ようやく文庫化され,やはり「ガリレオシリーズは絶対読まないと!」と思い,即購入しました。「透明な螺旋」というタイトルがとても謎です。読みながら,相も変わらず読みやすい東野先生の作品。文章の表現が本当に巧みなんだろうなと思います。登場人物をイメージしやすいし,ストーリーの構成の仕方が絶妙。最後は一気に伏線回収する鮮やかさなど,さすがの一言です。2日で読み切ってしまいました。次を,次をと引き込ませる力が東野作品にはあるのだと思います。
きっと,本作品も映像化されるんだろうなと思います。ガリレオシリーズで映画化されていない作品って,ないですもんね。東野圭吾先生の作品を読んだことない方でも必ずハマります。そして今回はいろいろと考えさせられました。これまで謎だった湯川の生い立ちもわかる作品にもなっています。
是非,読んでほしいと思います!
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 行方不明になった女性
3.2 複雑な人間模様
3.3 本作品の考察
4. この作品で学べたこと
● 「親子の絆」について深く考えてみたい
● 『透明な螺旋』の意味を知りたい方
● 湯川の育った環境について知りたい方
シリーズ第十弾。最新長編。今、明かされる「ガリレオの真実」。
房総沖で男性の銃殺遺体が見つかった。失踪した恋人の行方をたどると、関係者として天才物理学者の名が浮上した。警視庁の刑事・草薙は、横須賀の両親のもとで過ごす湯川学を訪ねる。
「愛する人を守ることは罪なのか」
ガリレオシリーズ最大の秘密が明かされる。
-Booksデータベースより-
島内園香・・・主人公。生花店で働く女性
島内千鶴子・・園香の母親。既に亡くなっている。
上辻亮太・・・生花店で知り合い,園香と同居している。
松永奈江・・・絵本作家。園香と千鶴子が慕う女性
根岸秀美・・・銀座にあるクラブのオーナー
湯川学・・・・帝都大学教授。今回も事件に関わる
1⃣ 行方不明になった女性
2⃣ 複雑な人間模様
3⃣ 本作品の考察
戦争が終わって3年後,ある一人の女性が誕生するところから始まります。女性は元気に育ち,大学生になりました。ある日,女性が歩いている途中で,持っていたバッグをひったくられます。途方に暮れている女性の元に,取られたはずのバッグを持った男性が現れます。ひったくりからバッグを奪い返したようです。
これを機に女性はこの男性と交際することになり,二人の間に子供もできました。しかし,男性は子供ができたことで仕事を増やして過労だったのか,脳出血で突然亡くなってしまったのです。
女性は仕事も辞めていたため,途方に暮れます。このままでは生活ができない。
そしてとうとう,籠の中に女児と手作りの人形を入れ,児童養護施設に置き去りにするのです。これらの件(くだり)が何を意味するのか考えながら読みました。これが後に大きなポイントとなるのです。
話は変わって,生花店で働く一人の女性の視点の話になります。女性の名は島内園香といいました。彼女には千鶴子という母親がおり二人暮らし。そんな暮らしに悲劇が襲います。
千鶴子が風呂場で倒れていたのです。慌てて救急車を呼ぶ園香。しかし千鶴子は亡くなってしまいました。クモ膜下出血でした。
元々父親がいなかった園香は,頼るべき母親も失います。頼るべきは「ナエさん」という女性でした。千鶴子が働いていた施設で出会い,仲良くなった女性でした。
ある日,園香は生花店の店長に呼ばれます。映像関係の仕事をしている一人の男性が,曲にあった花がほしいと言っており,その役割を店長は園香に頼んだのです。映像関係の男性の名は上辻亮太といいました。園香は上辻の依頼について一生懸命考え,上辻の期待に応えます。
これを機に,園香は上辻と交際するまでに発展するのです。そして園香と上辻は同居するようになります。ただ,気になることもありました。上辻は以前勤めていた会社を辞め,仲のよい友人たちと新しい会社を立ち上げます。
ところが,これがうまくいかず,友人とも言い争いになり,結局フリーランスとして活動するようになります。それもうまくいかない状況の中で,園香たちの生活は困窮し,とうとう上辻が園香にDVをするようになってしまうのです。
また話は変わり,今度はガリレオシリーズでお馴染みの人物たちが登場します。刑事の草薙,内海たちです。南房総沖で遺体が発見されたのです。その遺体が何とあの上辻だったのです。背中に銃弾を撃ち込まれていました。
まさに急な展開。じゃ園香はどうしているのか。すでに園香は住んでいたアパートにはいませんでした。ん? その園香が怪しい? 実はここから予想外の展開に発展していくのです。やはり犯人は園香なのか。そして動機は?
先に書いたように,園香の行方が分からなくなっていました。もちろん警察は最重要人物として捜査を始めます。警察は園香の友人である真紀と話をします。上辻の死亡した時刻に,真紀は園香と旅行へ行っていたと言うのです。つまり,園香にはアリバイがある?
真紀は,園香には親しい人物がいたことを話します。それは絵本作家の松永奈江という女性です。奈江? ナエさんと呼んでいた女性がいたことを思い出しました。奈江の行方もわからなくなっています。これは一緒にいる可能性が高い。さらには逃亡している可能性も。
警察は今度は奈江がかつて描いた絵本の編集者に会うことにします。奈江が描いた絵本の名は『ひとりぼっちのモノポちゃん』
モノポって何? その答えは最後のページの参考文献で明らかになります。それを見て周囲は驚愕します。『もしもモノポールと出会えたなら 湯川学 著』
え? これはどういうこと? まさかここで湯川と繋がるのか。。。
モノポールとは
N極だけ、またはS極だけの磁石のように振る舞う物質。これを磁気単極子、英語ではモノポールと言います。
モノポールは、まだ実際の観測では見つかっていませんが、理論的には素粒子物理学、宇宙物理学、場の理論、超ひも理論などで大変重要な役割を果たしています。
-理化学研究所サイトより-
草薙たちはここで一人の男性を頼ります。もちろんガリレオこと,湯川学です。松永奈江は湯川と何か関係があるのか。草薙たちにとって湯川は一番信頼すべき人物ですが,ちょっと怪しんでいる感もあります。
さらに,上辻はある女性に電話をかけていました。それは草薙がよく行っていたクラブのママ,根岸秀美という老女です。どんな連絡を受けたのか,草薙は聞き出そうとしますが,秀美の答えは何かあいまいな気がします。
実は秀美は園香をクラブで働かないかと勧誘していたというのです。しかしそれを上辻は拒んでいました。秀美と上辻に間には何か関係があるのか。湯川も何か隠しているような気もするし,松永奈江と園香の行方もわからない。今回は,本当にあいまいなことだらけです。
そして,本作品のストーリーは意外な展開を迎えるのです。
ここから先は実際に本作品を読んでほしいと思います。
本作品のテーマは何だろうかと考えた時,一つは「親子の絆」だったのかなと思います。生みの親,育ての親,それこそ福山雅治さん自身が出演された「そして父になる」を読んだときの衝撃は忘れられません。
本作品でも,血の繋がった,あるいは繋がらない親子関係が登場します。真実を知って驚いた場面も何度かありました。今回の湯川は,あまり表には登場しません。というか,毎回裏で警察をサポートする役割は変わらないのかなと思います。
それでも湯川の存在感を大きく感じてしまうのは,東野先生の描き方が巧みだからなのかと改めて考えるわけです。さらには本作品では,これまで明かされなかった湯川の家族関係も明らかになります。それを知りたい方には特にオススメです。
「透明な螺旋」というのはどういう意味なのかも考えました。おそらく螺旋というのはDNAの螺旋構造のことだとは思いました。それが透明というのはどういうことなのか。結末を知って「なるほど」と思いました。
「むかし僕が死んだ家」という作品があります。以前,本ブログでもこの作品を取り上げたことがあります。ネットでは,あの作品の「私」という一人称は,実は「湯川学ではないのか」という意見が多数見られました。
正直,透明な螺旋を呼んでも,あの作品との関連はわかりませんでした。確かに「白い一軒家」という言葉や,それ以外にも湯川のセリフで「むかし・・・」の作品と通じる部分はあると思いましたが,これは作者のみぞ知るというところでしょうか。でもそういう繋がりがあると考えれば,両作品を読んでみるとさらに面白さが増すのかなって思います。
本作品を読む際には,「むかし僕が死んだ家」も一緒に読むことをオススメします!
● タイトルの真意について考えさせられた
● 本作品と関係があると言われている作品のことが気になった
● 「親子の絆」というもの深く考えさせられました