ほんたブログ
業界知識を学ぶ

【新・教場】長岡弘樹|再び警察学校に戻った風間教官

新教場

久しぶりの「教場シリーズ」です。

当初は警察学校の話が主でしたが、シリーズが続くにつれて、警察指導官としての風間を見ることができました。

そして今回は、再び警察学校の教官として着任することになるのです。

毎回思いますけど、長岡弘樹先生のこのシリーズは本当に面白い!

警察官を目指す人たちを指導し、そしてそれを現場でどう活かすかということも学ぶことができる。そして警察学校の厳しさ。これを読んでも警察官になりたいと思うのであれば、その人は本物かなと。

ある意味、警察官への登竜門的な作品なのかもしれません。

本当に面白いので、是非読んでみてください!

こんな方にオススメ

● 刑事指導官から警察学校へ戻ってきた風間を見てみたい

● 警察学校の厳しさを知りたい

作品概要

第一話 鋼のモデリング
風間公親は、警察学校第九十四期初任科短期課程の教官となった。助教の尾凪尊彦は、気になる生徒として、人命救助で警察に表彰されたことのある矢代桔平の名を挙げた。
第二話 約束の指
実家が町工場を営む笠原敦気は、マル暴刑事を希望している。クラブ活動ではソフトボールに力を入れ、元高校球児の助教・尾凪から手ほどきを受けているが、スローイングに難があった。
第三話 殺意のデスマスク
若槻栄斗は、ブラジリアン柔術の有段者。交番実地研修中に、通り魔を逮捕した若槻に、風間は現場の再現を命じる。
第四話 隻眼の解剖医
警察学校では課外授業として司法解剖を見学する。不快指数が高いと、犯罪が起きやすい。七月に入り、生徒の大半が嘔吐する講習が近づいていた。
第五話 冥い追跡
星谷舞美は性格が明るく、成績もトップクラスである。星谷と大学同窓の石黒亘は、下位から成績を上げてきた。卒配後は成績上位二名が最重要署のA署に仮配属となる。
第六話 カリギュラの犠牲
氏原清純はソリの合わない同期・染谷将寿と、卒業式のスライド上映担当を任された。当日、風間は祝辞の読み上げをやめ、最終講義を始める。
Booksデータベースより-



👉Audibleを体験してみよう!

主な登場人物

風間公親・・・主人公。教官として警察学校へ戻ってくる

尾凪尊彦・・・警察学校の助教

本作品 3つのポイント

1⃣ 6つの短編の概要

2⃣ 各章の結末とは

3⃣ 本作品の考察

6つの短編の概要

第一章 鋼のモデリング

風間教官が警察学校第94期の教官に就任することになります。

助教である尾凪(おなぎ)は、ある一人の生徒に一目置いていました。それは矢代という生徒で、かつて彼は現役の警察官を救ったということで表彰された経歴のある優秀な生徒でした。

模擬交番による夜間勤務中、矢代と門田陽光が些細なトラブルで取り合いの喧嘩を起こします。

風間はその背後に「何か深い理由がある」と見抜くような洞察を示します。

一体、彼らの間には何があったのか。

第二章 約束の指

生徒の笠原は町工場出身で、マル暴を取り締まる刑事を目指し、助教・尾凪の指導を受けています。

犯人が車を動かせないようにする教習がありました。それは盗難車のマフラーにタオルとガムテープを巻きつけるというもの。

しかし、助教の尾凪は笠原の所作に違和感を感じます。それは当然風間も気づいていました。

一体、それはなんだったのか?

第三章 殺意のデスマスク

生徒の若槻は、教官がかなわないというくらいの柔術有段者です。ただ、彼自身も自覚していることが、裸締め、プロレスで言う所の「スリーパーホールド」をする際、彼の表情がなくなるのです。

まるで「デスマスク」のように。

そして岩槻は尾凪と一緒に職質をかける実習を行っていました。ところが、岩瀬という男が子どもを襲おうとしたのです。しかし、彼は一瞬のうちに岩瀬を制圧します。

一見、これは岩槻のお手柄のようにも思えました。

ただ、風間はこれまでの訓練の内容での岩槻の動作などの状況を見聞きし、助教の尾凪が見落としていることを指摘します。

それは一体、何だったのでしょうか?

第四章 隻眼の解剖医

初沢紬(はつざわつむぎ)という女子生徒が主人公です。彼女には環(たまき)という妹がいました。

ある日、その環が警察学校の柵の近くまでやってきます。そこに紬と尾凪助教もやってきました。紬は護身術のしかたを妹に教えてほしいと言います。頸動脈をめがけて水平打ちを繰り返せば、相手が気絶するというものです。

ん~、なんかイヤな予感がします。また尾凪は怒られるのでしょうか。

ある日「司法解剖」の見学があります。解剖なので、人体を切る演習で多くの生徒が吐き気を訴えます。

しかし、紬は何とか我慢していました。それを見た風間が異変を感じ取ります。

風間が感じ取った異変とは、一体何なのでしょうか。

第五章 冥い追跡

成績トップの星谷舞美は気になっている人物がいました。それは石黒という男子生徒です。舞美はいつも石黒の視線を感じているようでした。

石黒の成績はみるみるうちに上がり、舞美にも追いつきそうな勢いです。

警察学校を卒業すると、成績上位2名が配属になる場所がありました。どうやら、その権利を得るために二人は切磋琢磨しているのです。

そう思われましたが、実際には違いました。

一体、この二人はどういう関係なのでしょうか。

第六章 カリギュラの犠牲

氏原という研究職肌の学生と、染谷という学生が登場します。氏原は学校で学んだことだけでなく、まるで研究者のようにいろいろなことをノートに書き記しているようでした。

それを横目に、染谷は校内にモデルガンを持ち込んで、氏原の勉強を邪魔します。モデルガンであっても相当重い物なので、落とすと大きな音がします。氏原は気が散って勉強に集中できないのです。

それにモデルガンを相手に向けたりすれば、先の章でもあったように「退校」させられてしまいます。

そして卒業式がやってきました。二人とも無事に卒業かと思われましたが、風間がとんでもないことをやり出すのです。

それは一体、何だったのでしょうか?

各章の結末とは

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

👈クリックするとネタバレ表示

第一章 鋼のモデリング

「鋼のモデリング」モデリングという言葉は「何かをお手本にする」ということ。では、誰が何をお手本にしたのか。実は矢代がかつて自殺しようとした警察官を救った時の話には続きがありました。

彼は救った後、そこにあった銃弾を一つ盗んでいたのです。

そしてある日、矢代は自殺しようとしました。ところがそれを見ていたのが門田です。門田は矢代の行為をみて、やめさせようとした。つまり、それで彼らは揉み合ったのです。

本物を銃弾を装填し、自分自身に銃口を向けた矢代。一歩間違えば、門田までも巻きぞいになるところでした。

それを風間は周囲の状況を見ながら、推理して見せたのです。

そして矢代は退校しました。「銃弾を盗んでいたこと」「銃口を自分に向けたこと」で。そう、自分だろうが他人だろうが、銃口を向けた時点で「退校」になるのが警察学校の掟なのです。

第二章 約束の指

笠原の所作がおかしかった理由。実は笠原はあることを隠していました。それは左小指が「義指」だったことです。ガムテープが指に触れてしまうと、この「義指」が取れる可能性がある。だから、笠原の仕草はぎこちなかったのです。

かつて、彼は工場のプレス機で自分の指を失くしてしまったのでした。その秘密を風間が理解し、諭すのです。笠原は嘘をついていたし、指がないというのは大きなハンデのようにも思えます。

しかし、風間は退校にはしませんでした。

なぜなら、風間自身の目にも「義眼」がはめこまれているからです。
(これはシリーズを読んでいる方はご存知ですよね)

風間が尾凪に対して言った「私も秘密を共有する共犯者となろう」という言葉に感銘を受けるのです。

第三章 殺意のデスマスク

岩槻は隠していることがありました。職質の実習中、尾凪が目を離した隙に、ある男へ職質をかけていたのです。

その男こそが岩瀬だったのです。彼は一度は岩瀬と話をしながら、彼が通り魔的な犯行を起こすことを見抜けなかった。そして実際に岩瀬が犯行に及んだ際、若槻は岩瀬を殺すつもりで締め上げたのです。

なぜそこまでしたのか。岩槻が尾凪がいない時に、勝手に職質したことがバレてしまうからです。

岩瀬が生きていれば「あの警官から職質を受けた」ということがバレてしまう。証言を岩瀬から発せないようにするため、岩槻は必死で締め上げたのです。

もちろん岩槻は風間から退校を命じられます。

教官に嘘をついていたこと、そして岩瀬を締め上げた「殺意のデスマスク」が原因だったのです。

第四章 隻眼の解剖医

司法解剖見学中、他の学生が嘔吐により席を外す中、紬は耐え抜きました。

後日、風間が紬を呼び止めます。彼女は持久力もあり、司法解剖の演習にも耐え、ひょっとすると「総代」として卒業するくらいの実力の持ち主です。

尾凪は紬のことを『努力家』と言いましたが、風間の評価は『用意周到な性格』と意味深なことを言います。

「周到に準備をするのはいいが、し過ぎると墓穴を掘ることがある」

これはどういうことなのか。

実は、事件が起きます。近田という女性が亡くなりますが、未成年の女性が階段から転落させて死なせたと出頭してきたのです。

その女性こそ、紬の妹の環でした。要は殺意があったのか、なかったのか。環の手の甲には「歯形」が残っていました。その歯形が近田のものなら、環の殺意を証明してしまいます。

紬は環に真意を伏せておくように伝えます。

そう、紬が司法解剖の時に我慢していたのは、解剖されているのが近田であり、近田の口腔内から環の皮膚片が調べられないかを見届けていたのです。

結果的には皮膚片は見つかりませんでした。ただ、風間はその紬の「用意周到さ」を見破っていたのです。

彼女は総代どころか、退校してしまうのでした。

第五章 冥い追跡

ある日、舞美は「誰かに覗かれた」と言い出します。尾凪が調べた結果、近くの池に足跡が残っていました。その足跡が石黒のものだというのです。

石黒は舞美に何をしようとしていたのか。

しかし、風間はあることを見抜きます。確かにその明日とは石黒のもの、と思われました。スニーカーには微妙な製造誤差のようなものがあり、実際には石黒のものとは一致しませんでした。

それは舞美のもの。つまり舞美は「自作自演」をしていたのでした。これを見抜いた風間は舞美を退校させます。

そして石黒の存在。実は石黒は舞美と同じ大学を出ています。でも仲が良さそうには見えない。

実は、石黒は学生時代、舞美と付き合っていたのです。しかし舞美の方から断った。忘れられない石黒は、ある意味「ストーカー」のような存在だったのです。だから舞美は石黒を貶めようとした。

結局、舞美も石黒も同じ場所に配属になるどころか、卒業すらできなかったのです。

第六章 カリギュラの犠牲

卒業式がやってきました。当日、氏原と染谷がスライド上映を担当し、そのスライドも流れます。

そして風間による祝辞の番でしたが、彼は途中で「この場を借りて、最終講義をする」ということを言いだすのです。

風間は先ほど映していたスライドのある場面を映し出すように指示します。この時、担当の氏原と染谷は動揺しているようでした。

それは「拳銃保管庫」の画像でした。この写真をよく見ると二人の男が映っていました。それこそが染谷と氏原です。後ろに立っている学生が、前の学生に対して銃口を向けていたのです。

後ろの学生。それが氏原でした。警察学校内ではこれが「銃刀法違反」になるようです。

そして風間は卒業式の真っ最中に、氏原に退校を命ずるのでした。でも実は、実際に銃口を向けていたのは染谷だったのです。では氏原はなぜ自分だと言ったのか。

それは、氏原は警察にならずに、研究職に就きたいと考えていたのです。

そしてわざと警察学校に入り、校内でのさまざまな学びや経験などを論文をまとめようとしていた。

だから「意図して退校されたがっていた」わけです。

本作品の考察

本作品の冒頭の話が面白いです。

警察学校内にある花壇に水をやっていた風間が、地面にホイッスルが落ちていることに気づきます。そこには紫陽花が植えられており、もしここにホイッスルを埋めたら、どんな花が咲くかということです。

紫陽花は、土壌が酸性だと青い花を咲かせ、アルカリ性だと赤い花を咲かすそうです。リトマス紙の色の変化とは真逆ということですね。

そして巻末には半年後の紫陽花のことが書かれています。紫陽花は見事に青色の花が咲いたのです。ちなみに、これが「遺体」が埋まっていたらアルカリ性になり、赤色の花が咲くということ。

つまり、凶器が埋まっていれば紫陽花は青に、遺体が埋まっていたら赤に。

警察官にはそういった「観察眼」も大切なのだなと、この『教場シリーズ』は教えてくれるのです。

それにしても、短編小説でありながら、この完成度には驚きました。警察学校の厳しさを改めて知ることができました。

入校した生徒が、全員卒業できるとは限らないんですね。

ただ、警察官としての心構えや技術を学ぶだけではない。警察官としての資質があるかを見極めることの方がが、教官の重責でもあるのだなと。

やはり、何度読んでも面白いです。現在『新教場2』が発売されています。

ますます、読みたくなりました。期待したいと思います。

この作品で考えさせられたこと

● 風間教官がさらにグレードアップしたようにも感じた

● 警察学校の本当の厳しさを改めて考えさせられた

● 警察官としての資質を見極めるのも教官の重要な仕事である

こちらの記事もおすすめ