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【OUT】桐野夏生|常識破りの「OUT」な存在

1997年に出版され,1998年には「日本推理作家大賞」を受賞した作品です。

以前,「容疑者Xの献身」をブログに投稿した際にも書きましたが,この「OUT」はすごい作品なんです。

2004年に日本人として初の「エドガー賞」にノミネートされたんですね。桐野夏生エドガー賞とは「エドガー・アラン・ポー」に敬意を表して創設された,アメリカ探偵作家クラブが主催のミステリー大賞のようなものです。

それだけ本作品が評価されたということです。すごいです。

歴代でも,エドガー賞にノミネートされた日本の作品は全部で3作品だけなんです。

〇 2004年 桐野夏生OUT

〇 2012年 東野圭吾容疑者Xの献身

〇 2018年 湊かなえ贖罪

ある弁当製造工場で働く女性が夫を殺害してしまい,その遺体の証拠隠滅をなんと同じ工場で働く主婦グループが実行するという話。

文庫本では上下巻で構成されていますが,一気読みでした。

「OUT」の真の意味とは何なのか。まずは読んでほしいと思います。

こんな方にオススメ

● 「OUT」という言葉は何を意味するのかを知りたい

● 恐ろしい考えを持つ主人公の行動を知りたい

作品概要

ごく普通の主婦であった彼女たちがなぜ仲間の夫の死体をバラバラにしたのか!? 深夜の弁当工場で働く主婦たちは。それぞれの胸の内に得体の知れない不安と失望を抱えていた。「こんな暮らしから抜け出したい」そう心中で叫ぶ彼女たちの生活を外へ導いたのは、思いもよらぬ事件だった。なぜ彼女たちは、パート仲間が殺した夫の死体をバラバラにして捨てたのか?犯罪小説の到達点!
-Booksデータベースより-

主な登場人物

香取雅子・・・主人公。弁当工場でパートをしている

吾妻ヨシエ・・弁当工場のある意味中心的な人物

城之内邦子・・弁当工場でパートをしている

山本弥生・・・弁当工場でパートをしている。夫を殺害してしまう

山本健司・・・弥生の内縁の夫

佐竹光義・・・事件に巻き込まれ,容疑者となってしまう

十文字彬・・・消費者金融の社長

本作品 3つのポイント

1⃣ 主婦たちを襲う大事件

2⃣ 容疑者は別人?

3⃣ 雅子 vs 佐竹

主婦たちを襲う大事件

武蔵村山にある弁当工場でパートをしている香取雅子が主人公。雅子仕事をテキパキこなし,他のパートの女性からも一目置かれています。

仲がいいのが,ヨシエという年長者,邦子,そして比較的若い弥生の4人が一つのグループを形成しているようです。グループある日,弥生の腹に大きな痣があることに気づきます。

弥生の内縁の夫である健司が賭博で500万円もの大金を使い込み,腹いせに殴られたというのです。

DVが常習的に行われているようで,周囲のパート仲間も別れるようにいますが,2人の

子供を養っている弥生としては簡単に別れるわけにはいかないんですね。

そしてとうとう事件が起きてしまいます。

ある日,雅子の元に弥生から電話があります。

「夫を絞め殺してしまった」と。それを聞いて愕然とする雅子。驚く雅子普通であれば「警察に自首する」ということを勧めるのでしょうけど,雅子は違いました。

あんたはどうしたいの?

自首ではなく,隠蔽に協力する可能性を示唆するのです。

極めて論理的で,常識的な人間である雅子からの意外な言葉に、弥生は戸惑います。

弥生は子供もいるから,何とか隠し通したいというのが本音のようです。

それに対して雅子はとうとう隠蔽の方向で動くのでした。遺体を隠蔽でも2人だけでは荷が重いと判断した雅子は,同僚のヨシエと邦子にも協力を仰ぐのです。

渋々協力に同意するヨシエと邦子。雅子には有無を言わさない力強さを感じます。

同時にやるからには証拠を残さず,完全犯罪にするという雅子の覚悟も。

雅子は,遺体をバラバラにし,遺棄しようと決断します。

雅子がすぐに「死体を切断して捨てよう」という考えに行きついたのは,雅子の論理的で最良の方法だと直感したからだと感じます。

雅子は自分の家の風呂場で男性の体を切断します。そして別の主婦が車で捨てに行くという大胆な犯行を計画し,実行します。風呂場ん~,やっぱりこの計画に至るまでの雅子の思考は異質に感じます。

風呂場からルミノール反応が出ないように何度も何度も風呂場を洗い,切断した死体を簡単に捨ててしまう人間って。。。

しかし,この口約束の犯行が後で尾を引いてしまうのです。

死体を適当に捨ててしまい,周辺の住民に不信感を持たれてしまったのです。

バラバラにした遺体の一部が発見され,死体遺棄事件として報道されるわけです。

43個もの袋に分割して遺棄しようとした結果,見つかる確率も上がってしまったわけです。遺体をバラバラに捨てる効率はよかったかもしれませんが,リスクは大きかったということでしょうか。

こういう計画って,用意周到でなければならないし,関わる人間の性格なんかも関係するから完全犯罪なんて難しいんだろうなって思います。

知らぬが存ぜぬでいきながら,バレないように嘘の証言をしながら生活するって,これもまたメンタル的にやられそう。

いつ警察がやってくるかを毎日考える生活なんて想像つかない。

この辺りが「OUT」なのだろうか。

しかし,事件は思わぬ方向へ動き出します。

容疑者は別人?

この殺人事件,容疑者にされたのが佐竹という男性でした。

彼はかつて女性を一人殺害していました。表現するのは難しいですが,その女性に惹かれているのに殺害したようです。この佐竹という存在にも違和感を感じます。

そして警察が捜査をした結果,捜査線上に佐竹が浮かび上がるのです。

佐竹は濡れ衣を着せられてしまい,とうとう警察に拘束されてしまうのです。佐竹過去の事件の先入観がこういう冤罪を生んでしまうこともあるんですね。

自分たちが起こした事件の容疑者が上がってしまったことで,雅子たちはあっけにとられます。

雅子たちにとっては本当に幸運だったことでしょう。

おまけに彼女たちには大金も入ってきました。弥生に生命保険金5000万円が入るのです。

謝礼として200万円が雅子に,ヨシエと邦子は50万円を受け取ります。謝礼を受けるここで,十文字という男が登場します。彼は雅子に接近します。

死体処理ビジネスをやってみないか」

ということは,彼はバラバラ遺体の犯人の中心人物が雅子であることを嗅ぎつけたということです。

雅子はこのビジネスに承諾します。なぜ雅子があっさりとこのリスクのある話に載ってしまうのかが疑問でした。

雅子はかつて信用金庫に勤め,女性だからと出世できなかったり,同じ仕事をしても給料が低く設定されてしまった経験がありました。悩む雅子さらには他の支店へ転勤させられたり,多くの過去の出来事が雅子を後押ししたのでしょう。

雅子は十文字から遺体を引き受け,これまでと同じようにヨシエや邦子に手伝わせます。

高い報酬を十文字から受け取り,何かしら雅子には変な「やりがい」みたいなものを感じました。

しかし,このビジネスに手を貸したことが彼女たちにとっては油断になったように思います。

容疑者の佐竹は証拠不十分で釈放されたのです。

佐竹は一体誰が自分に「冤罪」を突き付けたのか調査を始めます。怒りの佐竹とうとう佐竹の復讐が始まるのです。

雅子 vs 佐竹

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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彼は,真犯人は誰なのかを探し出そうとするのである。そしてとうとう弁当製造工場の主婦たちに目を付けるのです。弁当工場何かが自分たちの周りで嗅ぎまわっていると敏感に感じ取った雅子。

雅子はやはり他の女性とは違うという印象を持ちました。

彼女以外のパートの女性が危険を全く察知していない,金に目がくらんだ亡者であるのに対し,雅子は何者かが自分たちに迫っていることを感じるのです。

徐々に主婦グループに迫る佐竹。次第に佐竹の策略が明らかになってきます。

主婦グループのうち,一番落ちそうな人間を女性を脅し,彼女たちが殺害したことを簡単に白状させる。そして女性メンバーの一人を殺害します。犯行に及ぶ佐竹それでもビジネスの依頼を受けた雅子は,第3の死体遺棄をすることにします。

ところが雅子はここで違和感を感じます。この遺体は。。。

実は佐竹が殺害した「邦子」だったのです。佐竹は全てを悟っていました。

雅子は,夫を殺害した弥生にはできるだけ行動を自粛させていたんですけど、それを佐竹は見抜いてたんですね。

弥生を脅し,保険金の5000万円を強奪するのです。脅したのは弥生だけではありませんでした。邦子,ヨシエにも被害が及んでいきます。大金を奪う佐竹の復讐は着々と実行され,徐々に雅子へと迫っていくのです。

復讐の手が自分に迫っていると確信した雅子は怯えていました。しかし,ここからが雅子の強いところです。

私は佐竹を逆に殺害して逃げる。絶対に捕まらない

やはり,主婦グループの中でも雅子だけは異質でした。

しかし,佐竹は雅子を捕えます。何度も何度も暴行を加える佐竹。

雅子はされるがまま。抵抗しない雅子。

今度はここに佐竹の隙ができてしまいます。隠し持っていた手術用のメスで佐竹を切り裂くのです。雅子、メスで攻撃佐竹は反撃を食らい,とうとう亡くなってしまいます。

そんな佐竹を,雅子は抱きしめるのでした。

雅子みたいな女性だけのグループだったらうまくいったかもしれない計画だったのだろうけど,彼女以外のメンバーの力量があまりにも低すぎた。

というよりは,こういう計画をすぐに思いつく雅子に違和感がありました。

他の人間とは違う,何か特別な存在。

稀有な性格を持つ佐竹は,自分と同じ匂いを雅子に感じたのだと思う。だから近づいた。

つまり「OUT」とは,常識では考えられない性格を持つという意味の「OUT」だったということだったのだと思います。

「アウトロー」という言葉がありますもんね。

世の中ではサイコパスというような言葉で表現される類のものだのかもしれません。

貴志祐介さんの作品「悪の教典」の蓮実を思い出しました。

これまでにない,人間の「OUT」な部分に着目して,ストーリーを作り上げた作品だったからこそ,日本人初の「エドガー賞候補」にも選ばれたのかな。

この作品で考えさせられたこと

● 本作品の「OUT」が何を意味するのかが理解できた

● 自分の現在の行動は,過去の出来事に左右されるということ

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