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【100万回生きたきみ】七月隆文|転生輪廻を繰り返す主人公

100万回生きたきみ

ライトノベルなどを描かれる七月隆文先生の作品。

かつて「ぼくは明日,昨日のきみとデートする」を読んだのを思い出しました。あれが七月先生の作品を初めて読んだ作品です。

本作品のタイトルを見てすぐに「100万回生きたねこ」という絵本があることを思い出しました。かの作品が描かれたのは1977年らしいですから,かなり昔から読まれている絵本なんですね。話の内容は詳しくは知りませんが,本作品を読んで感動しました。

二人の高校生が登場するのですが,彼らには前世というものがありました。その前世がとても切なくて,一日で一気読みしてしまいました。いろいろなことを考えさせてくれる作品で,読了後は余韻に浸りました。

一度は読んだ方がいいとオススメできる作品です。

こんな方にオススメ

● 「100万回生きる」という意味を知りたい

● 自分の前世に興味がある方

● 主人公にかけられた『呪い』とは何なのかを知りたい

作品概要

美桜は100万回生きている。さまざまな人生を繰り返し、今は日本の女子高生。終わらぬ命に心が枯れ、何もかもがどうでもよくなっていた。あの日、学校の屋上から身を投げ、同級生の光太に救われた瞬間までは。「きみに生きててほしいんだ」そう笑う光太に美桜はなぜか強烈に惹かれ、2人は恋人に。だがそれは偶然ではない。遙かな時を超え、再び出逢えた運命だった──。
100万の命で貫いた一途な恋の物語。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

三善光太・・・高校生で,かつての英雄だったタラニスの生まれ変わり

安土美桜・・・光太と同じ高校に通う女子高生。前世はミアン

ハルカ・・・・光太と美桜の幼馴染

本作品 3つのポイント

1⃣ 光太と美桜の前世

2⃣ 輪廻を繰り返すタラニス

3⃣ 『呪い』の真実とは

光太と美桜の前世

安土美桜という女性は高校生。ハルカと仲が良いが,何となく荒んでいる感じがします。人生に疲れたのか,面倒くさいと思っているのか。精神的に病んでいるのか。

そんな時,ハルカが気分転換に「三善くん,呼んでみんね」と言い,三人で出会うことにします。三善光太と言いました。美桜がいろいろな男性からアプローチされているのを聞き,光太はどうでもいい素振りをしながらも,何となく気になっているような感じもします。

美桜はクラスの窓から,外でサッカーをしている三善を見つけます。ボールを持つ光太に3人が奪いに来た瞬間,彼は一瞬で抜き去ります。美桜は驚きますが,それでもどうでもよい感じ。

そしてある日,美桜は屋上で男子生徒に告白されます。これもどうでもいいという感じ。そして何もしたくないと思った美桜は次の瞬間,屋上から飛び降りるのです。落下する美桜へ向かって飛ぶようにやってくる一人の男性。

光太でした。なぜ彼はこんなに高くジャンプできるのか。疑問に思う美桜に対し,光太は言います。「俺,英雄なんだ」と。わかった,とあっけなく答える美桜。今度は美桜が話します。「私,100万回生きてるの」と言うのです。

ただ,やはり美桜からは生きる気力を感じません。でも光太は彼女に「生きてほしい」と伝えます。ここから美桜は少しずつ,光太と一緒にいたいと思うようになります。

「私,三善くんが好き」「俺も好きだよ」こうして二人は付き合うことになります。

しかし,美桜は突然苦しみを訴え,倒れてしまいます。そして植物人間状態になり,病院に入院することになったのです。そこには光太だけでなく,ハルカもいます。光太は驚くことを言いだします。「100万回生きたのは俺なんだ」

そう,美桜と光太はどうやら遠い過去から一緒にいたことがあるようなんです。そして光太は自分が生きた遠い過去について話し出します。

紀元前の遠い過去,光太は「タラニス」として生きていました。タラニスは7歳にして敵将の首を獲ったことがある,まさに英雄でした。

ある時,王から「竜を討伐する」ことを命令されます。しかし,偉大な魔術師からはこう予言されていました。

竜は死ぬが,英雄も死ぬ

タラニスが竜討伐へ出発する時,宮廷詩人であるミアンという女性が一緒に付いていくことになりました。ひょっとして,このミアンが美桜? そう,美桜の前世こそがミアンだったのです。文字がなかった時代で,ミアンが作る歌こそが英雄の生きざまを表現する唯一の方法だったのです。

竜のいる山へ向かう途中,多くの魔物とも出会いますが,タラニスはいとも簡単に仕留めます。剣の腕は相当高いようです。そしてとうとう竜のいるであろう洞窟の入り口が見えてきました。二人はすでに愛し合っていました。

「これが,最後の別れになってはならない」と,お互い「生きたい」と思うようになっていました。意を決して,洞窟に入るタラニス。その先にはあの「巨大な竜」がいました。そして対決の瞬間がやってきます。身体は頑丈な鱗で覆われ,さらには激しい炎をタラニスへ向けて吐き出します。さすがのタラニスも大苦戦します。

ミアンにもう一度会いたい。ともに生き続けたい

この強い気持ちがタラニスに勇気を与えます。そしてあの巨大な竜の討伐に成功するのでした。そして洞窟を抜けた瞬間,タラニスは思いもよらない光景を目にします。ミアンが血を出して倒れていたのです。

かろうじて生きているものの,あと少しの命であることがタラニスにはわかりました。ミアンを愛してしまったこと。それは女神の意に背いたことでもありました。次の瞬間,禍々しい呪いがタラニスを襲い,タラニスの命は終わってしまうのでした。

この話を聞いたハルカは何かを考え込んでいるようでした。そんなハルカの背中を慰めるように撫でる光太。「何か猫撫でてるみたいだな」そんなことを言いだす光太。

実はこの言葉には大きな意味が隠されていたことを読者は最後に知ることになります。

輪廻を繰り返すタラニス

ここからタラニスは何度も生まれ変わります。エジプトの大工として生まれ変わりました。時代はクレオパトラの頃です。ただ,タラニスは自分の前世が英雄であったことを記憶していました。彼はミアンを必死に探そうとします。

「ミアンに会いたい」そう思った瞬間,彼の心臓は止まってしまいました。

次は「魚」として,その次は「麦」としての人生を送ります。なるほど,人として生まれ変わるとは限らないんですね。そして再び「人間」として生まれ変わることもありました。水の都,ヴェネツィアにいる頃でした。

彼の近くに一羽の「蝶」がやってきます。周りの人々は不気味な感じがしているようでした。ひょっとして,これ「ミアン」じゃないの? 離れては,何度も何度も近づいてくる一羽の蝶。ただ,タラニスは20年しか生きられないのでした。かつて英雄だった頃に受けた「呪い」のせいで。蝶にお別れを言うと,タラニスの心臓はまた止まってしまうのでした。

時は19世紀末の頃,やはりタラニスは戦いの時代で生きていました。そして今度は近くに「鳥」がいます。タラニスはこの鳥が「ミアン」だと思っているようです。ミアンが時代とともに姿を変えてタラニスの近くにやってきているのでしょうか。ただ,ここでもタラニスは自分の命があとわずかであることを悟っているようです。輪廻を繰り返すタラニス。

そしてとうとう舞台は日本になります。黒い学ランに身を包んでいるタラニス。いや,三善光太です。彼の家には猫がいました。光太は,自分に懐いている猫のことを「ミアン」と呼んでいました。そして彼はついに再会を果たすのです。

高校の入学式。実はここにある有名な女性が入学するのです。その名は安土美桜。ここで美桜が出てくるわけか。ってことは,家で飼っている猫は何なのか? たまたま光太に懐いている猫なのか?

美桜がなぜ有名なのか。それは,彼女は「気象の完全予測を可能にした天才物理学者」として世界に名をとどろかせていたからです。彼女は新入生代表としてスピーチをすることになっていました。彼女が壇上に立ち,その姿を見た瞬間,光太に衝撃が走ります。「ミアン!」思わず叫ぶ光太。

この話を聞いているのかどうなのか,ハルカはあまり反応しません。でもよく考えたらおかしいですよね。光太は美桜とあまり仲良くなさそうだったし,光太自身も興味がなさそうだった。それに加えて,天才物理学者と,生きる気力を失った美桜が全くリンクしないんですよね。

これはどういうこと? 何かとても生き生きしている美桜がとても意外で,新鮮なんです。美桜はミアンの生まれ変わりだから,こんなにも知的な有名人になったのでしょうか。

でも美桜は大きな声で叫ばれたことを気にしていました。ミアンとは私のことじゃないかと。光太の知っている誰かに瓜二つなのではないかと。それに対し「ミアンは,前世のきみだ」と話し出します。とうとう光太は「タラニスとミアン」のことも打ち明けます。

そこから光太と美桜は急接近します。前世のことをあまり覚えていない美桜ですが,光太が自分を好きだと思う気持ちを察知します。美桜は光太の家に行くほど親しくなります。そこには光太が「ミアン」と呼んでいる猫もいます。美桜も違和感を感じているようです。自分がミアンの生まれ変わりだとしたら「その猫は何?」と。

やはりそうですよね。その疑問がなかなか晴れない。ここから,意外な展開が待ち受けていました。光太と美桜の行く末はどうなっていくのか。。。

本作品の考察

ここから先は,実際に本作品を読んでほしいと思います。ポイントなのは,やはりあの猫の正体でした。

「100万回生きたきみ」って,最初は100万回も生きたわけではないのかなって思ってました。前世が紀元前から始まり,約2500年前から100万回も生きれば,20歳も生きずに亡くなってしまいますから。

「100万回生きた猫」にかけてこのタイトルにしたのか,それとも「たくさん生きた」という意味で100万回にしたのか。100万ドルの夜景って言うくらいですからね。でもそれは違いました。本当に100万回生きてきたんですね。

それにしても,読了後の次第にこみ上げてくる切なさで,号泣してしまいました。ある人物のことを考えて。こういう風に徐々に「来る」作品って,なかなかないです。

僕自身にも「前世」ってあるのだろうか。あるとすればどんな姿で,何をして生きていたのか。でも本作品にあるように,何度も輪廻を繰り返していること自体に記憶があると,繰り返すのもしんどいのかなって思いました。

自分の性格や価値観というのは,知らず知らずのうちに前世から繋がっているものなのではないか。過去のトラウマというのは,実は前世から引き継いでいるものなのではないかと思ったりしました。

いずれにしても,この世に生を受けた今。現在のひとつひとつの瞬間を大切にし,二度とやり直せない人生であると考えてこれからも過ごしたい。今ある人生を送られていることに感謝してしまうほど,深い話だったと思います。

この作品で考えさせられたこと

● 100万回生きたのは主人公だけではなかった

● 主人公を苦しめていた『呪い』の真実を知って驚いた

● 自分にも前世ってあったのか,と考えさせられた

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