現在,「コロナウィルス」の感染状況が毎日更新される日々が続いています。
毎日のように何千人,何万人もの感染者が出ていますし,多くの方がが亡くなっていくという、これまで生きてきておそらく初めての経験を味わっています。
発生から何年か経ち,ワクチン接種や新薬の開発だけでなく,私たちのコロナウィルスへの意識も変化しつつあるように思います。
そんな中で本屋でふと目に止まったのがこの作品です。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 本作品 3つのポイント
3.1 感染症の歴史
3.2 首都封鎖
3.3 日本独自の対策
4. この作品で学べたこと
● コロナ禍の中,本作品がなぜ大増刷されたのかを知りたい
● 感染症の歴史について学びたい
● もし強毒性のウィルスが発生した場合,どう対処すべきかを知りたい
二〇××年、中国でサッカー・ワールドカップが開催された。しかし、スタジアムから遠く離れた雲南省で致死率六〇%の強毒性インフルエンザが出現! 中国当局の封じ込めも破綻し、恐怖のウイルスがついに日本へと向かった。検疫が破られ都内にも患者が発生。生き残りを賭け、空前絶後の“東京封鎖”作戦が始まった
-Booksデータベースより-
実はこの作品,2013年に刊行し、このコロナ禍で「15万部」の大増刷を行った作品です。
まるで今のこの現状を予言していたかのような作品というのが反響を呼んでの大増刷だったのだと思います。
1949年生まれ 慶応義塾大学工学部卒業
経産省の研究所で核融合の研究を行った経験あり
カリフォルニア大学留学・学習塾を経営 1999年に作家デビュー
主な受賞歴
北日本文学賞(帰国)・小説現代推理新人賞(メルトダウン)・サントリーミステリー大賞(イントゥルーダー)・エネルギーフォーラム賞(福島第二原発の奇跡)
高嶋哲夫さんは,主に地震や災害関係の作品を描くことが多い方で,僕自身も20冊ほど読みました。
その中でも,本作品はとてもリアルな作品に仕上がっている印象があります。
とても2013年に創られた作品とは思えない作品でした。
1⃣ 感染症の歴史
2⃣ 首都封鎖
3⃣ 日本独自の対策
私達のコロナに対する意識も変わり,今はだいぶ落ち着いてきたような気がします。
しかし,人間に多大な影響を与えたウィルスというのは歴史があります。
かつて世界を襲った「スペイン風邪」や「ペスト」などがそうでしょうか。
スペイン風邪は,1918年から1920年にかけて大流行した感染症です。
今でいうところの「インフルエンザ」です。
インフルエンザも今でこそワクチン接種をして備え,治療法も確立されていると思いますけど,当時は治療法もないわけです。
第1波,第2波,第3波というのもあったようで,変異を繰り返しては感染者を増やすという,まさに現在のコロナウィルスと同様だったのです。ペストは,14世紀までさかのぼります。誰もが一度は聞いたことがあるでしょう。
「黒死病」と恐れられました。皮膚が内出血して紫黒色になるからだそうです。
「ペスト」という海外の小説を読みましたが,今のコロナの比ではないくらい悲惨な状況だったようです。
当時はワクチンがないから,感染した人間の血清をワクチン代わりに打っていたのです。
約1億人もの死者を出した伝説のウィルスで,当時の世界人口が5億人ということですから,いかにこのウィルスの影響が甚大だったのかがわかります。
サブタイトルにもなっている「パンデミック」という言葉は,古い時代にもウィルスが流行していたときから使われていた言葉です。
いろいろな技術が発達してきたように,ウィルスも確実に進化し,多くの人々に恐れられてきたわけです。
今回の話は,史上まれにみる強毒性の新型インフルエンザが中国から日本へ入ってくるというところから始まります。
感染者の約6割が死亡するという恐ろしいウィルスです。
中国でワールドカップが行われているという設定になっています。
ワールドカップが終われば,中国に集まっていた観客が一気に自国に戻る。
そうなってしまえば世界中を舞台にした「パンデミック」が起こってしまうわけです。
それを何とか防ぎたいと動いていたのが,厚生労働省の瀬戸崎優司という人物です。
彼は訴えます。「国際空港を封鎖すべきだ」と。
検疫での拘束,つまり入国する人々を潜伏期間を考慮して5日間封じ込めるなど,徹底した水際対策で対抗しようとします。
さらに,都道府県の行き来をなくし,学校を休校,道路まで封鎖するという意見を主張するのです。
つまり「首都封鎖」です。これはコロナでパンデミックになった頃とほとんど同じですね。
きっと時代は変わっても,感染症に対する感染防止策というのは同じなんです。
しかし,ウィルスに対する考え方というのは人それぞれでした。
この作品でも当然この措置に反発する人もいるわけです。
飲食店の人は,やはり営業自粛を強要されます。
営業できないとなると,やはり店の経営に直結するわけですから。しかし,結局は人命が第一なので,結局は飲食店などの接客業では営業停止,あるいは営業自粛をすすめる代わりに補助金を出すといったようなことです。
経済のことも考えろということです。
病院も逼迫(ひっぱく)するから,医師や看護師へも負担がかかる。
まさに今回のコロナと同様のことが描かれているのです。
では,どうやってこの状況を防ぐのか。
何かいい有効策はないのか。ここからが作品のポイントとなります。
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東京を完全封鎖し、その中で人や物の流れを徹底的に断ったことは先ほど述べました。
当然ながら,一人ひとりの感染対策のことも描かれています。。
マスク着用,不要不急の移動の制限,うがい手洗い,などなど,現在では当たり前になっていることを,この作品でも描いています。ただ,意外だったのはここからでした。
日本が世界に先駆けてワクチンの開発を行うのです。
しかし,急激に増加する感染者のワクチンをどうやって大量に作り出すのか,つまりどうやって培養するのか。
有精卵を使用して培養するというのはよく聞きますけど,犬などの動物の腎臓で培養するという表現が出てきたときには驚きました。
つまり,鳥だけでなく,動物の細胞を使って培養を行うということも可能なわけです。
医学の進歩というのはすごいですね。
この危機的事態を収束させるために,日本の技術者はあらゆる方法でワクチンを生成しようとするのです。
そして,さらに次の手を打ちます。
それは,抗インフルエンザ薬の開発です。
この作品の大きなポイントは,この新薬の開発のおかげで,劇的に感染拡大を防止できたところでした。
もちろん,治験も行ってます。
ワクチンに限らず,新薬についても,それが人間に有効なものであるかということを,できるだけ短期間に開発しなければならないことの大変さが伝わりました。
今回の作品は「こうやって感染者拡大を防ぐべき」「こうやってワクチンや新薬開発で感染者を減らすべき」という教訓のようなものでした。
その状況の中では、一握りの知識のある、そして勇気と決断力を持つ人間たちが東京を封じることで、全国への蔓延を完全に断ったわけです。
結果的には世界中で何億もの人々が命を落としてしまいましたが,日本は他国とは比較にならないほどの被害で食い止めたのでした。
これまでの日本,日本人の特性,価値観などを踏まえた上で,まるで予言したかのような話でまとめていることに「高嶋哲夫」さんの研究心,リサーチ力に感服しました。
● 強毒性ウィルスに対抗するための感染予防対策は,いつの時代も同じ
● いかに早くワクチンを開発するか。今の日本には難しいかもしれない
● ワクチン開発と同時に新薬の開発の重要性
学べることが多かった作品でした。是非,読んでもらいたい作品です!