「陸王」を知ったのは,実はテレビドラマ化されたのがきっかけでした。
2017年に映像化された作品は,当時社会現象にもなりました。
やはり池井戸先生の「企業再生」の話は本当に面白いですよね。
それは本作品以外でも,「半沢直樹シリーズ」「下町ロケットシリーズ」「ノーサイド・ゲーム」や「ルーズヴェルトゲーム」などもそうです。
なぜ人をここまであ惹きつける作品を作ることができるのか。まさにヒットメーカー。
本作品の舞台はランニングシューズを製造するメーカーです。まさに駅伝前に放映され,年明けにすぐにあった駅伝自体も大いに盛り上がったのを覚えています。
店頭で本作品を購入する時「分厚い小説だなぁ」と思った記憶があります。ざっと750ページですから。
今回も大逆転,大どんでん返しで感動すること間違いなしです。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 こはぜ屋の経営危機
3.2 こはぜ屋の再生
3.3 「陸王」の行方
4. この作品で学べたこと
● 「陸王」とは何なのかを知りたい
● 企業存続のためには何が必要かを知りたい
● 池井戸先生の大どんでん返しを味わいたい
埼玉県行田市にある「こはぜ屋」は、百年の歴史を有する老舗足袋業者だ。といっても、その実態は従業員二十名の零細企業で、業績はジリ貧。社長の宮沢は、銀行から融資を引き出すのにも苦労する日々を送っていた。そんなある日、宮沢はふとしたことから新たな事業計画を思いつく。長年培ってきた足袋業者のノウハウを生かしたランニングシューズを開発してはどうか。
社内にプロジェクトチームを立ち上げ、開発に着手する宮沢。しかし、その前には様々な障壁が立ちはだかる。資金難、素材探し、困難を極めるソール(靴底)開発、大手シューズメーカーの妨害――。
チームワーク、ものづくりへの情熱、そして仲間との熱い結びつきで難局に立ち向かっていく零細企業・こはぜ屋。はたして、彼らに未来はあるのか?
-Booksデータベースより-
1⃣ こはぜ屋の経営危機
2⃣ こはぜ屋の再生
3⃣「陸王」の行方
舞台は,埼玉県にある足袋製造メーカー「こはぜ屋」です。
創業100年を越える老舗ではあるが,時代遅れ感のある足袋の製造により,会社の資金繰りが良くない状況が続き,経営も傾いていました。社長の宮沢紘一はこの状況を打開しようと,新たなる事業に乗り出すことを考えていました。
そこで思いついたのが,駅伝やマラソンで履く「ランニングシューズ」の開発です。
そのシューズの名前が「陸王」です。試行錯誤の末,陸王の雛型が出来上がります。
しかし,開発したばかりのこのモデルは耐久性に乏しく,実際にレースで使用するには難しい状況でした。
実際に作ってもそれを実際に履いてもらう選手がいないと改善できない。
そこで一人の陸上選手に目を付けます。それが茂木裕人でした。
実は茂木には実績がありました。大学時代は「箱根駅伝」でも活躍し,現在は社会人となり,「ダイワ食品」の陸上部員でもあります。ただ茂木は実績はあるものの,足を痛めており,大会の表舞台からは姿を消していました。
そんな茂木に試用品としてシューズを使ってもらおうとします。
しかし「陸王」には過去にも実績がないため,スルーされてしまいます。
さらにシューズ業界には「アトランティス」という大企業の方が圧倒的に有名でした。誰かに履いてもらい,走ってもらえないことには「陸王」の開発は進まないし,「こはぜ屋」自体の経営も危ない状況が続いてしまいます。
紘一を始め,こはぜ屋の社員たちは,何とかアトランティス製のシューズを超えるものを作りたいと,必死で研究を続けます。
もう一つネックだったのが,茂木自身は「アトランティス」と専属契約を結んでいたことです。
ただ,茂木は故障していてレースになかなか出られないため,アトランティス側も対応を考えているようでした。
そしてとうとうアトランティスは茂木を見切ってしまい,専属契約を一方的に打ちきってしまうのです。当然,茂木は激怒します。そして自分が履いていたアトランティスのシューズをゴミ箱に投げ捨ててしまうのです。
試合に出れない,契約の一方的な打ち切りと,茂木にとっては辛い状況に追い込まれます。
経営が厳しい「こはぜ屋」,そして選手生命も危ない茂木は少しずつ心を通わせるようになるのです。
二度とアトランティスのシューズは履かない誓った茂木。
「陸王」の弱点は,長い距離を走るための「耐久性」に問題があるというのは先に書いた通りです。
その性能を高めるため「ソール」の耐久性を高める必要があります。ちなみにソールとは「靴底」のことです。
耐久性を維持できる素材は何か。多くの情報や研究の末,それは「シルクール」という素材であることがわかります。シルクールは「遮光型遮熱ポリエステルフィラメント加工糸」のことで,現在では「不織布マスク」などにも使用されているようです。
では,シルクールをどこから仕入れるのか。実はシルクールの特許を取っている人物がいました。飯山という男でした。
ただ飯山は,元会社経営者ではありましたが,その企業が傾いてしまい,借金取りに追われている状況でした。
そんな生活をしている飯山に頼みこみ,飯山が持つ特許を利用させてほしいと嘆願する「こはぜ屋」。
しかし,飯山はなかなか首を縦に振ろうとしません。特許自体を売ってしまえば,自分自身には何も残らないと思っている様子。そこで紘一は「実際に開発現場を見てもらおう」と飯山をこはぜ屋に招待します。
「陸王」の製造にかける職員たちの思い。経営が危ういこはぜ屋の社員たちを見て飯山の心は揺れます。
そしてとうとう飯山の心に変化が起きます。飯山はこはぜ屋に特許を使うことを承諾するのです。
飯山自身はシルクールに関する「顧問」として,こはぜ屋に雇われることになったのです。
こはぜ屋に心強い味方がつきました。
飯山の特許を生かす準備ができたこはぜ屋。
社長の紘一は,飯山の「助手」のような形で,自分自身の息子である大地を担当させることにします。大地は就職活動がなかなかうまくいかず,父の経営するこはぜ屋を手伝っていました。
工学部出身なのでモノづくりや研究の力を生かし「陸王」の製造を手伝うことになります。
飯山の厳しい指導の下,大地は必死で食らいつきます。そして飯山も大地を少しずつ認めるようになるのです。
一方,アトランティスには専属の優秀な人間がいました。村野という男です。
シューズ業界でも有名で,優秀な「シューズマイスター」でした。
茂木の契約を打ち切った小原と村野との関係はおかしな状況になっていました。
そしてアトランティス側は,契約破棄の責任を村野になすりつけるのです。
これで村野はアトランティス側から裏切られたと思い,アトランティス社を退職します。
途方に暮れている村野でしたが,そこにふと宮沢紘一が現れるのです。紘一は自分たちが開発をしている「陸王」を熱く語ります。
紘一の熱意に心打たれたのか,村野は「陸王」に興味を持つようになります。
そしてとうとう宮沢たちの開発チームに加わるのです。
「こはぜ屋」は人脈と運を生かし,少しずつ再生していくようでした。
村野の存在は陸上界でも有名でした。村野が動いたお陰で「陸王」を茂木に履いてもらうことに成功するのです。
初めて履いた瞬間,茂木は何かを感じたようでした。茂木は「陸王」をとても気に入り,さらにこの「陸王」を成長させたいというこはぜ屋の気持ちも理解します。
茂木は積極的に陸王に対しての意見を伝え,こはぜ屋はそのフィードバッグを得ることができ,陸王の性能をさらに向上させていくのです。
製品を開発するためには,製造側の熱い思いも必要ですが,実際にそれを利用する者の意見がとても重要であると再認識させられました。
とうとう茂木はレースに復帰することになります。そこにはライバルである毛塚という選手がいました。
そしてなんと,毛塚に勝ったのです。ただ,世間は茂木より毛塚に注目しているようでした。茂木は勝利したものの,自分に関心が向かないことに苛立っているようでした。
茂木はもう一度毛塚を完膚なきまでに負かしてやろうと決心するのです。
それと同時に今回の結果をよく思わない人物がいました。アトランティス社の小原です。
毛塚自身がアトランティス社製のシューズを履いているので,「陸王」に敗れた感の小原は「こはぜ屋」を潰すことを決意します。陸王の素材を製造している会社に対して「こはぜ屋とはもう取引するな」と圧力をかけるのです。
小原の屈辱,嫉妬心は相当なものだったようですね。
多くの企業と取引ができなくなった「こはぜ屋」に,さらに追い打ちをかけるような事態が起きます。
「シルクール」を製造する機械が壊れてしまうのです。開発が順調に進んでいた「陸王」に赤信号が灯ります。茂木にも「陸王」提供していたわけですから,さらに良い物にすることが困難になってしまうわけです。
シルクールを製造する機械を手に入れるためには約1億円が必要となります。
こはぜ屋にとっては大変な死活問題です。
陸王の製造を諦めて普通の足袋製造会社に戻ってしまうのか。。。
宮沢は大きな決断を迫られます。そんな折、宮沢の前にこはぜ屋を買収したいという「フェリックス」という大企業が現れます。
フェリックスの子会社になれば予算内で設備投資をすることができ,「陸王」を製造することができるという好条件でした。
しかし、大企業の傘下に下れば百年続いてきたこはぜ屋が全然違う会社になってしまうことを危惧した宮沢は葛藤に葛藤を重ねることになるのです。
果たして,宮沢紘一が出した決断は?
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宮沢が下した決断。それはフェリックスとの合併ではなく,業務提携でした。
シルクール製造再会の目途が立ち,滞っていた「陸王」の開発が進みだします。
そして再度,茂木と毛塚が闘うレースの日がやってきました。
アトランティスは何と茂木に再び専属契約を迫ってきました。何というわがままな企業。。。
言葉巧みに茂木に「RⅡ」という最新のシューズを強引に渡すのです
こはぜ屋の経営が傾いていることは茂木も知っていました。
こはぜ屋が倒産すれば「陸王」は履けなくなるかもしれない。
「RⅡ」を履くか,「陸王」を履くかで揺れる茂木。悩んだ挙句,茂木が選択したシューズはやはり「陸王」でした。
レースは陸王を履いた茂木,そして「RⅡ」を履いた毛塚の,まさにガチンコレースとなります。
厳しい闘いを制したのは。。。茂木でした。
そしてこの闘いは「こはぜ屋」vs「アトランティス」でもありました。
このレースで「陸王」は一躍有名になります。
アトランティス社のシューズを履いていた多くの選手たちも,アトランティスとの契約を打ち切るという事態になります。何と「こはぜ屋」との専属契約を次々と結ぶのです。
これで茂木は復活し,さらにこはぜ屋も一流企業の仲間入りとなります。
量産体制が整ったこはぜ屋は大きな工場を建設します。
そして選手だけでなく,ランニングを趣味にしている人々のシューズ,さらにこはぜ屋が生業にしてきた「足袋」をも製造していくのでした。
この作品には、おそらく人生で大切なことがたくさん描かれている。そのくらい価値のあるものだと思いました。
経営者として、社員の生活を支えていかないといけないプレッシャーの中,新規事業を立ち上げ,試行錯誤しながらも,多くの試練を乗り越えていく。
どんな企業でも、新しいことを始めるのには勇気がいるでしょう。しかし普通,人は変化を好まない生き物でもあると思います。
僕自身もそうだと思うし,新しいことを始めるのには勇気や決断力がいる。でも,時代の流れについていかないといけないし,いつまでも変化せずに安住していたら,あっという間に取り残される時代になってきました。
新しいことを始めるにはリスクがあるとは思います。
でも、何かをしないと生き続けることはできないし、やってみなければわからないこともある。
チャンスがそこにあるのに気づくのは難しいです。でも、それがチャンスだったというのは行動してみてわかることなんじゃないかな。
利益第一ではなく、作ったものを使ってくれる人のことを考える。
それはどんな業界でも同じだと思うし、それを忘れてしまったら、企業も、そしてそこに属する個人もダメになってしまう。
経営者の決断をする勇気にはいつも感心させられます。ベストの選択かわからない中での決断ほど難しいものはないと思うから。
そして,新しいチャレンジの規模が大きければ大きいほど,多くの人を頼っていかなければ実現できないと思います。この「陸王」では、本当に多くのことを考えさせられました。
社会で生きていく上で大事なものは何なのか。
後悔しない人生を送りたいと思います。
● 足袋製造会社が,全く異なるランニングシューズを製造するまでの葛藤
● 「こはぜ屋」の企業再生には,本当に多くの人々が関わっていた
● 現状維持に満足せず,変化することの大切さ