「MRC大賞2022」だけでなく,「本屋大賞」にもノミネートされた作品です。
タイトルを見ると,やはり「ノアの方舟」を思い出してしまいます。ノアが大洪水から生き延びるために造った巨大な舟。と言いながら,ノアの方舟のことはよく耳にしますが,僕自身はあまりよく知りませんでした。どうやら聖書に書かれている一節からきたもののようです。(後述)
本作品はまさにミステリー小説。スマホもある時代と古き良きミステリーが組み合わさった感じの作品です。閉じ込められた空間「方舟」の中で起こる数々の殺人事件。ちょっとグロテスクな場面もありますが,すんなり読めます。
それを推理する人物とその助手的な存在の主人公。一体,誰が犯人で,動機は何なのか。主人公以外の人物だけでなく,主人公に対しても怪しさを感じながら読みました。読むのに結構時間がかかるかなと思ってたんですけど, 久しぶりに本格ミステリー小説を読んだ感覚になり,一気読みでした。
是非,読んでみてください!
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 地下建築の存在の意味
3.2 地下建築内で起こった事件
3.3 本作品の考察
4. この作品で学べたこと
● ノアの方舟を連想させる本作品を読んでみたい
● 地下空間で起こる本格ミステリーのような作品を読んでみたい
● 最後の最後に起こる大どんでん返しを味わってみたい
極限状況での謎解きを楽しんだ読者に驚きの〈真相〉が襲いかかる。
友人と従兄と山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った家族と地下建築「方舟」で夜を過ごすことになった。翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれ、水が流入しはじめた。
いずれ「方舟」は水没する。そんな矢先に殺人が起こった。だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。タイムリミットまでおよそ1週間。
生贄には、その犯人がなるべきだ。――犯人以外の全員が、そう思った。
-Booksデータベースより-
越野柊一・・・主人公。システムエンジニア
篠田翔太郎・・柊一の従兄
西村裕哉・・・ジムのインストラクター
絲山隆平・・・ジムのインストラクター,
絲山麻衣・・・幼稚園の先生で,隆平の妻
高津花・・・・OL
野内さやか・・ヨガ教室の受付嬢
矢崎幸太郎・・電気工事士
矢崎弘子・・・幸太郎の妻
矢崎隼斗・・・矢崎夫妻の息子
1⃣ 地下建築の存在の意味
2⃣ 地下建築内で起こった事件
3⃣ 本作品の考察
ある地下空間で殺人が起こってしまったという場面から始まる本作品。この殺人は後に詳しく説明されていますが,「誰かが生贄にならなければならない」という言葉が出てきます。
これが何を意味するのかも後でわかります。
そもそもこの地下空間は何なのか。ある山奥に,地下空間に通じるマンホールのような入口があります。これを発見したのは西村裕哉という人物。以前ソロキャンプをしようとして偶然この入口を見つけた楊なんですね。
主人公である越野柊一とは大学時代の元サークル仲間です。入ってみるとそこは地下三階までの空間で,多くの部屋が存在しました。
誰かがこの地下に隠れるように生活していた様子。ただ,恐ろしいのはその中の一部屋にまるで「拷問部屋」みたいな場所があるのです。のっけから不気味な展開。
今,この場にいるのは,柊一の元サークル仲間である絲山隆平,その妻の麻衣,高津花,野内さやか,そしてなぜかいる柊一の従兄の篠田翔太郎の7人です。
裕哉はこの場所が50年前の過激派のアジトじゃないかと推理します。
部屋をくまなく見ている時に「館内図」を見つけます。それは地下3階までの部屋の構成だけでなく,地下3階はプールのように水が来ていました。つまり,人が生活できる空間としては地下2階までということです。
そしてここで「方舟」という言葉が登場するのです。確かにこの近く建築時代が水に浮いた方舟のようでした。この言葉で思い出すのはやはり「ノアの方舟」ですよね。
ノアの方舟とは
神は人を自由な意思を持つ者として創造されましたが、悪さを重ねる人間たちを神は滅ぼすために大洪水を起こすことにしました。
しかしそこにノアという人物がいました。彼は神の心にかない、神と共に歩む正しい人でした。神はこのノアに心を留め、箱舟建造を命じたのです。
ノアは神の言われたとおりに箱舟を造り、自分の全家族、すべてのきよい動物と空の鳥の中から雌雄7つがいずつ、その他のすべての動物の中から1つがいずつを入れたので生き永らえることができ、人と動物は全滅を免れたのです。
-バイブルラーニングサイトより-
この話は聖書に書かれていて,自由奔放に生きるアダムとイブに対して怒りを感じた神が大洪水を起こしたというのは知りませんでした。
上記のような話を知っている人にとってはとても楽しめる話なんだろうなと思います。もちろん知らなくても面白いんですが。
今回のストーリーとこのノアの方舟はリンクするのでしょうか。そんなことを考えながら読み進めるのです。
夜を越そうと地下に残った10人は,それぞれいろいろな場所へ移動したり,自分の部屋に閉じこもったりしています。そんな中,突然地震が発生します。大きな岩が転がり,地下建築の地下1階に落下。全員が行き場を失ってしまうのです。これで完全に地下に閉じ込められてしまいます。う~ん,何やら嫌な予感。。。また事件が起きるのだろうか。。。
ただ,この行く手を阻む大岩を地下2階に落下させる手段があることがわかります。地下2階には「巻き上げ機」というものがあり,これを動かせば大岩を地下2階に落とすことができ,出入り口が解放され地上へ出ることができるらしいのです。
でも問題が一つあって,その大岩を落とせば,巻き上げ機を動かした人物だけは逃げることができなくなってしまうということなのです。
そんな時でした。一人の人間が殺害されてしまったのです。それはこの地下建築を見つけた裕哉でした。最初に怪しさを感じた人物が殺害されるという思ってもない展開です。裕哉は後ろから紐のようなもので首を絞められています。何か探していたのでしょうか。
一体,誰が犯人なのか。残された9人はお互い疑心暗鬼になっています。地下3階は水没していて,徐々に水位が上がってきている。残された期限は一週間。早くしないと全員が道連れになってしまいます。
ただ当然,全員が考えていることは「犯人が名乗り出て,この巻き上げ機とともに地下に取り残されるべきである」ということなのです。犯人が責任を取ってこの「大役」を実行するべきと。
柊一の視点で描かれていますが,柊一の従兄の翔太郎がまるで探偵役のようにいろいろな人と話したり,いろいろな事実を知ることで推理しようとしています。そう言えば,裕哉を殺害した凶器(紐のようなもの)はどこに隠されたのか。
翔太郎以外にも,何か事実を掴もうとする者も現れます。犯人の正体を掴み,とにかく生き残りたいという思いで必死に行動していくのです。
ところが事態は逆に悪い方向へ動き出します。この後,第二,第三の事件が起こってしまうのです。
一体,犯人は誰で,動機は何なのか?
この後は,実際に本作品を読んでほしいと思います。とても意外な展開に驚くこと間違いなしです。
もし僕自身がこの地下建築のような,自分の力では脱出できない場所に閉じ込められたら,そこでいくつかの事件が発生したら,どんな行動を取るのだろうかを考えながら読みました。
生きるために最適な方法は何なのかを考え,恐ろしいことを想定しながらも行動するのではないか。地下空間の中でただ何もせずに死を迎えたくはないと考えるのではないか。精神的に追い詰められるとは思います。同じ空間に遺体もあるし,真犯人もいるわけですから。
読みながら「方舟」という言葉が何を意味するのかも考えました。先に書いたノアの方舟の話とリンクさせるような作品なのか。でも犯人が巻き上げ機を回してしまったらリンクしないわけです。でも「方舟」というタイトルである限りは何かある。
これ以上書くとネタバレになってしまうので深くは書きませんが,僕自身にはある推理がありました。そして最後の最後に大どんでん返しが起こった時,その推理の正しさが証明されました。ただ意外な部分もありましたが。
思ったのは,人間というのは本当に欲深いものなのだなということです。何とか自分だけは生き残りたいという気持ち。それはある意味当然なのだろうと思う。あのノアの方舟を作らせた神の怒りはそんな欲深い人間に与えられたもの。その神の意図を信じた人物が,あの地下空間にたった一人だけいたという事実。
この作品の続編が出るのかはわかりませんが,この後の展開がどうなるのかも見てみたい気がしました。
是非,読んでみてください!!
● ノアの方舟と本作品とのつながりを想像しながら読むことができた
● 良くも悪くも人間とは本当に欲深い生き物なのかなということ
● 最後の大どんでん返しには圧倒されました