貴志祐介先生が2004年に「日本推理作家大賞」を受賞した作品です。
貴志先生と言えば「ホラー小説」を思い出します。「悪の教典」に始まり,「十三番目の人格」「黒い家」などなど,読み終わった後の印象の強さが残る作品ばかりです。
今回の話はホラー系ではありません。
以前,榎本という防犯コンサルタントの榎本という男と,弁護士である青砥という女性のコンビでいろいろな事件を解決するという作品を読んだことがありました。これが「防犯探偵 榎本シリーズ」だったんですね。本シリーズは短編集が多いんですけど,今回の作品は長編になっています。というか,これがシリーズ第一作目です。
しかもこのコンビの一番最初の出会いから描かれているところから始まっているので,新鮮味もあるので楽しめると思います。これまで読んだのは続編だったんだなぁ。
まずは「硝子のハンマーってなんだろう?」って思いながら読みました。
本作品はこの「硝子のハンマー」がまさにポイントとなる作品です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 社長殺人事件発生
3.2 捜査に行き詰る榎本と青砥
3.3 「硝子のハンマー」とは
4. この作品で学べたこと
● 「硝子のハンマー」とは何かを知りたい
● 事件の真犯人,トリックなど,ミステリーの王道のような作品を読みたい
● 「防犯探偵 榎本シリーズ」の榎本と青砥の初顔合わせの作品を読みたい
日曜日の昼下がり、株式上場を間近に控えた介護サービス会社で、社長の撲殺死体が発見された。エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、窓には強化ガラス。オフィスは厳重なセキュリティを誇っていた。監視カメラには誰も映っておらず、続き扉の向こう側で仮眠をとっていた専務が逮捕されて……。弁護士・青砥純子と防犯コンサルタント・榎本径のコンビが、難攻不落の密室の謎に挑む。日本推理作家協会賞受賞作。
-Booksデータベースより-
榎本径・・・・主人公。防犯コンサルタント。実は泥棒もやってます。
青砥純子・・・弁護士。今回の事件はそもそも青砥からの依頼である
穎原昭造・・・ベイリーフ社長
穎原雅樹・・・ベイリーフ副社長
久永篤二・・・ベイリーフ専務
松本さやか・・ベイリーフという企業の副社長秘書
河村忍・・・・ベイリーフという企業の専務秘書
椎名章・・・・ビルの清掃員。ベイリーフ社長殺害の発見者
1⃣ 社長の殺人事件発生
2⃣ 捜査に行き詰る榎本と青砥
3⃣ 「硝子のハンマー」とは
ベイリーフという企業が舞台となっています。
この会社,介護サービス業をやっていて,介護業界での新たなビジネスを模索していました。
介護業界は人手不足と言われています。現在は高齢化社会,そして将来は超高齢化社会がやってくるわけですから,介護市場規模も年々上がっているわけですね。
そこでベイリーフは人手不足を埋めるため「介護サル」を飼い慣らしていくのか,それとも「介護ロボット」にその役割を担わせるのかの判断に迷ってました。それにしても,介護サルっているんですね。調べると,1977年からアメリカで研究されていたみたいです。
近々,株式上場を目指していたため,休日返上で介護猿なのか,介護ロボットなのかの実験比較をやっていました。
昼食を摂った後,社長の昭造と専務の久永は昼寝をしに,自分の部屋に入ります。
ところが時間が経っても二人は戻ってきません。ビルのメンテナンスをしている椎名から連絡があり,慌てて社長室に入る雅樹。社長は倒れ,亡くなっていました。第一発見者は椎名です。社長の頭部を調べてみると何かで殴られた跡がありました。
犯人は誰なのか。同じ頃,専務の久永も自室にいたため,専務が疑われます。
ここで久永から弁護士に依頼があります。その弁護士が青砥純子です。しかし,なかなか捜査が進展しないのです。もちろん警察も捜査に入っているわけで,邪魔されている感じがありました。というか,青砥たちが警察の邪魔をしてるのかな。
青砥は知り合いの弁護士からセキュリティに詳しい人物を紹介されます。それが本作品の主人公である榎本径なんですね。これが榎本と青砥の初顔合わせです。榎本はどんな鍵も開けてしまう人間で,夜中に会社や家に侵入して証拠を探るという仕事をやっています。良いことをやっているのかどうなのかよくわからない職業ですが。。。
専務の秘書は「専務は自室でずっと眠っていた」と証言しているので,専務が犯人ではないのではないか。いや,ひょっとしたら何かトリックがあるかもしれない。
ここで疑われたのが「介護サル」と「介護ロボット」なのです。
まず,疑われた「介護ロボット」は,ロボットなので事前にプログラミングしておけば犯行が起こせるかもしれません。
社長が昼寝するのも習慣になっていたでしょうから,準備もできたはずだと。
しかしこのロボット,人間に害を加えるような動作はセキュリティ的にできないようになっていました。ということはロボットが犯人ではない?
介護サルはどうでしょうか。いくら飼い慣らせるとはいえ,タイミングよく頭を殴らせることができるようにも思えません。
それ以外の人物にもそれぞれアリバイがあるわけなので,誰が犯人なのか,とうとう行き詰ってしまいます。
そもそも社長の昭造は「脳腫瘍」を患っていました。この上場を機に彼の地位を狙う人間が内部にいたかもしれないと青砥は睨みます。
また,調査していくと,社長と専務は何のためか,約6億円もの大金を横領していた事実も掴みました。その金は社長室にあったようです。この大金,一体何に利用されていたのでしょうか。やはり会社内部の人間の犯行なのでしょうか。
ビルでメンテナンスを行っている椎名という男。彼はビルの屋上から吊るされるゴンドラの中から社長室を見たらしいのですが,不審な動きはなかったと。
やはり行き詰ってしまった榎本と青砥の二人。しかし,榎本はある可能性を思いつきます。
それはビルの屋上で見つけた「ボウリングの玉」がヒントとなりました。えっ? ボウリングの玉?これにより,思わぬ人間が容疑者として挙がってくることになるのです。
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今回の事件の実行犯。実は,先に書いたビルのメンテナンスをしていた椎名でした。
椎名は不遇な環境に育っていました。
父親が借金をしてヤクザに脅されていましたが,その父親が椎名を残して逃げるんですね。
残された椎名。「代わりにお前が返せ」と脅され,椎名自身も育った街から逃げていきます。名前を偽り生活するも,ヤクザたちはしつこく追ってきたのです。
そして追ってきた人間をとうとう殺害してしまいました。父親の残した負の遺産が椎名をここまで追い詰めてしまっていたんですね。
そして見つけた仕事がこのビル・メンテナンスの仕事だったのです。
ある日椎名はビルの窓ふきをしながら社長室の中を覗き込むと,そこではダイヤモンドを数えている社長の姿がありました。
一度犯罪を犯している椎名は,とうとう犯行を思いつきます。
強化ガラスで覆われたビルの外側から,どうやって社長を殺害したのかというのがポイントとなります。それはボウリングの球を利用したものでした。
外部から窓ガラスを外せる仕組みを利用し,事前に睡眠薬で社長を眠らせた椎名。
ここで先ほどの介護ロボットが登場します。介護ロボットに睡眠薬で眠らされた社長の頭を窓の内側にくっつけさせ,外側からボウリングの球を窓にぶつけることで衝撃を与えたというのがトリックです。ビリヤードのように「運動量の保存則」と言えばいいでしょうか。社長の頭に窓の外側から衝撃を与えたのです。これが「硝子のハンマー」の正体だったんですね。
そして椎名は何食わぬ顔で第一発見者として証言したのです。つまり,最後に衝撃を与えたのはビルの強化ガラスだったわけです。
なるほど,分かってみれば何とシンプルな殺害方法か。ビルの窓が強化ガラスでできているからできたトリックですね。
ビルの内部の人間に注目させ,先入観から「外部犯行説」を否定することになりました。
その巧みな表現力,さすが貴志先生だなと思いました。
犯人の不遇な環境にも同情はします。これまで必死で生きてきたというのもわかります。
でも,一度人を殺めたことがあるという事実,そして借金から逃げ回っていた経験から目の前の欲に目が眩んでしまった真犯人。
榎本と青砥の登場する作品はたくさんありますが,ほとんどが短編です。榎本と青砥のやりとりが面白いですし,この二人の連携も見られるようになります。
是非,本作品だけでなく,シリーズ作品も読んでほしいと思います。
● 「硝子のハンマー」の意味が理解できた
● 真犯人の動機は,過去の不遇な環境にあった
● 榎本と青砥のシリーズの面白さを改めて知ることができた