「館シリーズ」の第三弾。
このシリーズ,本当にたくさんの作品があって,読んでいくうちに「これは何作目の作品なんだろうな」って思うことが多いです。
登場人物が同じ「館」に集まり,次々と殺人が起こっていくという,まさに「本格ミステリー」なんだよなぁ。
綾辻行人先生の「十角館の殺人」にあまりにも衝撃を受けてしまったので,これ以上の作品って出てくるのだろうかって思います。でもなぜかどの作品も引き寄せられ,あっという間に読了できます。
舞台となる「館」の見取り図,登場人物の紹介,そして作中の事件,アリバイなどなど,本格ミステリーファンにはたまらない作品だと思います。
ストーリーは,島田という人物の元に、鹿谷門実という作家が書いた「迷路館の殺人」が送られてきます。
これは昨年の4月に実際に起こった事件を基に描かれたミステリー小説。
島田がこれを読むところから話は始まります。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 パーティー開催の意図
3.2 次々と起こる事件
3.3 事件の真相と真犯人
4. この作品で学べたこと
● 本格ミステリーを読みたい方
● 「十角館の殺人」を読んだことのある方
● 犯人を推理しながら読みたい方
奇妙奇天烈な地下の館、迷路館。招かれた4人の作家たちは莫大な“賞金”をかけて、この館を舞台にした推理小説の競作を始めるが、それは恐るべき連続殺人劇の開幕でもあった! 周到な企みと徹底的な遊び心でミステリファンを驚喜させたシリーズ第3作、待望の新装改訂版。初期「新本格」を象徴する傑作!
-Booksデータベースより-
宮垣葉太郎・・有名な推理作家。今回の館のオーナー
清村淳一・・・推理作家で,宮垣の弟子の一人
須崎昌輔・・・推理作家で,宮垣の弟子の一人
舟丘まどか・・推理作家で,宮垣の弟子の一人
林宏也・・・・推理作家で,宮垣の弟子の一人
鮫嶋智生・・・評論家。
宇多山英幸・・宮垣担当の編集者。
鮫嶋智生・・・英幸の妻。
島田潔・・・・探偵? 探偵役?
1⃣ パーティ開催の意図
2⃣ 次々と起こる事件
3⃣ 事件の真相と真犯人
推理作家界でも一目置かれる存在の巨匠,宮垣葉太郎。本を描くことを辞め,何か別のことを考えている節の宮垣の元に,編集者である宇多山がやってきます。
そこで宮垣からある提案をされるのです。
「4月1日の宮垣自身の誕生日にパーティーを開催するから,是非参加してほしい」
宮垣の意図に疑問を感じながらも,宇多山は戻り,4月1日にまた来ることにします。
舞台は迷路館。本作品の冒頭を見ると,本当に迷路のような通路のたくさんある館のようです。
この迷路館,実はあの「中村青司」が設計した館です。もちろんあの「十角館」を設計した人物でもあります。
そしてパーティー当日。そこには多くの招待客がいました。
宮垣の弟子である作家の清村,須崎,舟丘,林だけでなく,鮫嶋という評論家,そして編集者の宇多山とその妻。
ただここに一人謎の男も登場します。島田潔という人物。
館シリーズをたくさん読むとわかりますが,島田は探偵のような役割です。
今回は宇多山が迷路館へ向かう途中,車のトラブルで困っていた島田を乗せてやってきました。そして迷路館の中へ入ります。すると突然,大広間である男性が血を吐きながら倒れてしまいます。
おっ? いきなり事件発生か? と思いきや,実はこれは作家である清村の冗談でした。
エイプリルフールだし,推理作家だからこんな冗談をしたのかもしれませんけど,こういう人物に限って,事件に遭うのではと思ってしまいますよね。
この後,宮垣の秘書である井野から衝撃の言葉が。。。
何と,主催者である宮垣が,今朝亡くなったというのです。
これもエイプリルフールなんじゃないの? って思ってましたが,主治医も今朝宮垣を看取ったと言います。
どうやら本当らしいです。宮垣は癌を患っていて,余命いくばくかという状況だったようです。
ただ警察には伏せておくようにと遺言があったらしいです。嫌な予感しますね。。。
ん~,一体今回のパーティーはどうなるんでしょう。
宮垣は秘書の井野に「自分の声を録音したカセットテープ」を遺していました。
ここには宮垣からのメッセージが入っているようです。
5日後まで、警察に通報してはならない。
その5日間のうちに館に滞在する弟子作家4人は『迷路館』を舞台とし,かつ自分が被害者となる殺人事件をテーマとした小説を書け。
そして遺産の半分は宮垣賞という文学賞に使い、残りの半分を弟子の中から1人を選び相続させる。
弟子4名は宮垣の自殺後5日間は迷路館から出ず,原稿用紙百枚の小説を書き上げ,宇多山,鮫嶋,島田による審査を受けること。
小説のテーマは探偵小説で、迷路館を舞台とした殺人事件とし、登場人物はパーティー参加者とすること。
被害者は作者自身とすること。原稿はワープロを使用すること。
宮垣自身の肉声だから,本物であることは間違いないでしょう。
本当に遺産相続のためにこのカセットテープを遺したのか。
それとも,何か特別な意図があるのでしょうか。
売れっ子作家の遺産ですから,相当なものでしょう。これに目がくらむ人間もいるはず!
迷路館にいる全員がいろいろな話を始めます。深夜遅くまで。まさに遺産相続会議のような様相です。
4人の作家はそれぞれ自分の作品を描き始めます。
そしてここで第一の殺人が発生します。
作家の須崎でした。彼はミノタウロスという応接室で発見されました。
鈍器のようなもので頭を殴られ,さらには紐で絞殺,斧で首がちぎれかけた状態で。
想像しただけでも恐ろしくなるような状況でした。須崎のワープロには,書きかけの小説が。。。どうやらその小説になぞらえての殺人のようです。
しかし気になるのは「なぜ首を切ったのか」ということ。ワープロでは描かれてなかったからです。
ん~,何かありそう。。。
第二の殺人が発生します。次は清村でした。
清村は入った部屋の電気を点けようと,スイッチに付いていた針山を触ってしまいました。
この針山にはニコチン濃厚液が塗ってあったようです。つまり「毒殺」です。
やはりワープロに書かれた内容になぞらえている模様。
それにしても,清村はなぜ空室である「メディア」という部屋に入ってしまったのでしょうか。
う~ん,これも気になるなぁ。自分の部屋は「テセウス」だったはずなのに,そこへは戻らなかった
そして,また殺人が発生します。第三の殺人です。
被害者は林でした。しかし,今回は林がワープロを打っている途中の文字がありました。
「wwh」という文字。ひょっとしてこれって,ダイイング・メッセージでは?
Windowsだと「ててく」。でもキーボードの配置はメーカーによって異なりますもんね。
普通のワープロではないのか。2つ連続で同じ文字が続く名前の人って,いないんだよなぁ。さすがに綾辻先生はそんな安易な描き方はしないか。。。
一体何を意味するんだろうか?
さらに4人目の犠牲者が。やはり作家の舟丘でした。
防犯ブザーが鳴り響き,島田たちは舟丘の部屋へ向かいます。
そこには頭を殴られ倒れている舟丘の姿が。。。
意識がもどりかけていたため,島田たちは医師でもある宇多山桂子を呼びにいきます。そこでたまたま部屋から出てきた鮫嶋とも合流します。
桂子は応急処置を施します。すると一瞬,意識が戻ります。
そして何かを指さそうとしている感じ。島田を向いているようにも見えました。
しかし結局意識は回復せず,亡くなってしまいます。
とうとう4人の作家がすべて亡くなってしまいました。
犯人は一体誰なのか。事件はこれで終わりなのか。
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島田はこれまでの「4つの殺人事件」について考えていました。
迷路館の中をもう一度調べてみると、密室となっていた林と舟丘の部屋には隠し扉のようなものがあったことがわかります。
これで密室トリックは崩れるわけですね。
さらに調べていくと、とんでもないものを発見するのです。
書斎横の寝室には、何と宮垣ではなく,秘書である井野の死体があったのです。
さらに隠し通路探してみると、寝室には地下に降りる梯子がありました。
地下に降りると、さらに隠し部屋があり、そこでは宮垣が自殺していたのです。
宮垣が実行し、最後に自殺するという線もなくはないですけど、
「遺産は後継者へ贈る」
と書かれている辺り、犯人は今も生きている誰かなのでしょう。
そして島田はとうとう真犯人を指摘します。それは鮫嶋でした。あの評論家の。鮫嶋の目的がわからない。
鮫嶋智生(ともお)。彼は、いや彼女は女性でした。
確かに「ともお」という呼び方は女性にもとれますよね。
では鮫嶋が犯人という根拠は何だったのか?
まず第一の殺人で「なぜ首を切ったのか」ということ。
これは、鮫嶋が犯行当時「生理」になっていて、その血が床に付着してしまったと。
それをもみ消すためにわざわざ斧を使って首を切ったわけです。
宇多山桂子も妊娠していたので、可能性的にはありますが。。。
これで女性が数名に絞られます。
第二の殺人で、清村がなぜ「空室」へ向かったか。
清村の部屋の前には「一角獣の仮面」が、空室には「獅子の仮面」があったんですけど、これが入れ替えられていたんですね。
迷路館という複雑な作りを利用し、清村は別の場所へ導かれてしまったのでした。
第三の殺人の「wwh」の件。これはワープロのメーカーの仕様で、変換すると「かがみ」となるようです。
確かに部屋の鏡の奥には秘密の通路が見つかりますが、これが何か決定打になったのかはちょっと疑問です。
ひょっとしたらミスリードのために用意されたのかもしれません。
そして第四の殺人。殺害された舟丘が瀕死の状態で指さした先。
最初は島田自身かと思いましたが、実はその先には鏡がありました。
当時の人間の配置から、そこにはあの「鮫嶋」が映っていたようです。
そして決定的なのは、島田たちがブザーの音で動き回った時、迷路の構造から、島田に最初に出くわした人間がいました。よく考えたら,それも鮫嶋でした。
いずれも決定的な証拠ではありませんが、ほとんどのことが「犯人は鮫嶋である」ことを物語っていました。
鮫嶋の目的はもちろん遺産です。彼女は実は宮垣の愛人だったようです。
鮫嶋には9歳になる子供がいますが、彼は知的障害を持っているようです。
どうしても遺産を手に入れ、自分の子供に受け継ぎたかったんですね。
最後に、鹿谷門実のことです。実はこれ「アナグラム」になっています。
・鹿谷門実「SHISHIYAKADOMI」
・島田潔 「SHIMADAKIYOSHI」
これに気づいた方もいるでしょうね。気づいた方,すごいなぁ。
つまり、冒頭の島田というのは、島田潔の兄で作家でもある「島田勉」だったようです。
なるほど、今回の事件自体がすべて,探偵役の島田潔が自分の兄に贈った「迷路館の殺人」だったというわけなんですね。
本作品を読みながら,やはり綾辻先生の作品には引き込まれるし,数々の伏線も張り巡らされていて,最後は納得でした。
1980年代の作品なので「これはどこかで似たようなトリックがあったな」って思ったりするところもありますが,それでもさすが本格ミステリー。
本当によく練られた作品だと思います。ネットを見ると,結構重箱の隅をつつくような指摘もあるようですけど,大事なのはやっぱり「枠組み」なのかなって思います。
読み手に多くのことを推理させ,ミスリードさせ,まるで読者を試しているような作品を描かれることが,綾辻先生の真骨頂なのかなって思います。
● 十角館の殺人同様の,大きな「枠組み」の中の作品だった
● 最後の真犯人の存在に驚いた
● 張り巡らされた伏線,ミスリードなどの圧巻の作品でした