「むかしむかしあるところに,死体がありました」の続編です。
実は,続編ということを知らずに本作品を先に読んでしまいました。
赤ずきん,シンデレラ,ヘンゼルとグレーテル,眠り姫,マッチ売りの少女など,誰もが一度は読んだことがある昔話をベースに,本格的なミステリーに仕上げるという作者の発想がとても面白いです。
話は現代風にアレンジしてありますが,昔話の良さを残しつつ,今の時代にあった話になっているので,読んでいて全く違和感がないんですね。
作者が苦心しながら描いたことを感じることができる作品に仕上がっています。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 赤ずきん探偵参上!
3.2 赤ずきん,事件を解決
3.3 昔話をベースにしたミステリーの面白さ
4. この作品で学べたこと
● 赤ずきん,シンデレラ,ヘンゼルとグレーテル,マッチ売りの少女が好きな方
● 昔話をベースにしたミステリーの面白さを知りたい
● 昔話と現代社会を融合した話を読んでみたい
日本の昔話をミステリで読み解き好評を博した『むかしむかしあるところに、死体がありました。』に続き、西洋童話をベースにした連作短編ミステリが誕生しました。今作の主人公は赤ずきん! ――クッキーとワインを持って旅に出た赤ずきんがその途中で事件に遭遇。「シンデレラ」「ヘンゼルとグレーテル」「眠り姫」「マッチ売りの少女」を下敷きに、小道具を使ったトリック満載! こんなミステリがあったのか、と興奮すること間違いなし。全編を通して『大きな謎』も隠されていて、わくわく・ドキドキが止まりません!
-Booksデータベースより-
赤ずきん・・・主人公。探偵役となって,いろいろな事件を解決
シンデレラ・・赤ずきんと一緒に王子の舞踏会に参加
ヘンゼル・・・魔女,継母の殺害に関わる
グレーテル・・ヘンゼルの妹。継母の殺害共犯
キッセン・・・オーロラ姫が眠る間,王国を護る宰相
エレン・・・・マッチを売って商売していたが,思わぬ展開に。。。
1⃣ 赤ずきん探偵参上!
2⃣ 探偵赤ずきん,事件を解決!
3⃣ 昔話をベースにしたミステリーの面白さ
① ガラスの靴の共犯者
ある日,赤ずきんはシンデレラと出会います。王子様の舞踏会へ向かうため,魔女バーバラに魔法をかけてもらい,きれいな靴を履いてかぼちゃの馬車に乗って城に向かいますが,その途中,ハンスという男性を轢いてしまいます。どうする,赤ずきん!?
② 甘い密室の崩壊
腹が減ったら人間を食べてしまう魔女を,ヘンゼルとグレーテルは共謀して窯に突き落として殺害します。そして今度はお菓子の家で,普段から仲の良くない継母の殺害も計画します。果たして二人は完全犯罪を成し遂げることができるのか?
③ 眠れる森の秘密たち
赤ずきんは,グーテンシュラー王国を訪れます。そこには眠り続ける美女がいました。100年は眠り続けるという王女。しかしその裏ではとんでもないことが起こっていました。一体この王国で何が起こっているのでしょうか?
④ 少女よ野望のマッチを灯せ
読みながら,マッチ売りの少女を思い出します。貧しい少女エレンは,あまり出来のよくないマッチを売ってくるように言われます。薄利多売のマッチ売りの少女エレン。しかし,エレンは少しずつ悪の道に染まってしまうんです。一体どうしたというのでしょうか?
旅をしながら事件に巻き込まれる探偵赤ずきん。
それぞれの話で赤ずきんは,探偵のように事件を次々に解決していきます。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
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① ガラスの靴の共犯者
赤ずきんとシンデレラは,自分たちが乗った馬車で舞踏会に向かっている時に人を轢いてしまったことがバレそうになり,逃げ出します。隠蔽工作を行った二人の元へ,王子がやってきます。これは「あの時の美女はあなただったのですね」という展開か,と思いきや意外な展開になりました。
この靴は王子が持っていたガラスの靴ではなく,犯人を示すガラスの靴でした。その靴にシンデレラの足がピッタリフィットしたのを見た瞬間,王子は言います。「この者を,逮捕せよ!」と。可哀そうだと思っていたシンデレラは,本作品ではとんでもない悪人でした。
それにしても,一時は赤ずきん本人も死体隠蔽に関わっていたわけで、純粋にハンスの轢き逃げの件が解決しなかったら,赤ずきんも共犯者になっていたのではないかという疑問が。。。
真相が解明できてよかったですね,赤ずきん。
② 甘い密室の崩壊
魔女を殺害し,無事に逃げ延びたヘンゼルとグレーテルの兄妹は,今度は継母をお菓子の家へおびき出し、殺害計画を実行します。この章は最初に犯人が判明しているという「倒叙法」で描かれています。
このタイミングで探偵赤ずきんが登場するのです。ヘンゼルとグレーテルの関係,兄妹だから仲が良いと思いきや,実はわずかにほころびがありました。赤ずきんは事件を解決します。
ヘンゼルがグレーテルに対してあまりにもいろいろなことを要求するので,グレーテルはうんざりしている感じでした。ヘンゼルの考えにグレーテルは嫌気がさしていたようですね。グレーテルがわざと犯人は自分たちだと匂わす証拠を残しているあたりに,この兄妹の微妙な関係に切なさを感じました。
③ 眠れる森の秘密たち
街で殺人事件が起きます。そしてそこには「眠れる美女」がいることがわかります。しかし彼女は消えていました。焼失した眠れる美女の謎。赤ずきんは彼女を見守るキッセン宰相らに会って話を聞きます。
登場人物の多さと,話の複雑さに少し混乱しました。美女が消えた理由が,ある男が王女が眠っていたベッドを「しょうもない理由」に使いたいことだったなんて。。。一国の王女に失礼極まりないこの人間は処刑されても不思議ではなかったと思いますが,そこは目を瞑りますか。
④ 少女よ野望のマッチを灯せ
エレンはマッチを擦って,自分が夢見ていることをマッチの炎の中に映し出してしました。そんな「自分の見たい夢を現実にすることが出来る」という力を受けたエレンは,とうとう叔父のマッチ工場を乗っ取ります。
えっ? どうしたの? 急に変貌したエレン。エレンはとうとう「私欲」が出てきてしまったのです。
夢を現実にする能力を使い,エレンの工場はどんどん儲かっていきます。
ここでようやく探偵赤ずきんが登場します。赤ずきん vs エレンの直接対決。
このマッチの力が,世の中の人々を麻薬中毒のように廃人にしてしまっていました。マッチの幻影に心を奪わてしまう人々。
実は赤ずきんの旅の目的はここにありました。自分の祖母を廃人同然にしたエレンをこらしめるためだったのです。これまでのエピソードで登場した魔女のバーバラなどが赤ずきんをサポートします。
デンマークの王様に目を付けられてしまったエレンは万事休す。ひたすらいい夢を見るために再びマッチを擦る姿はあの「マッチ売りの少女」のシーンを思い出させられ,同情したくもなりました。
どの話もよかったですが,特にお気に入りだったのは最後の「赤ずきん vs マッチ売りの少女」の対決です。
実際のマッチ売りの少女と本作品の設定にあまりにもギャップがあって,話の展開も今風にアレンジしているようだったので,楽しく読むことができました。
全4話のそれぞれの短編が,最後の話で収束するという構成には驚きました。
昔話の超有名キャラクターをミステリーの中で活躍させるなんて,その発想に感服です。
子供の夢を壊さないようにしながら,新しい物語を作るというのはかなり神経を使ったのではないかと思います。
昔話では主人公の人物が,赤ずきんの味方だけではなく,逆に赤ずきんの敵だったり,また犯罪に手を染めてしまったり,状況もさまざまでした。
赤ずきんとシンデレラの事件の隠蔽工作や,ヘンゼルとグレーテルの完全犯罪計画,マッチ売りの少女が経営者になって多くの人々を苦しめるなど,普通の物語では考えつかないようなストーリーを構成した作者の苦労を感じます。
今回のストーリーと,本当の物語との「ギャップ」が本作品を面白くさせているのだろうなって思います。
個人的には,もっと原作のストーリーを詳しく知っていれば,本作品もさらに楽しめたのではないかと感じました。
次は,前作の「むかしむかしあるところに,死体がありました」にチャレンジしたいと思います。
● 探偵赤ずきんが事件を解決していく面白さ
● オリジナルの作品をもっと知っていれば,さらに楽しめる作品である
● 本来のストーリーと今回のストーリーの「ギャップ」が本作品をさらに引き立たせている