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【背中の蜘蛛】誉田哲也|警視庁総務部が隠すスパイダーとは

背中の蜘蛛

2020年の「直木賞候補作」です。

誉田先生と言えば,やはり「ストロベリーナイト」を思い出します。「姫川玲子シリーズ」ですね。

本作品はそのシリーズではないんですけど,直木賞にノミネートされたということで購入しました。

残念ながら受賞は逃してしまいました。ちなみにこの年の受賞作は,以前本ブログでも投稿しました呉勝浩先生の「スワン」でした。

直木賞の大物作家先生の評価の中で「背中の蜘蛛」を一番評価されたのが宮部みゆき先生だったようです。評価する側の考え方もいろいろということですね。

スワンと勝負したということで,僕としても確かに甲乙つけ難い二作だなと思いました。

やはり,人によって作品の捉え方も違うし,賛否両論なのかなという気はします。

僕自身がITに興味があるし,警察の捜査の深い部分を知ることができたという意味では,良作だと思いました。

未来の日本社会を描いているような,少し恐ろしくなるような作品でもあります。

こんな方にオススメ

● ネット・通信などで監視される社会について知りたい

● 「蜘蛛の背中」の真意を知りたい

作品概要

東京・池袋で男の刺殺体が発見された。警視庁池袋署刑事課長の本宮は、捜査の過程で捜査一課長からある密旨を受ける。その約半年後、東京・新木場で爆殺傷事件が起きる。やがて容疑者が浮上するが、捜査に携わる警視庁組織犯罪対策部の植木は、その流れに違和感を抱く。そしてまた、管理官となった本宮も違和感を覚えていた。捜査の裏に、いったい何があったのか――。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

本宮夏生・・・主人公。警視庁捜査一課管理官

上山章宏・・・警視庁総務部情報管理課運用第三係係長。かつて本宮と一緒に仕事をしていた

植木範和・・・警視庁組織犯罪対策部の警部補

國見健次・・・第三係統括。上山の上司

本作品 3つのポイント

1⃣ 爆破事件発生

2⃣ 運用第三係の役割

3⃣ 「スパイダー」を駆使する人物

爆破事件発生

西池袋で浜木という男の刺殺体が発見されます。容疑者と思われる男は黒っぽいスーツを着ていた模様。犯人これについて,警視庁池袋署の本宮はある日、捜査一課長である小菅から「変な依頼」をされます。

「内密で,浜木名都の過去をあらってほしい」

つまり,被害者の妻の過去に何かヒントがあるということを小菅は本宮に伝えるのです。

本宮は疑問に思いながらも,小菅の言う通りに捜査を行います。この名都は,清水という男と不倫をしていたようなんですね。

浜木は清水を尾行していたんです。しかし逆に清水に刺されてしまったと。事件は解決しました。

第三者からのタレコミがあったという小菅ですが,本宮は何か疑問を感じているようです。
実は,このことが本作品の大きなポイントとなるのです。

森田一樹という,禁止薬物の売人がいました。覚せい剤,コカイン,大麻,MDMAなどなど。この捜査をするのが警視庁組織犯罪対策部の植木と佐古。麻薬森田を尾行をすると新木場へたどり着きます。ここでコンサートがあるようです。ここで密売か?

そして,森田が地下にあるコインロッカーにカギを差し込み,何かを取りだそうとした瞬間,爆発が起きます。

佐古は即死,見張っていた植木も爆発に巻き込まれます。爆発しかし植木は何とか肘の骨折などの重症を負いますが,何とか命は救われました。

警視庁総務部情報管理課の運用第三係。ここでは多くのPCがあり,そこでは「スパイダー」というソフトも動いているようです。

このソフト,インターネット上の情報をAIによって分析,監視するものみたいなんですね。

これがタイトルの「蜘蛛」という言葉にもつながるのでしょうか? そして,このソフト,どこまで監視できるのでしょう。スパイダー「SSBC」でもわからないことが分析できてしまうのか。

捜査支援分析センター(SSBC)とは

2009年に警視庁刑事部に設置された犯罪の広域化や電子化に対応した即応部隊である。

電子機器の解析や捜査支援システムより得られた捜査情報の分析,防犯カメラによる画像の分析など,捜査員の支援を行う。

ただ,こういう組織でもたどり着けないような,何かもっと深いところに重要なことが隠されている感じがします。

それが一体何なのか。大きなポイントです。

運用第三係の役割

運用第三係,いわゆる「運三」には,國見や上山という人物が在籍しています。特にこの上山という人物は,本宮とも面識があるようです。

上山を始め,この「運三」自体がどうも何かを隠しているようなんですよね。それが何なのか。。。本宮もその秘密に迫ろうとしますが,なかなか本宮も踏み込めない。本宮どうやら今回の話は,このネットワークや通信を監視するという,もし日本国民が知ったらとんでもないことになるという話のようです。

「ダークウェブ」という言葉が登場します。みなさんはご存知ですか。

ダークウェブは,要は通常のウェブではなく,アクセス権がある人間しか入ることができないネット上の空間のことです。

その秘匿なネット空間を使って,非合法的な取引がなされています。偽造パスポート,偽造免許,偽札,そして拳銃や爆弾まで。。。ダークウェブこれは物語の話ではなく,現実にある話ですけど。もちろん僕自身は入ったことはありません。

ここで「マルC」という言葉が登場します。運三のみが使用している言葉のようです。

「マルB」というのは暴力団のことですけど,今回は「マルC」とは一体何なのか。

「スティングレイ」という,アメリカの企業が開発した,携帯端末の盗聴や追跡ができるソフトがあるという情報が入ります。

スティングレイは「アカエイ」という意味だそうです。海の生き物,つまりSEA。つまり「マルC」というのは,スティングレイにて分析されたものを指すということです。

そのスティングレイを真似て作成されたソフトがあった。それが「スパイダー」です。ということは,違法な捜査をしているということ?

このスパイダーの運用当時,ソフトには「バグ」があったようです。バグというのはソフトの不具合のこと。

かつてそのスパイダーに関わり,なぜか警察を辞職した人物がいたのです。それが田辺理という男でした。田辺警視庁公安部は,この田辺をマークしているようです。田辺を尾行し,おかしな行動をしないか監視しています。しかし,田辺の懐になかなか飛び込めない。

ただ,公安は何か違和感を感じているようです。逆に,田辺は公安が尾行していることもお見通しの様子。田辺は何かを企んでいそうです。。

上山に聞けば何かわかるかも知れない。本宮は上山の部署に連絡しますが,異動になったと。。。異動本宮は「ひょっとすると上山は重要な何かに関わっているかもしれない」と考えます。つまり,スパイダーを使って捜査を行っているということを。

先に書いたように,スパイダーというソフトができることは,日本国民の通信傍受を分析です。そんな非国民的なことに知り合いの上山が関わっているとはどうしても思いたくない。

しかし本宮は上山と直接会うことにするのです。

「スパイダー」を駆使する人物

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本宮は上山を待ち伏せます。そこに現れた上山は本宮を見て飛び上がるほどに驚きます。かつて一緒に仕事をしたことがある二人の再会。

本宮の声を聞いただけで,十中八九,上山は今後のことを覚悟しているようでした。本宮には嘘は付けない。ついたとしてもすぐにバレてしまう。本宮と上山徐々に核心に近づいていく本宮。しかし本宮も自責の念を持っていました。先に書いた小菅のアドバイスで犯人を捕まえたことです。その情報はまぎれもなくスパイダーから得たモノ。

つまり,本宮は「国民から反感を買う」行為に手を出してしまっていたのです。

本宮は上山の敵ではない。むしろ,同じ穴の貉なのかもしれない。

アメリカでかつてあった事件「スノーデン事件」後,アメリカは国家による完全な監視体制を築いています。

スノーデン事件とは

米国家安全保障局(NSA)がテロ対策として極秘に大量の個人情報を収集していた。元NSA外部契約社員のエドワード・スノーデンがそれを暴露した事件

NSAという組織は,稀に警察小説に登場する組織でもあります。

NSA(国家安全保障局)

通信傍受・盗聴・暗号解読などの「信号情報」活動を担当する国防総省傘下の情報機関。

上山は,一歩間違えれば,いや実際にはこのスノーデンと同じようなことに足を踏み入れているわけです。それは本宮も同じ。では,上山の今の目的は何なのか。

ここで田辺の存在が重要になってきます。

実は田辺は「スパイダー」に「バックドア」を仕掛けてました。バックドアとはIT用語で,コンピュータへ不正にアクセスできる裏口のようなものです。

つまり,自分が遠隔操作で「スパイダー」を操れる仕掛けを施していたのです。上山は,田辺がなぜそんな行動に出たのかを探っていたのでした。調査田辺の動機とは。実はかつて田辺には付き合っていた女性がいました。富永明与という女性です。

彼女はかつてヤクザの子供を身ごもった経験がありました。警察はなぜそのことを知ったのか。それを調べたのが「スパイダー」でした。運三のメンバーの誰かがスパイダーを使って明与の過去を調べたのです。

結局,田辺は仲間のせいで明与と別れることになった。その復讐だったのです。ただ,それ以外にも動機がありました。それは「スパイダー」に対する復讐でもあったのです。

この世にあってはならない悪魔の装置を破壊する。

国民一人ひとりの背中に張り付いている蜘蛛をまとめて引っ剥がしてやる

田辺の動機はむしろ,スパイダーをなくすことにあったのです。本宮の敵は,上山でもなく,田辺でもなく,運三の統括である「國見」でした。

国家には軍事費というものがあって,その規模によって戦闘力や防衛力が決まります。

しかし,サイバー攻撃はそうとは限らない。小さな国家であっても,技術力のある人間がたくさんいれば,強国と対等に戦えるわけです。サイバー攻撃ネットワーク上を流れるデータ,つまりインターネット上のデータやメールなどを解析し,監視するという恐ろしい部隊。

世の中にはこんなことを実際に行っている機関があるわけなのか。

日本の通話やネットでのやりとり,SNS,メールなどもすべてアメリカから監視されているのでしょうか。

そして,本作品の一番のポイントは,その監視方法を日本でも行っているという事実でした。

フィクションだとは思いますが,でもこれって,現在の日本が隠蔽していることに対する警告なのかと思いました。または,将来への警告なのか。

自分の通話が,誰かにデータとして格納され,分析されてしまうという恐ろしいこと。

特に悪いことをしているわけではないので,別に聞かれてもいいと言えばそうなんですが。。。盗聴それを嫌う人は確実にいるはずですよね。よく言えば犯罪の早期発見,早期解決,抑止力。

しかし,悪く言えば,世の中の一般市民のプライバシー侵害。どこにいようと,何を話そうと,全てお見通しの世界。

アメリカはすでにそうなっている。中国も国民を監視していると聞いたことがあります。

日本もいつかそうなるのでしょうか。

この作品で考えさせられたこと

● ネットや通信まで監視される社会は来るのか,あるのか

● 「安全保障」という言葉の世界的な意味

● 特殊な技術をどう使うかは,人間心理の善悪によって大きく形を変えてしまう

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