かつて読んだ小説を再度見直し,今回ブログに書くことにしました。
伊坂幸太郎先生の作品で好きな作品はいくつかありますが,本作品もその一つです。
現在でも,SNSなどで本作品を推す方々が多いことに驚きます。
直木賞候補作,日本推理作家大賞候補作,第1回本屋大賞ノミネート作品,いずれも受賞は逃しましたが,それだけ評価する方が多いことの証ではないでしょうか。
2009年には加瀬亮さん,岡田将生さん,鈴木京香さん,吉高由里子さんなどの豪華キャストで映画化されています。
舞台はやはり宮城県仙台市。いつも思うんですけど,伊坂先生の作品って仙台や東北地方が舞台になることが多いですよね。本当に羨ましいですし,県民の方も誇りに思っているのではないでしょうか。
ストーリーは,仙台市内で起こる連続放火事件に,二人の兄弟が調査をするという話。
最後の真実を知って驚かされた作品でもあります。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 連続放火事件発生
3.2 DNAとグラフィティアート
3.3 放火犯の正体と重力ピエロ
4. この作品で学べたこと
● 作品を越えた伊坂ワールドを堪能したい方
● 「重力ピエロ」の意味を知りたい方
● 多くの賞にノミネートされた作品を読んでみたい
兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは――。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。
-Booksデータベースより-
泉水・・主人公。遺伝子に関わる企業に勤務している
春・・・泉水の弟。ただ,父親は別である
泉水と春の父親・・・癌を患っており,現在入院中
郷田順子・・・日本文化会館管理団体の職員?
黒澤・・・泉水が雇った探偵
葛城・・・売春斡旋を行っている男
1⃣ 連続放火事件発生
2⃣ DNAとグラフィティアート
3⃣放火犯の正体と重力ピエロ
本作品の主人公である泉水には春という弟がいました。ただ春の出生には大きな秘密がありました。
実は泉水と春は兄弟ですが,父親が異なるのです。異父兄弟と言うのでしょうか。
春は,母親が強姦されてできた子供だったのです。
母親は一緒ですが,二人は似ていません。どちらかと言うと,春の方が見た目はモテるようです。
ただ,自分の出生の秘密を知っている春は,異性に興味を持っていません。どうやら過去のトラウマが原因のようです。
春は絵がうまいという繊細さと同時に,悪と思えば躊躇なく他人を攻撃するような青年です。
舞台である仙台市内は連続放火が起きていました。春は泉水の勤めるジーン・コーポレーションという会社が放火されると言い出します。
ちなみにこの会社は,遺伝子に関することを業務にしているところでした。
社員の泉水は,春の言うことを信じていませんでしたが,何と春の言う通りに放火されてしまいます。
なぜ春にはそれがわかったのか。
それは、これまでの連続放火事件の現場には、グラフィティアートが必ずあったのです。春はグラフィティアートを消す仕事をしていたため,その法則に気づいたらしいのです。
そもそも「グラフィティーアート」って何なのでしょうか。いや,どんなものかは知ってます。
建物の壁面とか,信号機の根本にあるボックスとかにスプレーとかで描いてありますよね。
ベルリンの壁などに描かれているものを見ると,本当に「アート」を感じますけど,ただの落書きにしか見えないものもありますから。
描く人によって,それぞれ独特の価値観があるのでしょうね。
二人には父親がいますが,母親は亡くなっています。
父親は癌になってしまい,入院していました。そこで連続放火事件の話をします。
春はこれまでに放火のあった場所に描かれていたグラフィティアートの文字を繋げると,
『God can talk Ants goto America 280 century』
になるといいます。「神は喋ることができます。蟻たちはアメリカに行きます」?
結局,意味がわからないままその話は終わります。
泉水はある日、美人な女性に声を掛けられます。
女性の名前は郷田順子と言い,泉水が春の兄であることを知っています。そして彼女は「日本文化会館管理団体」の人間だと言います。何か胡散臭い名前。。。
泉水たちの父親は,次の放火現場には『ago』という文字になるはずだと言い,何とその通りになります。
春は次の放火現場を予測します。そして泉水とともに現場を張り込むのです。
ところが張り込んでいない場所が放火されます。その場所に急ぐと,意外な人物に出会います。
郷田順子でした。ここで一体何をしていたのか。
泉水は探偵の黒澤と知り合いでした。
黒澤と言えば,伊坂ワールドの中でも多くの作品に登場します。「フィッシュストーリー」「ホワイトラビット」「ラッシュライフ」などなど。
本来は泥棒を生業とする黒澤ですが,今回は探偵役で,泉水から何か依頼を受けて動いているようです。
実は黒澤は,売春の斡旋を生業とする葛城という人物を調査していました。
泉水は葛城の自宅マンションを訪れ,DNAを入手することに成功します。
ということは,春との関係を調べているということでしょうか。父親は葛城? 葛城のマンションを出た時,泉水は郷田順子から声をかけられます。
実は郷田順子は春の同級生だったようです。
放火現場にいたことを指摘された郷田順子は,逆に現場から逃げた男を追ってきたらマンションについたのだと話します。ひょっとして,放火に葛城が絡んでる?
ただ郷田順子は「ここ最近の春はおかしい」と話し始めます。う~ん,これはミスリードか?
そして春が持っているノートの存在を明かすのです。一体,何が書かれているのか。そして泉水はあることに気づいたようです。泉水が気づいたものとは?
『God can talk Ants goto America 280 century』
最後の落書きが「ago」だったので,これらの頭文字を並べると
『GCTAGATCA』
となります。これはひょっとして「遺伝子」を表しているのではないか。遺伝子を表す文字は「G」「C」「T」「A」の4種類。
作品の冒頭で春が遺伝子について語ったシーンがあります。
DNAという設計図が細胞の中にはあって,アデニン,チミン,グアニン,シトシンという4種類の塩基からできている。
さらにDNA二重螺旋になっていて,2つの螺旋はところどころ繋がっている。「A」と「T」,「G」と「C」の組み合わせしかない
なるほど。確かに頭文字はDNAの文字列と同じだけど,どんな関係あるんだろうか。
結局,この意味はわからないままになってしまいます。ん~,またミスリードさせるためのものか?
泉水は郷田順子から呼び出されます。そして春の部屋に行きます。
春の部屋には地図がありました。そこには丸が描かれています。
丸は色違いで複数あります。そして黒丸は30個くらいある。一体,この丸は何を示すものなのか。
泉水は地図見ながら,春が次の放火場所を予測していると推測します。
そしてここで驚愕の事実が明らかになります。
何と実は,グラフィティーアートを描いていたのは「春」だったのです。絵が得意だから,そうじゃないかなとは思っていたけど。。。でも一体何のために?
春はこの放火騒動に,泉水を巻き込みたかったのです。わざと「遺伝子」の推理をさせるような「暗号」を作り上げたのでした。
泉水は,遺伝子に関わる仕事をしていましたから。
そして泉水,いや春にとって辛い現実を知らされます。
葛城は春の父親だったのです。つまり葛城は泉水たちの母親を強姦した犯人だと言うことです。
DNA鑑定の結果が出たようです。春と葛城は「親子」であると。
「赤の他人が父親面するんじゃねーよ!」
怒りに震えた春は静かにバットで葛城を殴るのです。春は、父親は入院するあの人であり、赤の他人が父親面するなと言って次の瞬間、何かを殴ったような音が響き渡ります。
泉水は黒澤と会い、父親が依頼した内容を知ります。
父親は赤丸を30箇所ほどつけた地図を黒澤に渡していました。
実はこの印,28年前に仙台で起きたレイプ事件の現場を示していたのです。
泉水の父親は28年前のレイプ事件について調べていたのです。そして気づいたのでした。
黒澤に、レイプ事件の現場と放火現場が一致するか確認を依頼していたのです。完全に一致していたのでした。妻への負い目を感じながら,父親はずっと調査していたのでしょうか。
そして放火についての事実が明らかになるのです。
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放火を行っていた人物の正体。それは「春」でした。
春は全てを認めます。落書きをしたのも、放火をしたのも全て自分であると。
春は,放火をした場所が,かつて葛城が事件を起こした場所と一致することに気づかせたかった。
そして葛城から反省の言葉を聞きたかったのですね。結局聞けなかったですけど。
では,春はなぜ「放火」という手段を取ってしまったのか。
それは春自身が「コノハナノサクヤビメ」に関する日本神話をまね,葛城の本心が「火」によって証明されると信じていたからです。かつて泉水と春がテレビで見た「コノハナノサクヤビメ」にまつわる話を覚えていたのです。
コノハナノサクヤビメとは
コノハナノサクヤビメは,ニニギノミコトと一夜を共にし,子供を身ごもった。
しかし,ニニギノミコトは「一夜で身ごもるはずがない」と疑う。
「天津神であるニニギノミコトの本当の子なら何があっても無事に産めるはず」と産屋に火を放ち,三人の子を産んだ。
3人のうちの一人がが初代天皇の神武天皇である。
-Wikiより-
しかし,放火によって建物は焼かれ,さらに被害者も出ています。
春は罪を認め、警察に自首することを考えていました。しかし泉水は止めます。
ピエロは,重力を忘れさせるために,メイクをし,玉に乗り,空中ブランコで優雅に空を飛び,時には不格好に飛ぶ。何かを忘れさせるために。重力はほっというても働いてくる。
それでは唯一の兄弟である私はその重力に逆らって見せるべきではないのか
泉水は春がやってしまった罪を無くしてほしいと願っているようです。
そして,二人は父親の病室に向かいます。何か父親に許しをこうように。
父親はすでにわかっていました。自分の知らないところで,二人が悪さをしていること。つまり放火に関わっていることを。二人は否定しますが,父親は「泉水と春は嘘をつくときに,目をぱちぱちさせる」癖があったので,見抜いているようです。
そしてしばらくして,父親は癌の転移により,亡くなってしまいます。
最後のシーンは火葬場。父親は荼毘に付されました。
二人は父親の遺体が焼かれて出た煙が空に向かって真っすぐ伸びていくの見ながら,乾杯するのでした。
春にとって,出生の秘密,そして自分の母親の気持ち,いろいろなことを考えて生きてきたのだろうなと思います。
そして息子である兄弟を見守ってきた父親も人生の終末期を迎え、この兄弟が犯してきたことに気づきました。
父親が春と病院で握手するシーンを想像すると、父親の気持ちがわかるような気がして何とも言えない気持ちになりました。
泉水が弟を思う気持ち,父親が子を思う気持ち。そして何よりも春の思い。
過去の辛い思い出を忘れるために、事件を起こしてきた春。それは過去の「重力」を忘れるために、派手な衣装や化粧をして演技をする「ピエロ」そのものだったのかもしれませんね。
● 過去の自分の出生に悩む春の気持ち
● その春を想う兄の泉水の兄弟愛
● 黒澤が登場するなど,伊坂ワールドの面白さを味わえた