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【鎌倉うずまき案内所】青山美智子|悩める人へのアドバイス

鎌倉うずまき案内所

青山美智子先生のシリーズ。最近ハマってしまって読み漁っています。これまで読んだ作品は全て短編集なんですけど,とても読みやすいし,どの短編にも深みがあって,読者も引き込まれるのではないでしょうか。

鎌倉,鶴岡天満宮近くの商店街に「ふっ」と現れる「鎌倉うずまき案内所」

螺旋階段を下りたその場所には,二人(双子?)の外巻,内巻という人物,そして所長(なぜか「アンモナイト」)がいます。そこで主人公たちはアドバイスらしき言葉をもらい,さらに「うずまきキャンディー」なるものを受け取って帰っていきます。

主人公たちが最後の最後に人生の何かを掴む瞬間がとても心地いいし,そして僕自身もなぜか勇気づけられるのです。自分の歩んでいる道に悩んでいる人,何かに躓いている人,多くの人の生きるヒントになるかもしれません。

是非,読んでみてください!

こんな方にオススメ

● 鎌倉うずまき案内所とは,どんなところなのか

● 自分の歩むべき道に悩んでいる人

● 各短編の主人公が何かを掴む瞬間を読んでみたい

作品概要

主婦向け雑誌の編集部で働く早坂瞬は、取材で訪れた鎌倉で、ふしぎな案内所「鎌倉うずまき案内所」に迷いこんでしまう。そこには双子のおじいさんとなぜかアンモナイトがいて……。YouTuberを目指す息子を改心させたい母親。結婚に悩む女性司書。クラスで孤立したくない中学生。気づけば40歳を過ぎてしまった売れない劇団の脚本家。ひっそりと暮らす古書店の店主。平成の始まりから終わりまでの30年を舞台に、6人の悩める人々を通して語られる、心がほぐれる6つのやさしい物語。最後まで読むと、必ず最初に戻りたくなります。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

早坂瞬・・・・第一話の主人公。雑誌編集者

広中綾子・・・第二話の主人公。歯科衛生士。真吾という息子を持つ

日高梢・・・・第三話の主人公。図書館の司書

園森いちか・・第四話の主人公。中学三年生

鮎川茂吉・・・第五話の主人公。劇作家。劇団「海鴎座」を設立

浜文太・・・・第六話の主人公。浜書店の店主

本作品 3つのポイント

1⃣ 6つの短編の概要

2⃣ 各短編のクライマックス

3⃣ 本作品を読んだ感想

6つの短編の概要

2019年 蚊取り線香の巻

元号が平成から令和へと変わろうとする頃。

峰文社という出版社に勤務する早坂瞬。彼は「DAP」という雑誌の編集者になりたいと入社しましたが,与えられたのは雑用,そして「ミモザ」という主婦が読む雑誌の編集。

このまま峰文社にいていいのだろうかと悩む早坂は,ある日「鎌倉うずまき案内所」という場所に迷い込みます。

果たして,彼はどこへ導かれていくのでしょうか。

2013年 つむじの巻

綾子には真吾という息子がいました。彼女は自分の息子が全うな道,つまり高校を卒業して,良い大学に入学して就職してほしいという,多くの人が通る道を歩んでほしいと願っていました。

ところが真吾が目指しているのは「ユーチューバー」。何とかその考えを変えようと必死ですが,真吾の意思は固そう。鎌倉にある「風水屋」を探している途中,綾子は道に迷います。目の前には「鎌倉うずまき案内所」があります。

綾子は一体何を受け取るのか。真吾はどうなってしまうのか。

2007年 巻き寿司の巻

日高梢は,朔也という男性からプロポーズを受けていました。しかしなぜか踏ん切りがつかない感じなんですよね。鎌倉にある占い師から「結婚してもしなくてもあまり変わらない」と言われます。何のために結婚するのか悩んでいる様子。

ボーッとしながら歩いていた時「鎌倉うずまき案内所」へたどり着きます。甕の中を覗く梢。

ここで梢は何を見て,何を考えるのでしょうか。

2001年 ト音記号の巻

園森いちかは中学生。乃木君という変わった感じの友人がいました。しかし,いちかは乃木君が大好きで,彼の映画の話や都市伝説のような話も好きなようです。

いちかには花音と瑠美という友人もいました。しかし,何となく彼女たちとは「種別」が違うような感覚をもっていました。つまり,あまり相性がよくないと。でも嫌われたくないと。

そんな時,鶴岡八幡宮の近くを歩いているとき「鎌倉うずまき案内所」に迷い込みます。

甕の中を覗くいちかが見たものは何だったのか。

1995年 花丸の巻

かつて「海鴎座」を立ち上げ,現在も劇作家として仕事をしている鮎川茂吉。三田村邦彦に似ている俳優である広中とともに劇団を盛り上げようとしますが,かつてのような勢いがなくなっていました。

広中も結婚し,妊娠三ヶ月の妻がいたため,新しい仕事を見つけようと考えているようです。唖然とする鮎川。相棒を失うことになりそうな鮎川は,ある日「鎌倉うずまき案内所」に入ります。そして甕の中を覗きます。

鮎川が甕の中に見たものとは?

1989年 ソフトクリームの巻

元号が大正から昭和に変わった頃に生まれた,浜書房店主の浜文太。話は昭和天皇の状態が悪いと言われた昭和末期の時代。先代から書房を継ぐ少し前,彼には仲のいい女性がいました。マーちゃんと言いました。

マーちゃんは文太のことを気に入っているらしく,文太と一緒になりたい,と伝えます。文太とマーちゃんの年の差は一回り程離れていたため,文太は何か遠慮しているようです。そして彼には後悔していることがありました。

そこで出会ったのが「鎌倉うずまき案内所」です。彼が甕の中で見たもの,そして後悔していることとは何なのでしょうか。

 

各短編のクライマックス

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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2019年 蚊取り線香の巻

峰文社を辞めて,フリーの道に進んだ方がいいのではないかと悩む早坂。憧れの雑誌「DAP」も廃刊となり,ここにいる意味があるのかと悩み,上司の折江に退職願を出そうと準備までしていました。ある日,早坂は有名な小説家「黒祖ロイド」の取材をすることになります。

途中「鎌倉うずまき案内所」へ迷い込み「蚊取り線香」をもらいました。ノギちゃんというフリーの記者と取材を行い,黒祖ロイドからは,20年前に峰文社が取材の時に撮った写真であれば使用許可を出すという条件で,写真を探すことになります。

自社に戻り若かりし頃の黒祖ロイドの写真を探すのを,折江が手伝います。蚊取り線香を焚き,あとわずかで消えるのと同時に退職を切り出そうとする早坂でしたが,折江の電話に着信があって言えませんでした。早坂は気づくのです。

折江はきっと「流れに文句を言って立ち止まることなく,波に抗うことなく辿り着いたところで,面白いなって言いながらありったけの力で仕事をしてきたのだ」と。

早坂は峰文社に残り,早坂のように流れにまかせて仕事をしていこうと誓うのでした。

2013年 つむじの巻

「鎌倉うずまき案内所」で真吾について悩みを打ち明けた綾子は,綺麗な甕の中にある水の中に「鳥居つむじ」を見ます。つまり,頭のてっぺんに二つ並んだつむじのことです。これは真吾の頭にもありました。

その後,真吾と話しても「大学には行かない」の一点張り。綾子は夫から,真吾の思い出話を聞きます。真吾が小3の時に「法隆寺を建てたのは誰か」という問題で,聖徳太子ではなく「大工」と書いていたことを。

そう,真吾は物事のつながりや流れなどをよく観察しており,それが本質をついていることに気づくのです。ユーチューバーになりたいと思うのも,真吾なりになにか考えがあってのことなのではないかと思うのです。真吾,真の吾(われ),偽りのない,本当の自分であれ,と。

綾子は真吾が作った動画を見せてもらいます。その心境の変化を敏感に感じ取った真吾。「真吾」と何気なくかけた声に対して,小さく「母さん」と返す真吾でした。

2007年 巻き寿司の巻

「鎌倉うずまき案内所」で見たのは「巻き寿司」でした。これが何か結婚と関係あるのか。

梢は,ワーキングホリデーで日本へ来ているジェシカが,朔也の家に泊まっていることに不満を持っているようでした。普通,一人暮らしの男性の家に,女性を泊まらせるだろうか。それ以外にも朔也に対していろいろと思うところがある梢は,結婚に対して前向きになれないようです。

朔也はある日,梢とジェシカの三人で「巻き寿司を作ろう」と言い出します。寿司の出来具合も「ザッツオーライ」と自由奔放な朔也。本当にこの人について行っていいのか。

ジェシカは「梢は笑っていない」と言い出します。梢が結婚に乗り気ではないことを見抜いているようです。「ノリが大事」と言う朔也にどうしても同調できない梢。

しかし朔也から,かつて図書館で「梢の手がいいなって思った」という言葉を聞きます。結婚はスタートでもゴールでもない。自分たちが楽しいと思える生活を共に送ろうという,プロセスを大事にしたいと思うのでした。

2001年 ト音記号の巻

いちかは甕の中に「ト音記号」を見ます。これは何を意味しているのか。乃木君に「鎌倉うずまき案内所」に迷い込んだことを話すと,彼は興味津々です。

ところが,乃木君と仲良くしているところを花音たちに見られていました。どうやら花音たちはいちかが乃木君のことを好きなのではないかと疑っているようです。それを悟られないように嘘を話すいちか。

彼女は自分自身に,乃木君にも偽りの言葉を並べている自分がイヤになっているようです。さらには乃木君の陰口を聞いて,それにも同調してしまいます。花音たちから嫌われたくないと思ういちか。

ある日,いちかは「ト音記号」の由来を聞きます。ト音記号のうずまきの部分は「ソ」を指しており「ド」ではない。昔から現在にかけて,物事は変化し続けている。多様性を受け入れていかなければならないのだと悟るのです。

それからいちかは吹っ切れたのか,何を思われてもいいと,転校していく乃木君にいろいろな「化石」をプレゼントするのです。乃木君は嬉しそうにしていました。

1995年 花丸の巻

鮎川が甕の中に見たものは,赤い太線のうずまきの外側にレースみたいな縁取りがされている模様。それは「花丸」でした。これが何の手助けになるというのか。

実は鮎川は内職で「通信添削」のアルバイトもしていました。添削する際にはもちろん○や✓などを付けますよね。それに関係あるのでしょうか。

鮎川はある女性に出会います。「紅珊瑚」と言いました。彼女は実は鮎川の劇団のファンでした。そして新人女優でもあるようです。鮎川はファンが目の前にいることに喜びますが,珊瑚からは最近の劇団の内容に不満があるようでした。どうして暴力的なものばかりなのか。

鮎川は,ある巨匠から評価されたいがために,彼が気に入りそうな暴力的なストーリーを作り上げていたようでした。それが珊瑚にとっては気にくわなかったようです。

ある日,添削の仕事をしている際に,中学生の文章に釘付けになります。「僕は花は美しいと思いません。あの恐ろしい生命力には圧倒される」

ここで鮎川は気づくのです。「誰が花は美しいと決めたのだ」と。ここから鮎川は自分が思うような,描きたい作品を描くのです。つまりこれまで「マル」がもらえる作品を作ろうとしていたことに気づいたようでした。珊瑚も「すごくいい」と褒めるのでした。

1989年 ソフトクリームの巻

マーちゃんの名前は人魚。マーメイドから文字を取って自分でそう呼んでいました。文太は鶴岡八幡宮の近くにある「鎌倉うずまき案内所」に入り,そこで見たものは「ソフトクリーム」でした。

文太はその後,知り合いの伝手で珊瑚という女性から,自分の母親の名前が「人魚」であることを知ります。つまり,珊瑚の自宅へ行けば,マーちゃんに会えるわけです。あれから一度も会うことができなかったマーちゃん。まさかこんなに近くにいたとは思わなかったようです。

文太は知り合いからソフトクリームをもらいます。うずまき,螺旋というのはパワーがあるということを伝えます。勇気が出たのか,文太はマーちゃんに会いに行くことにします。

彼女は占いを勉強し,占い師になっていました。そして思わぬことを話すのです。「文太さんがいなかったら,乙姫も珊瑚もこの世にいない」と。マーちゃんは文太との失恋後の旅行で,新しい男性と出会っていたのです。

文太は後悔していたことをマーちゃんに勇気を出して言います。「本当は好きだった」と。でもマーちゃんもわかっていたようです。

そして天皇崩御で昭和が終わり,平成が始まるのでした。

各短編を読んだ感想

この6つの短編のタイトルを見てもわかるように,描かれている時代は逆行して行ってます。しかも6年ごとに。この6年って何が意味があったのでしょうか。登場する人物の中にはそれぞれの短編で何度も登場する人もたくさんいます。黒祖ロイドとか紅珊瑚などなど。短編が時代と逆行することで,その人物たちの生い立ち,歴史が知れてとても面白いなと感じました。

そして何と言っても設定が面白い。「鎌倉うずまき案内所」という謎の場所には特異なキャラクターがいて,主人公たちの背中を押す「うずまき型」の物を伝える。青山先生の短編って,シンプルなストーリーを敢えてパターン化している印象なんですけど,その構成が練りに練りまくっている印象なんです。本当によく考えられた作品だなと思います。

僕自身が本作品を読んで良かったと思ったのは,主人公の考えと僕自身の考えをリンクさせることによって,何か勇気をもらえるということです。自分が本当にやりたいことは何なのか。言えずに後悔していることはないのか。人の目を気にしてできていないことはないか。
それを「うずまき」というパワーをもらって,何か本当に自分自身が生まれ変われるような気がしました。

確かに世の中には回転の力を使って,生み出しているものってたくさんありますもんね。電気や水や家電製品や自動車など,身の回りのものは「うずまき」でパワーを作っている。本作品を読んで,生きる力を与えられた気持ちになりました。

読んだことない方は,是非読んでほしいと思います。

この作品で考えさせられたこと

● 世の中のものは「うずまき」でパワーを生み出している

● 自分の生き方を考えさせてくれ,さらに勇気を与えてくれる作品

● 練りに練られた緻密な設定で構成されていることに感服です

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