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【俺ではない炎上】浅倉秋成|SNSの恐ろしさを知る

俺ではない炎上

SNSでよく目にした本作品。「俺ではない炎上」

ネット社会になってよく「炎上」という言葉を目にするようになりました。2025年になって、某芸能人と某テレビ局のことがまさに「炎上」している状況の中、ネットって本当に怖いなぁって思います。

有名人であろうとなかろうと、誰かが道徳や倫理に反することを行えば、見知らぬ誰かがそれを叩き、正義という武器を持ち、さらには数の暴力となって本人を追い詰める。

それはある意味、物理的な刃以上のものかもしれません。

自分の発言や行動に気を付けていたとしても、価値観に違う何者かが攻撃したり、あるいは好き嫌いで判断されてしまったり、生きにくい世の中になったものだなぁって思います。

冒頭に書いたように、メディアも叩かれまくり、どんどん弱体化してしまい、これからはどんどんネットの力が増していくのではないかと思います。

そんな中で読んだ本作品。ある事件の濡れ衣を着せられた主人公が逃亡するという話です。人は危険を感じた時に、戦うか逃げるかのどちらかを取るって言いますけど、今回の話はまさに逃亡劇です。

勇気と体力と思考力をあわせもたないと絶対逃げられない。ストーリーに入り込んでしまって、一気に読了した作品です。

スリルを味わいながらも、勇気ももらえる作品だと思うので、是非読んでみてください!

こんな方にオススメ

● 「俺ではない炎上」の意味が知りたい方

● SNSの恐ろしさをもう一度考えてみたい方

● 自分自身の行動が他人にどういう影響を与えているかを考えてみたい

作品概要

仕事は順調、愛する妻と娘にも恵まれ順風満帆な人生を送っていたハウスメーカーの営業部長・山縣泰介。ある日、外回りをしている彼のもとに緊急の電話が入った。どうやらSNS上に現れた泰介の“なりすまし”が「女子大生殺害犯」だと大炎上しているらしい。誤解はすぐに解けるだろうと思っていた泰介だが、その手口が実に巧妙で、誰一人として無実を信じてくれず……。日本中が敵になるなか全力で逃げ続ける、ノンストップ炎上逃亡ミステリー!!
Booksデータベースより-



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主な登場人物

山縣泰介・・・主人公。ある事件の濡れ衣を着せられ,逃亡する

山縣夏実・・・泰介の娘。事件に関わっている

山縣芙美子・・泰介の妻。泰介が犯人でないことを信じている?

六浦,堀・・・事件の捜査をする巡査部長の二人

住吉初羽馬・・泰介が犯人扱いされたSNSへの書き込みをした人物

江波戸琢哉・・夏実の同級生。あだ名は「えばたん」

本作品 3つのポイント

1⃣ 俺ではない炎上

2⃣ 泰介,夏実,初羽馬それぞれの視点

3⃣ 驚愕の結末

俺ではない炎上

ある日,SNSに一枚の画像がアップされます。それを見ていたのが住吉初羽馬(しょうま)という大学生。その画像は,公園のトイレ近くに遺棄された女性の遺体でした。アカウント名は「たいすけ@taisuke0701」とあります。石鹸で手を洗ったがまだ臭い,とか,

「『からくなえにくさ』へ持って行こうか」などという書き込み。どうやらこの書き込みをしているのが犯人のようです。

初羽馬は「これは本物なのではないか」と判断し, SNSに拡散するのです。あれよあれよとネット上にこの「犯罪」が広がっていきます。

このアカウント名もすぐに判明しました。名前は「山縣泰介」。彼は大帝ハウスという企業に勤務するサラリーマン。彼の自宅がこの公園の近くにあったり,目撃者がいたりと,泰介の知らないところでさらに拡散されていき,泰介=真犯人という図式が出来上がってしまいます。

そんなことも知らない泰介は普通に出勤していましたが,どうも周りの社員がよそよそしいんですよね。おそらく,ネット上の情報を見た社員からあっという間に噂が広まってしまったのでしょう。

彼は部長から呼び出されます。やはりtwitterへの書き込みが理由のようです。部長は泰介に事実確認を行います。お前が犯人なのではないかと。しかし,泰介には心当たりがありません。ツイッターのアカウントを作った覚えもない。でも何者かが書き込みをしており,10年くらいが経過していたのです。

なぜ自分がそんな状況に追い込まれてしまっているのか。完全に四面楚歌の状態になってしまいました。大帝ハウスには苦情の電話が来るし,誰もが泰介のことを疑っていたため,部長は泰介に自宅待機を言い渡します。

そしてとうとう警察も動き出します。自宅には報道陣もたむろしていて,完全に犯罪者扱い。警察も泰介だけでなく,泰介の妻である芙美子や娘の夏実にも話を聞きます。

加害者というだけで,家族にも容赦ない非難が浴びせられるのです。マスコミは自宅前に張り込み,娘は学校へ行っていますが,クラスメイトからは後ろ指をさされる状況。

読者には,泰介は無罪であることはわかっているのですが,周りは敵だらけです。

ひょっとしたら自分の夫は犯罪を犯してしまったのでは,と少し疑っている様子の芙美子。ここまで「炎上」してしまうと,嘘が真実に思えてくるのもわかるような気がします。

味方なのは娘の夏実くらいのものでしょうか。父親を気遣っている感じがするんですよね。

そしてとうとう泰介は「逃亡」することを決意するのです。

泰介,夏実,初羽馬それぞれの視点

泰介の逃亡が始まりました。ジョギングを日課にしているようで,体力には自信があるようです。車で自分が住む街を飛び出します。いろいろなところに身を隠す泰介。

しかしそれを追うのが警察です。聞き込みをしながら泰介を追い詰めようとします。さらにSNSでも目撃情報が拡散され,何と一般人まで泰介を捕まえようとする者まで現れます。

この逃亡のシーンがとてもスリルがあります。ほとんどが泰介の視点で描かれており,泰介が警察の捜査を予測しながら,うまくかわしていくのです。どこまで警察の手が迫っているかを読者も想像しながら読めるので,とてもドキドキさせられます。

スナックで匿ってもらったり,着ていた服を途中で着替えたり。泰介 vs 警察・SNS民という闘いが続いていくのです。

泰介自身は,自分自身は他の社員からも慕われていて,尊敬されていると思っていました。でも実はそうではなかったのです。SNSには,社員や取引先の人物からの書き込みもありました。泰介のことを良く思っている人がほとんどいなかったことに気づきます。

確かに,自分の評価は他人がするものですから,僕自身もそうですけど,自分が思っているほど他人からは良く思われていないだろうなとは思っています。特に若い頃は自分は正しいことをやっているのだ,と他人を批判することもありました。

泰介はそんなこともあり,ネット民からはさらに「悪い人間」というレッテルを貼られているようでした。

ここで視点が冒頭の初羽馬に変わります。彼は泰介が犯人なのかどうなのかよくわからない状態でした。そんな時に現れたのが「サクラ」という女性。彼女が初羽馬に接近してきて,SNSの情報を見ながら,初羽馬と一緒に泰介を追うことを要求します。

ところがそのサクラが「包丁」を持参しているのを目にしてしまいます。「サクラは,泰介を殺害しようとしているのではないか。だとすれば,何が動機なのか」と考えをめぐらします。

一体,こサクラという女性は何者なのでしょうか。

さらに読みながら疑問を持ってしまう場面があります。それは夏実の視点で描かれている部分。彼女は同級生の「えばたん」こと,江波戸と一緒に犯人を追っていました。

ただ,丘の上の小屋へ向かいます。この小屋は,夏実がマッチングアプリを使って,見知らぬおじさんと会っていたことを泰介が知り,罰として夏実が閉じ込められた場所でした。

あれ? 夏実はえばたんと一緒に泰介の行方を追っているのに,この落ち着いた感じはなんだろう。これが読みながら思っていた疑問です。

でも読み進めていくうちに,この違和感があとで驚異の「大どんでん返し」となって襲ってくるとは,この時は思ってもいませんでした。

ここから,本作品のラストへと繋がっていきます。

驚愕の結末

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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初羽馬が運転している車に同乗していた「サクラ」という女性が急に怒り出します。実はサクラは「夏実」だったのです。えっ? どういうこと? 夏実は「えばたん」と一緒にいるなずでは。。。?

夏実は,泰介が逃亡する原因を作った書き込みをした張本人が初羽馬だということを知っていたのです。だからずっと一緒にいた。どんな人間が自分の父親を陥れたのか。

でも初羽馬はどこにでもいる普通の人間で,そこまで悪意がある人物でもないというのを感じているようでした。夏実が言いたかったのは,少しの何気ない,先のことを考えない書き込みが,ここまでの大事件にまで発展させる可能性があるということを伝えたかったのではないでしょうか。初羽馬は自分のしたことを反省しつつも,夏実に協力していくのです。

一方,泰介はあの「小屋」に来ていました。かつて自分の娘を閉じ込めたあの小屋へ。
泰介は小屋の中で思うのです。それはこれまで自分が良かれと思って行動してきたことが,他人にとっては良いことではなかったこと。さらに自分の娘をこんな離れた小屋に一晩中閉じ込めてしまったこと。とても寂しかったに違いない。自分のこれまでの行動すべてに反省しているのです。

手元にはチャッカマンがあります。なぜか周囲には灯油のような臭いもしていて,まるで泰介に「ここで覚悟を決めろ」と言っているような状況でした。そして小屋に火が放たれるのです。そこにやってきたのが一人の女性。それは夏実でした。逃れようという気力も湧かない泰介を,夏実は救い出します。

初羽馬も近くにいましたが,そこに一人の男性が現れます。それは泰介ではない。あの「えばたん」こと,江波戸琢哉でした。彼は初羽馬を襲います。つまりこの事件の一連の犯人は何と「えばたん」だったのです。夏実はわかっていたのです。真犯人がえばたんだということを。

そしてそこに警察がやってきて,えばたんを逮捕します。連行されるえばたん。

このことがSNSでも広がり,泰介は「冤罪」だったことが証明されたのでした。

本作品を読みながら,やはり今の世の中の恐ろしさを痛感しました。特にSNSというツールの恐ろしさ。僕自身は教育者の端くれではありますが,SNSの恐ろしさを学ぶ生徒たちに教えなければならないと思いました。

他人を誹謗中傷することがどれだけ危険であるかを。全く罪もない人間が,自分の人生をかけてまで追い詰められる姿を読みながら,本当に恐ろしいことだと思いました。

さらに運が悪ければ,廻りまわって,矛先が自分に向かってくる可能性もあるということです。どういうタイミングで話の流れが変わるかもわからない。

きっと世の中にはこの作品のような状況に陥っている人もいるのではないかと思ってしまいます。

そして,現在話題になっている「メディア」の存在にも気を付けなければならない。

事実を元に報道するのはいいけれど,それに対して誰が何を訴えるのか,その内容によって事態はプラスにもマイナスにも向いてしまう。

普段は何も言えない人間が,ネット上では饒舌になり,ありもしない正義感を振りかざして,あたかも自分が「裁く」ような書き込みをする場合もあります。

それに心を傷め,自分の人生を棒に振ってしまっている人がいると思うと,何かやるせない気持ちになります。

途中,僕自身が疑問に思ったシーンがありましたが,それは時系列の問題でした。これが一番の「想定外」だったかもしれません。これは是非読んで感じてほしいかなと思います。

そして,本作品のラストは,泰介の改心です。自分が今まで正しいと思ってやっていたことが,実はそうではなかったのではない,と反省する姿が胸を打ちました。

自分も若い頃は何も考えずに言葉を発し,人を傷つけていたこともあったのだろうなって思います。それは社会に出てから特に考えることでした。いろいろな経験を積むことで学ぶこともあるのだなと,今になって考えるのです。

「因果応報」という言葉を思い出させてくれるような作品でした。

この作品で考えさせられたこと

● やはり,SNSを利用する時には細心の注意が必要である

● 間違った使い方が「冤罪」を生む可能性があるということ

● 自分の行動が他人にどういう影響を与えるのかを考えさえられました

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