過去に3回もキャストを変えてドラマで放映されるくらいの言わずと知れた超大作。
1967年に初の映画化。そして1978年には主人公財前を田宮二郎さんが演じられたのはあまりにも有名です。
2003年には同じく財前を唐沢寿明さんが演じています。この時のドラマはほんのちょっとだけ観た記憶はあります。
話の内容はうろ覚えでしたけど、主人公の財前と,そのライバル関係にある里見を中心とした医局内での人間関係はすごかった。
そして医療の現場の過酷さや封建的な縦社会を目の当たりにするきっかけにもなりました。本当にすごい世界だな,と。それにしても作者の山崎豊子先生の作品って,背景だけでなく,モデルがいて描かれている印象なので,リアリティに溢れていますよね。「華麗なる一族」「沈まぬ太陽」などなど。
今回のモデルは「大阪大学医学部」らしいです。本作品では「浪速大学」という形で登場します。
一体「白い巨塔」ではどんなドラマが待ち受けているのでしょうか。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 野心家の財前五郎
3.2 医療過誤裁判
3.3 財前五郎の末路
4. この作品で学べたこと
● 白い巨塔を読んだこと,観たことない方
● 大学病院内の封建的社会を知りたい方
● 主人公の人間性を知りたい方
財前五郎は、天才的な手術の腕と燃えるような野心を宿した男だ。熾烈な教授選を辛くも勝ち抜き浪速大学第一外科の教授に就任。成功したように見えたが、手術をした佐々木庸平が死んでしまい、医療裁判を起こされることに。万全の弁護団を揃えて対抗する財前だったが…!? 医療と人間の野望を描きつくした、累計600万部の不朽の名作!
-Booksデータベースより-
財前五郎・・・主人公。国立浪速大学病院第一外科副部長・助教授
里見脩二・・・浪速大学第一内科副部長・助教授。財前のライバル
東貞蔵・・・・第一外科部長・教授。財前の上司
鵜飼良一・・・第一内科部長兼医学部長・教授
柳原弘・・・・第一外科医局員。財前を尊敬している
亀山君子・・・第一外科主任看護師
1⃣ 野心家の財前五郎
2⃣ 医療過誤裁判
3⃣ 財前五郎の末路
国立浪速大学第一外科助教授である財前五郎は,食道噴門癌の手術を得意とする外科医です。腕の良い外科医で知られ,助教授でもある財前には目標がありました。次期教授選で,教授に就任することでした。
「青藍の誉」と言えば聞こえがいいが,どうやらそんな感じではないんです。
自分の上司である東教授をスキルを身に付けていくのです。ただ,この東教授は財前のことをあまりよく思っていないようなんですね。
著名な患者などを主に担当し,何かしら名誉のために仕事をしている様子。なるほど,教授が気にくわないと思う気持ち,わかるような気がします。
財前に教授になってほしくない東教授は,東都大学医学部の船尾に相談します。東は娘である佐枝子の夫にふさわしいと思ってか,金沢大学教授の菊川昇を推すことにします。しかし財前は野心家です。かつて幼い頃,貧しい環境で育った財前は,財前又一の養子に入るのです。杏子を妻に迎え,その力を借りながら何としても教授にならなければならない。財前は負けるわけにはいかないのです。
そんな財前にはライバルがいました。里見脩二という第一内科助教授です。ライバルと言っても,教授選には興味がなさそうで,彼は患者のことを第一優先に考える人物のようです。東教授の娘である東佐枝子は,里見に気持ちが行っているようでした。東教授が菊川教授の妻にしたいという思惑とは裏腹に。
何となく,財前=悪い人間,里見=良い人間というイメージを読者は与えられると思います。
そんな対照的な二人を中心としたドラマが,この「白い巨塔」の中にはあるのです。
そしてとうとう教授選が始まるのです。
まず,財前は10名もいる候補者の中のうち,最終選考に進むことができる3名に入ることができました。残りの2名のうち,一人は菊川教授,そしてもう一人は徳島大学医学部の葛西という教授です。
実はこの葛西という教授は,財前の前の助教授でもあり,東教授の教え子でもあったのです。東は,自分で菊川教授自分で呼び寄せておきながら,後輩の葛西と迷っているのです。
そして東が選択したのは,何と「白票」つまり,投票を放棄したのです。これで一気に流れが財前に傾きます。そして財前 vs 菊川の直接対決となります。そして決選投票。両者拮抗しましたが東教授の願いも空しく,財前が一票差で教授となったのでした。最大の目標を達成した財前。それを目の当たりにした里見はどんな気持ちだったのだろうか。
それにしても,普通の選挙,例えば国会議員や県議・市議の選挙と本当に変わらないんだなって思います。誰を取り込むか。誰を貶めるか。
教授になるという基準がイマイチわからないんですよね。研究成果? 手術の実績? 人間性? 人それぞれ良い部分と悪い部分ってあるんだけど,いい人がトップに立つとは限らないんですよね。
財前は,教授に就任してから,これまで以上に傲慢になっていきます。予想通りというか,誰も何も言えないし,財前も自分本位なんです。
ドイツで開催される「国際外科学会」の招聘状が届き,さらに有頂天になる財前。まだ就任したばかりで問題山積ですが,何か意図があるのか財前は参加する決意を固めます。
そんな順風満帆だと思われた財前でしたが,ある事件が勃発します。
それは里見にも関係することでした。一体,何が起こったのか。
里見が佐々木庸平という患者を診ていた時でした。検査の所見からは慢性胃炎だと思われましたが「胃癌の可能性もある」と思っていました。
そこで里見は財前にも診てもらいたいと依頼します。財前は依頼通り診断にあたります。
診断の結果、レントゲンで早期の噴門癌が見つかりました。
噴門とは
胃は、みぞおちのあたりにある袋状の臓器で,食道からつながる胃の入り口を噴門と言います。逆に十二指腸へつながる胃の出口を幽門ゆうもんと言います。
胃の壁は、内側から順に、粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜しょうまく下層、漿膜と呼ばれる5層に分けられます。
-がん情報サービスサイトより-
これは転移の可能性もあるのではないかと,佐々木庸平の担当である柳原はMRIの必要性を財前に伝えるんですけど,財前はこれを却下したのです。
里見も同じ依頼を財前に依頼していました。財前は了承したはずでした。しかし実際の検査は行っていなかったんです。ん~,これは嫌な予感がするな。。。財前には,目の前の患者よりも,ドイツである国際学会のことで頭がいっぱいになっているようです。
噴門癌の手術は無事に成功し,術後も順調のようでしたが,手術を受けた佐々木の容体が急変します。柳原が財前にそのことを伝えますが「自分の手術は完璧だった」と訴える財前。
佐々木の癌は肺に転移しているのではないか,里見は財前に言います。しかし財前は里見や柳原の訴えを聞かず,ドイツに旅立つのでした。
そして最悪の状況が。。。とうとう佐々木の容体はさらに悪化し,そのまま亡くなってしまいました。予想どおり,癌は肺に転移していたのです。
その頃,財前はドイツの学会へ出席,そして手術の腕前を披露したりしていました。
この佐々木の件がさらに状況を悪くさせます。佐々木の妻のよし江が財前を訴えることにするのです。とうとう裁判にまでなってしまいました。確かにあの財前の対応は問題あるよな。。。よし江は,息子である信平とともに弁護士の関口に弁護を依頼しします。着々と進む裁判の準備。そんな状況になっていると思いもよらない財前。
そして財前が日本に帰国します。すると裁判の当事者である財前の元に報道陣が殺到します。何のことかわからない様子の財前。ドイツの学会に気持ちが行っているから気づくはずないですよね。
そしてようやく,財前は自分自身が犯してしまった誤診で訴えられていることを知るのです。うろたえる財前。まずは養父である又一に相談します。
そして,財前を教授に推薦した医学部長の鵜飼も,財前が裁判で勝つために奔走します。弁護士には,大阪弁護士会会長で、医療紛争裁判に詳しい河野という人物に弁護を依頼します。
財前はカネにものを言わせ,人を買収し,挙句の果てには証人に嘘の証言をさせるように持っていきます。何と,あの財前を恨んでいたはずの柳原すらも。柳原は,今後のキャリアを考え,悩みます。そして財前と口裏を合わせ,財前にミスがなかったことを主張してしまうのです。さらに驚いたのが,あの里見が真実を証言したことに対しても,柳原は異を唱えるのです。
ん~,そんなに出世が大事か。今の立場を確保するためなら,買収されてしまうのも無理はないのか?
結局,判決は「財前勝訴!」
今回の癌の転移を鑑別することは困難であり、財前の怠慢があることを認めつつ、法的責任があるとは言えないということのようです。これに対し,よし江と信平、関口は愕然とします。そしてすぐに控訴の準備をします。里見は法廷で財前に不利な証言をしたわけですから,とうとう左遷されてしまいます。山陰大学医学部への赴任です。
しかし里見は,真実を訴えても届かないことに怒りを覚え,同時に絶望し、赴任を辞退してしまいました。つまり,里見は浪速大学を退職してしまうのです。一体,里見はどうなってしまうのでしょうか。当然,原告側は控訴するわけなんですけど,ここから逆転するのは相当難しいだろうなと思いました。かつて「医療過誤」においては,患者側からの訴えが通った例はほとんどなかったそうです。今は違うみたいですけど。
ただ,一度敗訴になった裁判を逆転勝訴へ持っていくなんて,よっぽどの証拠や証言がない限り難しいでしょう。
財前は裁判に勝利し,さらに傲慢になります。そしてもっと上を目指すことになります。
それが「学術会議選挙出馬」の話です。
日本学術会議とは
科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的としています。
昭和24年(1949年)1月に内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されました。
約87万人の科学者を内外に代表する機関であり、210人の会員と約2000人の連携会員によって職務が担われています。
<主な役割>
〇 政府・社会に対して日本の科学者の意見を直接提言
〇 市民社会との対話を通じて科学への理解を深める
〇 地域社会の学術振興や学協会の機能強化に貢献
〇 日本を代表するアカデミーとして国際学術交流を推進
-日本学術会議サイトより-
つまり,このメンバーになれば相当の名誉であり,絶大な権限も与えられるということなんですね。二期続けて洛北大学の関係者がメンバーに選出されたために、浪速大学としても野心の強い財前が選ばれるわけです。
財前は控訴審が気になりますが,鵜飼がしつこく推薦するのでした。どうやら対立候補である洛北大学の神納教授は,鵜飼と内科学会理事長の後任問題で対立していることがその理由のようです。
何となく今度は周りのいいようにされている印象の財前。財前も傲慢ですが,この鵜飼という人間も傲慢なんですよね。
学術会議への選出,医療過誤の裁判の間で揺れ動く財前。そんな財前はどうなってしまうのか。
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原告人であるよし江を救うべく,弁護士の関口はもちろんのこと,里見や東教授の娘などが証人探しに動き回ります。
キーポイントになりそうなのは,元看護師の亀山と,一審でも財前の圧力で嘘の証言をさせられた柳原。
ただ,亀山看護師は妊娠しており,法廷に立てれば証言が得られそうなんですけど,万が一体調が心配なんですよね。かなり慎重に動きます。そんな中、元病棟婦長の亀山君子が、断層撮影など必要ないと財前が言っていたことをほのめかします。これを聞いた東教授の娘である佐枝子が裁判で証言してほしいと説得しようとします。
しかし,法廷に出ることにストレスを感じて胎児に影響があるということで,説得は空しく失敗します。
その佐枝子の動きに感づいた財前は,その脅威に気が付きます。そして裁判に出ないでほしいと君子の夫に訴えかけます。得意の大金も掴ませ,買収しようとするんですね。
ところがこれが逆に君子の夫の逆鱗に触れてしまうのです。そして,亀山君子は証言台に立つことを決意するのです。財前はどんな人間でもカネで買収できると思っていたのでしょうか。そして今回の証言の重要ポイント何と言っても柳原です。彼は確実に嘘の証言をしているわけだから,何をもってすれば彼が一転して正直に述べるのかということが焦点になります。
原告側の生活の窮地を見ながら正直に言ってしまおうか。でも柳原自身の論文が通るためには財前を裏切るわけにもいかない。かなり揺れ動く柳原。
よし江は夫である庸平を失ったことで,佐々木商店の経営は悪化していました。苦しい生活の中,それでも裁判にかけるよし江。
最後には佐々木商店は倒産してしまいます。それを知っても柳原は真実を証言してくれないのか。この状況に,柳原はようやく証言台に立つことを決意します。君子と柳原は真実を証言するのです。
そして,大きなポイントのなったのは,これまで財前派だった二人の医師が法廷内で逆上したことでした。財前は自分の過ちを部下に押し付け,それを裁判中に言ってしまったから,もー大変。あっという間に財前は圧倒的不利。
因果応報。天網恢恢疎にして漏らさず。嵌められたという怒りというものは一瞬で人を復讐心を湧き上がらせるものなのでしょうか。
これまでも評判がよくなかった財前でしたが,さらに確実に追い詰められ,財前は逆転敗訴となってしまいまいました。もちろん里見や亀山看護師,医師などの証言も重要でした。
ただ,関口という弁護士が医学のことを勉強しながら論理的に相手の弱点の穴を突いたのが大きかったと思う。
これまでの医療過誤について研究し,医学のことも研究して裁判に臨んだ関口弁護士。彼がここまで医療について調査しなければ逆転はなかったでしょう。この展開は読んでて本当に気持ちよいものでした。そして死亡した患者の妻が原告人として訴え,会社の経営が行き詰まりながらも最後まで諦めずに闘ったことにも感動しました。
これで「めでたしめでたし」と思いきや,実は最後の展開が待っていました。実は財前は癌に侵されていたのです。不調を訴えていた財前は実は癌だったわけで,すでに手遅れの状態であることが開腹して判明します。
そういえば,2003年のドラマの中で,東教授役の石坂浩二さんが財前(唐沢寿明)の手術中の「こ,これは・・・」という表情をしたのを思い出しました。
ここまで読めば財前に対しては「自業自得だ」と思っていましたが,そんな財前に同情させるような表現で描かれています。
財前以外の人間全てが「財前は癌である」ということを本人には秘密にし,ただの胃潰瘍として処理しようとしていました。
でも財前は自分が癌であることに気づいてしまうんですね。自分の体のことは,自分が一番よくわかる。それが医者であればなおさらなのかな。他の人間に嘘をつかれ,完全に孤立してしまう姿は同情しそうになった。
そして,彼はさらに死を覚悟し,自分の遺体を医学に役立てるよう,別の医師に解剖を依頼する。最後の最後まで彼は「医師」であったわけです。何とも皮肉な財前の最期でした。
まず本作品を読んで,医療の現場の過酷さというものを痛感しました。そしてドロドロの人間関係があることも。
真面目に生きている人間が損をし,裏であくどいことを行っている人間が徳をするというのはよくある話なんだろうとは思います。実際,本作品を読んでいて,腹が立ってきたことが何度も何度もありました。確かに医療にはいろいろな要素が絡んでくるから,何が悪いとは一概には言えないだろうと思います。
でも人を貶める人間はどうしても許せないですよね。
人間は失敗をする生き物ですし,それが医学の分野であれば,手術に失敗,確認を怠ってしまうこともあるのだと思います。そして,人の命を預かるというそのプレッシャーというものは想像つかないものだとも思います。
でも,患者にとってはやはり医者しか救ってくれる人間はいないわけで,私利私欲ではなく,純粋に患者と向き合ってほしいです。
財前を生かせば,徳をする人間もいる。そしてその人間の欲が強ければ強いほど,自分が想像つかないものをも動かしてしまうんだろうな。
「白い巨塔」とは,そんな上下関係の厳しい封建的な世界を皮肉っているような響きがありました。
● 「白い巨塔」という言葉は,医療業界の封建的社会を表している
● 財前五郎に対する読者の視点の変化と作者の描き方
● 医師という仕事,地位,名誉