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【黒猫の小夜曲】知念実希人|勇気ある死神クロの活躍

黒猫の小夜曲

知念実希人先生の「死神シリーズ」の第二弾。

以前,本ブログでも「優しい死神の飼い方」という作品のことを書きました。

死神って,何か怖いイメージがありますけど,タイトル通り,優しい死神です。

あの世から人間世界を見守っているんですけど,上司からの指令で人間世界に降り立ちます。

その指令とは「成仏できていないいわゆる『地縛霊』をあの世に送り出すことが目的」という面白い趣向の作品。

前作は死神が「レオ」というゴールデンレトリバーとして活躍する作品でしたが,今回の死神は別の者。「クロ」という黒猫に乗り移り,レオの時と同じように目的に従って活躍するストーリーになっています。

ひょっとするとあのレオも出てくるのかな,という淡い期待を持ちながら読みました。

今回は,クロの活躍を是非楽しんでほしいと思います。

こんな方にオススメ

● 「死神」シリーズを読んでみたい方

● 今回の死神は何なのかを知りたい

● 本作品での死神の目的を知りたい

作品概要

黒毛艶やかな猫として、死神クロは地上に降り立った。町に漂う地縛霊らを救うのだ。記憶喪失の魂、遺した妻に寄り添う夫の魂、殺人犯を追いながら死んだ刑事の魂。クロは地縛霊となった彼らの生前の未練を解消すべく奮闘するが、数々の死の背景に、とある製薬会社が影を落としていることに気づいて――。迷える人間たちを癒し導く、感動のハートフル・ミステリー。
-Booksデータベースより-


主な登場人物

僕(クロ)・・主人公で死神。人間世界に「黒猫」として降り立つ

白木麻矢・・・自動車事故で意識が戻らない少女。

南郷純太郎・・サウス製薬会社の会長

千崎隆太・・・警視庁捜査一課の刑事

久住淳・・・・千崎の部下で刑事

小泉昭良・・・サウス製薬の営業

小泉沙耶香・・昭良の妻。サウスの会長の秘書

阿久津一也・・サウス製薬研究員

桜井知美・・・阿久津の彼女

峰岸誠・・・・清明大学の教授。小泉夫妻や阿久津の恩師

本作品 3つのポイント

1⃣ 死神クロの登場

2⃣ 秘密の研究データ

3⃣ 真犯人とは

死神クロの登場

先に書いたように,今回は「レオ」ではなく,別の死神が登場します。

彼は「黒猫」に乗り移って行動します。黒猫前作の時の死神レオはゴールデンレトリバーだったので,嗅覚が優れていました。そして人間の世界で大好物になってしまったのが「しゅうくりいむ」でしたね。

確かレオの時は「犬」の習性に慣れるのに時間がかかってたような気がします。今回も最初の頃は猫の習性に慣れなかった死神でしたが,徐々に慣れていきます。

猫だけに俊敏性に優れ,後をつけるのもうまい。今回の大好物はどうやら「まぐろの刺身」のようです。この細かい設定を見事に描く辺り,さすが知念先生,面白いですね。

ある日,黒猫に乗り移った死神は,ベッドに横たわっている意識不明の女性と出会います。白木麻矢と言いました。白木麻矢その近くには「地縛霊」らしきものが漂っています。この段階では誰の霊なのかはわかりません。この霊の希望で,霊はこの「真矢」の中に入りたそうにしています。一体誰の霊なのか。。。

死神の力で真矢の中に入ることができ,真矢として行動し始めます。その真矢は死神が黒猫なので,「クロ」と呼ぶことにしたようです。今回はレオではなく,クロの活躍が見れそうです。

ここで事件が発生します。ある男性が車に轢かれ,救急車で運ばれます。南郷純太郎という男性で,サウス製薬の社長でした。救急車どうやら純太郎が自ら車道に飛び込んで行ったようです。警察はこれを自殺と断定してしまいます。でも本当にそうなのか。クロは何かしら怪しさを感じているようです。

純太郎が亡くなった三日経った時,クロは疲れを見せていました。地縛霊と話したり,人間の魂に話しかけたりしたから疲れてしまったんですね。

そこでクロは麻矢と動物病院へ行くことにします。クロはそこにいた犬に話しかけられます。

久しぶりだね,マイフレンド。

君と同じだよ。ボスの命令で,こんなボディに封じられて地上に派遣されたんだよ

おーっ! やっぱりレオは登場してくれました。あの世で最後に会って以来,久しぶりに再会を果たしたクロでした。レオここで千崎という刑事が登場します。千崎はある男性を取り調べていました。小泉昭良という,サウス製薬に勤務する人物です。彼は,妻である小泉沙耶香殺害の容疑で取り調べを受けていました。

沙耶香は一週間前,市内を流れる川にかかる「椿橋」の下で亡くなっていました。歩いているところを後ろから刺されてしまったようです。

しかし,近くには本人のバッグが落ちていたことから,怨恨の線で捜査が進んでいました。

「だから何度も言っているじゃないですか。俺は何も知りません」

千崎は「こいつはシロだな」と,昭良が犯人ではないと踏んでいるようです。取り調べは終わってシロだと思いながらも,千崎は部下の久住とともに小泉の行動を監視します。尾行小泉昭良はサウス製薬の中に入っていきました。そこで張り込みを始めます。しばらく近くを歩こうと千崎は椿橋まで歩きます。なぜか腰を押さえながら。

ところが千崎はこの橋で思いがけない人物と出会うのでした。

秘密の研究データ

千崎が目撃した人物。それは小泉昭良でした。いや小泉はサウス製薬にいるはず。すぐさま千崎は久住に電話します。

「お前,眠ってんだ!」

しかし久住からはサウス製薬からは出ていないと報告がありました。

サブタイトルにもありますが,「ドッペルゲンガーでも見たんじゃないですか?」と久住に言われます。

ドッペルゲンガーとは

ドイツ語のドッペルゲンガーは「二重の」を意味する doppel (ドッペル)(英語の double に対応)と「歩く者」を意味するゲンガーとの合成語であると云われている。転じて「分身」とも意訳される。

-ニコニコ大百科より-

つまり,小泉の分身のような人物は二人いる?

不審に思いながらも千崎は小泉の後を尾行します。しかし,入り組んだ路地の途中で見失ってしまいました。

注意して尾行していた千崎でしたが,何か神隠しにあったような感じです。一体,小泉はどこへ行ってしまったのか。どこへ行ったか?ここでパトカーのサイレンが鳴り響きます。それはサウス製薬へ向かっています。何と,殺人事件が発生していました。被害者は小泉昭良。

唖然とする千崎と久住。自殺なのか他殺なのか。近くにはサバイバルナイフが落ちていました。一体,どんなトリックで小泉は殺害されたのか。

千崎の上司は尾行していた千崎を責めます。「お前が小泉を殺したようなもんだ」と。

その瞬間,千崎は倒れてしまいます。どうやら千崎は「膵臓癌」を患っていたようです。だから腰に手をあてたりしていたんですね。

そして亡くなってしまうのです。同時に地縛霊のようなものた飛び出します。やはり千崎としては自分の行動を悔やみ,そして真実が知りたかったでしょうね。地縛霊そこで出会ったのがクロです。クロは千崎の霊の記憶から,何があったかを知ります。

クロは「なぜ小泉を尾行中に見失ってしまったのか」を調査し,ようやくそのトリックに気づきました。

実は,小泉を見失った時,小泉はある家の中に入っていました。それは南郷家があった場所でした。そこからサウス製薬まで地下通路が通っていたのです。地下道なるほど,この抜け道のようなものを使ったから,千崎も小泉を見失ってしまったし,久住も小泉の姿を見ることができなかったんですね。

この抜け道,どうやら公にできない秘密の研究のために作られたものみたいです。そして,この研究が何だったのかが大きなポイントでもあります。ただ,誰が小泉を殺害したのかはわからないままでした。

警察が目をつけていた人物は他にもいました。阿久津という男です。亡くなった千崎刑事は小泉を取り調べつつも,この阿久津も疑っていたようです。

それが千崎がしたためていた「ノート」に書いてありました。ノートを読んだクロと麻矢もこの阿久津が状況的に怪しいと疑うようになります。ノートところが阿久津は行方がわからなくなっています。やはり連続殺人事件はこの阿久津なのか。

クロは,刑事の久住の魂に入り込み,亡くなった小泉夫妻や阿久津の通っていた清明大学教授の峰岸を訪ねます。

小泉夫妻や阿久津は,実は峰岸教授の教え子だったらしいんですね。峰岸教授千崎が遺したノートによると,小泉紗耶香は阿久津に「人体実験なんてできない」と話していたようです。

阿久津が言っている「人体実験」は何だったのか。峰岸に聞きますが,心当たりがない様子。

阿久津には付き合っていた知美という女性がいました。今度は「クロ」が知美の魂へ干渉を始めます。

彼女はある難病に罹っていたようです。「全身性エリテマトーデス」です。

全身性エリテマトーデスとは

20~40代の女性に多い膠原病(こうげんびょう)

原因は不明で,免疫系の異常により,本来身体を守る働きをする免疫系が自分自身を攻撃してしまい,さまざまな症状を呈します。

-日本赤十字医療センターサイトより-

副腎皮質ステロイドを投与していましたが,その副作用で苦しんでいたようで,決まっていた銀行への就職も諦めるくらいひどかったようです。

知美からは過去の出来事を打ち明けられます。以前,アフリカへ行っていた阿久津が,オンラインで「タトゥー」を見せたのです。

「魔除けのタトゥーと思っていたのが『呪いのタトゥー』だったりしてな」

知美が回復するために阿久津はタトゥーを彫ってもらったのでしょうか。タトゥーさらに阿久津は,日本に戻ったら大事な話があることを伝えます。そして日本へ帰ってきた阿久津。

知美は阿久津と一緒にいられる喜びを感じると同時に,どうも様子がおかしいことを感じていました。そして思ってもないことを言いだします。

「サウス製薬の会長と,紗耶香先輩の妹が,データを俺から隠すために分割して保管しやがった」

小泉紗耶香だけでなく,妹もサウス製薬の社員だったんですね。

では,データとは何なのか。知美は阿久津に聞きますが,阿久津は話そうとしません。それどころか,阿久津は「家族になりたい」と言う知美を突き放します。

う~ん,何か阿久津の行動が不自然。やっぱりあの「データ」に意味があるのでしょうか。結局,阿久津は知美に別れを切り出してしまいました。

一体,阿久津は何を考え,知美から離れて行ったのか。ここが大きなポイントになります。

真犯人とは

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阿久津には実は秘密がありました。タトゥーを彫ったことと関係しています。クロは再び知美の魂に入り込み,離れて行った理由を伝えます。

実は阿久津はある病にかかっていました。「後天性免疫不全症候群」つまり「エイズ」です。どうやら,タトゥーを彫った時に「HIV」に感染してしまったようなんですね。彫った時の針に,HIVに感染した人物のウィルスが残っていたのでしょう。HIV結婚して阿久津と知美の間に子供ができれば,ひょっとするとその子供にも遺伝してしまう可能性があると考えていたようです。それを「呪い」という言葉で表現していたんですね。

そして阿久津が探していたデータこそ,「HIVを治す可能性がある研究成果」だったのです。

阿久津が一生懸命研究したにも関わらず,そのデータを持ち去られてしまった。

それにしても,知美と一緒にいることができないと突き放した阿久津は,本当は優しい人物なのではないか。知美は,阿久津への未練から解放されるのでした。

阿久津は研究データを取り戻そうと自暴自棄になっているのかもしれない。やはり犯人は阿久津なのか。USBクロと麻矢は阿久津を探します。ところが意外な事実が判明します。阿久津が海に落とされた車の中から遺体で発見されたのです。

刑事の久住とともにクロは麻矢の家に行きます。そこで母親に阿久津のことを話すのです。実は麻矢の母親は阿久津を知っていました。クロはそのことに驚きます。

麻矢の部屋の隣には,もう一つ「使われていない」部屋がありました。クロはそこで意外な人物の「卒業証書」を見つけます。

「白木紗耶香」でした。何と,麻矢の姉は旧姓白木紗耶香,つまり小泉紗耶香だったのです。ということは,麻矢の体の中に入り込んでいた人物,それが麻矢の姉である小泉紗耶香というわけだったのです。姉妹なるほど,冒頭で麻矢の周りで地縛霊として彷徨っていたのが紗耶香だったわけか。。。

麻矢をサウス製薬に誘ったのは紗耶香でした。しかし麻矢がデータを持っていることを知った真犯人が麻也を車で轢いたのです。

だから紗耶香は後悔していたんですね。そして麻矢,いや紗耶香と言えばいいのか。彼女は阿久津の携帯から送られたメールを受信していました。

「今夜,データを持って屋上に来い」

屋上でも阿久津は亡くなっているはずで,犯人ではない。

では一体誰が。。。クロと紗耶香(体は麻矢)は屋上で待ちます。

そしてそこに現れたのは意外な人物でした。清明大学教授の峰岸だったのです。今回の全ての事件の犯人はこの峰岸教授でした。

サウス製薬の南郷会長も,小泉夫妻も,そして阿久津まで殺害した峰岸。研究データを海外の製薬会社と高額で取引する。まさに私利私欲の動機でした。

うわぁ,完全にミスリードでした。そして最後はこの峰岸との対決。サバイバルナイフを持った峰岸はクロを攻撃します。絶対絶命のピンチ。

そこに現れた救世主がいました。何と「レオ」でした。

そしてレオの助けを借りたクロは峰岸を攻撃。峰岸は屋上から転落して亡くなってしまいました。クロの攻撃この後,紗耶香は麻矢の体から抜け出し,夫の昭良の魂と共にあの世に行ってしまいます。

そして麻矢が今度こそ目を覚ましました。麻矢はクロに向かって話しかけます。「あなた,何て名前なの?」と。

心の中で,名前はクロで,紗耶香からつけてもらった大事な名前であることをつぶやいていました。

やはり面白かった「死神シリーズ」第二弾。

「優しい死神の飼い方」を読んでいた方は「レオ」の登場に嬉しくなったのではないでしょうか。今回のクロとレオは対照的ですよね。

どっしり身構えている感じのレオと,ちょっと神経質だけど俊敏なクロ。

知念先生は本当によくこんなストーリーを良く思いつくなぁ,って思います。

このシリーズ,第三弾があるんですよね。

「死神と天使の円舞曲」早く読んでみたいです!

この作品で考えさせられたこと

● 第二弾も,最後は心が温かくなるストーリーでした

● 早く次作「死神と天使の円舞曲」を読んでみたい

● 何度もやってくる「どんでん返し」に翻弄されました

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