本作品を読んでいると,僕自身が大学時代のことを思い出します。
新入生の新歓コンパをやったり,合コン行ったり,友人たちとドライブしたり,アルバイトに明け暮れたり、そして麻雀の役を覚えたことなどなど。何か自分の学生時代にやったことをそのまま表現してくれているとさえ思ってしまいます。
僕が学生時代に一緒にいた友人たちのことも思い出しました。
A君は結構リーダーシップがあって周囲を引っ張っていってくれたよなぁ,とか,B君は引っ込み思案なんだけど,ここというときは度胸があるんだよなぁ,みたいに。
学生時代よく聴いてた音楽を数十年ぶりに聴いて,学生時代の頃を思い出す,というような不思議な感覚。
同じような学生生活を描いている作品ってほとんどないので,妙に共感してしまいました。
僕と伊坂先生は同い年ですので,何か親近感のようなものを感じます。
「あの頃はホントに楽しかったなぁ」そんな感情が湧き上がってくるような,僕にとってはまさに青春の1ページのような作品です。
今回はネタバレもありますが,自分が「砂漠」の登場人物や,読んで思ったことを素直に書きたいと思います。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 学生時代を思い起こさせる登場人物
3.2 学生時代と社会との違い
3.3 「砂漠」とは何を意味するのか
4. この作品で学べたこと
● 大学時代を思い起こさせてくれる作品を読んでみたい
● これから社会人になる方々
● 社会人になるために必要なものは何なのかを知りたい
この一冊で世界が変わる、かもしれない。仙台市の大学に進学した春、なにごとにもさめた青年の北村は四人の学生と知り合った。少し軽薄な鳥井、不思議な力が使える南、とびきり美人の東堂、極端に熱くまっすぐな西嶋。麻雀に勤(いそ)しみ合コンに励み、犯罪者だって追いかける。一瞬で過ぎる日常は、光と痛みと、小さな奇跡で出来ていた――。 明日の自分が愛おしくなる、一生モノの物語。限定の書き下ろしあとがき収録。
-Booksデータベースより-
北村・・主人公。仲間の行動を俯瞰して冷静に見ている
鳥井・・淡泊で,女性好き
西嶋・・ぽっちゃりしているが,正義感がある
東堂・・大学でも一目置かれる美少女
南・・・シャイであるが,超能力を持っている
1⃣ 学生時代を思い起こさせる登場人物
2⃣ 学生時代と社会との違い
3⃣ 「砂漠」とは何を意味するのか
本作品は「北村」の視点で描かれています。ということは,主人公は一応北村なのかもしれないです。北村は物事を俯瞰して考えることのできる学生です。周囲からもそう思われているようですし,北村自身もそう自負しているようでもありました。
今回の5人の出会いも新歓コンパでした。まとめていたのも北村です。
今回登場する自分物の初顔合わせはこのコンパになっているんですけど,堂々と遅れてくる人物がいました。「西嶋」です。「麻雀やってて,世界平和を願うために『平和(ピンフ)』という役で上がろうとしたけど,なかなかうまくいかなかった」と。
確かにいました,こんなマイペースな男が僕の友人にも。「何言ってんだ」って周囲の友人も思うんですけど,これが「西嶋」なんですね。もちろん周囲の友人はあきれ返ってるわけですけど。
西嶋は先に書いた通り,本当に平和を願っているようです。1990年代が僕自身の学生時代ですけど,ちょうどアメリカの中東問題が落ち着いてきた頃でした。
「砂漠に雪を降らせてやる」ちょっと変わったような発言をする学生がこの西嶋なのです。
後でも書きますが,本作品はどうも「西嶋」の方が強調されているような気がするんですよね。
他にも仲間はいます。「東堂」です。彼女は大学内でも声をかけてくる男性が多いというくらいの美貌を兼ね備えた女性です。ん~,そんな友達は僕の周りにはいませんでしたけど,なんか5人組の中でも重要な役割を持つ,バランスの良さを感じさせてくれます。
彼女は仲間を冷静に見ているようでした。特に西嶋のことを気に入っているようです。
「いざいという時にはやる,と言っている人間は,結局いざというときもやらない」
僕自身の胸を突かれるような言葉。。。
「でも西嶋は決して言い訳をせず,逃げずにやりとげようとする」
東堂は,どんなことにも一生懸命で真剣勝負を仕掛けてくる西嶋に一目置いているように思いました。自分は周りからどう思われていたんだろう。
「鳥井」は背は高くひょろっとした体形の男性で,一見頼りなさそうですが,ムードメーカー。家がお金持ちで,冷静に人間を分析する学生のようにも映りました。「ぎゃはは」とはしゃぐのが特徴で,反面,何か達観している感じなんですね。頭はよさそうです。
「南」という女性はそんな鳥井のことが好きなようです。しかしこの南,超能力があるようです。スプーン曲げをやってみたり,何かを動かしたり。4年に一度は車を動かせるという。
この5人が,学生時代に出会い,卒業するまで友人として付き合っていく話です。
先にも書きましたが,本当に自分の学生時代を思い出します。もう一度だけ戻ってみたい気もします。
5人組の中でも一番存在感のあったのは主人公の北村ではなく,僕にとっては西嶋でした。
不器用ながらも、自分の目の前のことに全力でぶつかっていく姿に尊敬の念すらあります。
こんな友人がいたらよかったなと本当に思います。ひょっとしたら親友というのは行動することで道を拓いていく、勇気を与えてくれる人間なのかも知れないですね。失敗してもいいから,まずは行動に移す人間。
東堂が西嶋のことを好きになったのもわかるような気がします。
昔は自分もこんな人間になりたかったはずなんですけど,いろいろなことを経験するにつれて臆病になっていってしまったような気がします。
あの時はまだ社会に出ていなかったからそこまで考えたことありませんでした。
本当に自由気ままに過ごしていたし,学校生活は二の次というくらい友人と過ごすのが楽しかった。
もちろん卒業するためには卒業論文を書かないといけないんだけど,面倒くさいなぁと思いながらもその瞬間だけ頑張って「卒業できればいいや」くらいしか思ってませんでした。
今思えば「本当に楽(らく)してたな」って思います。でも勘違いだったんですね。
「結構,自分は友人の中心的人物なのかもしれない」
それが間違いであるということに気づくのはだいぶ後になってからでした。北村タイプだったのかなって思います。
学生時代は「責任」というものがありませんでした。もちろん他に対しての責任です。
学費を払って学んでいる「フリ」をしている時代から,報酬を受け取るために自分の仕事に責任を持って必死に仕事をするという半強制的な義務感。
社会に入ると責任の重さに圧倒されました。学生時代,いかに自分が恵まれていたことか。
実はここが「大きな分岐点」だったのだろうなって思います。この「分岐点」をどう過ごすかがとても大事だというのを知ったのは,社会に入ってから。
自分の将来を本気で考えずに,敷かれたレールの上をただ進んでいくだけの簡単で甘い人生。
そのしっぺ返しが社会人になってからやってきたのです。
適当に会社を選んでしまい,何をする企業かも調べないまま,ただ楽な選択肢をチョイスした自分は,入社してから本当にきつかった。
もっと言えば,高校時代にただ希望する大学に合格できればいいや。将来はこういう仕事をしたいからこの学科にどうしても入りたいんだ。そんなの全くなかった。だから後で苦しんだんですね。社会人になりたての頃は,自分の目の前の仕事が何のためのものなのかを考えないで仕事してました。実はそれを考えながら仕事することが重要だったんですよね。
「なぜ,自分はこれをするのか。この仕事は次にどのように繋がっていくのか」
その「なぜ」というのが大切だったのに,ただ与えられたものをこなしただけ。そんなのは誰でもできるんですよね。
同期たちからは差をつけられ,どんどん自分が追い込まれていきました。毎日が本当に辛い。仕事に行きたくないと思う時もありました。
では本作品での「砂漠」こそ,社会人になってからのことなのだと,徐々に気づき始めました。
「本当の社会とは,学生時代を卒業して入る世界」
それが本作品の「砂漠」なんですよね。印象に残るセリフがたくさん出てきました。
例えば,北村と付き合っていた年配の鳩麦さんがこんなことを言ってました。
「学生は,小さな町に守られていて,一歩外に出れば砂漠が広がっている。いわば,守られた町で暮らしているんだよ」
そしてさらに鳩麦さんはさらに身に染みる言葉を発します。
「町の中にいて,一生懸命,砂漠のことを考えるのがあなたたちの仕事。砂漠という場所は酷い場所である」
本当に身に染みる言葉。その通りだと思います。今思えば,学生時代にどれだけムダな時間を過ごしたか。
学歴ではない,社会で必要なスキルだったり,どんなプレッシャーにも耐えうる人間性だったり,学べたことはたくさんあったのではないかと思います。それを考えるのが学生時代。実際にそれを考えて過ごしている人々も世の中にはいるのです。誰かがそれを教えてくれたらラッキーです。でも誰も教えてくれませんでした。
いや,教えてくれていたのかもしれないですね。自分が気づかなかっただけなのかもしれません。
小学校・中学校・高校での「教育」,特に大学や専門学校での「教育」って,そういうことを教えてあげる必要があるんじゃないかなって思います。
頭のいい人はそれに気付けるでしょう。例えば家が病院を経営して,それを継ぐために親から帝王学を学ぶ環境にいる人などはとっくに気づいていただろうなって思います。
教育者にも自分のやるべきことがたくさんあると思うんです。人生を生きていく上で大切なことを自分の教え子にしっかり伝えている教員ってどのくらいいるんだろうか。
同じ「教育者」としてそれを痛感した僕自身は,今になってその大切さを伝える仕事をしています。
「あの時,痛い目にあった。そうならないためにも俺は君たちに大事なことを伝えるんだよ」と。それを素直に聞いてくれる生徒もいますが,そうじゃない生徒もいます。なんでわかってくれないんだろうって思うこともしばしばあります。
でも今は「社会に入って気づいてくれればそれでいいかな」って思いながら過ごしています。
伝え続ければ,いつか伝わるかもしれない。それが僕にとってのラストモチベーションになっている気がします。
僕が本作品で一番好きだった人物はやはり「西嶋」です。彼は本当に勇気ある人間でした。
人間,勇気と覚悟を持って生きていかなければならない,責任は俺がとるから思いっきりやれ,なんて自分の部下に言えることが僕の理想です。だから,
「砂漠に雪を降らすことを本気で考えている」って言えるんですよね。これって,周囲からすると「何をバカげたことを言っているんだ」って思う人もいることでしょう。
夢を持つことの重要さに気づいたのも最近になってからです。夢がないと,道標がないと本当に砂漠で彷徨ってしまいますから。
確かに今は「砂漠」という先の見えない社会で生活しているかも知れない。
でも、オアシス見つけて休みつつも,そこに安住しないで逃げずにしっかり目標へ向かって歩き続けたいですね。
伊坂先生は「モラトリアム」について語っています。
モラトリアムというのは辞書で引くと「猶予期間」と出てきます。つまり,
「学生時代というのは,社会という砂漠に出ていくまでの猶予期間である」
ということです。学生時代に気づけるかのか,大切なことに。
伊坂先生も僕くと同じITエンジニアを志していた時期があったということなので,本作品はひょっとすると伊坂先生の経験談,人生観なんじゃないかなって思います。
正直,この作品に早く出会っていたかった。出会っていれば,ひょっとすれば僕の考え方も変わっていたかもしれない。
やっぱり人生って,本から学べることってたくさんあるんだなって改めて思います。その大切さに気付けてよかった。自分が死ぬまでに本の良さを知ることができてよかったです。気づくのが遅かったですけど。
でも気づかなければ今の自分はなかったし,このブログも書くことはなかったと思います。そういう意味では僕は幸運です。責任を負い,覚悟を持って決断できるようになったのですから。この本を読むことができて本当によかった。僕にとっては忘れられない一作です。
● 学生時代の頃を思い出させてくれる作品でした
● 社会人になるために必要なことを学生時代に学ばなければならない
● この作品に,学生時代に出会っておきたかった