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【風の中のマリア】百田尚樹|スズメバチのマリアの物語

かつて「みつばちマーヤの大冒険」っていうのがありました。あれってドイツの作品だったんですね。

みつばちマーヤの冒険

城に住んでいたマーヤが城を飛び出し,多くの経験をして成長していく話。

日本でも蜂を題材にしたアニメがありましたね。「みなしごハッチ

あれは,スズメバチに襲われ,母親や友達と離れ離れになったハッチが母親を探して旅をする話でした。

このように「蜂」をテーマにした作品って,意外とあるんですよね。

本作品のテーマも蜂です。しかも「スズメバチ」です。人以外が主人公となっている擬人化された独特な作品。

主人公のスズメバチこそが「マリア」なんです。

スズメバチと言えば,やはり狂暴なイメージしか出てこなかったです。家の軒下にとか地面に巣を作り,それを必死で駆除する専門業者がいるくらいですから。

百田先生はこれを小説にしてしまうんですから,本当にすごいと思います。

オオスズメバチの「マリア」はワーカー,つまり働きバチとして生きていました。

マリアが自分たちを脅かす敵に対してどのように立ち向かって成長していくのかだけでなく,スズメバチやそれ以外の蜂の生態も学べる作品になっています。

こんな方にオススメ

● マリアの役割は何なのかを知りたい

● オオスズメバチだけでなく,他のハチの生態を学びたい

● 狂暴なスズメバチに対する見方が変わる作品を読んでみたい

作品概要

命はわずか三十日。ここはオオスズメバチの帝国だ。晩夏、隆盛を極めた帝国に生まれた戦士、マリア。幼い妹たちと「偉大なる母」のため、恋もせず、子も産まず、命を燃やして戦い続ける。ある日出逢ったオスバチから告げられた自らの宿命。永遠に続くと思われた帝国に影が射し始める。著者の新たな代表作。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

マリア・・・・・・主人公。スズメバチの中でも働きバチである

ヴェーヴァルト・・マリアが恋をするオスバチ

アストリッド・・・女王スズメバチ。マリアに「帝国」をことを教える

本作品 3つのポイント

1⃣ マリアの誕生と役割

2⃣ 「帝国」を護るということ

3⃣ 生物が生存するために

マリアの誕生と役割

ある日,オオスズメバチの巣の中で,一匹のハチが誕生します。名前を「マリア」と言いました。

マリアはメスのスズメバチで,自分の姉貴分のハチに育てられます。

女王バチは卵を産み,それを育てるのはワーカー(働きバチ)であり,餌を取ってくるのもワーカーたちの役割です。スズメバチのワーカー姉たちから餌をもらい,さらにいろいろな話を聞くにつれ,マリアはどんどん成長していきます。

「オオスズメバチ」の巣は地面の下にあります。よく見るのは家の軒下とかに大きな巣を作っているスズメバチをイメージしますよね。あれば「キイロスズメバチ」なんだそうです。

スズメバチの巣スズメバチにもいろいろな種類がいるようです。「クロスズメバチ」や「ヒメスズメバチ」など,十数種類もいるそうです。

種類によって行動パターンや,刺す刺さないなど,特徴も異なるようです。ホント,百田先生のリサーチ力には毎回感服します。

本作品ではマリアたちが拠点にしている巣のことを「帝国」と呼んでいました。その帝国を護ることこそがマリアの最大の役割なんです。

マリアは聞かされます。自分たち「ワーカー」は子孫を残さないと。

子孫を残すのはあくまで「女王バチ」であり,ワーカーはこの帝国を護るために働いていることを。女王バチと交尾をしたオスバチが子孫を残すのです。

マリアは多くのことを姉たちから教わり,徐々に成長していくのです。

そんなマリアにも恋が芽生えます。オスバチのヴェーヴァルトです。マリアは彼からもいろいろなことを教わります。

まず,オスバチは「刺さない」そうです。オスバチの存在意義は「繁殖」です。女王バチと交尾し,子孫を残すだけ。

そして,働きバチは全てメスなのだそうです。これは蟻と同じようです。蟻にも女王アリがいて,オスのアリと交尾。これは本当に意外でした。

人間世界で,一生涯働くというのは男性というイメージがどうしても強かったので。

蜂がアリの分類群にいるのはこれが理由なんでしょうか。広義には同じ仲間なのでしょう。つまり,マリアたち働きバチの役割は,まさに帝国を存続させることに尽きるのです。

そんなマリアはある日,女王蜂であり自分の母親でもあるアストリッドと重要な話をすることになります。

「帝国」を護るということ

ある日,マリアは女王蜂のアストリッドと話をします。まさに母と娘の話ですね。

アストリッドはマリアに「新たな女王蜂を育てなければならない」ことを伝えます。

女王バチ,アストリッドアストリッドの命もあとわずか。帝国を存続させるために世代交代が必要なのはどこの世界も同じなんですね。

ここからマリアは攻撃的な一面を見せ始めます。

多くの昆虫がいる時期は餌にも困らないのですが,冬になるとその数が激減するわけです。そうなるとマリアたちは,別のスズメバチの巣やミツバチの巣を襲うことになるわけです。

ハチ同士の生存競争。本当に熾烈です。そしてマリアの圧倒的な強さにも驚かされます。

マリアたちは他のハチの巣の中にいる幼虫や卵がターゲットです。生きるために覚悟というか,勇気というか,マリアたちも心を鬼にして立ち向かいます。

そしてアストリッドの死。新たな女王バチが必要になってきます。

働きバチの中から優秀なハチ,いわゆる擬女王蜂が現れ,徐々に本当の女王蜂へと成長していくのです。

女王蜂は「無精卵」を産みます。これがオスバチになるようです。

そして,交尾を繰り返し,多くの働きバチを育成するというサイクルが行われていくためには,やはり餌が必要になるのです。

どうしても次の世代のハチたちへの餌が必要になるマリアたち。帝国を護るために作戦を練ります。

そして,新たな戦いが始まるのでした。

生物が生存するために

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マリアたちは帝国を護るために他のハチの巣を攻撃します。

一つ印象的だったのは,ミツバチの巣を攻撃する時のことです。

スズメバチとミツバチの違いはいろいろありますが,刺す「針」についての違いに驚きます。

ミツバチの針の先には釣り針のような「返し」がついています。一度相手を刺してしまうと,その「返し」が引っ掛かり,針は抜けてしまいます。

針が抜けてしまえば,最終的にはミツバチは死んでしまうそうです。つまり,ミツバチにとって「刺す」ということは「死」をも意味することになるわけです。

それに対し,スズメバチの針には返しなどなく,何度でも刺すことができるようです。同じハチでもこんな違いがあるんですね。

ではスズメバチが圧倒的に有利かというとそうとは限りません。ミツバチには実は奥の手があるんです。

それは「蜂球(ほうきゅう)」です。

蜂球スズメバチが襲ってくると,ミツバチは仲間がどんどんやってきて,一匹のスズメバチの周囲を囲んでしまうのです。そしてミツバチは自分たちの体温を上げます。

スズメバチはその温度に耐えきれなくなり,死んでしまうというのです。こんな特性もあったんですね。スズメバチが完全に強いかと思ってました。

それでもマリアたちは攻撃し,ミツバチの巣から卵や幼虫を奪わなければならない。お互い生存するために命がけの戦いです。

時には狂暴な「キイロスズメバチ」をも攻撃しなければなりません。マリアたちは必死で攻撃するのです。家などの軒下の巣を攻撃するオオスズメバチのマリアたち。

キイロスズメバチを襲うオオスズメバチ生きていくためにはどの種類のハチも必死なんですね。

マリアたちは周囲のハチたちと連携し,多大な犠牲を払いながらも何とかキイロスズメバチの帝国を陥落させることに成功するでした。

「帝国」を護るために他のハチの巣を攻撃するというのは,人間社会においても歴史にあるように他の民族や帝国を攻撃するのに似ているなと思いました。

そんなマリアにも寿命がきていました。戦いに疲れ,少しずつ弱っていくマリア

最後の力を振り絞って戦いますが,それを跳ね返す力は今のマリアには残っていませんでした。最期はとても切なかったです。

本作品を読めば「オオスズメバチ」の生態がよくわかります。それだけでなく他のハチ,「キイロスズメバチ」や「ミツバチ」などの生態も。

それぞれが「帝国」を持っていて,生存するために,あたかも人間の世界と同じような争いを行っているということを知ることができました。

人間にとってスズメバチは脅威でしかないけど,ハチだけが彼女たちの敵というわけではなく,クモなどもいて,それを次の世代の幼虫たちに与えることで生きていく。

もちろん天敵もいます。よく動画で「カマキリ」や「オニヤンマ」と対決するシーンを見ることがあります。臆することなく戦いに挑む姿を見ると,どの生き物も生きていくのに必死なのかなと思います。

スズメバチの天敵,カマキリ・オニヤンマこれらの昆虫に共通のするのは,敵を目の前にして「逃げない」ことです。目の前の戦いに全力を尽くす覚悟を持って戦っているように思います。

これって,人間世界でも大事な気がしますね。

マリアたちスズメバチも30日くらいしか生きられないそうです。マリアは攻撃の先頭に立ち、多くの敵をやっつけ、それを新しく生まれた幼虫への栄養として分け与えなければならないが、やはり命も限られているわけなんですね。

そして新しい女王バチが巣立ち、また新たな帝国を作るべく、また仲間を増やしていく。
自分を犠牲にしてまでも、自分の国を守り抜く使命。

帝国を存続させるために人はそれを本能と言うと思いますが、実は昆虫にも意思があり、それに従って生きているのではないかと思わせられるような話でした。

生物は,生きるため,子孫を残すために絶えず動いている。食うものがあれば食われるものもあり,その連鎖の中でバランスよく生かされているのだとも思いました。

本書の解説を担当された養老孟司さんは「働き蜂の生態を忠実に追っている」「オオスズメバチの一生が、現在の昆虫学でわかる限りの詳細を含めて、わかってしまう」というふうに絶賛されています。本当にその通りだと思いました。

ただ単純に狂暴な生き物だと思っていた「スズメバチ」の生態を知ることで,スズメバチに対する見方を変えてくれた大切な作品の一つになりました。

この作品で考えさせられたこと

● 狂暴というイメージのスズメバチに対する見方が変わる作品でした

● ハチの生態について,意外な側面を学ぶことができた

● どの生物も生存するために必死なのである

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