日本の新幹線の技術を世界に知らしめたのは1964年の東京オリンピックの頃。
東京-大阪間を在来線で6時間半もの時間がかかっていたのが,約3時間で運行できるようになりました。
今では約2時間半で運行できるそうです。技術の進化ってすごいですよね。
今回の話は,その高速鉄道技術を他国から受注することができるか,ということがテーマとなっています。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 登場人物
4. 本作品 3つのポイント
4.1 高速鉄道の受注のために
4.2 大手商社の戦略
4.3 顧客にとって一番大事なもの
5. この作品で学べたこと
● 高速鉄道を受注することのメリットが知りたい
● 大手商社の役割とすごさを知りたい
● 顧客にとって一番何が大切かを考えることの重要性を知りたい
東南アジアの新興国・R国に、日本が世界に誇る鉄道インフラを売り込め! 四葉商事の相川翔平は、受注競争で中国に負け続きの現状を打破すべく、秘策を練っていた。同じ目標を持つ経産省の官僚、竹内美絵子は、日本の人材レベルの高さに目をつけ、斬新なアイデアを打ち出す。中国に勝つための鍵は、R国の次期首相に立候補したキャサリンだったーー。日本再生を予見する、希望溢れる企業小説。
-Booksデータベースより-
2015年に,インドネシアの高速鉄道を日本と中国のどちらが受注するのかという争いがありました。
結果的には中国が受注しました。
しかし,2019年に操業予定だったこのプロジェクトは,スケジュール通りに進んでいないのと同時に,予定コストも4割以上上回っているといいます。驚くことに,現在もまだ操業していないというのです。
インドネシアの首脳や国民はこの事態をどのようにとらえているのでしょうか。
作者は「楡周平」さんです。
この作品はその「高速鉄道受注」について,日本と中国の受注戦争を描いています。
日本側も経済産業省だけでなく,四葉商事という大手商社が受注獲得に乗り出します。
相川翔平・・・今回の主人公。大手商社の四葉商事に勤務。プロジェクトメンバー
竹内美絵子・・経済産業省官僚。プロジェクトメンバー
キャサリン・・R国の次期大統領候補。高速鉄道発注に難色?
アンドリュー・・キャサリンの甥。偶然,竹内と出会う
相川隆明・・・翔平の父。海東学園理事長。学園を継がない翔平を勘当した
日本側はどんな手段でこの戦いに臨むのかがこの作品の面白いところです。
そして,相川親子がどこでつながるのか。ワクワクしながら読めました。
1⃣ 高速鉄道の受注のために
2⃣ 大手商社の戦略
3⃣ 顧客にとって一番大事なもの
今回の舞台は東南アジアのR国(国名は明らかにされていません)です。
四葉商事のチームのメンバーである相川翔平はこのプロジェクトを受注するために戦略を立てます。
そこに経済産業省の竹内美絵子という女性,そしてR国の次期大統領候補であるキャサリンの3人を中心に話は進みます。
R国にとっても日本にとっても大プロジェクト。日本は絶対に受注したいわけです。
移動時間が短くなるということはそれだけビジネスチャンスも生まれます。
日本ほどインフラが整っていないR国のビジネスマンやR国へ訪れる観光客にとっても大きなメリットがあると思います。
ビジネスマンにとっては都市から都市への移動時間が短縮されれば,会議があっても宿泊せずに日帰りできるわけですから費用も抑えられます。
また,いろんな場所へ行く時間が短くなれば,観光客も増えるでしょう。
しかし日本の前には中国が立ちふさがります。
中国の高速鉄道の技術は,元々は日本のものであるといいます。
それが本当のことなのかはわかりませんが,中国以上の戦略で日本は戦わないといけない。
新しいレールの敷設,新車両の製造などなど,先ほど書いたように数千億円もの金額が動くわけです。
だから,世界に誇る高速鉄道を持つ日本はそのプライドをかけ,必死になるのです。
R国の次期大統領候補のキャサリンをどう取り込むかが大きなポイントとなります。
四葉商事の相川翔平には,かつて地元北海道の鉄道の専門学校を持つ海東学園の理事長であった父がいました。
しかしその跡を継がず,彼は四葉商事に入社したことで勘当されます。
地元への未練を断ち切り,四葉商事で大きな仕事を成し遂げたいと,翔平はこのプロジェクトに賭けるのです。
一方,海東学園は,在来線の衰退とともに,学園自体の意義を見失いつつありました。
そして学園自体を身売りするかどうかに迫られていたのです。
この海東学園をどうやって救うのか。
翔平の仕事とどう結びつくのかが一つのポイントになります。
翔平はキャサリンとつながりがありました。翔平は意気込みます。何とか鉄道受注を四葉商事のものにしたいと。
高速鉄道が開業すれば,駅もでき,周辺には駅ビルも建ち,多くの店舗ができて,経済効果が期待できます。
また,オフィスビル,商業施設が建てられ,R国としても都市が発展していくことでしょう。翔平はアピールしますが,キャサリンは疑問を持ちます。
逆に大きなデメリットがあるのではないかと考えていたのです。
キャサリンの考えるデメリット
● 高速鉄道を導入すれば,道路や電力・ガスといったインフラ設備も必要になり多大なコストがかかる
● 高速鉄道導入後のフォロー・サポートがない
● 鉄道内で清掃や管理を仕事をする人間のための教育が必要になる
● 東南アジアには,日本人が持っているメンタリティー,考え方,価値観などの教育が必要になる
つまり「高速鉄道を作って終了というのは無責任である」ということであるとキャサリンは言っているわけです。
では,どうやってこの問題を解決するのか。ここからが面白いところです!
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一方で,経産省の美絵子は,キャサリンの甥であるアンドリューと偶然出会っていました。
二人とも「鉄撮り」で,鉄道に興味があり意気投合しました。
そこで日本の「クルーズトレイン」の話が出ます。
日本には現在,いくつかのクルーズトレインが走っています。
● TRAIN SUITE 四季島(JR東日本)
● TWILIGHT EXPRESS 瑞風(JR西日本)
● ななつ星 IN 九州(JR九州)
いつかはこんなクルーズトレインに乗ってみたいと思っていますが。。。
その話をヒントに翔平たち四葉商事は,ある戦略を思いつきます。
それはR国に高速鉄道ではなく「クルーズトレイン」を走らせるというのです。
クルーズトレインであれば,在来線が使っていたレールをそのまま利用することができます。
クルーズトレインは,日本でも観光業を発展させた実績があります。
そしてさらに,その列車を走らせるためには従業員への教育が必要になります。
その教育を海東学園が行うというアイデアが出てきたのです。
ここで翔平と翔平の父親である隆明がつながるわけなんですね。
現在ある全寮制の寮自体を留学生の受け入れ施設に変化させ,徹底的に日本の「おもてなし」教育を拡充する。
そして,そのサービス自体を確立すれば,高額のカネが動く高速鉄道導入ではなく,クルーズトレインと従業員の教育というパッケージをR国以外の他国にも売り込むことができるわけです。
ここを読んだとき,正直唸ってしまいました。その発想の転換は思いつかない。。。
大手の総合商社という企業は,国内の産業だけでなく,海外の国のための大きな仕事をやっていることがわかります。
そして,「いかに顧客の気持ちになって考え,仕事をするのか」ということです。
今回の話のように,時には発想の転換も必要なんですね。
大きなプロジェクトになればなるほど,それ相応の能力を持った人材が必要になるわけです。
それだけやりがいのある仕事だからこそ,大手商社を目指すために必死で頑張っている人がいるのだと思います。
日本の大きなプロジェクトに関わることができる大手商社のすごさを知ることができました。
● ある目的を達成するという先入観に入り込んでしまうと,大事なことが見えなくなることがある。発想の転換が必要になる場合がある
● 国を超えた仕事には,国の機関だけでなく,大手商社も関わっている
● 単に顧客のことを考えるだけではなく,顧客の将来を考えていかなければ,よい仕事を得ることはできない
どんな仕事でもそうですが,やはり顧客第一なんだと思います。
視野を広げ,多くの選択肢を考えた上での最良のものを選ぶことが大切なのかなと考えさせられる作品でした!