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【黒い家】貴志祐介|保険金詐欺の恐るべき手口

黒い家

「日本ホラー小説大賞」を受賞した作品。「悪の教典」とは違う視点のホラー。

生命保険会社で働く若槻という人間に降りかかる事件の話です。

保険と言えば,営業マンがきて「保険に入ってください」とか「このオプションつけたら。。。」みたいな話を思い出します。

新入社員の頃よくそんな営業を受けたことがあります。

保険をかけておいてよかったと思うのは,やはりケガをした時ですが,本作品ではその考えが吹き飛んでしまうくらい恐ろしいです。

「黒い家」にはある夫婦が住んでいて,グルになって保険金詐欺を行います。

世の中にここまで金に執着し,自分の身を削りつつ,さらに人を恐怖に陥れる人っているのだろうかというくらい。恐ろしい夫婦本作品は1999年に映画化されています。主演が内野聖陽さん,大竹しのぶさんなど,豪華キャストです。

この作品を描かれた貴志先生は何かをヒントに描かれたのでしょうか。読んでいて本当に恐ろしくなりました。

主人公である,保険会社勤務の若槻の結末は。。。

こんな方にオススメ

● 貴志先生のホラー作品を読んでみたい方

● 保険金の不正受給とホラーを織り交ぜた作品を読んでみたい

作品概要

若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに……。恐怖の連続、桁外れのサスペンス。読者を未だ曾てない戦慄の境地へと導く衝撃のノンストップ長編。第4回日本ホラー小説大賞受賞作。
-Booksデータベースより-





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主な登場人物

若槻慎二・・・主人公。保険会社勤務

菰田幸子・・・保険金詐欺を行う恐ろしい女性

菰田重徳・・・幸子の夫。自傷行為を繰り返し,保険金を詐取

黒沢恵・・・・若槻と付き合っている

本作品 3つのポイント

1⃣ 保険金の不正受給

2⃣ 菰田家の正体

3⃣ 若槻 vs 幸子

保険金の不正受給

今回の話は保険の支払い。その中でも「死亡保険金」の話です。

よく聞く話は,契約して一年以内に自殺ということになっても保険金は入らないってこと。今もそういうシステムは続いているのでしょうか。保険証書自分が死ねば保険金が入って身内の生活を楽にできる,と考える人は世の中にたくさんいるんだろうと思うのは,小説でその類の話がよく描かれているからかなと思います。

保険会社に勤務する若槻という男。ある日,菰田重徳という男から連絡があります。

「今からウチに来てくれ」と。冒頭から嫌な予感が。。。

どうやらこの菰田,裏がありそうです。

行った先はまさに「黒い家」。自分でケガをして,その引き換えに保険金の支払いを求めるような人間だったのです。つまり保険金の不正受給の話。黒い家そしてその「ケガ」というのがどうも異常なんです。

自分の身内にわざとケガをさせたり,指を切り落としたり,ケガにも程がありますよね。本当に信じられない話。

若槻はそこで信じられないものを目にします。菰田の息子が首を吊って亡くなっていたのです。

若槻はこの異常さに困ったので,妻の幸子に手紙を送ります。ところがここからさらに異常な状態になっていきます。

幸子が若槻の前に頻繁に現れるようになるのです。

保険金の受給についてしつこく質問してくる幸子の態度に違和感を感じる若槻。若槻若槻の頭の中ではサイレンが鳴っているようでした。「こいつらは気を付けろ」と。

保険会社の窓口にも強面の男が現れるようになります。

窓口に何度も何度もやってきては「保険金を払え」と言ってくる。

死亡した理由が明らかにならなければ支払うことができないわけで,対応する若槻も精神的に辛そうです。

いろいろと対応している中で,若槻は考えるようになります。

実は,保険金不正受給の主犯格は幸子なのではないか?保険窓口保険金がいつ入ってくるのか。しつこく迫ってくる幸子。

さらに若槻の住んでいるアパートまで侵入してくる幸子。

そんな中,警察から「菰田の息子の死が自殺である」という連絡を受け,保険金は菰田家に支払われることになります。

これで菰田家ともおさらば,と思いきや,ここから恐ろしいことが続いていくのです。

菰田家の正体

菰田家とのやりとりが終わり安心した若槻でしたが,さらに恐ろしいことが起こります。

菰田重徳が勤務中に事故で両腕を切断したということが判明するのです。

そして障害保険の請求をしてくるのです。工場でケガん? これは事故なのか,それとも故意なのか? 故意だったら本当に恐ろしい。

これに怪しんだ保険会社は,元暴力団で潰し屋と言われている三善という男に調査をさせます。

一方,若槻は,恋人である恵に保険金の不正受給について相談していました。

恵は大学の研究室で心理学を専攻していました。

そこで同じ研究室にいる助教授の金石に,菰田重徳と幸子のプロファイリングをしてもらいます。

金石が出したのは,菰田夫妻は精神が異常であり,他人に頻繁にウソをつく「サイコパス」の性格を持った異常者であると結論付けます。サイコパスやはり,菰田夫妻はカネのためなら平気で嘘をつき,平気で何かを傷つける人物のようです。

しかし,この診断をした金石の身に,思ってもないことが起こります。

金石が何者かに惨殺されてしまったのです。

それだけではありません。事件の調査を担当していた刑事や,菰田夫妻の調査をしていた三善までもが殺されてしまいました。

もうこれは明らかに菰田夫妻の仕業でしょう。

そしてとうとうその手は恵にまでかかります。恵は幸子に気絶させられ,菰田家に連れ去られてしまうのです。監禁される幸子に連れ去られた恵を救うため,若槻はあの菰田家,いや「黒い家」へ向かうことにします。

幸子がいないことを確認し,菰田家に潜入するのです。

恵の居場所を探そうと「黒い家」の中を探し回る若槻ですが,彼は恐ろしいものを発見してしまうのです。

そこにはいわゆる「拷問部屋」があり,さらに首を切り落とされて殺された三善の無残な遺体が残っていたのです。

その時,若槻は物音を聞きます。どうやら幸子が帰ってきたようです。若槻,大ピンチ!

若槻 vs 幸子

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いつもと異なる雰囲気を瞬時に感じ取った幸子は,家の中に潜伏している若槻を探し始めるのです。

もうこの辺りはゾクゾクが止まりません。

牛刀を手にした幸子が若槻に襲い掛かってきます。スリルのピークです。

愛する恵のために菰田家に潜入した若槻は恵の居場所を掴みますが,目の前には幸子の姿が。。。

万事休すか。。。と思われましたが,外からサイレンの音が。

パトカー事件を嗅ぎつけた警察が菰田家にやってきたのです。は~,助かった。。。。

警察の調査によると,菰田家の床下からは多くのの白骨死体が発見されます。

この「黒い家」は幸子らの住まいというわけではなく「保険金を受給ための工作現場」だったということです。

床下恐ろしいほどの異常性を持つ菰田幸子。

今回の一件で衝撃を受けた恵は帰省し,若槻とも疎遠になってしまいます。

ようやく菰田家から解放された若槻。

物語はまだ終わらず、警察に逮捕されたはずの幸子が,なぜか行方不明となってしまいました。

えっ,これで話は終わりじゃないの?

幸子はとうとう若槻の目の前に姿を現すのです。しかも保険会社に乗り込んできます。

幸子は保険会社の守衛を殺害し,建物の電気もエレベーターも,幸子がコントロールします。

ビルからの脱出しようとする若槻ですが,その若槻に忍び寄ってくる幸子。最終ラウンド真っ暗な保険会社の中。若槻 vs 幸子の最終ラウンドはここでした。

幸子と対峙した若槻は,幸子に噛みつかれて流血してしまいます。

しかし,若槻は消火器を幸子の頭に叩きつけることに成功。幸子を殺害したのでした。ようやく本当の平和が訪れる若槻。最後の最後まで,若槻に対する幸子の執念は恐ろしいものでした。

そして,実家に帰った恵は,若槻の状況を知り,戻ってくるのでした。

幸子が死亡したことを知った菰田重徳。何と自殺を図ります。

しかしそれに失敗し,精神病院へと移送されることになりました。

重徳は完全に幸子の言いなりだったし,幸子がいることで恐ろしいことにも手をかけることができていたんですね。

平和が戻った若槻は,会社の業務へと復帰します。岩槻次の客もクレーマー染みた客で,保険金を巡る人間の恐ろしさを感じているようでした。

ただ,あの究極に恐ろしい経験をした若槻にとって,怖いものはなくなっているようにも思えました。

そして自分の業務に取り組むのです。

保険金が下りるのを待つ者の心境としては,保険会社が出し渋りをしているのではないかと思うこともあるかと思います。

しかし,保険会社としては,保険金を支払うのを渋っているのではなく,本当にその「死亡」が事故なのか,意図的なのかをしっかり判断しなければならないんですよね。

つまり,正当な受給なのか,不正受給なのかの判断。

不正受給毎月保険料を支払っている我々のお金が不正受給に利用されているとすれば,それは許されないことなわけです。そう考えれば保険会社の意図もわかる気がします。

しかし,ある少数には「悪意」を持って保険金を望む人間がいるのだと思います。

しかもそれが自分の身内を平気で傷つける人間たちの仕業だったりすれば,保険会社は恐怖ですよね。本当に大変な仕事なのだと思います。

冒頭にも書きましたが,同様の事件が過去にあって貴志先生は描いたのでしょうか。

一つの社会問題をテーマにし,これをホラー要素で読者を最後の最後まで恐怖に陥れるように仕上げた先生の構成力に感服しました。

この作品で考えさせられたこと

● 保険金の不正受給問題という社会問題にホラーを織り交ぜた作品だった

● 本作品のベースとなった事件が実は過去にあったのではないか

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