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【麒麟の翼】東野圭吾|被害者の「麒麟の像」への思いとは

加賀恭一郎シリーズ第九弾

かつて,出張研修があった時,朝早く起きて日本橋の交差点へ行き,あの「麒麟の像」を見たことを思い出します。

「あぁ,これがあの作品の銅像か」麒麟の像目の前のこの銅像を見ながら,本作品のことを思い出していました。作中の「あの男性」はどっちから歩いてこの像に辿り着いたんだろうって考えたりもしました。

そのくらい僕自身にとってインパクトのある作品であったことは間違いないようです。

今年の箱根駅伝でもチラッと映ったのを観ながら「やはり日本の道の出発点なんだな」ということも改めて感じます。

本作品は,ある男が路上で胸を刺され,最期は日本橋の「麒麟の像」で息絶えるというところから始まります。

一体,彼はなぜ殺害されなければならなかったのか。とても深いです。

こんな方にオススメ

● 刺された一人の男性がなぜ必死に「麒麟の翼」の像まであるいたのか知りたい

● 「麒麟の翼」が何を意味するのかを知りたい

作品概要

「私たち、お父さんのこと何も知らない」。胸を刺された男性が日本橋の上で息絶えた。瀕死の状態でそこまで移動した理由を探る加賀恭一郎は、被害者が「七福神巡り」をしていたことを突き止める。家族はその目的に心当たりがない。だが刑事の一言で、ある人物の心に変化が生まれる。父の命懸けの決意とは。
-Booksデータベースより-




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主な登場人物

加賀恭一郎・・主人公。日本橋署の刑事

松宮脩平・・・警視庁捜査一課の刑事。加賀の従弟

青柳武明・・・日本橋事件の被害者。建築部品メーカー勤務

青柳悠人・・・武明の息子。水泳部に所属

青柳遥香・・・武明の娘。悠人の妹

八島冬樹・・・被害者の武明と同じ会社に勤務

中原香織・・・八島と同棲している

杉野達也・・・悠人の友人で,悠人と同じ水泳部に所属

黒沢翔太・・・悠人の友人。中学時代の水泳部仲間

本作品 3つのポイント

1⃣ 「麒麟の翼」像にもたれる男性

2⃣ 重要な容疑者が亡くなる

3⃣ 事件の真相を解明する加賀

「麒麟の翼」像にもたれる男性

日本橋にある「麒麟の像」にもたれかかって亡くなっている男性が発見されます。被害者の名前は青柳武明といいました。ナイフが胸に刺さった状態で発見されます。

血痕が路上にあり,辿っていくと地下道に繋がっていました。どうやら武明は地下道で刺され,麒麟の像まで歩いていったようです。しかしここで不審な点が出てきます。

歩いた距離は相当なものです。瀕死の状態で歩いたことになるのです。なぜそれだけの距離を歩こうとしたのかが疑問でした。

加賀は松宮と組んで捜査することになります。あの「赤い指」以来のタッグですね。

武明は「カネセキ金属」という企業で働いていて,そこには八島冬樹が派遣社員として働いていました。ところが派遣契約が打ち切られていたことがわかります。武明と八島八島が今回の日本橋事件の容疑者として挙がってしまうんですけど,理由がありました。
松宮は重要な証言を得ます。

八島は実は仕事中に事故を起こし,後遺症を残していたことがわかるのです。しかし「カネセキ金属」はこの事故を隠蔽していました。

本来であれば「労働災害」にあたるはずですけど,八島は言いくるめられていたようなんですね。しかも派遣契約も打ち切られているわけですから二重苦です。

加賀は,武明が日本橋の近くのカフェで,目撃されていることを掴みます。しかも誰かと二人で会っているようなんですね。これ,八島なんでしょうか。

カフェ八島が容疑者扱いされていましたが,実際には企業側の隠ぺいがあったということで,責任者であった武明が批判されてしまいます。

武明には息子がいました。悠人といいます。悠人は水泳部に所属していました。しかし武明と悠人はあまりうまくいってないようです。

そのことを水泳部の顧問に相談していました。息子のことを心配する武明の姿がありした。

そんな武明の葬儀の際,悠人は会社の人が弔問に訪れ,「自分の父親は結構慕われていたんだな」と感じます。妹の遥香も,

「あたし,お父さんともっと話をすればよかった。あたしの知らないお父さんのいいところがたくさんあったと思うから」

と話します。武明が「労災隠し」をする人間にはどうも見えないんですよね。

さらに武明の行動でわからないことが一つあります。日本橋の「七福神神社巡り」をしていたということです。日本橋では七福神巡りを年始イベントとして実施していることもあるようですね。七福神巡り参拝距離が短いということが特長らしいですけど,武明が何を目的に「七福神巡り」を行っていたのかというのがわかりません。

懸命に捜査を続ける加賀,松宮。そんな中,思ってもないことが起きてしまいます。

重要な容疑者が亡くなる

松宮から思ってもないことが報告されます。労災で重傷を負っていた八島が亡くなってしまうのです。どうやら八島の容体が急変してしまったようです。同棲していた香織は茫然とします。悲しむ香織八島は,仕事で使うナイフのようなものを持っていたようです。香織の知らない八島の姿があったのでしょうか。松宮に指摘され,香織も逆上します。

武明に対する世間の風当たりもピークになります。というか,武明の家族へ非難が集中します。やはり労災隠しが響いているようです。

「あたし,明日からどうすればいいわけ?」

被害者でありながら,世間からバッシングを受けている遥香も取り乱します。とうとう自殺未遂までしてしまうんです。

しかし警察側は,八島を容疑者として通したいと考えているようです。

もし八島が犯人だとしたら,加害者も被害者も亡くなってしまったことになり,誰も真相を知らないということになってしまいます。

本当に八島が犯人だったんでしょうか。。。

ここで「折り鶴」の話が上がってきます。武明は折り鶴を折って,水天宮へお参りに行っていたようなんです。千羽鶴「水天宮」での証言が確かならば,600枚もの「和紙十色」という折り紙が使用されているというのです。残りの折り紙はどこにあるのか。どうやら家以外の場所で折っていたようです。

水天宮」と言えば「新参者」でも登場しますが,「安産」で有名なところですよね。誰かが妊娠していたのか。

これまで登場した中では,八島の同性相手の中原香織でしょうか。そうなると八島の私生活でも武明は繋がっていたのか。

調べると,確かに香織は妊娠していたようです。しかし武明が折り鶴を折り始めた時期と合わないのです。香織の妊娠のだいぶ前から折っていたようですから。水天宮八島のアリバイを捜査していた加賀。とうとうアリバイが見つかりました。事件当日,八島は次の仕事を見つけるためにある会社の面接に行ってました。

その後,八島は本屋にも寄っていたようなのです。これで事件までの八島のアリバイが成立しました。八島は犯人ではありませんでした。では,一体誰なのか。

重要な容疑者が亡くなっていたということで,捜査は混乱します。武明の家族にも非難が続いていました。当然,悠人にも。

悠人は父親の武明とうまくいってませんでしたが,労災隠しなどをするような人間ではないことを知っていました。何か別の理由ではないかと。

そして事件は徐々に真相に迫ってきます。過去の意外な事実が明らかになります。

事件の真相を解明する加賀

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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加賀は3年前の事件を調べていました。修文館中学のプールで,悠人の後輩である吉永という水泳部員に後遺症が残ってしまうという事件です。

その時,水泳部の顧問の糸川に当時のことを詳しく聞きだします。糸川は事件の第一発見者だったようです。

糸川は何かを隠しているのか。加賀は怪しみます。この事件が今回の事件と関係しているのではないか。

「水天宮」の話も,実は「安産」ではなく「水難除け」が目的だったのではないかと考えるのです。そうなると,悠人が絡んでくる?

以前は父親の武明とウマが合わない感じでしたが,途中から悠人の態度が変わりました。

その証拠に悠人は妹の自殺未遂の時,加賀の前で

そんなことをしたら,親父の罪を認めたことになってしまう

この発言に加賀は違和感を感じていたんですね。

重大な事実が判明します。吉永の母親である八重子は軽井沢の別荘地に移り住んでいました。吉永も後遺症に苦しんでいました。

八重子は何と「キリンノツバサ」というブログを運営していたのです。吉永の闘病の日々を綴っていました。

息子がいつか目覚めて元気になってほしい」という願いをこめて。

そのサイトの中に「東京のハナコさん」というハンドルネームで投稿している人物がいました。悠人でした。内容は「毎回100羽の折り鶴を10回に分けて水天宮に供えていた」というのです。

しかし,このことが父親の武明にばれ,悠人は折り鶴をやめてしまいます。それを引き継いだのが父親の武明だったのです。東京のハナコさんこれで完全に繋がりました。やはり過去の事件,そして悠人に関係があるようです。

過去の事件の動機,それはリレー選手を外された悠人の悔しさでした。吉永を評価する顧問の糸川に対し,リレーの結果が出なかった悠人たちの矛先が吉永へ行ったのです。

吉永をプールに呼び出し,悠人と同級生の杉野達也が企てた事故でした。

プールでの事故ある日悠人は,杉野と待ち合わせをしていました。

「話があるから,中目黒のバーガーショップに集合」というメールを送っていたのです。

杉野が見当たらないことで加賀は異変を感じます。「急がないとまずいことになるぞ」と。

杉野は品川駅にいました。飛び降り自殺しようとしていたところをかろうじて防ぎます。そうなんです,犯人は杉野でした。

実は,武明は杉野に「自首してほしい」ことを伝えていました。カフェで武明が会っていたのは杉野だったんですね。しかし,捕まりたくない杉野は武明を刺してしまうのでした。杉野を説得する武明意外な展開で幕を下ろした今回の事件。「麒麟の翼」には深い意味がありました。

やはり,武明は労災隠しをするような人間ではありませんでした。武明の「利他的な」思いに感動しましたし,真犯人を知り切なくなりました。

どんな気持ちで「麒麟の翼」まで歩いて行ったのだろう。武明の気持ちになって,地下道から銅像まで歩くことをイメージしました。やはり切ないです。

最後の加賀の言葉が深かったです。

人は誰でも過ちは犯す。大事なのはそのこととどう向き合うかだ。逃げたり目をそらしたりしては,また同じ間違いをする

武明もそれを伝えたかったのでしょう。

この作品で考えさせられたこと

● 「麒麟の翼」の像まで瀕死の状態で歩いた武明の思い

● 日本橋を舞台とした人情あふれる作品だった

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