百田直樹さんの2020年の作品です。
タイトルを読んで,これがミステリー小説だとは思いませんでした。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 本作品 3つのポイント
3.1 誘拐事件発生!
3.2 身代金の要求
3.3 ホームレスたちの意地
4. この作品で学べたこと
● 本作品の犯人グループの動機と目的が知りたい
● 犯人グループと警察,マスコミとの駆け引きの面白さを楽しみたい
● 百田さんには珍しい「ミステリー系」の小説を読んでみたい
突如としてネット上に現れた、謎の「誘拐サイト」。<私たちが誘拐したのは以下の人物です>という文言とともにサイトで公開されたのは、6人のみすぼらしい男たちの名前と顔写真だった。果たしてこれは事件なのかイタズラなのか。そして写真の男たちは何者なのか。半信半疑の警察、メディア、ネット住民たちを尻目に、誘拐サイトは“驚くべき相手”に身代金を要求する――。日本全体を巻き込む、かつてない「劇場型犯罪」が幕を開ける!
-Booksデータベースより-
百田尚樹さんの代表作はやはり「永遠の0」でしょうか。「海賊と呼ばれた男」も結構好きですね。
1956年生まれ 同志社大学法学部中退
放送作家として長年「探偵ナイトスクープ」のチーフライターをつとめる
2006年に「永遠の0」で作家デビュー
主な受賞歴
2013年本屋大賞(海賊とよばれた男)
テレビにもパネラーで出演するなど,マルチに活躍されてますよね。
これまで十数作品を読みましたが,文章がとても読みやすく,しかも丁寧でわかりやすい作品ばかりです。
今回の作品は,どちらかというと社会的な問題を背景に,ミステリー的な要素を絡めた,同作家としては珍しい作品だったと思います。
話は,ネット上に誘拐サイトが突如現れ,真犯人は誰で,誰が誘拐され,その動機は何なのかがとても面白い作品になっています。
1⃣ 誘拐事件発生!
2⃣ 身代金の要求
3⃣ ホームレスたちの意地
事件を起こした犯人はホームレスたちを誘拐していました。
それを警察が追い,さらに新聞記者たちも追う。
この3つの視点でストーリーが進みます。
本当に誘拐事件が起こっているのかどうか,半信半疑の警察と,いち早く情報を入手し,これは本当に誘拐事件で間違いないと踏んで動き出すマスコミ。
サイトにはその人質であるホームレスたちの氏名が載ってしまうんですね。
捜索願も出されずに過ごしていたホームレスたちのことを不憫に感じたのですが,実はここで意外な事実が明らかにされるんです。
真犯人はホームレスだったんです。これは結構早い段階で明かされます。えっ? って思いました。5, 6人のホームレスたちが結託して,誘拐を装っていたということなんです。
一体,何のために?
そしてとうとう彼らは新聞社やテレビ局を相手に「身代金」を要求します。
報道に慌てるマスコミ業界。本当に事件なのかを疑っている警察。
完全に犯人主導で事件を動いていくのです。
誘拐事件というと,横山秀夫さんの「64 ロクヨン」でも出てきた真犯人の取り逃がしを思い出します。
そういえば,誘拐して身代金を要求するという事件はあまり聞かなくなりました。
インターネットなどのIT技術の発展に伴い,誘拐犯を特定するのが容易になってきたからかと思います。
この作品でも,かつて身代金を要求した事件「グリコ森永事件」のような未解決事件は起こらないだろうと書かれています。
現在では「ランサムウェア」と言って,企業の大事な個人情報を暗号化してしまい,「この大事なデータの暗号を解いてほしければカネをよこせ」というウィルスが出てきました。
インターネットで不特定多数の企業を脅迫するから,犯人側としては実に効率が良いわけです。
街には防犯カメラがたくさん設置されてますし,発信機や携帯電話,GPSでの場所の特定技術など,ITの技術が発展してきました。
40年ほど前のの事件のように物理的に多額のカネを受け渡しする事件というのは起こしにくいのかなと思います。
技術の進歩ってすごいですね。
今回の話は現金の物理的な受け渡し,まるで「グリコ森永」事件のような脅迫文が誘拐サイトに載り,時代と逆行している感覚にもなりました。
しかし,真犯人たちはかなりの頭脳派揃いだったんですね。
特に中心人物だったのが高井田という男です。
彼はかつては企業でも活躍していた人間だったので,仲間たちと意見を交わしながら,相手の出方を想像しながら,次々と手を打っていきます。
4社くらいに送っていた身代金の要求も途中で2社にしぼったり,10億くらいの身代金をいきなり1億とかに減額したり。
一週間待つと言っておきながら,期限はあと3日としたり。
完全にマスコミや警察を翻弄してしまいます。本当はよくないことだと思いますがが,このホームレスたちを応援したくなるのは,この作家の描き方のうまさではないかなと思います。
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新聞社,テレビ局は,身代金の要求に応じてしまうんですね。
そこには犯人たちのうまさがありました。
警察の指示のもと,犯人とのやりとりをしていたメディア各社。
マスコミの人たちは,「これは警察より犯人の方が上手だ!」と感じ始めます。
メディア各社は,警察の指示による行動が見透かされていると思ったんですね。
そこがこの犯人グループのうまさだったと思います。
そしてとうとう,各社の経営陣が警察に内緒で犯人グループと直接メールでやりとりを行うのです。警察も慎重になっているのはわかるんですけど,実際に脅迫されている方からすれば完全に信用できない部分が出てきてしまったのでしょう。
そして警察の指示通りに動かなかったメディア各社は,犯人たち,つまりホームレスたちに現金を渡してしまうのです。
つまり,ホームレスは警察に勝ったんですね。
なぜかホームレスたち犯人グループを応援したくなるのは,やはり作家の描き方のうまさかなと思います。元々,企業の第一線で活躍してきた優秀な人たちだったわけですから,力を合わせれば警察をも凌駕することができたのです。
今回の話は,そんなホームレスと呼ばれる人たちの意地を感じました。
賛否両論あるとは思いますが。。。
最後に,ホームレスたちが自分たちの店を開き,生活しているシーンが印象的でした。
ホームレスになってしまった人たちというはいろいろな理由があるのだと思います。
借金を抱えてしまって自分の家を売らないといけなかったり,担保にしていた自分の家が競売にかけられてしまって住む場所を失ってしまったり。
働いていた会社の経営が傾き,早期退職金をたくさんもらっていざ生活してみると,徐々に貧しくなって資金がなくなったり。
ひょっとすれば,明日自分がリストラに遭い,同じ境遇になっているかもしれない。
いろいろな人がいるのだと思います。
● 社会的弱者と思われている人にも意地や生きる力がある
● 当然,ホームレスになりたくてなったわけではない。何かの不運でそうしなければなかった方々もいる
● 作者の描き方の上手さに「ホームレスに感情移入」してしまいました!
僕の周りでも公園の片隅にいる社会的弱者と言われる方々を見かけます。
彼らは毎日いろんな人々を目にしながら,その生命力や洞察力は,ひょっとすれば私たち以上なのかもしれません。