「赤い砂」って何?
書店で表紙を見て興味がわいたのが購入したきっかけです。
世の中には多くの細菌やウィルスが存在して,それが人間へ感染し,多大な影響を与えることを,今のコロナ禍になって改めて実感するようになりました。
そして,それが人間の命に関わるものであれば本当に恐ろしいことだと思います。
最近では「サル痘ウィルス」が国内で確認されたなどの報道を見ると,これから私たちはどうなるのだろうと思ってしまいます。
これからも恐怖心を抱かせるようなウィルスがどんどん出てくるのでしょうか。
今回の話は,あるウィルスが人間に感染し,どんどん感染していくという,未来への警告のような作品になっています。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 自殺者多発の要因とは?
3.2 製薬会社への脅迫状
3.3 「赤い砂」の正体
4. この作品で学べたこと
● 本作品の「赤い砂」の正体は何なのか知りたい
● 正体不明のウィルスが人間に与える影響を考えてみたい
● ウィルスを管理する組織,製薬会社の役割とリスクを学びたい
男が電車に飛び込んだ。現場検証を担当した鑑識係・工藤は、同僚の拳銃を奪い自らを撃った。電車の運転士も自殺。そして、拳銃を奪われた警察官も飛び降りる。工藤の親友の刑事・永瀬遼が事件の真相を追う中、大手製薬会社に脅迫状が届く。「赤い砂を償え」――自殺はなぜ連鎖するのか?
-Booksデータベースより-
永瀬遼・・・・主人公。今回の事件の捜査をする刑事
工藤智章・・・警視庁の鑑識係 巡査部長
有沢美由紀・・国立疾病管理センター職員
阿久津久史・・国立疾病管理センター職員
西寺信毅・・・西寺製薬社長
西寺暢彦・・・信毅の息子
1⃣ 事件発生の要因とは?
2⃣ 製薬会社への脅迫状
3⃣ 「赤い砂」の正体
ある男性が電車に飛び込み,自殺したところから話は始まります。
亡くなった男性は阿久津といい,国立疾病管理センターの職員でした。
「新しい感染症を調査し,原因となるウィルスなどの予防治療法の研究や検査を行う」
このセンターは上記を目的とする組織らしいです。
センター職員だった阿久津の妻に問い詰めても自殺に対して思い当たる節がない。
でもその理由が何かわけがあるようなのですが,「思い詰めて」という感じでもないんですね。
ただ気になるのは,電車についていた遺体の一部が付着していて,それが「赤褐色」だったという表現です。
ん~,なんだろう。タイトルにもなっているからこの色が「赤い砂」と結びつくのだろうか,ということを想像しながら読むことになります。
そして今度はその電車を運転していた運転士も自殺してしまいます。
この二つには何か関連性があるのでしょうか?
そんなことを考えているうちに,さらに今度は捜査していた警察官も自殺してしまいます一体,これらの自殺には何かしら関係があるようで,とても不気味です。
自殺した警察官は工藤と言って,主人公の警察官である永瀬の親友でした。
彼の死にも何も思い当たることがない。普段も悩んでいた様子もなかった。
彼は親友の自殺に疑問を感じ,一連の自殺のは何らかの関係があるのか,調査を始めるわけです。
3年後,ある大手製薬会社である「西寺製薬」に脅迫状が届きます。
「赤い砂を償え」
薬品なのか麻薬なのかわからないが,赤い砂がこれらの事件に関係していることがわかります。
この脅迫状は誰によるものなのか,そしてその真犯人の目的は何なのか。
ここで,どうやら阿久津という男がその「赤い砂」を盗んだようなんですね。
一体何のために?
ここで,世界の感染症について調べてみました。
現在も致死率の高い感染症は世界で流行しています。
僕自身にとって一番記憶にある恐ろしい感染症は僕にとっては「エボラ出血熱」です。
感染症の類型について調べてみると下記のような分類になるようです。
第1類 | エボラ出血熱・コンゴ出血熱・ペスト・南米出血熱など |
---|---|
第2類 | 結核・重症急性呼吸器症候群(SARS・コロナウイルス)など |
第3類 | コレラ・細菌性赤痢・腸管出血性大腸菌感染症など |
第4類 | デング熱・サル痘・マラリア・狂犬病など |
第5類 | インフルエンザ・麻しん・クラミジア感染症など |
ここに挙がっているのはほんの一部で,世の中には本当にたくさんの感染症があります。
ただ,伊岡先生がこの作品を描いたのがエボラが流行する前らしいので,いろいろな感染症とその原因となるウィルスについてリサーチして描いたのだろうと思います。
伊岡先生,すごいです!
実は,この赤い砂は「ニューアレナウィルス」がモデルとなっています。これは実在するウィルスで,アフリカを起源としたウィルスらしいです。
第1類の部分に「南米出血熱」がありますが,この原因がアレナウィルスらしいのです。
本作品は,恐ろしいウィルスを想定して描かれていることになります。
では,なぜ製薬会社に脅迫状が届いたのか。
そこには意外な理由がありました。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
👈クリックするとネタバレ表示
赤い砂の正体とは。やはり凶悪なウィルスでした。
このウィルスはHIVを撃退する可能性のあるウィルスであると判明しました。
製薬会社はこのウィルスを使えばHIVを治すことができると踏んだわけです。
しかし,実際には恐ろしいウィルスだったのです。
① 感染すると,ウィルスが呼吸器,肺をめぐる
② 血液で循環して最終的には脳の前頭前野へ侵入する
③ 初期症状は軽い風邪くらいの症状が出る
④ 約二週間後に自傷行為,自殺行為の二次症状が発生
しかも,微量でも皮膚に触れてしまえば罹ってしまうという,感染力の強いウィルス。
だから近くにいた人たちがどんどん自殺していったんですね。
そして,そのウィルスを手に入れ,そのワクチンを製造し利権を得ようとしたのが「大寺製薬」でした。
そのウィルスを不正に入手し,国立疾病管理センターの阿久津が持ち出したのです。
阿久津は西寺製薬に指示されて盗んでいたのでした。
そしてどんどん感染し,それを調査していた警察官まで亡くなったわけです。
今回の脅迫事件は,実は同じ企業内で起こっていた抗争でした。
社長である父親を恨んでいた息子が,自分の父親の企業に対して脅迫状を送っていたのです。
まさかの社長の息子が父親の企業を脅迫しているとは。。。
永瀬は大変な思いをしながら真犯人を突き止めたんですけど,犯人が赤い砂を仕込んだコーヒーを飲んでしまうんです。
永瀬は覚悟します「自分は近いうちに死ぬのだ」と。
最後は,事件をほぼ解決した永瀬が,自分自身が感染したと思い込み,山中に身を隠すのです。感染を拡大しないために。
その時の永瀬の心境は,絶望感でいっぱいだったのではないでしょうか。
しかし同時に,このウィルスの抗生剤も完成していました。
彼とともに調査していた美由紀は,永瀬の居場所を探し出し,完成した抗生剤を飲ませるところで終わります。
その後,生き残ったのかどうか。そこまでは描かれていませんでした。
永瀬はウィルスに翻弄され続けたので,最後くらいはハッピーエンドであることを祈りたいですね。
今回の作品は,現在のコロナ禍のさらに上を行くウィルスが日本で蔓延したら。。。と考えさせられる作品でした。
やはりすごいのは,この作品はエボラ出血熱がニュースで話題になった頃に描いた,伊岡先生の渾身の一作であるということです。
もしこの凶悪なウィルスが日本に上陸したら,私たちは一体どう対応していけばよいのでしょうか。
そんな「危機感」を感じさせられる貴重な一冊だと思います。
● 世の中には恐ろしいウィルスがまだまだ存在するということ
● ウィルスを管理する組織が本来の目的を逸脱した行動をとると,多大な影響を及ぼしてしまう可能性がある
● 2000年前半でこの作品を描いた作者のリサーチ力に感服しました