パリュスあや子先生の作品。この作家さんの名前,実は初めて知りました。タイトルに目を惹かれ,思わず手にした本作品。
「隣人X」は「隣人X 疑惑の彼女」として映画化され,2023年12月に放映されるようです。隣人という言葉。もし親しい人が異質な生命体であるとしたら,人は何を考えるのか。僕自身も考えさせられました。
最後まで読了して,イマイチ理解できなかった箇所もあったので,この映像化された作品を観ればそれも解決するかもしれないと期待しています。
人間って,先入観でモノを見る時がありますよね。「きっとこの人はこんな人だ」と。自分の常識の範疇で物事を判断していることは、僕自身もあります。しかし、それが危険であることもあるでしょう。
本作品を読めば,自分がこれまで生きてきた「常識」に囚われていることがわかる作品でもありますので,是非読んでみてほしいと思います。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 良子の周囲の人物たち
3.2 XTooの意味
3.3 雑誌記者の意図とは
4. この作品で学べたこと
● 人類とは異なる種類の生物が身近にいたとき,人はどうするのか見てみたい
● 惑星難民Xとは何者なのかを知りたい
● 異質な生物と共存できるのかを考えたい
20xx年、惑星難民xの受け入れが世界的に認められつつあるなか、日本においても「惑星難民受け入れ法案」が可決された。惑星xの内紛により宇宙を漂っていた「惑星生物x」は、対象物の見た目から考え方、言語まで、スキャンするように取り込むことが可能な無色透明の単細胞生物。アメリカでは、スキャン後に人型となった惑星生物xのことを「惑星難民x」という名称に統一し、受け入れることを宣言する。日本政府も同様に、日本人型となった「惑星難民x」を受け入れ、マイナンバーを授与し、日本国籍を持つ日本人として社会に溶け込ませることを発表した。郊外に住む、新卒派遣として大手企業に勤務する土留紗央、就職氷河期世代でコンビニと宝くじ売り場のかけもちバイトで暮らす柏木良子、来日二年目で大学進学を目指すベトナム人留学生グエン・チ―・リエン。境遇の異なる3人は、難民受け入れが発表される社会で、ゆるやかに交差していく。
-Booksデータベースより-
土留紗央・・・派遣社員として働く。社員証を紛失していまう
柏木良子・・・コンビニと宝くじ売り場をかけ持つ女性
グエン・チー・リエン・・良子のコンビニでバイトするベトナム人
笹憲太郎・・・良子と付き合っている雑誌の記者
柏木紀彦・・・良子の父
拓真・・・リエンの恋人で,バンドマン
1⃣ 良子の周囲の人物たち
2⃣ XTooの意味
3⃣ 雑誌記者の意図とは
オペ室を思わせるその部屋では,真っ白な無地の服に目出し帽のようなマスクを装着し,作業をしていた。
情報室からシャーレに転送されるのは人間にまつわる膨大なデータだった。
やがて白い靄のようなものがシャーレからあふれ出して塊となり,ヒト形を形成していく。
これ,冒頭のシーンなんですけど,何やら恐ろしい事件が行われているのかと思わせられます。そして,日本政府はこの「惑星生物」を受け入れることを視野に動き出します。
200X年、惑星X内の紛争により「惑星生物X」は宇宙を漂っています。
「惑星生物X」は、対象物の見た目から考え方や言語までそっくりそのまま取り込むことが出来る無色透明の単細胞生物。
アメリカではスキャン後に人型となった惑星生物Xのことを「惑星難民X」という名称に統一し、受け入れることを宣言。
202X年、惑星難民Ⅹの受け入れが世界的に認められつつあるなか、日本においても「惑星難民受け入れ法案」が可決されました。
日本人型となった「惑星難民X」を受け入れ、マイナンバーを授与し、日本国籍を持つ日本人として社会に溶け込ませることを発表しました。
ん~,現実感はないけど,今後こういう事態が全く起こらないとは言い切れないのが正直な気持ち。そしてこの「惑星難民」が本作品の大きなポイントとなっていきます。ここから,土留紗央の視点になります。彼女は派遣社員として働いていましたが,社員証をなくしてしまってました。自分の持ち物を探すも,見つからない。社員証を紛失したとなれば責任問題など,大変なことになってしまいます。
平凡な毎日の中で彼女は会社の先輩智子に誘われ、会社主催の飲み会に出席してました。そこで彼女はひどく酔っぱらってしまいます。そこに声をかける一人の男性がいました。
意気投合した2人はカラオケ店へ行きますが,徐々に男の様子が変化していきます。かなりの恐怖を感じた紗央は、男から逃げようとします。おそらくその時に社員証を落としたのだろうと考えます。
心は社員証紛失に向いている彼女ですが,次の日、彼女の元に交番から電話が入ります。どうやら社員証が交番に届けられたようです。それで彼女は安心し,交番へ行くのでした。
次に登場するのが柏木良子です。実は紗央が失くした社員証を届けたのは良子でした。良子はコンビニと,宝くじ売り場でアルバイトをかけ持っています。
社員証はそのコンビニの近くに落ちていたようですね。社員証の顔写真を見ると、よくコンビニを利用する女性客であると直感します。そんなことを考えながら,彼女は大学生時代の頃を思い出します。
当時はキャバクラでバイトをしていた良子でしたが,古閑という男性と知り合います。次第に仲良くなり,良子の常連客となっていった古閑でしたが、ある日二人で飲みへ行った時、良子は古閑から暴力を振るわれてしまいます。
その後,我に返った良子に警察から連絡が入ります。良子の学生証が届けられたということでした。そんなことを思い出しながら,落とし物の社員証を届けたのですね。
良子には現在付き合っている人物がいました。笹憲太郎という男性です。数ヶ月前,良子のバイト先である宝くじ売り場に笹はやってきます。そして宝くじを買い,初めて宝くじが当たり大喜びします。それがキッカケで親しくなり、今はお互いの部屋を行き来する仲です。この日も笹の部屋に行き、恋人同士の楽しい時間を過ごします。そして意外なことを言いだすのです。
「良子さんのご両親に会ってみたいな」という笹の言葉が飛び出します。
世間では「惑星生物」という言葉が登場します。つまり,ある人間をスキャンし,全く同じヒトとして生活している生物がいるというものです。あぁ,これが冒頭の実験シーンにつながるのですね。
もし,エリート集団が世界を動かすポストに就いたら大変なことになる。
憲法も惑星生物によって簡単に変えられてしまうかもしれない
この笹という男は,かなり惑星生物,惑星難民に警戒心を抱いているようです。確かに,人類よりもIQの高い生物が生まれたら,人間の存在を脅かす恐ろしい存在になるわけですもんね。
ただ,良子は自分が人類の平均以下の人間だという自負があって,平均以上の生物が増えるもはいいのではないかと思っているようです。そんな時,笹はさらに意外なことを話します。
「良子さんのご両親にあってみたいな」
この言葉に良子は少し嬉しさを感じます。当然良子の頭の中には「結婚」という二文字が浮かび上がります。嬉しさのあまり,興奮する良子の姿がそこにはありました。
さて,もう一人の女性が登場します。グエン・チー・リエンというベトナムからの留学生です。リエンは良子がバイトをしているコンビニの同僚です。リエンは、来日2年目で大学進学を目指しるようですが,日本へ留学するには莫大なお金がいりました。リエンの親は借金をしてまでリエンを送り出してくれました。
留学生は裕福な人もいれば,生活費を稼ぐためにアルバイトをかけ持ったりしている留学生もいるというのが現実なんですよね。リエンはまだ日本語がそこまで堪能ではないため,コンビニの客と意思疎通が難しい部分がありました。
そんなリエンには恋人と思っている男性がいました。拓真という人物です。本当に恋人と思ってくれているのか,リエンは少々不安な気持ちがありました。
あまり深い仲になっていないリエンと拓真。拓真はあるバンドに所属していて,そっちの方も忙しいようです。ただ,リエンにとって嬉しい出来事がありました。拓真自身が出演するライブに誘われたのです。バンド仲間にも紹介されます。嬉しさを感じるリエン。ライブも終わり,打ち上げの時間がやってきます。仲間に紹介されるリエン。ただ,バンドの仲間の一人から「何話しているのかわからない」と言われてしまいます。これはきっとひどく傷つくよなぁ。
そんな時,また惑星難民の話が登場します。とうとうハリウッド映画でお馴染みの超人気俳優が「惑星難民X」であると告白してしまうのです。当然,世界中の誰もが驚き,SNSにもアップされます。
そうすると今度は〈#XToo〉というタグが現れ,自分も惑星難民であるという,カミングアウトブームが巻き起こります。そういえば,かつて「MeToo」という発言がツイッターで話題になってことがありましたよね。
#MeToo運動とは
セクハラや性的暴行などの体験を告白・共有する際に、SNSでハッシュタグ「#MeToo」を使用する。
それまで沈黙してきた問題を「私も被害者である」と発信することで世の中を変えていこう、という運動のこと。
-文化放送サイトより-
一時期大きな話題になりましたよね。ただ,リエン自身はこの惑星難民に反対でした。あれだけ一生懸命語学,特に日本語を勉強していきたのに,惑星難民はすでにいる人間のコピーで出来上がってしまう。苦労せずに普通の生活を送れてしまうことに納得いかない様子でした。
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良子の父親である紀彦は,コンビニエンスストアが出始めた頃,地元に一番にコンビニを作った人物でした。もちろんフランチャイズで。借金をして建てたコンビニの周りにはさらに別のコンビニができるようになりました。そして良子の家は徐々にその波にのまれ,経営もうまくいかなくなります。かといって,解約したら大変な違約金が発生するし,にっちもさっちも行かない状況。約20年間続け,とうとうコンビニ業界から足を洗うことにした良子の父の紀彦。
恋人である笹が「両親と会いたい」というのが実現することになりました。紀彦も,そして母親の麻美も笹のことを気に入り,歓迎します。それに嬉しくなる良子。
実は笹には考えていることがありました。笹は実は雑誌の記者で「惑星難民X」を捜し出して取材をして、スクープを取るという使命があったのです。
日本でも「惑星難民X」探しの報道がされます。そして,思ってもない事態が。。。何と,良子の父である紀彦が「惑星難民X」だと疑われてしまうのです。
まさか笹にそんな意図があるとも知らない良子は、笹と紀彦を会わせてしまいました。その日を境に,笹との仲が疎遠になっていきます。ある日、笹が書いている雑誌で、紀彦が「惑星難民X」であるかのような記事が出てしまいます。このスクープによって,良子の実家は好奇の目を向けられることになります。なるほど,あの笹がスクープしたに違いない。良子の疑いは確信に変わります。そして,紀彦がテレビのモニターでさらされることになってしまいます。
大ピンチの紀彦。いや,そもそも紀彦が「惑星難民」であるというのは本当なのでしょうか。紀彦と麻美との出会い,そして良子の誕生。いろいろな憶測が飛び交います。ところがここで紀彦は堂々とテレビの前に現れます。紀彦が噂を完全に否定するのです。
私は惑星難民Xではありません。でも、日本人ではないのかもしれません。私は日本国籍を持ち,日本で育ってきました。
Xでも日本人でも,私のことを好きに呼んでくれてかまいません。私は今まで通り,静かに暮らしていきたいだけだということを皆さんにお伝えしたかった。
私たちを放っておいてください
紀彦は,良子にまで「惑星難民」疑惑がかかるのを防ごうと,勇気を持ってあの場に立ったんですね。そうすると今度は流れが変わってきました。
「あの記事書いた奴,死刑!」
今度は記事を書いた人物,つまり笹に対して世間のバッシングが始まります。さらにはその雑誌の編集部も会見を開いて謝罪するという事態にまで発展しました。
そしてある日、弁明に疲れ切った笹の元へ紀彦が現れました。「あなたにお話しておきたいことがあるんですよ」と。紀彦の威圧に負けて笹へアパートの自分の部屋へ彼を入れました。
紀彦は見た目はそんなに変わっていませんが、捉えどころのない威圧感を放っています。そして「君は日本人ですか」と言います。「忘れてしまったようですね。この国に放たれたとき、あなたはあまりに小さかったから仕方がないことです。」
その内容に驚く笹は「なにぬかす。俺は日本人だ、人間だ」と怒鳴ります。
紀彦は「それでいいと、私は思います。あなたはもう日本人だ。自分で心底信じられるほどに。ただ一目見て、私にはわかりました。」と言います。
私は君が仲間を脅かすために飼われた犬であることを恐れたのですが、あなたは本当に知らなかったようです。
娘は本当にあなたのことを好いていたようです。
あなたが私に似ていると、あの子がそう言ったと聞かされて、胸を引き裂かれる思いでした。
それを言い残して,紀彦は部屋から出て行きました。この言葉をどうとってよいかわかりませんでしたが。。。
冒頭で登場した紗央は惑星難民Xのことを小説にしようとしていました。「惑星難民X」を主人公に「平均」とは何かを描こうとしているようです。平均の幸せ、平均の仕事、平均の恋……。
それは自分自身を掘り起こす作業になることと同等です。スクラッチを買いたい気持ちになった紗央は,近くにあった宝くじ売り場に寄ります。
売り場の女性はどこかで見たような顔です。声をかけると、たまに行くコンビニの店員とわかりました。そして「社員証、落とされました?」と言われて驚きます。
ようやく良子という女性が紗央の社員証を届けてくれたのだと知るのです。紗央は感激し,深々とお辞儀をするのでした。
昔から宇宙人が侵略しにくるかもしれない,と昔から言われています。でも既にやってきているかもしれませんね。これだけ宇宙は広いし,確率的にも高度な技術を持った地球外生命体はいるとは思っています。
では,地球人以外を宇宙人とした場合,彼らには悪意があるとどうして言えるだろうか,と思います。
私たちは幼い頃から見たり聞いたりしてきたことに囚われ,先入観を持って生きてはいなだろうか。むしろ,そんなことを考える人間こそが悪意を持つ生物のようにも思えました。
今回の「惑星難民」も,誰かのコピーだから,本人が「自分は惑星難民だ」なんて考えられないかもしれない。留学生が日本にやってきて一緒に暮らしていたり,世界中でも多くの人々が移民として他国で生活している。
考え方によっては,惑星難民がヒトのコピーである限りは,そのまま放っておいてもよいのではないだろうかとも思います。地球人とともに普通に生活できるのであればそれでいいのではないのか。
人間を傷つけるのはいつの世も人間であり、Xが望むのは平和だけだった
実際には惑星難民というのは善意の塊で,いつの日も悪事を犯すのは人間なのかもしれない。巻末の最後の言葉が身に沁みます。
● 地球人は,宇宙人が侵略する生物であると思い込んでいるということ
● 生物とは,自分とは異なる異質なものを拒む傾向がある
● 惑星難民のような生物はこの地球にいないのだろうか