2016年,恩田陸さんの直木賞受賞作品です。
タイトルだけでは,作品が「ピアノコンクールの話」だとは思いませんでした。
読めばわかるんですけど,ピアノコンクールに出場する人たちの心理,プレッシャー,努力の量,他のピアニストとの関係,いろいろなことが凝縮された作品になっています。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 登場人物
4. 本作品 3つのポイント
4.1 ピアノコンクールの舞台
4.2 風間塵という少年
4.3 本当の「GIFT」とは
5. この作品で学べたこと
● ピアノコンクールやピアニストのことをもっと知りたい
● 中心人物となっている風間塵は一体何者なのか知りたい
● 本作品での「GIFT」とは一体何なのかを知りたい
近年その覇者が音楽界の寵児となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。自宅に楽器を持たない少年・風間塵16歳。かつて天才少女としてデビューしながら突然の母の死以来、弾けなくなった栄伝亜夜20歳。楽器店勤務のサラリーマン・高島明石28歳。完璧な技術と音楽性の優勝候補マサル19歳。天才たちによる、競争という名の自らとの闘い。その火蓋が切られた。
-Booksデータベースより-
1964年生まれ 早稲田大学教育学部国語国文学科卒業
生命保険会社に入社,その後に作家としてデビューされました
主な受賞歴
吉川英治文学賞新人賞・2005年本屋大賞(夜のピクニック)・日本推理作家協会賞(ユージニア)・山本周五郎賞(中庭の出来事)・直木三十五賞(蜜蜂と遠雷)など
恩田陸さんは,かつてピアノを習っていたこと,そして実際にコンテストに参加したピアニストからいろいろな話を聞くうちに,これを作品にしたいと思うようになったということみたいですね。
以前から構想はあったらしいんですけど,それから約12年後に描き上げた,まさに渾身の一作です。「盲目のピアニスト」として世界的に有名になった「辻井伸行」さんという僕が大好きなピアニストがいます。
やはり一度はそういうコンクールやコンサートに行ってみたいと思わせられるくらい,コンクールのことだけでなく,音楽のすばらしさや会場の雰囲気などがとてもよく伝わる作品でした。
風間 塵・・・養蜂家に育つ。有名ピアニストのオフマンに師事する
栄伝亜夜・・・天才少女。母の突然の死でピアノが弾けなくなる
マサル・・・・日系人で,天才ピアニスト。日本在住時に亜夜と面識あり
一体誰がこのコンクールを制するのかもポイントになる面白い作品になっています。
1⃣ ピアノコンクールの舞台
2⃣ 風間塵という少年
3⃣ 本当の「GIFT」とはとは
世界には多くのピアノコンクールがあるようです。
有名なのは「ショパン国際ピアノコンクール」これは中山七里さんが小説でも描いているコンクールです。
他にも「チャイコフスキー国際コンクール」,そして辻井伸行さんが審査員を魅了し,優勝した「ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール」など,数多く存在します。
コンクールに優勝すれば,将来が約束されるのでしょうか。
例えばオーケストラとの共演ができるようになったり,レコード会社からCDを出したり。
確かに辻井さんもオーケストラと共演,つまりソリストとなったり,コンサートを開いたり,CDを出したり,精力的に活動されていますよね。
それだけ世界的にも有名なコンクールで優勝すれば,将来大きく飛躍できるチャンスが広がるということなのでしょう。
多くのピアニストがそのチャンスをものにしようと必死で練習し,プレッシャーを乗り越えようとするわけなんですね。
今回のコンクールは,「浜松国際ピアノコンクール」がモデルになっているそうです。
審査員にもプレッシャーはあるのだなと思いました。
彼らはピアニストを審査しながら,聴衆からは,いい演奏をしっかりと審査・評価できるのかと,まるで聴衆から審査されることもあるんですね
とにかく,このコンクールで優勝することを目標に,参加者が火花を散らすわけです。
一次審査,そして最終審査に残って栄冠を勝ち取るのはどのピアニストなのか,とてもワクワクする展開となります。
今回のコンクールに風間塵という少年をコンクールに送り込んだのは,亡くなった恩師で有名なホフマンという人でした。
「僕からのGIFTだよ」「僕は爆弾をセットしておいたよ」と。
この少年の存在が一つのアクセントを付けている印象があります。
メンタル的に問題のあった亜夜に対して,この風間の影響はすごかったようです。
過去に途中で逃げ出し,次こそは復活しなければならないというプレッシャーを受けていましたが,彼の演奏を聴いて,彼女のメンタル面が劇的に改善するのです。
本番では見違えるような演奏を披露します。
その亜夜の演奏に今度はマサルが触発され,これもすばらしい演奏を披露する。
音楽というのは人の心理を変えてしまうくらいのものがあるのでしょうか。
しかし,風間自身の演奏への評価は真っ二つでした。
風間の演奏は,これまでの常識を覆すようなパワーがあるのですが,審査員によってはそれを良しとしない人もいたわけです。
最初は風間が優勝するんじゃないかと思ってましたが,途中から「ん?」と思わせられる箇所がいくつかありました。
審査員によって,演奏を評価するものと,そうでないもの,彼の演奏への評価が二分されているという印象を持ちました。
審査員にもそれぞれの考え方や価値観があるのでしょう。
一体誰が優勝したのか,実際に本を読んでみてください!!
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
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ホフマンが「GIFT」として送り出した風間少年。
彼の演奏は,これまで数多のピアニストの演奏にはない,とても大切なものを伝えること。
そして,これまであった良きものを再認識させるという,他の人間には真似できないことをやってのけました。
つまりホフマンは,音楽界への挑戦というわけでなく,これからの音楽界に大きな良い影響を与えるための,まさに「ギフト」を遺したわけです。
風間,亜夜,マサルのうち誰が優勝したかは敢えて書きません。
でも一番思うのは,自分のやっていることが誰かのためになることほど嬉しいことはないということです。
他の誰の成し遂げなかったことを成し遂げる,オンリーワンでありたいと思うのは決して僕だけではないと思います。
そしてそれが人の心を動かすことができるものでありたい。
ピアニストという人々に限らず,多くのの仕事は
「困っている誰かのために,お客様のために,それを解決すること,役に立てること」
そこに尽きるのかなと思います。今回は,ピアニストという職業を通して,誰かのためになることをやり続けることのすばらしさを学べたことです。
他の誰の成し遂げなかったことを成し遂げ,オンリーワンになりたいとみんな思っているのではないでしょうか。
ふと,初心を忘れてしまっていると思うことがあります。
誰かに認められたいとか,技術を高めたいとか,いつの間にそんなことを考えてしまっていることがあります。
やはり,誰かのために役に立ちたいと思うことのやりがいがモチベーションにつながるし,誰がが喜んでくれればそれ以上に嬉しいことはないと思います。
大切なことは「利他的である」ことだと思うのです。
● コンクールに出場したピアニストは,良くも悪くも他のピアニストの演奏に影響を与えられる
● 誰かのために役に立つこと,伝えられることこそがやりがいやモチベーションにつながる
● 何のために今の自分の仕事があるのか,初心に帰ることも必要
いつか誰かに感動を与えられることを実現したいと思います。