SNSでとても話題になっていて,早く読んでみたいと思っていましたが,文庫化されてようやく購入しました。この作品で結城真一郎先生の名前も初めて知りました。経歴がすごいです。開成高校から東京大学法学部卒。
いつかは小説家になりたいと思っていたところ,大学時代の同級生の辻堂ゆめ先生(まだ作品を読んだことはない)が作家デビューしたことに触発されて,2018年に作家になったそうです。その行動力にとても感服します。
本作品は短編集ですが,最後の「#拡散希望」が「日本推理作家協会賞(短編部門)」に選ばれています。すごいですよね。たった3年で受賞したわけですから。
それにしても,僕自身はこの短編集を読んで,相当唸りました。どの短編にも引き込まれてしまい,一気読みでした。これだけ面白いと,また結城先生の別の作品も購入したいと思ってしまいました。実際に長編も読みましたが、やはり面白い。
読めば,なぜ評価されているかわかると思うので,是非読んでください!
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 5つの短編の概要
3.2 各短編の真相とは
3.3 引き込まれる短編集
4. この作品で学べたこと
● 今、話題の若き作家の作品を読んでみたい
● 時代にマッチしたミステリー作品を読んでみたい
●「日本推理作家大賞」作品を読んでみたい
島育ちの仲良し小学生四人組。あの日「ゆーちゅーばー」になることを夢見た僕らの末路は……(「#拡散希望」)。マッチングアプリでパパ活。リモート飲み会と三角関係。中学受験と家庭教師。精子提供と殺人鬼。日常に潜む「何かがおかしい」。その違和感にあなたは気づくことができるか。新時代のミステリの旗手による、どんでん返しの五連撃。日本推理作家協会賞受賞作を含む、傑作短編集。
-Booksデータベースより-
片桐・・・第一話の主人公。家庭教師のバイトをしている
戸森研策・・・第二話の主人公。
篠木瑶子・・・第三話の犯人。会社の経理事務
萱場千寿留・・第四話の犯人。短大生
名越研弥・・・第五話の犯人。無職
清家総一郎・・第六話の犯人。化学者。失明している
1⃣ 5つの短編の概要
2⃣ 各短編の真相とは
3⃣ 引き込まれる短編集
惨者面談
主人公の片桐は大学生で「家庭教師アットホーム」でバイトをしています。麻布,開成,武蔵などの「御三家」と呼ばれる進学校から東大に入ったという経歴を持つ片桐は,ある家に訪問し面談をすることになっていました。
それは小学生の矢野悠という少年の家。ただ,片桐は何かしらの違和感を感じていました。矢野家の前はゴミが散乱、埃りを被った自転車が置いてあります。
片桐がインターホンを鳴らすと慌てる母親。
20分待ってようやく家に入れました。母親はゴム手袋を外そうしないし、悠が通っている塾を尋ねても激怒します。
読者も持つこの違和感。この母親,かなり怪しいです。
ヤリモク
「僕」は42歳既婚者の美容師で、訳あってマッチングアプリで女と会いまくる男です。そんな「僕」ですが、妻から「娘がマッチングアプリでパパ活しているのではないか」ということで悩んでいました。実際世間では,アプリで出会った人を殺害するという事件が頻発していました。だからなおさら不安になっているわけです。
ある日,マナという女性マッチングアプリで繋がり、実際に会うことになります。マナは興味があるのか,「僕」にとって妙に都合のいい女で、ことはどんどんお持ち帰りの方へ進んでいきます。
これでは、お持ち帰りできるか不安になってきた「僕」でしたが、なんとかマナの自宅に到着します。読者はここで想像するはず。この女性,男の実の娘なんじゃないかと。。。
しかし、事態は意外な展開へ向かっていくのでした。
パンドラ
世間では,連続幼女誘拐殺害事件が起こっていました。犯人は宝蔵寺という男性。「僕」は会社の同僚からも「似ている」と言われていました。ん? なにやら怪しい展開。。。
彼には不妊治療の末に授かった娘がいました。真夏と言いました。「僕」もそうですが,妻である香織にも真夏は似ず、運動神経の良い明るい女の子でした。
ある日「僕」は精子提供をしたいと言い出します。妻の香織もしばらく思いつめますが,了解します。幾度か面談をしてきて,実際に精子提供をすることにします。その相手が美子という女性でした。
しかし,何か意図がありそうなこの美子。何かイヤな予感がします。
三角奸計
大学時代の友人である「僕」と宇治原、茂木は「リモート飲み会」を開くことにしました。コロナの時期に一時的に流行りましたよね。「僕」にはマッチングアプリで知り合った「ミナミ」という彼女がいました。ただ,ミナミは婚約者がいるのに「僕」と浮気をしていました。
敢えて言うこともないなと,「僕」は二人の友人に彼女がいることを告げません。茂木は結婚していますが、妻は実家に帰っていて留守状態。宇治原は恋人にプロポーズしたあとに大阪へ転勤。茂木と宇治原は近くのマンションに住んでいるとのことです。
宇治原は彼女が浮気していると疑っていて、スマホにGPSを仕込んでいました。そしてそのGPSがなんと茂木の家に向かっていると言うのです。恐ろしいことに、宇治原は「今から茂木を殺しに行く」と言い出すのです。
「僕」は宇治原を止めることはできるのか。
#拡散希望
「僕」はテレビで「田所というYouTuberが逮捕された」というニュースを見ます。田所は有名なYouTuberで誰かを殺害してしまったようです。そのことを「僕」は両親に言いますが,あっさり流されてしまいました。それよりも両親は日課にしているものがありました。
「あなたが素敵な一日をどんなふうに過ごしたかを聞くのが楽しみなの」と母親は言います。これが何年も続いている「習わし」のようなものでした。「僕」には友人がいました。立花凛子と,桑島砂鉄,安西口紅。三人とも変わった名前でしたが,「僕」自身も「チョモランマ」という名前を付けられていました。
この奇妙な習慣もそうですが,この家にはもう一つおかしなことがありました。それは絶対に入ってはいけない「秘密の部屋」があることです。
一体,両親はここで何をしているのか。子供には言えない何かなのか。
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
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惨者面談
何か違和感を感じるこの母親。息子が受験したはずの公開模試の結果がわからないってどういうことなのか。疑問を感じながら,片桐は悠という少年に算数の問題を解かせます。しかし「110円」という間違った答えを返します。
そんなに難しい問題ではないのに。。。他にも問題を解かせますが,全て答えは「110円」。ん? これって,まさか「110番しろ」という意味なのか?
片桐「小学校五年 公開模試」の結果票の中に「ヤノハルカ」という名前を見つけます。訪問時に母親に「名前は『ゆう』ですか?」と質問した際、母親は「そうです」と答えています。つまり,少年の名前は悠と書いて「はるか」と読むのです。母親は偽物なのか?
片桐は,上司の宮園へメッセージを送ります。『母親は偽者。矢野家に警察を』と。実は本当の母親の矢野真理は殺害されていました。犯人は桂田恵子と言いました。
父親である矢野慎一からは感謝の言葉をもらいます。しかしこの後,衝撃な一言が出ます。「悠は半年前に亡くなっているんです」と。本物の悠はトラックに撥ねられ,交通事故で亡くなっていたのです。ということは。。。
家にいたのは、空き巣に入った子供だったのです。何という結末。。。
ヤリモク
「僕」という男。マッチングアプリを使うのには理由がありました。それはパパ活をしている娘の美雪に警告をするためでした。マッチングアプリによる殺人事件の犯人は,実はこの「僕」だったのです。
そこまでして娘を守りたいと思うもんだろうかと疑問は湧きますが,女の子の子供を持つ親にしかわからないものなのでしょうか。「僕」が会う相手も,娘に似ている子を選んでいたのです。これも警告のため。
ただ,今回は自分自身が危ない状況でした。自分が騙されているのではないかと途中で気づくのです。彼はシャワーを浴びましたが,シャワーの位置が高すぎるという違和感。ドライヤーもマナがしているカール用のものではないし,部屋に入ってすぐに温かいコーヒーを用意できていた。S字カール用のドライヤーがない→マナの髪型をセットするには必要(美容師ならではの視点)
つまり,マナは美人局だったのです。その証拠に用心棒的な男性が現れます。
しかし,身長185cm以上もある「僕」は,この男を殺害します。そしてマナも殺害します。自宅ではなく美人局のために利用していた部屋だったのです。
そしてマナと男が持っていた携帯を回収し,帰ろうとした時,その携帯にメッセージが届きます。それを見た「僕」は驚きます。「もう部屋空きましたか? 今から私も使いたいんですが」そのメッセージは<Message from Miyuki>となっていました。
なんと、自分の娘もこの美人局の一人だったのでした。
パンドラ
精子提供で面談した美子は「僕」に「明日中に精子が欲しい」と言い出します。そして、2ヶ月後、「妊娠できました」と報告がありました。つまり「僕」には娘の真夏以外にも子供がいるということになります。
それから話は15年後に飛びます。翔子という女性が「僕」の前に現れました。彼女の母親は,確かに美子でした。ところがここで意外なことがわかります。なんと美子は,連続幼女誘拐殺人犯の宝蔵寺の妻であることがわかります。
なるほど,自分の子供であることの証明に,わざと宝蔵寺に似た男性である「僕」を精子提供者に選んだんですね。
父親をはっきりさせるために、「僕」は血液検査をすることになりました。ここで血液型の話になります。翔子は本当に自分が娘なのか調べるために「僕」は献血へ行きます。
A型だと思っていた「僕」の血液型はB型でした。美子はO型、翔子はB型、宝蔵寺はA型なので、翔子は間違いなく「僕」と美子の子供ということになります。そうすると今度は別の問題が出てきます。香織はB型で真夏はAB型です。B型同士からAB型は生まれませんから。
ここで「僕」は考えます。もしかしたら妻も精子提供を受けていたのではないか。でも「僕」はそれ以上詮索する気持ちはありませんでした。親子とは,血液型で決まるものではない。
それまで一緒に過ごしてきた時間こそが「僕」にとっては親子の証であると。パンドラの箱は開けなかったわけですね。かつて話題になった「そして父になる」という小説を思い出しました。
三角奸計
オンライン飲み会にはいろいろとトリックがありました。画面から消えたと思ったら裏で仕掛けをしていたり,あらかじめ撮っておいた動画を流したりと。ちょっと複雑なので割愛しますが,結論から言うと「僕」が付き合っていたミナミという女性こそが,宇治原の婚約者だったのです。
宇治原はこのことを「僕」が事前に知っていたのか試すため、茂木に協力してオンライン飲み会を企画したのです。「僕」はまさか自分が付き合っているのが宇治原の婚約者であるなんて,夢にも思ってなかったんですね。
それでも宇治原は「僕」を殺害するのか? 目の前に現れた宇治原を警戒する「僕」。「ミナミってのは偽名だったんだな」「婚約者の赴任先が仙台だというのも嘘だったんだな」という「僕」の発言から,宇治原は「僕」が何も知らずに付き合っていたと考えたようです。
そして次の瞬間,宇治原は自分の婚約者を殺害するのです。相当許せなかったんですね。三角奸計の奸計は「悪だくみ」という意味。これは宇治原の婚約者のことを言っていたのかもしれませんね。
#拡散希望
凛子はある日「僕」に言います。「YouTuberにならない?」と。今人気で注目している「ふるはうす☆デイズ」というグループが,10年も配信していることに憧れがあるのでしょうか。
ある日、田所が「僕」たちに接触してきます。よくない雰囲気を察して、僕たちは逃げます。しかしその後田所は何者かに殺されたのです。その日を境に僕たちに優しかった島の人たちの態度が一変します。一体,何が起こったのだろうか。
そして「僕」にとって衝撃な事件が起きます。凛子が崖から転落して亡くなってしまったのです。凛子はスマホを遺していました。そこでさらに衝撃的なものを目にします。それは有名な「ふるはうす☆デイズ」のYouTubeで,何とこのチャンネルのメンバーは「僕」と砂鉄、ルーの両親だったのです。
番組の内容を見れば一目瞭然でした。「子供の名付け親決定選手権」「スマホゲーム禁止だといい子に育つのか?」「チョモの一日」など。特に最後のは決定的ですよね。つまりあの秘密の部屋は,これらの動画コンテンツを制作する部屋だったのです。
それに気づいた人物が凛子でした。彼女は口封じのために殺害されたのです。事件に関わっていたのがルーこと,安西口紅でした。そして「ふるはうす☆デイズ」に接触しようとしたのが,暴露系YouTuberの田所でした。
口封じのために大切な友人を亡くした「僕」は復讐します。ルーを縛り,包丁を突き付ける「僕」は,すでに「ふるはうす☆デイズ」のチャンネルにログインしています。そこでライブ中継が始まります。
「僕」はライブ配信でこれまでの真相を語り、目の前のルーを殺すべきかの是非を視聴者に問いかけるのです。自分の推理が正しいかどうか,高評価か低評価を視聴者に委ねます。『五分後,支持する声が多かったら,彼女をここから突き落とす』と。
引き込まれる短編集
短編集だったので,一つ一つの話は独立しているものの,実はつながりがあるものなのかなと思いながら読みましたが,全く違いました。全ての短編には殺人事件,あるいは殺人未遂があり,まさにこれはミステリーと呼べるもので、しかも読者を驚かせるものでした。
それにストーリーも新しい時代を表現したものもありました。マッチングアプリやオンライン飲み会や精子提供,そしてYouTubeの話など。そして「真相をお話しします」というタイトルにもあるように、最後の最後に明かされる驚愕の真実。
古き良きミステリーもいいですが,時代にマッチした話で構成されていて,結城先生もいろいろ試行錯誤しながらストーリーを練られたんだろうなと感じました。特に若い世代にはピッタリの小説だったのではないでしょうか。「日本推理作家協会賞」を受賞するのもわかるような気がします。しかも若くして、超新星の登場といったところでしょうか。
最初にも書きましたが,これだけ面白い短編を描かれる方の他の作品を読んでみたいです。これまで描かれた結城作品を全部読んでみようと思います。
● 今の時代にマッチしたストーリーが実に良かったです
● 短編でありながら,重厚なミステリーでした