山本文緒先生の作品はほとんど読んだことなく,今回が初めてでした。
先生,もうお亡くなりになってるんですよね。
一度だけ,僕の母親の文庫の中に「プラナリア」を見つけて,途中まで読んだことはあります。
あの頃はまだ「読書の習慣」に目覚めていない頃だったので,あの2000年の直木賞受賞作をなぜ最後まで読まなかったのかが悔やまれます。
本作品は「島清恋愛文学賞」「中央公論文芸賞」を受賞しています。受賞した年に「膵臓がん」でお亡くなりになりました。本当に残念です。
本屋で「気になるタイトルだなぁ」と思ってましたし,SNSでも話題になっていました。今回ようやく読むことができました。
ストーリーは,ある女性がベトナム人の男性と結婚披露宴を行うシーンから始まります。壮大な仕掛けがあったことに気づくのは最後の最後のです。
是非,読んでもらいたいと思います。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 都と貫一との出会い
3.2 人それぞれの結婚観
3.3 驚きの結末
4. この作品で学べたこと
● 結婚観,人生観について考えてみたい
● 最後の最後に唸ってしまうような作品を読んでみたい
● 「自転しながら公転する」の真の意味を考えたい
母の看病のため実家に戻ってきた32歳の都(みやこ)。アウトレットモールのアパレルで契約社員として働きながら、寿司職人の貫一と付き合いはじめるが、彼との結婚は見えない。職場は頼りない店長、上司のセクハラと問題だらけ。母の具合は一進一退。正社員になるべき?運命の人は他にいる? ぐるぐると思い悩む都がたどりついた答えは――。揺れる心を優しく包み、あたたかな共感で満たす傑作長編。
-Booksデータベースより-
与野都・・・・主人公。ショッピングモールのアパレル勤務
羽島貫一・・・ショッピングモールの回転寿司屋に勤務
与野桃枝・・・都の母。更年期障害を患っている
ニャン君・・・ベトナム人で,兄の事業の手伝いをしている
1⃣ 都と貫一との出会い
2⃣ 人それぞれの結婚観
3⃣ 驚きの結末
先に書いたように,本作品の冒頭は結婚式の披露宴です。ある女性がベトナム人と結婚したようです。このシーンが,最後の最後に「あっ!」と言わせられますが,それは最後にとっておきましょう。
そして話は過去へ戻ります。
主人公は与野都という女性で,彼女はかつては東京で働いてしました。
ところが母親の桃枝が重度の更年期障害を患ってしまい,仕事をしている父親だけでは心配なため,故郷の茨城県牛久市に帰ってきました。牛久大仏が見下ろすこの町にあるアウトレットモールにあるアパレルに勤務することになりました。といっても正社員ではなく,契約社員として。
都はある男性と出会うことになります。羽島貫一です。
貫一は同じアウトレットモール内の回転寿司屋で働いていて,台風接近で大雨の日に,困っている都に声を掛けます。これが都と貫一の初めての出会いでした。
この貫一という人物,昔はヤンキーだったようで,言葉は少々荒いし,行動もかなり豪快。
都も圧倒されているようでした。でもどこかしら優しさも感じるキャラクターです。
貫一はあっけらかんとしている反面,都はどこか繊細で,本当に「結婚」という二文字を意識している感じです。
もちろん都も過去には付き合った人物もいたし,今も更年期障害で苦しんでいる母親を看ています。
そんな都を見て貫一は次のようなことを言います。
自転しながら公転する。
地球は秒速465メートルで自転して,その勢いのまま秒速30メートルで公転している。
そして,一瞬たりとも同じ軌道を辿ることはない。
貫一もこんなことよく知ってますよね。そして彼特有の「人生観」を持っているような気がします。
その後,都は貫一の寿司屋で「ニャン君」というベトナム人と出会います。
ニャン君は都のことを気に言っているようです。貫一と仲良くなっていく中で,このベトナム人とも接近するわけです。ん? ひょっとして,これが冒頭のベトナム人? そんなことを想像しながら読み続けることになります。
一方,都の母親である桃枝は,本当に更年期障害が本当にひどいようでした。
都はフラフラしているわけではないと思うんですけど,都の父親は
「母親の面倒をしっかりみろ!」みたいなことを話します。この都の父親はどこか古風というか古い考えの持ち主で,
「経済的に父親が家庭を支え,その男をサポートするのが母親のしごと」
というイメージが強いようです。そんな時代はとうに終わっているようにも思うんですが。。。
だから中卒であり,正社員でもない貫一のことを認めないのかな。
というのも,一度,母親の勧めで,貫一が都の家に招待されます。
桃枝は都が気に入った男性なら誰でもよいという感じなんですけど,桃枝の夫は違います。中卒で,生活が安定していないことに疑問を感じている様子。
でも都自身は半信半疑。貫一のことを好きだけど,経済力を考えると一歩踏み切れない。
こういうのって,その人の生き方にも通じるところがあるような気がします。
好きで結婚して,もし何かがあったらその時に軌道修正をすればよいという人もいれば,最初から経済力ありきの考えての人もいるかもしれませんね。
自分の娘を嫁に出すことを考えた時,もし自分が都の父親の立場だったら,と考えると同じように思うかもしれません。僕自身には息子はいますが娘がいないのでわかりませんが。
どうやら都の両親は,全く正反対の考え方の持ち主のようです。
ある日,貫一はバイト代を使って都のためにネックレスを買います。
一見高価そうなネックレスですが,都がネットで調べてみると,同じデザインのものが相当高い。
はっきりとは書かれてませんが,文章の表現からおそらく数十万円はするでしょう。確かに付き合った女性の喜ぶ顔が見たくてサプライズでプレゼントを買うというのは,何か懐かしさを感じますね。
ところがこれに都が怒り出します。えっ? なんで怒るの? 嬉しくないのでしょうか。
「こんな高いものに,今お金を使うべきではないでしょう!」
みたいなことを言うのです。結婚指輪でもないのにこんな高価なものはもったいないと。
これどうなんでしょう。この辺りが男性と女性の価値観の違いなんでしょうか。貫一はそれを言われても「じゃ,返してこようか?」ってあっけらかんに言っているけど,心の中では複雑だったんじゃないだろうか。
わかるなぁ,貫一の気持ち。ちょっと驚きました。
逆に言えば,都は結婚を前提に付き合っていたということなんでしょうか。
そう言いながらも,貫一が中卒で,経済的に安定していないというところで結婚を踏みとどまっている感じもあるし。
きっと,自分の年齢とかも関係してくるんだろうなって想像してしまいます。
ん~,難しい。。。女心。。。やはり「生活」というものを意識するのが女性なのでしょうか。
都の女友達の中にも,貫一のことを「中卒回転寿司野郎」と言う人物がいたり,都の心を惑わせている。描き方の問題かもしれませんが,貫一は本当にいいやつで,きっと都と貫一だったらうまくいきそうな気がするんですよね。
普通,苦しい人々を助けるために,仕事を投げうって,災害ボランティアに行くという選択をするのは正直すごいと思いました。
しかし都の父親はこの部分に対して反感を抱いていたようですね。同じ男性でも,都の父と貫一では性格も全く逆。
「未来のない男に溺れて時間を無駄遣いするな!」
ん~,貫一かわいそう。。。こんなことを言われた都は結局どうするんだろう?
ただ,都の気持ちもわからなくはない。貫一はあまりにもお金に無頓着な部分がありそうだし。
本作品で書かれている,都の結婚観の表現が印象的です。
結婚を考えないのであれば、貫一はいい恋人だ。
しかしこの先、結婚というものをまったく考えずに生きていけるという気がしなかった。
結婚しないで一生を過ごす。そういうこともあるかもしれないと思いつつも、心底それを恐れていた。
いつか両親をなくしたときに、兄弟のいない自分は誰も身内がいないまま一人で年老いていくことになる。
それを思うと妥協してでも結婚したいというのが本心に近かった。
この都の考えの答えを見た気がしました。となると,やはり冒頭のシーンが思い浮かぶのです。兄の事業を手伝い,経済力もある「ニャン君」のことが。。。しかし,話は思いもよらない結末を迎えます。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
👈クリックするとネタバレ表示
貫一と都の別れがやってきます。かつて,無免許で運転したことが判明してしまったのです。
貫一は都から完全に信用を失ったようです。都は連絡先を消し、さらに顔を合わすこともしなくなります。
あぁ,結局別れてしまうという展開なのかぁ。。。。
都はそれ以降,仕事に没頭し、婚活も始めるようになります。、
でもどこかで貫一から連絡を期待して待っている雰囲気もあるんですよね。
そんな都をみた女友達が指摘します。
「都さんは貫一からの連絡を待ち焦がれているんです。でも連絡はこない。それに失望していて悲しいだけなんです」
確かに今の都を見ているとそんな気がします。やっぱり貫一のことが忘れられない。都は貫一の気持ちを知ろうと,何と「ボランティア」に参加します。
ところがその途中,あまりのハードさに倒れこんでしまいました。
「こんなハードな場所で貫一はボランティアをしていたのか」
善行を行うには強さがいることを知った。
今日あった様々な経験を、見たものを、言われた言葉を、話したい人はひとりしかいなかった。
そして自分の何十倍も濃厚な体験をしたであろう彼の話を聞いてみたいと都は思った
都は,貫一の強さをここで感じるのです。そして貫一と都の二人は再会を果たします。
そして話は最後のエピローグのシーンへ移ります。
女性とベトナム人男性との披露宴のシーンでした。あの冒頭のシーンですね。僕自身は完全にこの女性が「都」だと思い込んでました。しかし違いました。
彼女の父親が,披露宴の客たちに寿司を振る舞っている
えっ,これひょっとして貫一のこと? ということはこの女性は。。。
実は貫一と都の間に生まれた娘である「みどり」でした。
あぁ,貫一と都は結婚してくれたんんですね。よかった。。。
これが一番のサプライズでした。貫一と都が幸せに暮らしている姿が目に浮かぶようでした。
「自転しながら公転する」先にも書きましたが,人生,同じ場所にいるということ,同じ道を辿るということは,余程のことがない限り,無いのだろうと思います。
常に何かを考え,良いことが起こることもあるし,悪いことに出くわすこともある。
先のことを考えて不安になることもあるし,そんなこと考えてもしょうがないではないかと考えることもある。いろいろな経験をしながら,そして年齢も重ねながら,多くの人に出会い,そして支えながら生きているということを考えさせられました。
自転をしながら公転するという当たり前の言葉にずっしりとした重みを感じます。
最後に「いい人生だったなぁ」と思えるようになりたいですね。
● 「自転しながら公転する」というタイトルの深みを感じさせられました
● これまでも,これからも同じ道を歩むことはない
● 人生観,結婚観というものは,環境は年齢によっても変化する