桜井美奈先生の作品って,タイトルにインパクトあり過ぎ。
「殺した夫が帰ってきました」の時は,その真相を知りたくてすぐに購入しました。
あの時は「その夫とは本当に夫なの?」と思いながら読みました。
今回は「私が先生を殺した」とても気になるタイトルですよね。
まずイメージしたのは「どの生徒が教師を殺してしまったのか」ということでした。
あまりに引き込まれて,数時間で一気読み。そして最後の真相を知った時の脱力感はすごかったです。
避難訓練中で校庭に全校生徒が見守る中,屋上に一人の教師が現れるところから始まります。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 衝撃の始まり
3.2 奥澤のピンチ
3.3 誰が誰を殺したのか
4. この作品で学べたこと
● 誰が誰を殺したのかを知りたい
● 本作品を通して学校運営の問題点を知りたい
「ねえ……あそこに誰かいない?」。全校生徒が集合する避難訓練中、ひとりが屋上を指さした。
そこにいたのは学校一の人気教師、奥澤潤だった。奥澤はフェンスを乗り越え、屋上から飛び降りようとしていた。
「バカなことはするな」。教師たちの怒号が飛び交うも、奥澤の体は宙を舞い、誰もが彼の自殺を疑わず悲しんだ。
しかし奥澤が担任を務めるクラスの黒板に「私が先生を殺した」というメッセージがあったことで、状況は一変し……。
語り手が次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りになる。秘められた真実が心をしめつける、著者渾身のミステリー!
-Bookデータベースより-
奥澤潤・・・主人公。全校生徒の前で突然自殺してしまう
黒田花音・・成績優秀。指定校推薦を受ける予定だったが。。。
百瀬奈緒・・奥澤のことが好きな女性生徒
小湊悠斗・・成績優秀ではあるが,進路が決まっていない。
永束晃治・・奥澤の恩師。高校で強い実権がある
1⃣ 衝撃の始まり
2⃣ 奥澤のピンチ
3⃣ 誰が誰を殺したのか
「ねぇ,あそこに誰かいない?」
避難訓練中で,校庭に全校生徒がいる中,思ってもないことが起こります。
屋上に突如現れた一人の男性。彼は奥澤潤という教師でした。そして次の瞬間,彼の体は宙を舞うのです。
一体,彼に何が起こったのでしょうか。
教室の黒板には「私が先生を殺した」の文字が。。。
誰がこれを書いたのか。彼を追い詰めたのは一体誰だったのか。これが本作品のポイントとなります。話はこの事件が起こる前に移ります。
奥澤は生徒からも人気のある教師でした。イケメンだし,頭も良さそうだし。
クラスには問題児もいました。授業をまともに聞かないやる気のない生徒。
僕自身も教師しているから共感してしまいます。
授業受けなくていいし,来なくていいよ。って言いたくなる生徒いますよね。
かと言って,簡単に辞めさせるわけにはいかないし。さらに上司の目もあるし,それ以上に保護者の目もある。やる気のある生徒だけの授業って,そう簡単にできるものではないです。
奥澤も,やる気のない生徒にやる気を引き出そうと,放課後に残して勉強を見てあげたりしようとします。奥澤という教師は本当に思いやりのある良い教師だと思います。
そこまで一緒に勉強を見てあげようとする先生を僕自身は尊敬しますよ。
こういう学園ものって,それと対極にある教師も登場するんですよね。
ただ,本作品はどちらかというと「できる生徒」にスポットが当たっているように思います。
これはどの学校でも問題になる可能性のある「指定校推薦枠」に関することです。自分が志望する高校に入るために,学校から唯一推薦枠を勝ち取る。
成績優秀,資格も持っている。例えば英検2級とか。
指定校推薦入試制度は僕自身の勤務する学校にもあります。
毎年、多くの高校からの入学者がいますけど、指定校推薦枠は「1」なんですよね。
受け入れ側としては優秀な人材を確保したいというのが一番であり、そこに誰が志望しようとも関係ないです。
でも逆に送り出す側とすれば、ひょっとしたら生徒同士の熾烈な争いもあるのかなと思ってしまいました。入学してからも、同じ高校から入学してきた生徒の中には、指定校枠での入学と一般入学の両方があるわけですから。
その推薦枠が決まってから、お互いの人間関係が悪くなってしまうこともあるかもしれないですね。
本作品は、まさにその指定校枠が黒田花音に決まっていたのに、直前で覆されたという件があります。
奥澤はある女子高生に対して「推薦する」と言いながら、ある「力」が働いてそれが別の人物の推薦になってしまったのです。
これには黒田も怒り心頭です。「なぜ、急に推薦が無くなったんですか!」代わりに決まったのは小湊悠斗。小湊自身は、なぜ急に自分が呼ばれ、指定校枠に入ったのか不思議でなりませんでした。
う~ん、これは何か誰かの作為があるぞ。。。
そんな時、ネットにある画像がアップされます。
どうやらその画像、男女が教室の片隅で寄り添っているようでした。男性のネクタイにはとても特徴があり,そのネクタイを着けている男性は奥澤でした。
奥澤と誰なのか。調べていくとそれは奥澤を慕う百瀬という女子生徒だったのです。
「教師が生徒相手にこんなことしていいのか」
根っからのワルである砥部は糾弾します。周囲も「あの奥澤が。。。」という雰囲気になります。
ただ,逆に奥澤のことをよく知っている生徒たちは「これは嵌められたのでは?」と考える人もいました。奥澤がそんなことをする教師であるとはとても思えなかったので,おそらくこれは何かの間違いか,不可抗力だと。
一体、どっちなのか。結果的にはどちらでもありませんでした。
百瀬に勉強を教えるために教室に共にいた奥澤。その奥澤に抱き着いたのが百瀬でした。
しかし、奥澤はその真実を明らかにしようとしないんですね。
奥澤は本当に真面目というか、繊細というか、生徒のことを思いやりなのか。。。
もちろんそれは百瀬を庇うためです。生徒が非難を浴びることを防ぐため,奥津は敢えて真実を話さなかったのです。僕自身だったら事実を正直に言うだろうな。あっ,いやどうだろう。
実際にはその状況にならないと,どういう判断をするかはわからないかもしれないですね。
奥澤の「もうどうしようもない」という言葉は,この事件に関することなのかと思ってました。
だから奥澤は屋上から身を投げた。それを目の前で見ていた黒田は
「私が先生を殺してしまった!」と叫ぶのです。なるほど,これがタイトルにつながっていくのか。そう思っていました。
ところがそうではないことが判明するのです。奥澤は苦しんでいました。
このあと,衝撃の事実が明らかになります。
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奥澤は、実は永束という教師から
「指定校枠を黒田から小湊に変更しろ」
という命令を受けていたのです。もちろんこれに対し、奥澤は反抗します。
しかし、永束がこれを押し通せと。永束の意図は何なのか。
それは、実は小湊の母親から高校側に「献金」というか、金を渡されていたんですね。これは永束だけでなく、校長の杉坂も周知の事実でした。
奥澤も怒るはずですよね。学校の闇の部分を見てしまった感じです。
そして泣く泣く奥澤は黒田に対して謝罪したわけです。
さらに奥澤は衝撃の事実を知ることとなります。
かつて奥澤自身も、自分の志望大学へ、指定校推薦枠で入学していたのです。なんと。。。
実はこの高校で一番最初に指定校枠を「カネ」で動かしたのが実は奥澤の親だったわけです。この事実を知らなかった奥澤はうろたえます。まさか自分自身も関わっているとは思っていなかった。
それまであった怒りも急激になくなってしまいます。自分が関わっていたわけですから。
奥澤自身には罪はないですけど、真面目な奥澤は本当に自分自身を責めているようでした。
なぜこんなことが起きてしまったのか。それは少子化も一つあるかもしれません。
結局,学校というところは生徒が学費を払ってくれて,それで教師も生活している。
その生徒の数が減ってしまえば,直接学校経営にも多大な影響が出てしまう。そして起こったのが献金問題だったんです。
生徒を指定校推薦する見返りとして,多額の「カネ」を学校側が受け取るということか,奥澤が在校時代から行われていたのでした。
永束や校長の立場,そして生徒の立場。奥澤が苦しんだのはこれだったのですね。
生徒のことを第一に想う奥澤としては耐えきれなかったことでしょう。
永束からその事実を直接聞いた奥澤は,目の前にあるトロフィーを使って,永束の頭に打ち付けるのです。自分自身が「種を撒いたようなもの」と思い込んでしまった。そして怒りにまかせて永束を殺害してしまった。
このことで奥澤は身を投げようと決意したのでした。
その直前に黒板にある言葉をチョークで書き込みます。「私が先生を殺した」と。
あぁ,そういうことだったのか。あの文字は生徒が書いたものとばかり思ってました。
あれは奥澤が書いたものだったんですね。正確には,
「私が永束先生を殺した」
という意味だったんです。なるほど。
先入観に囚われていた自分自身の感情から,一気に脱力感が襲ってきた気分でした。
教師の奥澤,奥澤に行為をいだいていた百瀬,そして指定校を争った黒田と小湊。
それぞれの視点で描かれ,徐々に真相が判明していく過程は圧巻でした。
「殺した夫が帰ってきました」とは違う驚き。
学校経営に関する問題,そこで働く教師同士のしがらみ,教師と生徒の関係など,学校という舞台で描かれたミステリーでした。
でも,奥澤という教師は正義感のある素晴らしい教師でした。本来ならば,このような教師が増えるべきなのに。本当に残念です。
● 「私が先生を殺した」の真相に驚いた
● 学校経営の闇を見せられた
● 奥澤という教師の正義感を感じた