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【陰陽師】夢枕獏|陰陽師の役割とは

陰陽師

「陰陽師」という言葉を初めて聞いたのはおそらく,2000年代前半に,野村萬斎さんが演じた「陰陽師」が上映された頃だったと思います。実際に観たことはないのですが,当時かなり話題になったのを覚えています。

あれから二十数年経って,ようやく原作である本作品を読んだわけです。2024年の4月に長年の時を超え,山﨑賢人さんが演じる陰陽師が上映されたのです。

夢枕獏先生の作品で読んだことがあったのは,以前ブログでも書いた「神々の山領」です。あの作品を描いた先生が,ほぼ同時期に陰陽師を描いていたなんて,かなり衝撃でした。それはこの二つの作品が全く対照的だったからです。

ミステリーという意味では共通点があるかもしれませんが,最高峰の登山モノという現実的な話と,平安時代の朝廷に仕える,ある意味「魔術」のようなものを操る人物の話とがどうしても結びつかなかったのです。本当に多彩な作品を描かれる方なのだなと思いました。

ただ,経歴を見て納得したのが「東海大学文学部日本文学科卒」ということ。日本文学に精通していないとこれ描けないだろうなと思うわけです。

数々の映像化,アニメ化された本作品を是非読んでほしいと思います。

こんな方にオススメ

● 「陰陽師」とはどういうものなのか知りたい

● 古典的な文学に興味のある方

● 古典ミステリーの面白さを知りたい

作品概要

死霊、生霊、鬼などが人々の身近で跋扈した平安時代。陰陽師安倍晴明は従四位下ながら天皇の信任は厚い。親友の源博雅と組み、幻術を駆使して挑むこの世ならぬ難事件の数々。
-Booksデータベースより-




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主な登場人物

安倍清明・・・主人公。陰陽道に精通した朝廷の役人。陰陽師

源博雅・・・・清明の友人。身の回りで起こることを清明に相談する

本作品 3つのポイント

1⃣ 6つの短編の概要

2⃣ 各短編の結末とは

3⃣ 全短編を読んでの感想

6つの短編の概要

玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること

「五日前の晩に,帝が大事にしている『玄象』が盗まれた」
源博雅が安倍清明に報告にきます。玄象とは「琵琶」のことで醍醐天皇の秘蔵品。美しい音色を奏でる有名な琵琶が何者かに盗まれたらしいのです。

琵琶の音色に魅了されている博雅は,ある日,美しい琵琶の音色を聞きます。これがあの玄象の音色だと言います。

一体,何者がこの音色を奏でているのか。

梔子の女(くちなしのひと)

以前,内裏の清涼殿で行われた歌合わせで壬生忠見が詠んだ歌が,平兼盛の詠んだ歌に敗れ,忠見は食も通らなくなり,亡くなってしまいました。その忠見の怨霊が宮中に出るという博雅。油瓶(あぶらがめ)がまるで生き物であるかのように,屋敷の門の鍵穴に飛びついているという。詠んだ歌にも霊が憑りつくのだろうか。

そんなことを話す博雅は,ある日,妙な噂を聞きます。寿水という僧侶が親の供養に「写経」をやっていました。ところがこの寿水がある不気味な女の存在に悩まされていると言います。

これに興味を持った清明がとった行動とは。

黒川主(くろかわぬし)

源博雅はある出来事を報告しに清明の元へやってきていました。それは二人で一緒に食べた「鮎」をくれた賀茂忠輔という鵜飼の話です。この忠輔には綾子という孫娘がいて,一緒に暮らしていました。ただこの綾子に「妖異があったらしい」と言うのです。

ある晩に庭の池で音がするので,忠輔が外へ出ます。最初は鯉か何かが跳ねた音かと思っていました。ところが綾子のことが気になって様子を見ると,綾子の体が濡れているのです。

これは一体何が起こっているのだろうか。

蟇(ひき)

ある日,清明は博雅と共に牛車に乗ってある場所へ向かっていました。今度誘ったのは清明の方です。「応天門に四日目にあやかしが出たのだ」と言う清明。実はここの屋根の下にある板がおかしいことになっているという報告を受けてしました。どうやらこの板と別の板の間に「孔雀明王の呪」というものがあったようです。

そしてここに雨が降ると雨漏りがするようになっていました。実はここでかつて子供が亡くなってしまっていたようです。

この門には何かがいる。一体何がいるというのか。

鬼のみちゆき

赤髪の犬麻呂という者がいました。この者,人の家に入り込んで貴重な物を盗んでは,その家の者を殺してしまうという,恐ろしい盗人でした。

しかしある日,同じように盗みに入った後,犬麻呂は「牛車」が現れます。どうやら簾の中には女性がいる様子。その女性と話をしたと思った直後,女はいなくなり,辺りに腐臭が漂います。

そして数日後,犬麻呂が捕まり,さらに亡くなったということを清明たちは知ります。

この犬麻呂に,何が起こったのか。

白比丘尼

ある日,博雅がいつものように清明の元へやってきていました。清明は博雅に妙なことを言いだします。「人を5, 6人殺した太刀を用意してくれ」と。

意味もわからず博雅は了解しますが,さらに清明は「実は今夜,お前がみることになるものがある。お前は見ぬ方がよいものを」という意味深なことを言いだします。

急に不安な気持ちになる博雅。清明が言うにはそれは人のようで,人でないものであるという。

一体,何が来るというのか。

 

6つの短編の結末

各短編の結末を書く前に「陰陽道」についての説明をします。

陰陽道について

そもそも陰陽道とは、古代中国から伝わった陰陽五行説や道教などの知識をもとに生まれたもの。

8世紀には、日本の律令国家成立とともに「陰陽寮」という役所が設置され、そこに所属する占い師として「陰陽師」が誕生しました。陰陽師は、天文や暦に関する書物や道具を研究。

その知識は、方位や時間の吉凶に関する占いやまじないだけでなく、祈祷や暦づくりなど、さまざまな場面で活用されるようになっていきます。

-@Livingサイトより-

なるほど,はるか昔でも占いとか祈祷など,何かを決定したり,厄を祓ったりすることってあったんですね。しかもそれが現代でも受け継がれているというところに興味が湧くわけです。これらを踏まえた上で各短編の結末です。

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること

博雅は蝉丸という,琵琶の腕前がある老法師と知り合っていました。蝉丸の奏でる琵琶に魅了されます。ある日博雅は「羅城門」の上から,蝉丸と同じくらい,いやそれ以上の琵琶の音色が下りてくるのを聞きます。

「羅城門の上で琵琶を弾くのはどなたか。その音色は,消え失せた『玄象』のもの」と問いかけます。その瞬間,音色は止んでしまうのです。

博雅は清明に相談します。そして清明,博雅は蝉丸を連れて再び羅城門へ向かいます。しばらくすると門の上から琵琶の音が聞こえてきます。清明は異国の言葉で門の上にいる何者かに声をかけます。「良い琵琶の音色だった」そして,その琵琶を奏でているのが「漢多太(かんだた)」という名前だとわかります。(そう言えば,ドラクエにもカンダタってキャラがいたな。。。)

漢多太はある女官に惹かれました。その女官みたさに宮中に忍び込み,この玄象を見つけたようです。清明は取引をすることにします。女官を引き渡す代わりに玄象を取り戻すと。

しかしこの女官は偽者。騙された漢多太は女を食いちぎってしまいました。しかもこの漢多太の正体は「犬」でした。そんな犬に対して,清明は優しい言葉をかけます。「あの琵琶はよかったなぁ」と。

それが「呪(しゅ)」となり,漢多太は玄象に憑りついたのでした。

梔子の女(くちなしのひと)

寿水はある晩,部屋の外に出るため障子を開けます。廊下に一人の女性が軽く顔を伏せ,座っていました。口元を押さえていたこの女性,手を外すと何と「口のない女」だったのです。

この話に興味を持った清明は,博雅とともに寿水のいる寺へ向かいます。するとやはりあの女が現れるのです。「望みは何だ」と問う清明でしたが,女の姿は消えてしました。するとそこに「如」と書かれた紙が残っています。しかし清明は寿水が書いた写経を見つけます。「受想行識亦復如是」の如という字が汚れて「女」という字になってしまっていました。

つまりこれが「くちなし」の正体でした。清明はこの字を修正し「如」と書きます。それ以降,女が寿水の前に出ることはなくなったということです。

「ものにも霊がある」ということを博雅は知ることになったのでした。

黒川主

ある日,また外の池で音がします。外に出た忠輔が見たものは,綾子が鯉を咥えているのです。その近くには黒い狩衣を着た男がいます。名を「黒川主」と言いました。その男に忠輔は鉈で切りつけます。しかしこの後,黒川主は消えてしまいます。そして綾子は目を覚まさなくなり,ずっと眠り続けています。

この状況を何とかしようと,忠輔は憑きもの落としをする智応という男を呼び,この黒川主に対抗します。しかし智応は黒川主に殺められてしまうのです。

それを博雅から聞いた清明は忠輔の元を訪ねます。そして黒川主が現れます。清明はたくさんの「鮎」を持ってくるように忠輔に命じます。そしてその鮎に喰らいついたものの正体は「獺(かわうそ)」でした。原因は,かつて忠輔が自分の家の池を荒らす獺の家族を殺したことにありました。綾子は獺の子供を身ごもって産気づいていました。そして子供が生まれ,黒川主は子供とともにいなくなったのでした。

「人の因果と獣の因果が『呪』により時として結びつくことを知り驚く博雅でした。

清明と博雅は,首のない男女二人を目にします。驚く博雅に対し,いつも通り冷静な清明。男女は「蟇」を見つけ,竹で刺してしまったらしいのです。蟇とはおそらく「ひきがえる」のことでしょう。それが祟ったのか,彼らの息子の多聞は熱にうなされ,亡くなってしまっていました。

その頃,応天門が焼け,その罪をこの男女に着せられたようです。彼らはさらに蟇を焼き,息子である多聞も焼いて,その灰を壺に入れて応天門の近くに埋めたと言うのです。竹で刺さなければと後悔する二人ですが,応天門に祟ってやろうとも思っていました。これが応天門で雨漏りする原因だったんですね。

清明と博雅は応天門の近くを掘ると,男女が言っていた「壺」が出てきました。そこからは人の目をした「蟇」が出てきます。そして中の灰まで出したところで清明は言うのです。「これで,もうあやかしが出ることはあるまいよ」と。

鬼のみちゆき

成平という,博雅の友人はかなりの女好きで,女のところで出かけます。しかし成平は,犬麻呂が見たのと同じ牛車と出くわします。その牛車には女がいましたが,次の瞬間,女は青い鬼となり,成平のお供の者を喰ってしまったのです。

その後,熱にうなされた成平は,博雅に相談していたのでした。ある日,博雅は女性から手紙をもらっていました。そこには「つれなくされて,恨んでいます」という内容の手紙。

博雅には心当たりがありませんが,清明とともにその牛車を探しに行きます。そこにあの成平もお供を連れて牛車のところへやってきていました。鬼が現れ,成平たちは喰われてしまったのです。それが帝の知るところになりました。

ただ,清明は見抜いていました。清明は帝の髪の毛をこっそり取り,それを鬼に渡します。すると鬼は泣き出します。どうやら女は十五年前に,帝と会っていたようです。

いつか必ず会いにくると言いながら,結局,帝は来なかったのです。それで女は恨めしく思っていたようです。

帝の髪がもらえたことで,女は静かにいなくなったのでした。

白比丘尼

清明の家に,一人の尼僧が現れました。「何年ぶりかな」「三十年ぶりにございます」というやりとりを始める二人。博雅は二人のやりとりを見ています。「はじめるか」と何かが始まる様子。

尼僧は裸になります。清明が言うのは,彼女には「禍蛇(かだ)」という鬼がいるらしいのです。彼女の股間から,その蛇が飛び出してきます。清明は博雅に向かい,その鬼を太刀で切るように言います。そして,彼女は元の白い姿の尼僧に戻っていくのでした。

実は彼女は三百歳もの年齢を重ねていました。その理由は,かつて人魚の肉を食べてしまったからのようです。一度食べてしまうと歳を取らなくなるということらしいです。さらに,子供を産むこともできないため,彼女の体には鬼が宿る。それを何十年かに一度切らなければならない。

以前,同じことを清明の師もやっていたようです。そのことを聞いた博雅は言うのです。「人はいつか死ぬのがよいのだな」と。

 

全短編を読んでの感想

登場する二人の人物,安倍清明と源博雅は,現代でいう本格ミステリーの探偵とその助手のような役割のようにも思えました。

博雅が見たり聞いたりしたことを清明に伝え,実際に二人がその現場へ向かう。清明はすでに事のあらましを見抜いているかのごとく,解決していく。それを隣にいる博雅があっけにとられるという構図がシンプルで,読んでいて面白かったです。

これ,映像化されたものって,古きホラーっぽくなってるのではないかな,と読みながら感じました。観てないから何とも言えませんが。。。

それにしても,夢枕獏先生のあとがきを読んで思ったんですが,やはり文学部出身だけあって,文章がとても巧みというか華麗というか,さすがだなと思いました。

陰陽師はシリーズになっていて,現在も続編が続々と描かれているというところに,先生にとっても思い入れのある作品なのだなというのを感じます。

今度こそは,映像化されたものを観ようかな。

この作品で考えさせられたこと

● 陰陽師の役割を知ることができた

● 古典的な時代にミステリーが組み込まれた面白い作品

● この話を構成した夢枕獏先生のすごさを感じました

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