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【AX アックス】伊坂幸太郎|「兜」の苦悩を知る

AX アックス

伊坂幸太郎さんの「グラスホッパーシリーズ」第3弾です。

第二弾の「マリアビートル」から続く作品です。

この作品の特徴的なのは,それぞれの登場人物の視点で描かれているんですけど,今回は「」が主人公です。

やはり殺し屋の話なんですけど,これまでで一番読みやすかったかもしれません。

AXはまだ映像化される予定はないようです。

しかし先日,2022年に「マリアビートル」映像化のニュースが!

しかも「ハリウッド」! えっ? これ,すごくないです?

ブレット・トレイン」という名前だそうです。

ブラッド・ピット,真田広之も出てくるらしいです。ホントにすごい!

伊坂ワールドが評価されているということが嬉しいです。

こんな方にオススメ

●「兜」がなぜ殺し屋を辞めたがっていたのかを知りたい

● 兜の遺志を息子が継ぐのかを知りたい

● 自分にとって大切な人のことをもう一度考えてみたい

作品概要

「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

三 宅・・・主人公「兜」。実は殺し屋である

三宅克巳・・三宅の息子。大学受験を控えている

三宅茉優・・三宅の妻。三宅がこの世で最も恐れている人

奈野村・・・警備会社勤務。三宅と意気投合する

田辺亮二・・スポーツトレーナー

医 師・・・内科医。三宅に仕事を依頼する

本作品 3つのポイント

1⃣ 三宅の裏の顔

2⃣ 「兜」の最期

3⃣ 父親の遺志を継ぐ者

三宅の裏の顔

三宅という男は,これまで殺し屋として生きてきました。「兜」という名前で多くの人間を暗殺してきました。

表の顔は文具メーカーの営業社員です。

そんな三宅にも恐れる者がいました。自分の妻です。このギャップが面白いですよね。

妻に頼み事をされれば二つ返事で行動,気に食わないことがあれば妻に睨まれる。

普段は「マスオさん」みたいに優しい人間なんですね。

そんな三宅にも悩みがありました。

妻と結婚し,克己という息子を授かり,幸せに暮らしていたんですけど,

「もうこの仕事から足を洗いたい」

って思ってたんですね。息子が大学受験ということなんで,かなり前から悩んでたんですね。しかし問題があって,この仕事を辞めるには法外なカネが必要だったのです。

そのために仕事を続けるしかないと,ずっと我慢してたんでしょうね。

面白いのは,「蜜柑」と「檸檬」とのエピソードが出てきたり,三宅を「スズメバチ」が狙っているというような,シリーズで登場した人々が出てきます。

作品を越えた人物が出るとその作品を思い出せるのが,さすが伊坂ワールドです。

そんな三宅に,気の合う友人ができます。この出会いが彼の人生を大きく左右するのです。

「兜」の最期

三宅に,新しい友人ができました。警備員の「奈野村」という男です。

妻がいて,子供がいて,同じ境遇に共感したのでしょうか。かなり仲良くなります。

三宅にとっては新鮮だったようです。

そもそも殺し屋っていう仕事は,きっと友達を作らない仕事なんじゃないかなと思うんです。

もちろん依頼人はいないといけないですけど,それ以外では必要最小限の,しかも信頼できる人間じゃないと心を開かないでしょうから。

でも逆に言えば,そういう人間ができてということはこの仕事も終わりを迎えるのではないのかとも思いました。

実は,奈野村も殺し屋だったんです。

しかも次の依頼は「奈野村を殺害すること」だったんですね。

奈野村もこの仕事を辞めようとしてました。三宅は相当悩んだと思います。

お互いの素性を知りつつ,お互いの心情を理解しながら,三宅は思ってもない行動に出ます。

苦しんだ三宅はマンションから飛び降り,自らの命を絶ったのです。

長い間辞めようと苦しんで,さらに同じ境遇の人間が現れて,心優しい三宅はその選択しか思いつかなかったのでしょうか。

そして,彼の遺志を継ぐ者が現れます。

父親の遺志を継ぐ者

※ネタバレを含みますので,見たくない方はクリックしないでください!

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話は十年後に飛びます。三宅の息子である克己は悩んでいました。

なぜ,自分の父親は自ら命を絶ってしまったのかここで田辺という男が現れます。彼は一度「兜」に救われていました。

その時に「兜」が診察券を落としていったというのです。

診察券をもとにある診療所へ行きます。そこの「医師」から意外な事実を聞くのです。

「お父さんはあなたにこれを託していた」と。

克己はそれが「鍵」であることを知り,その鍵を調べると,あるマンションの一室だということを突き止めます。

管理人と一緒に部屋へ向かおうと時,ある男が現れます。それはさきほどの「医師」でした。

克己は銃で脅され,やむなく部屋の前まできます。

ここで管理人が思い出します。「家族の人が入ろうとしたら止めてくれ」

それでも医師はその部屋に入りました。その瞬間,ボウガンの矢が医師に刺さりました!そこに「奈野村」がやってきました。

彼は事情を説明します。きっと感慨にふけりながら克己は奈野村の話を聞いていたのだと思います。

奈野村は「医師」の遺体の処理を引き受けました。

「家族が入ろうとしたら止めてくれ」父親の遺言だったのでしょうか。

「兜」にはわかっていたのかもしれませんね。この部屋に医師と克己が一緒にやってくること,そして一番最初に入るのが「医師」であるということ。

やっぱり,人間って外見では善悪がわからないですよね。

善人の顔をして実は悪事を働いている人ってたくさんいるでしょうから。

一番信じることができるのは,基本的には血のつながった「親子」なのかなとも思います。

一緒にいる時間が長いから以心伝心というか,親の気持ちが子供に伝わることもあるでしょう。

でも逆に今回の奈野村のように,少ない時間でも意気投合して仲良くなる人もいるのだとも思います。

それって,きっと話していれば何となくわかるんじゃないかなって思います。

でも,三宅は気の合う人間の気持ちを考えすぎてしまったのかな。

もう考えたくない,楽になりたいと。。。その気持ち,よくわかります。

善意と悪意,本音と建前。

それを見抜くことって難しいですけど,伝わる人には伝わるのかもしれませんね。

この作品で考えさせられたこと

● 相手の気持ちを考えすぎて,逆に自分自身が苦しくなってしまうことがある

● 自分にとって価値を与えてくれる人はどういう人か

● 克己は「兜」の後継者になったのだろうか

これで「グラスホッパーシリーズ」は完結だったのでしょうか。

克己 「僕の父は何者だったんですか?」

奈野村「○○○○だったよ」

是非ご一読を!!

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