなんです。彼らは全員,雪科第五中学校の生徒だったのです。もちろん全員驚きます。でもなぜお互いがそれぞれ知らないのだろうか。これが疑問でした。確かに学年が違ったり,違うクラスだったりすれば,知らない生徒は居そうな気がします。でもなぁ。。。

そう言えば,リオンだけはハワイにいるんじゃなかったっけ? しかし,リオンはかつて日本にいて,この雪科第五中学に進みたいと考えていたらしい。これが7人の共通点でした。この件(くだり)を読んだとき,僕自身の中では一つの「仮説」みたいなものがありました。それはここでは明かしませんが。。。

7人はこの共通点に気づき,さらに親近感を持つようになったようでした。そしてある日,マサムネが提案します。マサムネは両親から別の学校へ通うことを言われていました。転校してしまえば,マサムネはいなくなってしまうかもしれません。そこでマサムネは学校へ行けることを親にアピールするために,みんなに提案するのです。

「三学期の一日だけ,全員学校へ来てほしい」と。

そして全員,保健室に集合してほしいと言うのです。なるほど,そうすればみんなは「現実の世界」で会えるかもしれない。心強い味方たちがいれば学校へ行けるかもしれないと考えたんですね。

一月十日,三学期の始業式に学校へ行くことを伝えます。こころは母親にそのことを伝えます。しかし母親からは意外にも「始業式はもう終わっている」と言われます。ん? これはどういうことだろう。(ここでも僕自身の「仮説」が少し確信に変わります)

そして三学期の始業の日。こころは学校へ行き,全員がいるはずの保健室へ向かいます。
しかし保健室にいたのは,養護の先生だけ。先生はこころが登校してきたこと自体に驚いています。こころは鏡の世界の友人たちの名前を伝えます。しかし「そんな生徒はこの学校にいない」と言われるのです。

こころはパニックになってしまいます。このままではマサムネを裏切ってしまうことになってしまう。こころは喜多嶋先生に会います。そして「友人たち」の名前を伝えますが「えっ?」という反応をされます。喜多嶋先生はその生徒のことを知らない様子。

失意の中のこころは,鏡の中の世界へ戻ります。そこにはリオンだけがいて、他の誰とも会えなかったことを伝えます。リオンとの会話の中で,リオンにはかつて姉がいたようです。しかし彼女は小学生の頃,すでに亡くなったと言うのです。リオンの辛さを理解したこころは,自分の悩みが何てちっぽけなのだろうと思っているようでした。

こころは「姉を返してほしい」というリオンの願いが叶うことを願うようになります。次の日、こころが城に行くとマサムネ以外みんなが来ていました。当然,こころはみんながなぜ来なかったのか,を問い詰めます。しかし,こころ以外のメンバーも全員保健室へ行ったようなんですね。しかし,誰一人として会えなかった。お互い非難し合います。一体,彼らはなぜ会えなかったのか。

2月に入って,久しぶりにマサムネが城へやってきます。マサムネは「学校で会えなかった」事実を元に,一つの仮説を立てます。それは,7人とも「パラレルワールドの住人であるのではないか」ということでした。

パラレルワールドとは

ある世界(時空)から分岐し,それに並行して存在する別の世界(時空)を指す。
並行世界、並行宇宙、並行時空とも言われている。

-ウィキペディアより-

7人が別々の世界に存在しているため,お互いが会うことができない。全員が住んでいる周辺の店や,クラス数も異なるし,そもそも始業式の日がそれぞれ異なるということもわかります。マサムネの見解を聞いたメンバーは,やはりショックを隠せない。そもそも違う世界に住んでいるから,現実の世界で会うことはできないし,3月いっぱいで記憶もなくなってしまうわけですから。こころたちは「城以外では,みんなと決して会えないし,助け合うこともできない」ことに愕然とするわけです。

ただ、オオカミさまはこれを否定し、外でも会えないわけではないと意味深なことを言うのです。「お前たちは赤ずきんにはどうしても見えない」とか,鍵探しのヒントは最初からずっと出しているとも。

ここでリオンがオオカミさまに,自分の部屋のベッドの下にある「×印」は何かと聞きます。他のメンバーも×印の場所を知っているようです。机の下,お風呂の洗面器の下,暖炉の中,台所の戸棚の中などなど。ただこの「×印」の意味をオオカミさまは話しません。二月も終わり,いよいよ三月。彼らが鏡の中の城内であう期限が迫ってくるのでした。

本作品の考察

この後は,実際に本作品を読んでみてほしいと思います。
鏡の中の世界の真実とは何なのか。僕自身も推理しながら読みました。その想像は当たってました。それでも上下巻を一気に読破。多くの方が本作品を推すのがよくわかります。

本作品では,7人が不登校であるという共通項があることがポイントの一つでした。
今の自分の境遇と重ねて,今の若い世代にとっては何か共感しながら読んだ方も多いのではないでしょうか。大人でも,昔の自分の環境を思い出しながら読んだ方もいるでしょう。

現在,さまざまな悩みを抱え,学校へ行くことができない小中学生は,10万人台から一気に20万人以上になっているようです。
学校も,定時制という制度がありますが,通信制の学校が飛躍的に生徒数を増やしているという実態もあります。

学校へ行きたくてもいけない,学校へ行かなくてもいい。

多様化という言葉があります。それはある意味新しい時代の特徴なのかもしれませんが,やはり一つの集団で生きる方法というものを身につけてほしいなと思います。確かに将来的には個人的に仕事をする時代になっていき,人と人との繋がりもネットワークを通じて伝えられる。と言いながらも,それが難しい人たちがたくさんいて,その人たちにしかわからない思いってあるのかなと同情する部分もあります。

ある意味時代にマッチしているという見方もあると思うけど,でも仕事というのは誰かと繋がりを持っているからこそ成り立つものだとも思います。画面越しで伝えられることもあるけど,実際に目の前で会って話さないと感じることができないこともあるはず。

やはり,人はお互いで助け合い,ネットワークではない特別なもので繋がっているのだと思います。ただ,それができないから苦労している人もいるのも現実。マイノリティという言葉もよく聞かれるようになりました。圧倒的少数派。

これからの時代はこの「多様性」というものを受け入れていかないといけないのでしょうか。とても難しく,重いテーマだったかなと思います。

この作品で考えさせられたこと

● 鏡の中の世界と現代の小中学生が抱える状況がシンクロした

● 多様性という言葉を考えさせられた

● 人と人とのつながり,人は支えられながら生きているということ

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