Cafe de 小説
業界知識を学ぶ

【連鎖】真保裕一|輸出入問題に潜む穴とは

連鎖

真保裕一先生の「江戸川乱歩賞」受賞作品です。本作品での受賞をきっかけに作家になられています。

実は元アニメーターという異色の経歴の持ち主でもあります。

「ドラえもん」のような夢あるアニメを作りたいと考えていたようですね。「笑ゥせぇるすまん」などの制作,脚本にも関わったことがあるようです。

真保先生はこれまで数多くの賞を受賞されています。

「吉川英治文学新人賞」「日本推理作家協会賞」「山本周五郎賞」「新田次郎文学賞」などなど。とてもかつてアニメーターを目指していたとは思えない経歴です。

僕自身の中で一番思い出に残っている作品は「ホワイトアウト」ですけど,本作品は「放射能汚染食品」という社会問題をベースに描かれています。

調査に乗り出した主人公に,いろいろな悪の罠がかかっていくという,手に汗握る展開です。

こんな方にオススメ

● 汚染食品の横流し問題について知りたい

● 輸出入の問題について考えてみたい

作品概要

ヨーロッパの原子力発電所の事故による放射能汚染食品が、検査をすり抜けて日本国内に輸入されていた。スクープした記者が運転する車ごと海に落ち、意識不明に陥ってしまう。記者の友人である羽川は厚生省の元食品Gメンとして食品検疫所で働いていた。レストラン倉庫に保管されていた肉への毒物混入事件が発生し、その調査を始めた羽川に危機が迫る! 江戸川乱歩賞史上最大級の骨太作品。
-Booksデータベースより-



👉Audibleを体験してみよう!

主な登場人物

羽川・・主人公。厚生省元食品衛生監視員

竹脇史隆・・ある事件を追うジャーナリスト

竹脇枝里子・・・竹脇の妻。羽川と不倫をしていた

本作品 3つのポイント

1⃣ 汚染食品の横流し

2⃣ 「積み戻し」の穴

3⃣ 輸入・輸出を利用した犯罪

汚染食品の横流し

主人公の羽川は,自分の友人でありジャーナリストでもある竹脇が亡くなったことを知ります。

竹脇は食品汚染を調査するルポライターでした。どうやら車に乗り,晴海埠頭の海岸の崖から海に飛び込んで亡くなったようです。転落一体,竹脇の身に何があったのか。。。

羽川は厚生省(現在の厚労省)の食品検査官でもありました。

羽川はその真相を究明しようとするのですが,その羽川には実は後ろめたいことがありました。

羽川は竹脇の妻と付き合っていたことがあったのです。羽川自分の妻を寝取ったため,羽川に対しての復讐なのか,自分の妻が寝取られたことに対するショックなのか,それが原因自殺したというふうに思っていました。

しかし,それは打ち消されます。実は竹脇が何を調査して形跡を見つけるのです。

輸入食品に放射能が紛れ込んでいる

この脅迫文が羽川の元に流れてきます。竹脇が亡くなったのは,この調査していたことが原因なのか?

竹脇の死の真相はもっと深く,もっと大きなところへと繋がっていくのです。

事件の発端は,竹脇が「汚染食品の横流し」を調査していたのではないか,ということでした。レポート海外から汚染食品を輸入し,それを紙面で告発していた竹脇は何者かに追われていたのか。

つまり,竹脇は自殺ではないのではないか。羽川は疑います。そして竹脇が書いたルポに目を通します。

竹脇のルポ

チェルノブイリの食料汚染はまだ終わっていない

チェルノブイリ原子力発電所の大事故により,おびただしい量の死の灰が世界にバレまかれた。発端は1987年のトルコ産のヘーゼルナッツが検疫所によって「370ベクレル」という,基準値をオーバーする食品が輸入された。

(中略)

『松田屋』の原料牛肉からも基準値を超える放射能が検出された。国内生産者保護のため,輸入肉には制限が設けられているが,乾燥肉や塩蔵肉などは,自由に輸入できるものである。

問題はその「加工国」であり,『松田屋』は牛肉の乾燥処理施設をシンガポールに置いている。シンガポールは放射能基準値は「0」,つまり,放射能を含む食品の輸入は絶対に許さない

しかしそれは,シンガポールで消費される肉に関してである。シンガポール国内ではなく,日本でそれが消費されるのであれば,輸入が許可されるのである

(中略)

放射能に限らず,農薬,食品添加物,抗生物質など,有害化合物質が我々の周りを取り巻いている。これらのものは飛躍的に増え続けていくに違いない。。。

-本文より引用-

ある日,輸入物の検疫所にファミリーレストランの冷凍倉庫内の肉に毒物を混入したという手紙が届きます。手紙その検疫所に向かう羽川。そこは異様な光景でした。何かをバラまいた跡があったのです。よくよく調べて見ると,そこには危険な農薬がばらまかれていました。

一体,誰がこんなことをやったのか。これが後から大きなポイントになっていきます。

ところで,検疫所での輸入審査では,その審査結果によって「廃棄処分」「積み戻し」「加工選別」「食品以外への転用」が行われるらしいです。

今回の事件は審査結果で対処が決まったにも関わらず「横流し」するによって,どこかの企業がその食品による利益を得ていたのではないかということです。

その調査をすることになったのが羽川です。彼は「食品衛生監視員」の資格があるので,その仕事を振られたのです。調査員ただ,竹脇の自殺には羽川の「動機」にもある可能性があるので,羽川は疑われます。

自殺を装って,実は車に細工を施していたのではないかとか,警察は羽川を追及するのです。

亡くなった竹脇は,汚染食品の横流しの件を,輸入食品検査センターの副所長である篠田に相談していたのではないか。相談調査をしている羽川はこの篠田ともつながりをもちます。篠田の人間性に羽川は信頼を置いているようです。

ただ気になるのは,竹脇は篠田に検査の依頼をしていなかったということでした。

当然,篠田と竹脇の関係であるので依頼していないとおかしい。だとすれば理由は何なのか。

調査の結果「脱脂粉乳」の調査が行われていました。

「積み戻し」の穴

調査内容

チョコレートやアイスクリームの原料となる脱脂粉乳は,国内の生産者保護のために輸入規制されている。

しかし,ココアパウダーを混ぜ,脱脂粉乳の含有率を75%以下にすれば,輸入規制の枠にはかかからない

この調査は竹脇により依頼されてました。ところがそれを検査したのは篠田なのです。

なぜ篠田は羽田に検査依頼を受けたことを黙っていたのか。食品横流し,脱脂粉乳の検査の件など,謎が深まります。

羽川は汚染食品に関わっていた企業を掴みます。「白新物産」という企業です。

そこでヒアリングをしたところ,食品卸業をやっている「河田産業」という名前が浮かび上がります。白新企業汚染食品を運んだとされる企業は「菊岡運送」。いろいろな企業が絡んでいるようですね。

河田産業で,羽川は興味ある話を聞き出します。野上産業の野上啓輔という人物で,「商品の種類は問わないから,至急モノがほしい」と言ってきたようです。運送羽川は怪しみます。野上産業に電話をする羽川。しかし電話に出たのは違う企業でした。どうやら電話を解約していたようです。

さらに怪しんだ羽川は野上産業の住所へ移動。しかし,対応した女性社員が警察へ連絡します。そして警察は羽川を拘束するのです。

実は野上という男の正体,これはおそらくあの「竹脇」の偽名だったのではないかと羽川は推理します。

そして彼は使ったんだのです。その横流しの肉が「ミートハウス」に流れていたのではないかと掴んでいたのではないか。横流しただ気になることがありました。ミートハウスへの横流しの件のタイミングがあまりにも絶妙すぎる。実は裏に何かしらの作為があるのではないか。

ある日「積み戻し」となった貨物がありました。それは脱脂粉乳を積んでいたものでした。

この貨物,実は輸入の際にコンテナが海水を浴び「廃棄処分」になるはずのものでした。

ところがこれに待ったをかけたのが税関の人間です。「放射能に汚染されているものを廃棄してはいけない」と。税関羽川はこれに違和感を感じます。この際に,貨物の一部を抜き取り,それを横流ししたのではないか。

しかし,重量の測定などを通し,確実に積戻しされたようなんですね。

羽川の読みは外れたようでしたが,新たな事実が判明します。

「五香交易」という企業が,三年間にポーランドへ四回も積み戻しをやっていたようなんです。どうやらこの回数があまりにも多いらしいんですね。積み戻し積み戻された側のポーランド政府は憤慨しそうなものですが,五香交易に対して何も言ってきてないんです。

ひょっとして,ポーランドと五香交易の間で「ウィンウィン」になる旨味があったということでしょうか。これには羽川も不信感を持つはずですよね。

さらに同じようなことが起こっていました。今度は「城東商事」です。

「ココア」を輸出した城東商事が,輸出先のフィリピンで「積み戻し」に遭っているのです。ポーランドでは脱脂粉乳の輸入,フィリピンではココアの輸出で。

ここに大きな問題がありそうです。そして衝撃的な事実が明らかになるのです。

輸入・輸出を利用した犯罪

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

👈クリックするとネタバレ表示

本作品の結末は意外なものでした。これまで「汚染食品の横流し」にばかり気をとられていたましたが,実は本当の目的が隠されていました。

竹脇が掴んだもの。それは後に羽川が命をかけて掴んだものでもありました。

密輸」です。あの冒頭の脅迫文はフェイクだったです。密輸まず輸入について。日本へ輸入された製品というのは,一旦「保税倉庫」と呼ばれるところへ格納されるそうです。

そこで審査が入り,OKだった製品のみが関税をかけられ国内に流通します。

そして汚染食品については,放射能が一定レベルの基準値を上回っているとその審査でで引っ掛かり,「積み戻し」ということで送り返されるのです。

しかし,今回の「密輸」はそれをうまく利用したものでした。

「積み戻し」をすることで,その中にCPUなどのコンピュータに必要な部品を大量に入れてポーランドへ送り返しました。CPU日本の技術が高いことは世界でも認められていることですから,そこにポーランドは付け込んだ。また逆に,日本から輸出したものについて。

相手国,つまり今回であればフィリピンですが,審査に引っかかればその製品は日本へ戻ってくるわけです。その際に「麻薬」を積め,積み戻しという形で日本へ送っていたというのです。

つまり「積み戻し」というイレギュラーな状態を利用し,それを利用して「密輸」を行い,相手国との金銭の授受が行われていたということなんですね。

これを一早く掴んだのが竹脇でした。彼は口封じのために殺害されたのです。自殺とみせかけて。犯人は,羽川が信頼していた篠田でした。篠田彼は実はミートハウスへの汚染肉について,審査を見逃してしまいました。

それが発覚するのを恐れていたところ,竹脇がそれに気づいたのです。

サンプルの取り違えで審査を誤ってしまっていたのでした。

地位を失いたくなかった篠田が,犯罪を見抜いた竹脇を亡き者にするという,私利私欲の事件でした。

事件の発端は,「汚染食品の横流し」を調査していたのではないか,というところから始まりました。

これは「チェルノブイリの原発事故」というものが「汚染食品」にもつながっていったわけです。チェルノブイリ当時は大問題だったのでしょうけど,事故のことは記憶があっても,汚染食品のことについてはあまり記憶がないです。

1987年に起こったあの大事故により,旧ソ連から漏れた放射能はヨーロッパへと流れた。そしてその放射能がヨーロッパの食品の汚染につながったというのである。

真犯人も,自分のミスを正直に認めていれば,こんな大事件に発展しなかったのだと思います。

正義感あふれる人物が,悪意のある人物に亡き者にされたという事実に,悲しさを感じました。

やはりミスを犯したとしても,正直でありたいと思わせられます。

この作品で考えさせられたこと

● 汚染物質の横流しという問題を背景に描いたストーリー

● 輸出入を利用した大きな問題があること知った

● 食品検査官の使命

こちらの記事もおすすめ