RPGという言葉を聞いて思い出すのは「ドラゴンクエスト」というゲームです。みなさんも一度は耳にしたことがあるでしょう。
1986年にファミコンのソフトとして発売されました。ただ、当時はこの「ロールプレイングゲーム」というものが受け入れられていませんでした。
しかし、徐々に「キャラクタがそれぞれの役割をこなす」という面白さに惹きこまれ、1988年の「ドラゴンクエストⅢ」の発売時には、購入するために学校へ行かない生徒、会社に黙って買いに行くサラリーマンがいるなど、社会現象になりました。
本作品も、登場人物がある「役割」を担う、ミステリーとなっています。
今年(2025年)の「ナツイチ」で本屋の店頭に置かれていたので即購入しました。2001年に発売された、結構古い作品だったんですね。2003年には主演が後藤真希さんでドラマ化されていました。
最後の最後のどんでん返しにはマイりました。
「えっ、そういうこと・・・」と。
とにかく面白い一冊です。是非読んでみてください!
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 もう一つの家族
3.2 警察の作戦
3.3 事件の真相
4. この作品で学べたこと
● R.P.Gの真意を知りたい方
● 仮想的な家族を形成する人々の話を読んでみたい
● 最後のどんでん返しを味わってみたい
住宅地で起きた殺人事件。殺された男性はインターネットの掲示板上で「疑似家族」を作っていた。殺人に関わりが? 虚実が交錯し、見えてきたものは…文庫書下ろしミステリー!
Booksデータベースより-
武上悦郎・・主人公。警視庁捜査一課の刑事
石津ちか子・・・女性刑事。武上とともに真相を暴く
所田良介・・・被害者。所田一美の父
所田春恵・・・所田良介の妻で一美の母
所田一美・・・所田良介の娘。成績優秀な高校生
加原律子・・・良介のネット上での仮想的な娘「カズミ」
北条稔・・・・良介のネット上での仮想的な息子「ミノル」
三田佳恵・・・良介のネット上での仮想的な妻
1⃣ もう一つの家族
2⃣ 警察の作戦
3⃣ 事件の真相
物語は、警視庁捜査一課の刑事 武上悦郎 を中心に描かれます。武上は普段、事件のデスク業務を担当していて、現場に出ることはあまりありません。しかし、今回は異様な事件に直接関わることになるのです。
ある日、食品会社の課長である所田良介が何者かに殺害されます。建設現場の資材置き場になっているところで、遺体となって発見されたのです。刃物でめった刺しにされていました。かなりの怨恨があったようにも思えます。
実はその3日前、所田の愛人であった今井直子が、渋谷のカラオケボックスで殺害されていいました。遺体のそばには、青いパーカー「ミレニアム・ブルー」が残されていました。これは犯人のものなのか。そして、この2つの事件は関連があるのだろうか。
警察は直子の交友関係を調べるが、やがて所田良介自身の「秘密の顔」が浮かび上がるのです。
殺害された良介は、妻の春恵、高校生の娘である一美と家庭を持っていました。ところが、良介のパソコンから驚くべき事実が発覚するのです。
良介はネット掲示板やメールを利用して「疑似家族ごっこ」のようなものをしていたのでした。良介はハンドルネーム「お父さん」として、そして他にも3人と「家族」を演じていました。三田佳恵が「お母さん」、加原律子が「カズミ」という娘役、北条稔が「ミノル」という息子として。
なるほど、これが「ロールプレイングゲーム」つまり「R.P.G」なんですね。
もちろん彼らは実際の血縁関係はなく、ただの他人同士です。しかし、メールや掲示板のやり取りを通じて「お父さん」「お母さん」「娘」「息子」として暮らす「疑似家族を作っていたわけです。
世の中に、こんなことをしている「家族」っているのでしょうか。
これを知ったのが良介の本当の娘である一美です。良介にとっては「遊び」や「癒やし」であったかもしれない。しかし、実の娘である一美にとっては耐えがたい裏切りだったのです。
捜査を進める中で、刑事たちは一つの作戦を考えます。
良介の娘である一美を取調室に隣接する場所から、疑似家族のメンバーをマジックミラー越しに「面通し」させるのです。ミノル、カズミ、お母さんがそれぞれ取調室に呼ばれ、マジックミラー越しに一美が観察します。
果たして、この中に犯人がいるのか?
一美は一人ひとり登場する「疑似家族」を見ながら歯がゆそうな気持ちで眺めています。彼らが父とどんな関係にあったのか、一美にとっては衝撃的な光景でした。
時折、一美はスマホで何かをやりとりをしているのです。誰とやりとりしているのかは明かされません。
ミノルとカズミ、そしてお母さん役はお互いに言い合いを始めます。ミノルは、こんな茶番は早くやめたかったのだ、と言います。「お母さん」は自分の本当の家庭がうまくいかず、ある意味この仮想的な家庭に癒しを求めているようにも思えます。
一美の心の中にはいろいろな複雑な思いが渦巻いているようです。
特に自分と同じ名を名乗っている「カズミ」に対しては特に意識しているようにも思えました。家族をまとめていたのが良介であり、彼は一度4人で会っています。
なぜ良介はこんな疑似的な家庭を作ろうと思ったのか。そして逆に一美の視点から考えると、ちょっと酷なようにも思えます。血が繋がっている父に対して、憎悪みたいなものは起きないのか。
私は女性ではありませんが、もし自分が一美の立場だったら、猜疑心どころか、嫉妬心など、とてもではないけど許せないのではないだろうか。
ここで、ある物的証拠が出てきます。
一体、犯人は誰で、動機はなんなのでしょうか。
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やがて、警察の推理は大きな方向転換を迎えます。私は「疑似家族の誰かが犯人」と思っていました。しかし真実は違いました。
とうとう物的証拠が出てきたのです。青いパーカー「ミレニアム・ブルー」。これはメーカーでも特殊な製品であり、世間でもなかなか出回っていないもの。
これを身につけていた人物がいました。それは一美のボーイフレンドである石黒達也です。遺体からこの繊維が出てきたのです。
警察は秘密裡にこの石黒にアプローチしていました。そして、とうとう石黒は白状するのです。そのパーカーは自分のものであると。
ということは石黒が犯人?
一美が「面通し」の時に必死でスマホをいじっていたのは、石黒へ連絡のためだったのです。彼女は石黒が全てを話してしまわないように釘を打っていたのです。しかし、それは長くは続きませんでした。石黒は諦めていました。
犯人は一美だったのです。パーカーは一美が犯行時に使用していたものだったんです。
確かに、石黒には「動機」がない。でも一美にはあるのです。
そして、とうとう一美は自白するのです。自分がやったと。
一美は「面通し」で心を揺さぶられてしまっていました。実は、この揺さぶりこそが警察の計画でした。
なんと、面通しに登場した「ミノル」「カズミ」「お母さん」は、本物ではなかったんです。実は、現職の警察官たち演じた「代役」だったのです。
これは「ロールプレイング捜査」の一環であり、虚構を用いて真実を引き出す仕掛けだったんですね。
確かに、ネット上の人物たちは「疑似家族」であり、ある意味「R.P.G.」でした。しかし、もう一つの「R.P.G.」が行われていたのです。それは警察が計画した「面通し」そのものです。
一美は父の裏切りを強く憎んでいました。先に書きましたが、一美の気持ちを思えばそれはリアルにわかります。
そして、一美は父の愛人の直子を「ネットのカズミ」だと勘違いしていました。その結果、本物の一美は直子を殺害したのです。さらには父への怒りを抑えきれず、良介をも刺殺したのでした。
事件は解決しました。でも読者の胸には大きな問いが残るのではないでしょうか。今回の殺人事件、一体、何が一番の原因だったのでしょうか。
良介が疑似家族を作り出したからというのはわかります。もし良介の家庭がうまくいっていたとしたら、この疑似家族は生まれなかったかもしれないのです。
ん~、これはにわとりと卵じゃないけど、難しい問題です。どんな家庭でもうまくいっているところもあれば、本作品のようにねじ曲がっているような家庭もあるでしょう。
実際に事件が起こるのは氷山の一角であり、本当に多くの人たちが家族のことで悩んでいるような気がします。
考えてみれば当たり前なのかもしれません。
異なる環境で育ち、価値観や考えも異なる人たちが家族を構成するわけですから。大きな社会問題を扱った作品と言っても過言ではないかもしれません。
家族とは血のつながりだけなのか、それとも「役割」を演じることで成立するのか?
警察が「虚構の演技」を用いて真実を引き出すことは正しいのか?
『R.P.G.』は、単なる推理小説を超えて「人が役割を演じることの怖さ」と「家族の在り方」を問いかける作品だったのではないでしょうか。
● 真犯人の正体に驚きました。
● 世の中には「仮想的な家族」を形成している人がいるのだろうか
● R.P.Gの真意とは、想像を超えるものだった
