今野敏先生の「隠蔽捜査シリーズ」の第三作目です。
警察小説と言えば今野先生。警察小説の作品の数を見てもそれは間違いはないと思います。
本当に多くの警察小説を描かれてますが,バラエティに富んだ話の数々「よくこんな話を思いつくな」って思います。
警察についても階級のことも出てきますし,他の作品ではなかなか描かれていない「公安部」だったり他国との関係など,警察という組織の大きさ,仕事内容の多さ,過酷さに圧倒されます。
そしてこの「隠蔽捜査シリーズ」では,僕自身が尊敬してやまない「竜崎真也」が今回も活躍します。効率よく仕事をこなし,ムダなことは一切しない,そしてどんなピンチになっても動じないあのメンタルを手に入れたいです。すごい人です。
が,今回の作品はちょっと今までの作品とは趣きが異なっています。
あの竜崎が「恋?」
目次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 竜崎の経歴と性格
3.2 警察の隠蔽工作
3.3 竜崎の覚悟
4. この作品で学べたこと
● 常に合理的に行動する警察署長のことを知りたい
● 鋼のメンタルの竜崎が恋に落ちてしまうところを見たい
● 竜崎自身が今回の話で何を学んだかを知りたい
アメリカ大統領の訪日が決定。大森署署長・竜崎伸也警視長は、羽田空港を含む第二方面警備本部本部長に抜擢された。やがて日本人がテロを企図しているという情報が入り、その双肩にさらなる重責がのしかかる。米シークレットサービスとの摩擦。そして、臨時に補佐を務める美しい女性キャリア・畠山美奈子へ抱いてしまった狂おしい恋心。竜崎は、この難局をいかにして乗り切るのか?
-Booksデータベースより-
1⃣ アメリカ大統領来日予定
2⃣ どうした竜崎?
3⃣ 竜崎が出した答え
日本に、アメリカの大統領が来日することになります。急に慌てだす日本と警察。
警察は,誰かを責任者に指名しないといけないと考えます。ん~,嫌な予感。ひょっとして「竜崎」が責任者になるのか? 予想は当たりました。
羽田空港や都内の警備を警察がまかされるんですが、責任者である第二方面警備本部長に、大森署の竜崎が抜擢されます。
竜崎と言えば,堅物で,自分の信念に向かって行動する,ブレない人間という印象があります。周囲も一目置いてます。良い意味でも悪い意味です。
誰も引き受けたくない任務を竜崎に押し付けているのか,それとも任務を確実にこなし,安定感のある竜崎に任せたいのか。何となく後者のような気がします。
しかし,思ってもないことが判明します。どうやら日本国内にテロリストがいるという情報が入ってくるのです。アメリカ大統領来日というタイミングで。バッドタイミングです。
警察は,羽田空港の防犯カメラに映っていたテロリストと思われる不審者を捕まえることができるのか。国賓を守ることができるのか。
国賓がアメリカなわけだから,絶対に失敗は許されないわけですよね。
「所轄署長の俺がなぜ責任者なんだ!」って竜崎は訴えます。
しかし,上からの信頼が厚い竜崎は説得され,不承不承引き受けることにするのです。
竜崎は署長といっても元キャリアではあるし、大森署へ異動前は「警察庁長官官房総務課長」だし,階級も警視長でした。前作でも,立てこもり事件の最前線に行って,SATやSITに指示を出して解決したし,所轄の署長を経験をしたことも大きいだろうでしょうから,ある意味必然なのかも知れないですね。それだけ信頼されているということです,竜崎は。
プレッシャーは凄まじいものだと思うんですよね。普通でしたら。。。
いつものように淡々と,泰然と目の前のことをこなしていくのはさすがだなと思って読んでいました。
しかし,今回は竜崎の様子がおかしいんです。かつての部下であった畠山美奈子が現れてからでした。
竜崎がかつて指導していた畠山という女性が彼の秘書官に任命されたのです。まだまだ未熟だった畠山が,大人っぽくなった姿を見て,竜崎は撃ち抜かれたのです。
いや,銃にではなくて,竜崎のハートをです。あの鋼のメンタル竜崎が,気持ちが畠山にいってしょうがない。その中でも必死に集中しようとする竜崎。
でも,恋は盲目とも言いますが,徐々に竜崎の心が畠山の方へと行ってしまうんですね。
「おい! 竜崎どうした? あんたらしくないよ!」叫びたくなりました。
竜崎は家族もいますし,もちろん妻もいます。
たとえ仕事の部下とはいえ,まさか竜崎にしてこんなことになってしまうとは。
アメリカの大統領を護ることよりも,竜崎の不安定な心理状態が心配になります。
仕事が終わって畠山と別れるだけでも喪失感があるというのだから,もう重症です。あちゃー,って感じです。
でも,ある意味これはしょうがないのかもしれません。好きという気持ちは,ある一定以上になると自分で制御がきかなくなるような気がしますから。竜崎は完全に精神的に不安定な状態になってしまうんですね。大統領来日は刻一刻と迫って生きている。竜崎はこれまで以上に焦っている感じです。
そしてとうとう刑事部長で,幼馴染でもある伊丹に相談するんです。
「本音と建前で生きると辛い。恋愛は嫉妬が一番つらい」
いつも救われいている伊丹は竜崎の相談に乗ります。
「お前,どうしたんだ。お前らしくないぞ」
ん~,それが恋だからと言ってしまえばそれまでなんでしょうが。。。
竜崎は何度も「これではいけない」と思っているんですけど、思えば思うほどドツボにはまってしまう。こんな竜崎は初めて見ました。
しかし,竜崎はここから復活するんです。それは伊丹から勧められた「あるもの」がキッカケでした。
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竜崎が乗り越えたのが「禅」でした。伊丹に「禅でもやればいいんじゃないか」と言われてたんですね。
竜崎はある寺へ行き,出された公案である「婆子焼庵」を解くことにします。
「婆子焼庵」とはどういうものなのか。
修行をしている僧に,ある老婆が若い女性を僧に抱きつかせました。その僧は「枯れ木が岩にもたれかかっているようなものだ」と泰然としていたんです。
しかし,それを見ていた老婆は怒りだしたんですね。ではなぜ怒ったか。
理由は自分を偽っていたし,老婆を欺いていたから。
欲を抑えて修行している僧が,女性に抱きつかれて平然とできるわけがないというのです。ではどうすればよかったのでしょうか。
僧は我慢せずに苦しめばよかったというのです。
自分の気持ちに嘘をついてはいけない、時には割り切ることも大事なんだということです。
だから余計苦しくなるのだと。
公案を竜崎は見事に解いたのです。
そこから竜崎は復活します。畠山に心が惹かれたのも,それは自然なことで,自分の気持ちの赴くままに振舞えばよいのだということです。
自分に家庭があっても,一人の女性に惹かれてしまって苦悩することもあるのだと。
たった一日で竜崎はこれを解いたのです。さすが,東大法学部卒。
精神的に落ち着いた竜崎は最終的には冷静に不審者に目をつけ,確保するのです。
そして,アメリカ大統領が来日しました。竜崎率いる部隊はそれぞれの仕事を確実にこなし,計画的に進んでいくのです。来日の陰で多くの警察官たちが動いている姿を見ることができました。
その中心にいて自分の仕事を全うしながら、揺れ動く竜崎の心には同情しました。
ただ,竜崎はそれらを分けて考えるのではなく、同じ流れの上にあるものだと自分なりに答えを出したのです。
これまで生きてきた中で,「これをしなければならない」とか「こんなことをすると周りから批判を浴びる」とか,これまで何度も考えたことがありました。
一時期は承認欲求が強くて「なんで認めてくれないのだ」とガツガツしていた頃も思い出しました。
でも,多くの人が言っているように,それは自分のためでなく,他者のために生きているのと同じことになってしまうのだと。
自分の思うように生きたらいいのだと思います。
苦しい時は苦しみ,楽しい時には一生懸命楽しむ。
今回の作品はいつもの竜崎の決断力や勇気に感心するというよりは,竜崎自身が苦悩しながらも成長できたところに惹かれました。
「あの竜崎でも悩むことがあるんだな」と。
僕が書いているこのブログも,仕事の合間や休日なると夢中になって原稿を書いています。
それは自分が本当にやりたいことであって,何かを残したいとか誰かの役に立ちたいという気持ちを抑えられないからなんですね。もちろん自分のためでもあります。
多くのブロガーの方々にはとてもとても敵わないですけど,自分なりに学びながら,作りたいブログをこれからも続けていきたいと思います。
またその延長に何かあることを信じて,さらなる目的にチャレンジしていきたいと思いますし,そう思わせてくれた本作品に感謝します。
● あの鋼のメンタルの持ち主である竜崎でも動揺することがあるとは思わなかった
● 「禅」問答を解くことで,短期間で本来の自分を取り戻した竜崎の冷静さ
● ありのままを受け入れ,思うままに振舞うことの大切さ