【魔眼の匣の殺人】今村昌弘｜予言者の予言はホンモノか

放射線技師という仕事の傍らで小説を描いて，そのデビュー作が当選するなんて，すごい方だなって思います。

そんな今村昌弘先生の「屍人荘の殺人」の続編です。

X（旧ツイッター）とかでも推している方が多くて，本格ミステリーが好きな読者は本当に多いんだなって思いました。

多くの賞を受賞したデビュー作の続編ということで，注目も大きかったようです。

ちょうど2022年に発刊された本作品を一年後にようやく読むことができました。

前作に「ゾンビ」が登場したので，今回も何か趣向があるのかなと思ってましたけど，読んでみると「ザ・ミステリー小説」という作品でした。

殺人の動機，トリックなど，全てが緻密に計算されているようなミステリー。読了後は「圧巻」という感覚になりました。

本作品は，ある予言者の予言した通りに事件が起こるというもの。果たして予言自体にトリックはあるのか。それとも本物の予言なのか。

最後は「あっ」と言わされること間違いなしです。

ミステリ愛好会の剣崎の元に，一通の手紙が届きます。これは既に起こった今回の事件の後に送られてきました。

そこには，W県I郡で起こった事件，実はあの班目機関が絡んでいたということが書かれています。

班目機関というのは，前作の「屍人荘の殺人」の集団感染テロ事件，あのゾンビの事件です。本作品では，どんな事件があったのか。

舞台は旧真雁地区。ここには班目機関の分所のような場所があって，ある「超能力」の研究が行われていました。

被験者だったのは『サキミ』と呼ばれる老女。彼女は「予言者」でした。

『11月最後の2日間に、真雁で男女が2人ずつ、4人死ぬ』

サキミはこんな予言を出します。果たして本当なのでしょうか。本物である証拠があります。「月刊アトランティス編集部」に届いた怪文書。

実はこの年の6月に，大阪ミナミで起きた火災を当てていたのです。

そして8月の集団感染テロ事件。まさに「地獄絵図」の事件。実はこれも予言していたというのです。

そして今回の真雁での予言に合わせ，剣崎，そして葉村はW県へ向かいます。

電車を乗り継ぎ，さらにバスでの移動。その途中に二人の高校生と出会います。

十色真理絵と，その後輩の茎沢忍でした。十色の手にはなぜかスケッチブックが。これが最初から気になります。なんなのだろう。。。そして多くの人々が続々とこの地区へやってきます。

月刊アトランティスの編集者の臼井をはじめ，男女合計11名。今回もイヤな予感がしますね。そして早速事件が発生してしまいます。

そのアトランティスの臼井が地震による土砂崩れによって埋まってしまい，亡くなってしまいます。

さすがにこのタイミングで地震を予知するのは難しいから，サキミの予言は本物なのか。

いや，やはり何かトリックがあるのか。そんなことを考えながら読み続けます。

サキミの予言通りだったらあと「3人」の人物，しかも男性一人，女性二人が亡くなる計算です。

そんな時，意外な人物が事件に巻き込まれてしまいます。それはあのサキミでした。

彼女は毒を盛られたようです。しかし，間一髪助かりました。

それは十色がその様子を描いていたからです。その絵には赤い花が撒かれていました。

確かに倒れたサキミの周りには赤い花が撒かれています。ということはサキミは十色に救われたのか。

ということらしいんだけど，今度は十色の予知「絵」にも疑問を感じてしまいます。

サキミの予言といい，十色の予知絵といい，何か裏があるんじゃないかと思ってしまうのは，ミステリーファンの性（さが）なのかなぁ。

十色がその絵を描けたということは十色が怪しいのか？

サキミの部屋には赤い花は飾ってあるのに，なぜサキミを殺害しようとして，さらに赤い花を撒いたのか。。。想像が膨らみます。

サキミに毒を盛り，さらに赤い花を撒くことができる人物はいなかったのです。みんなアリバイがある，ように見えます。

でも何かトリックがありそうな気もします。そしてさらに事件が発生していくのです。

先に書いたように，予知絵を描けた十色が疑われます。

絵に描いた通りに犯行を実行しればいいわけですから。でもそんな誰もが疑うようなことを十色自身がするだろうか。

ところがここで意外な人物が事件に遭うのです。それはまさに十色でした。

十色は自分の部屋で「銃殺」されていました。凶器はロッカーに入っていたはずの散弾銃のようです。十色の体は貫通してました。ところが部屋の壁などを見ても，貫通した銃弾の痕が見つかっていません。

部屋には壊れた時計がありました。ここに貫通した銃弾がぶつかったのか？

時計を見ると，長針，短針は折れていましたが，文字盤に弾丸のあとはありません。

ん～，誰かが持ち去ったか。死亡推定時刻をごまかすための隠ぺい工作をした人物がいたのか。剣崎はこの事件のアリバイを考えていました。食堂を離れた時刻はそれぞれ下記の通りでした。

本格ミステリーのこの時間的アリバイが難しいんだよな。小説のわざわざ一部分を使って書いてあるということは，何か意味があるんだろうな。う～ん，でもわからないなぁ。

朱鷺野も「手洗いに行った時には、まだロッカーは壊されていなかった」と証言しているし。単独犯でこれを短時間で実行できる人間はいないことがわかります。

ということは共犯者がいる？ だとしても一体誰と誰が？

予言通りに行けば「あと男性一人，女性一人」が殺害されるはず。ミステリー小説だから必ずその通りになるはず。

ここで探偵役の剣崎は賭けに出ます。自分が滝の方へ行き「自殺したかのように偽装する」というものです。もちろん協力者は葉村です。これで何か動きがないか。もし犯人が「残りは男性一名」というふうに判断した時，その時はどうなるんだ？ 誰か一人の男性を殺害しなければなくなります。

早く女性を殺害して予言通りにするとしたら，殺害したのは女性だと思っていたけど，実際はどうなのか？

果たして，女性が誰かを殺害するという動機はあるのか？ 女性は二人「亡くなっている」と判断しているから，わざわざ女性が殺人を犯す必要はないのでは？

いやいや，いろいろな憶測が飛び交います。

実はこの後，事件が発生します。朱鷺野が殺害されたのです。

剣崎が亡くなっていることになっているから，犠牲になった女性が3人になってしまい，状況がおかしくなってしまいます。そう，すでに真犯人にとっても想定外のことが起こっていたのでした。

真犯人にとっても，剣崎がいなくなってしまったことは想定外でした。

しかし，敢えて朱鷺野を殺害してしまったのです。

自分の部屋に隠れていた剣崎は事件を整理します。

そして多くの状況から全てのトリック，アリバイを見破ったようです。今回の真犯人も。一体，どんな真相なのでしょうか。

※ネタバレを含みますので，見たい方だけクリックしてください！

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まずは「第一の事件」です。つまりサキミが毒を盛った事件。

これは自作自演でした。動機は「自分の孫である十色を守るため」です。

サキミは十色に打ち明けられていました。「私はあなたの孫ではないか」

それは剣崎たちも知っていたことです。

この超能力，実は「本物」だったのです。予言や予知絵は本当にあったのです。班目機関の研究で，超能力が隔世的に遺伝することが判明していました。

だから十色には能力があり，十色の母，つまりサキミの娘には能力がなかったのです。

「自分が亡くなれば，十色は生きられる」

そう思ったサキミの孫に対する思いやりだったんですね。だから毒も自分の部屋に隠していいたのです。

しかし十色は亡くなってしまった。ではあの赤い花を撒いたのは誰なのか。これは一旦置いときます。

次に「第二の事件」です。時計が壊れていたが，銃弾がどこにもなかったという件です。

時計の文字盤にも銃弾が当たった形跡がなかった。ではどういうことか。

それは長針と短針の両方が折れていたということがキーポイントです。

つまり「長針と短針が重なっている時に，銃弾が当たってしまった」ということだったのです。先に書いた「食堂から席を外した時間」の中で長針・短針が重なるのは2回あります。

一つは0:00ですが，この時間は神服が散弾銃の紛失に気付いた時間なので除外できます。

ということはもう一つの時刻。10時54分です。（11時台には重なる時刻はありません）

その時刻に籍を外していた人物。それは「王寺」でした。もちろん王寺は犯行を否認します。王寺にはサキミに恨みもないし，他の人間とも関係性はないのです。

ではなぜ王寺が犯人なのか。

王寺がこの地区に来たのは全くの偶然でしたが，思い込みの激しい人物だったのか，サキミの予言を信じ込んでしまうのです。

もちろんサキミの予言は先に書いた通りホンモノですから，そう思い込むのも仕方がないかもしれません。

さらに孫である十色の絵も予知能力によるものだということで王寺の思いは「生き延びたい」ということだったのでしょう。

だから絵になぞらえて赤い花を撒いたのも王寺。王寺には味方が必要でした。利害関係が一致する共犯者がいないか考えます。

そして選んだのが朱鷺野です。

朱鷺野はもともと好見の住人で，サキミの予言のことはよく知っています。

予言が実現すると踏んだ朱鷺野もまた自分の命を守ろうとしたんですね。

だから女性2人の命を奪おうと考えたのです。

そこで二人が考えたのが「交換殺人」です。利害関係が一致するのであれば，殺人の見返りも殺人になると。

つまり，朱鷺野は男性を殺害し，王寺は女性を殺害する，という計画を立てたのです。

ところがここで想定外のことが。。。そう，剣崎の失踪の件です。

剣崎の「カン」なのでしょうか。ここで朱鷺野と王寺のバランスが一気に崩れたんですね。

「朱鷺野は生き延びることができるから，わざわざ殺人を犯す必要はない」と。

これに怒りを覚えたのが王寺でした。王寺は朱鷺野が許せなくなりました。さらに朱鷺野は真相を全員に話してしまうかもしれない。だから朱鷺野は亡き者にされてしまったのです。

そして逆上した王寺は剣崎に刃物を向けます。しかし剣崎は平然としている。それは王寺が

それ以上の罪を犯すことができないとわかっているからです。

仮に王寺が剣崎殺せば5人目の犠牲者となり、サキミの予言はデタラメだと証明される。

その瞬間、彼が困苦と恐怖にまみれながら人を殺めたことが意味を失ってしまう。

これは予言を信じる犯人を、予言を盾にとって追い詰める前代未聞の裁きなのだ。

ー本文よりー

逃げ延びようとする王寺は逃げ道を全て塞がれ，うなだれるのでした。

本作品は，常に「予言者の存在は本物なのか」「単独犯なのか，共犯者がいるのか」ということを考えながら読みました。

関係ないですけど，とても霊感に強く，怖い場所に行くと車から出られないという人もいます。

それは性格なのか，過去の経験からくるものなのかはわかりません。

そういう心理をうまく本作品で表現し，さらにトリック，アリバイ，動機など，かなり細かく設定して構成した本作品は前作以上の出来だったのではないかと思います。

シリーズ第三作の「兇人邸の殺人」が発刊されているようです。

文庫本になったら読んでみようと思います。