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【Aではない君と】薬丸岳|犯罪を犯した息子の秘密とは

Aではない君と

薬丸岳先生の「吉川英治文学新人賞受賞作」です。テーマは「少年犯罪」。

少年犯罪と聞いてまず考えるのが「少年法」についてです。

14歳未満であれば「少年法」が適用され,刑事告訴されないというルールがあるということ。

法律とはいえ,被害者遺族の気持ちを考えれば,許せない気持ちは永久に消えないと思います。

しかし,加害者にも言い分があったのかもしれません。

今回の話はそんな加害者と被害者の間に何があったのかということが焦点になっています。

吉永圭一という主人公に事件が降りかかります。圭一の息子である青葉翼が同級生をナイフで殺害してしまうのです。

「容疑者A」である「翼」が友達を殺害を自白したことに対して,この吉永がどう向き合うかというのが大きなポイントとなっています。罪を犯した翼すでにドラマ化されていて,主人公の吉永圭一役は「佐藤浩市」さんです。

こんな方にオススメ

● 息子はなぜ友人を殺害しなければならなかったのかを知りたい

● 「付添人」とは何かを知りたい

● 万が一,自分の子供が犯罪者になってしまった時のことを考えてみたい

作品概要

殺人者は極刑に処すべきだ。親は子の罪の責任を負うべきだ。周囲は変調に気づくべきだ。自分の子供が人を殺してしまってもそう言えるのだろうか。読み進めるのが怖い。だけど読まずにはいられない。この小説が現実になる前に読んでほしい。デビューから10年間、少年事件を描き続けてきた薬丸岳があなたの代わりに悩み、苦しみ、書いた。この小説が、答えだ。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

吉永圭一・・・主人公。「翼」の父親

青葉翼・・・・圭一の息子。圭一が離婚しているため,姓が違う。

青葉純子・・・翼の母親。圭一と離婚している。

藤井優斗・・・翼に殺害された中学生

野依美咲・・・圭一の現在の恋人

本作品 3つのポイント

1⃣ 頑なに心を閉ざす息子

2⃣ 息子の付添人となる父親

3⃣ 息子の更生

頑なに心を閉ざす息子

吉永圭一は,妻の純子と離婚していました。しかし,息子である翼とは定期的に会っていたようです。しかしある日,思ってもない事件が起こるのです。

翼が同級生を殺害したというのです。混乱する圭一と純子。息子が加害者になり衝撃を受ける両親翼は何か自分たちにメッセージを送っていなかったか。圭一は考えます。

愛犬である「ペロ」が死んだこと。本当は家族一緒に住みたかったこと。学校で何かあったのではないか。圭一はいろいろな可能性を考えます。

なぜあの時一緒にいてやれなかったのか。なぜあの時,声をかけてやれなかったのか

そんなことを考える圭一たちには,世間の目も冷たくなっていくのを感じているようでした。世間からの評判警察からの追及近所の評判世間,マスコミからの非難,そして圭一自身の職場での扱い。一瞬にしていろいろなものが変わってしまう恐ろしさを感じます。

圭一と純子は次第に精神的に追い詰められていきます。これが加害者側の辛いところなのだと思います。

そして翼も,警察からの追及にマイってしまっているようでした。警察から追及される翼しかし,翼は何か隠していることがあるようなんですよね。本当に翼が一方的に悪いのか。そんな疑問が湧きます。

翼には弁護士もつきますが翼は何も語らず。そして監視下の中,圭一も何か引き出そうとしますが,翼は頑なに語らないのです。

ところが,ある日翼はこんなことを言いだします。

どうしてお父さんとは二人で会えないのか

やっぱり何か伝えたいことがあるのか。ここから徐々に翼は心を開いていきます。

一体,翼が話したい事とは何なのでしょうか。

息子の付添人となる父親

ある日,圭一と弁護士は,翼の友人たちに聞き込みを始めます。

その中に「正人」という友人から重要な証言を得ます。

翼と,被害者の藤井優斗は仲がよくなかった」と。

そしてさらに「優斗は,翼のことをヒコクと呼んでいた」らしいのです。

ヒコク? 被告? どういうことなんでしょうか。何か裁判の真似事でもやっていたのか。
さらに圭一が問い詰めると衝撃の一言が出てきます。

学校でのいじめに遭う翼被告は親から見捨てられた存在で,かわいそうな生い立ちである。でもいつも有罪になってしまう

翼は圭一に涙を流しながら訴えるのです。つまり,圭一は藤井からいじめられていたんです。事件の裏側にはそんな事実があったんですね。

翼は毎日毎日,裁判の真似事をやらされてました。そして「有罪」になって罰として何かをさせられる。時には猫の首を絞めさせられてしまうことまで。

しかもそのシーンを動画に撮られ,さらにいじめがエスカレートしてしまったのです。

この部分を読んだときの翼の気持ちには同情しました。これは翼の心情を考えると辛すぎます。

毎日学校に行きたくなかっただろうな。毎日朝が来るのが辛かっただろうな。辛い日々を送った翼でも親を心配させたくなかったから学校へも行ったし,今回の事件のことも最後まで黙っていたんだろうなと,読んでいる僕自身も本当に辛くなりました。

圭一は翼の「付添人」になることを決意します。

20歳未満の未成年が起こした少年事件では,原則として家庭裁判所へ送致されて少年審判を受けます。

その際、少年の人権を擁護し,更生に向けてサポートする役割を担うのは弁護士ですが,親も「付添人」として同様の権利を有することができるらしいんです。

圭一は,息子としっかり向き合い,事実を知り,そして自分の息子を自ら更生させようと誓うのです。付添人となる圭一ここから圭一と翼のさらなる苦悩の日々がはじまります。

息子の更生

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ここで衝撃の事実が明らかになります。

翼の愛犬だった「ペロ」は,翼が自ら殺していたのです。もちろん優斗に「有罪」と言われたためです。

定期的にハムスターも買わされ,同じように殺させられた翼の心境を思うと本当につらくなります。

体を殺すのと,精神を殺すのはどちらが罪が重いのか

動物を殺すのはよくて,人間を殺すのはなぜよくないのか

そんなことを考えたこともなかったです。翼はもちろん人を殺めることは犯罪であることはわかっているのです。精神を壊す,体を壊す,どちらが罪が重いのかしかしその疑問は,翼が友達からいじめられており,復讐のために友達を殺害したのであって,それを実行したのは自分の精神を破壊されたからだと。

だから先ほどの翼のような言葉が出てくるんですね。

僕自身も,もし自分の子供から同じようなことを言われても,返す自身がないです。法律がそうなっているから,だとかそんな答えを子供は求めてないわけですから。

被害者の視点に立つことで理解できるのだ。容疑者は生きているから将来更生していくことはできるが,被害者は,亡くなってしまえばどうすることもできない

圭一は「なぜ人を殺めていけないか」をこう諭していました。

そして翼は気づくのです。

翼自身が優斗を殺めたことで,その親の精神をも壊してしまった」と。

そして,翼は優斗の家に,優斗の父親に謝りに行くのでした。

優斗の笑顔の遺影を見て,翼は何を思ったのでしょうか。被害者の遺影を見て何を思うきっと翼は一生この十字架を背負っていかなければならないだろうし,それは付添人にもなった圭一も同じなのかなと思います。

優斗の家に行ったことで,ようやく更生の第一歩が始まったように思いました。

これまで,少年犯罪の小説は数多く読みましたが,加害者の視点被害者の視点,それぞれの親の視点,そして容疑者を弁護する弁護士の視点と,さまざまな視点での描写がしっかりと描かれていて,本当に考えさせられました。

14歳未満の犯罪者は刑事裁判が行われず,また,20未満についても,まずは家庭裁判所に移送され,重要な案件であれば検察官へ「逆走」という手続きが取られるということのようです。

なぜこのような複雑な仕組みになっているのかとよく考えるんですけど,やはり「保護観察,教育をして更生の余地がある」という点があるからなのかなと思います。

つまり日本の場合「加害者の更生という視点」で護るというものなのでしょう。加害者の更生を目的とする確かに,不遇な環境で育ち,教育も満足に受けていない少年たちが犯罪を起こしてしまうということに関しては同情すべき点もあるのかもしれません。

しかし,被害者遺族からすれば,少年だろうが青年だろうが,自分の大切な子供を亡くしたという事実は不変であって,遺族の気持ちになればどうしても許せないという気持ちは永遠に消えないような気もします。

つまり「精神を壊すことより,身体を壊されることの方がはるかに罪が重い」ということなのだと思います。体がなくなってしまえば,もう更生しようもないですから。

だから加害者はその罪を償わなければならない。

被害者は到底,納得できるはずもないしょうが,それが法治国家の現実でもあるのだと思います。法治国家この作品で伝えたかったことは,「どんなことがあっても,人を殺めてはならない」ということだったのではないかと思う。

とても難しい問題だとは思います。本作品のように翼の気持ちを考えれば。。。

毎日毎日,辛い辛い日々を送って,我慢の限界だった翼。

しかし,殺害された優斗の親の気持ちも考えさせなければならない。

私たちは子供に対してしっかりと「なぜ人を殺めてはならないのか」を説かなければならないのだと思います。

この作品で考えさせられたこと

● 加害者である翼がなぜ友人を殺害したのかの事実を知り,同情する部分もあった

● 被害者遺族の怒り,被害者は二度と戻ってこないという事実を考えさせられた

● 「少年法」や「付添人制度」について深く考えさせられた

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