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【瑠璃の雫】伊岡瞬|人を赦すということ

瑠璃の雫

伊岡瞬さんの作品の中でも特に好きな作品です。

瑠璃というのは後で紹介する永瀬という元検事の一人娘で,彼女は誘拐されてしまいます。

今回の主人公である美緒という女性のが,永瀬の事件と自分の弟の事件,この2つの事件の真実へと導くという作品になっています。

こんな方におすすめ

● 元検事の永瀬の一人娘の瑠璃の誘拐事件の真相を知りたい

● 美緒の弟である充の事故の真相を知りたい

● 「人を赦すこと」について考えてみたい

作品概要

母と弟の3人で暮らす小学6年生の杉原美緒。母のアルコール依存によって、親類に引き取られた美緒は心を閉ざしていく。そんな折、元検事の永瀬丈太郎という初老の男と出会う。美緒は永瀬の人柄に心を開いていくが、彼はひとり娘を誘拐されており、大きな心の傷を抱えていた。数年後、美緒は事件を調べ始め、あまりにも哀しい真実を知る。家族とは何か。赦しとは何か。今最も注目を受ける気鋭が贈る、慟哭のミステリ!。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

杉原美緒・・・今回の主人公。弟の充に対して不信感を持っている

杉原 充・・・美緒の弟。かつて,弟の穣を事故で亡くしていまう

杉原由佳里・・美緒の母親。アルコール依存症で時々入院する

吉岡 薫・・・美緒と充の面倒を看ている

永瀬丈太郎・・元検事。一人娘を誘拐されてしまう

本作品 3つのポイント

1⃣ 美緒の不遇な環境

2⃣ 誘拐事件の追及

3⃣ 2つの真実

美緒の不遇な環境

主人公の美緒と,発達障害だった充には,当時十か月くらいの弟がいました。

その弟いるベビーベッドで充が頭を押し付けたことで死なせてしまったというのです。

母親がいない間に起きてしまった事故。

美緒は,自分の弟である充を許せないでいました。

それも含め,美緒にとってこの家庭は不遇な環境でした。

父親は外に女性を作って出ていくし,母親はアルコール依存症になってしまっていんです。

心の支えといえば,母親の従妹の薫だけでした。

彼女は「ローズ」という喫茶店を経営しており,美緒と充の面倒を看ていたんですね。

美緒はそんな充を,タイミングを見て何度も事故に見せかけ殺そうとするが,うまくいかない。

でも,充がいじめられていれば助けようとする。

美緒は何かに迷っているような複雑な心理状態のようにもとれました。

そしてある日,充が川に流されてしまうんです。

その後は美緒の心理が描かれてなかったので「あぁ,充は亡くなったんだろうな」って思いました。

誘拐事件の追及

ある日「ローズ」に永瀬という初老の元検事が現れます。

永瀬の一人娘である瑠璃が誘拐され,行方不明になってしまっていたのです。

永瀬は事件に没頭し,徐々に妻である初恵とすれ違っていきます。

瑠璃は薫の友人でした。何となくだけど,薫は全てを知っているような気がします。

永瀬がどんな人生を歩んできたか。

永瀬は末期がんでした。そしてある日事件が起こります。

永瀬が住んでいた家が火事になったのです。

事故なのでしょうか,それとも放火なのか。。。

大人になった美緒は,この永瀬の思いを晴らすべく,誘拐事件の真相を調べ始めるのです。

小宮という政治家が自殺し,その息子の小宮賢一が容疑者となっていたことを知ります。

しかし,決定的な証拠もなく,そして政治家の息子ということもあり,事件は迷宮入りするのです。

永瀬の思いはどうだったのか。どうしても知りたいという気持ちを美緒は抑えられませんでした。美緒は徹底的に聞き込みを行い,まるで刑事のような行動をとります。

調べていくうちに,美緒はある一人の芸術家である竹本多実男という男に行きつきます。

実はこの竹本多美雄が真相を知っていたんです。

2つの真実

これから書くのは次の2つの真実です。

1⃣ 瑠璃の誘拐事件の真相

2⃣ 美緒の弟である充の事件の真相

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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多美雄は瑠璃の遺体を移動させて,それを絵に描いた人物でした。

しかし,彼はその真犯人も知っていたのです。やはり,小宮賢一だったんですね。

多美雄は,瑠璃の遺体を自分の庭に埋めました。

そして小宮にそのことで脅されていたんです。

どうやら永瀬はそのことまで知っていたようです。

永瀬は,真実を知って「贖罪」の気持ちで小宮にカネを渡し,事件のことを許したのでしょうか。

自分の一人娘を殺害されたのに赦せるものなのでしょうか

ん~,ここはちょっと理解できなかったです。復讐の気持ちはなかったのだろうか。

私利私欲で犯罪を犯し,そしてそれに対して復讐をする。

永遠に解決できない問題のような気がします。

検事という仕事は法の下に誰かを追い詰めてしまい,時には復讐されてしまうというリスクのあるとても大変な仕事なのかなって思いました。

これが一つの真実です。
そしてもう一つ大事な真実があります。それは充のことです。

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美緒はとうとう母親に詰め寄ります。本当に充が弟を殺したのかと。

真実は違いました。家を出て行った父親が殺害したのです。

そしてそのことを母親は隠していました

何の罪もない息子である充を犯罪者にしたのです。これは許せない!

母親が堂々と真実を話している時,美緒は充を呼びます。

そうなんです,充は川に流されたけどちゃんと生きていて,その日は小学校を早退していたんです。

全てを聞いていた充は泣き出します。

父親,母親に濡れ衣を着せられていたことにショックを受けたことでしょう。

これまで辛い思いを持ちながら生きてきたと思います。

そして,美緒自身もどんな思いで生きてきたことか。

でも充は自分の親を許しました。もう忘れたいからと。

充の気持ちもわかります。これからずっと嫌な思いを引きずったまま生きたくないでしょうから。

親に問題があって,その子供の成長に問題が出てくることがたくさんあります。

いろんな小説を読んでいると,犯罪を犯す人は不幸な境遇で育っているという設定がとても多いです。

まともな教育が受けられなかったり,虐待を受けて誤った人間性が身に付いてしまったり。

もし自分だったらどうなるだろうかと考えます。

ひょっとしたら同じようになってしまうかも知れない。

われらに罪をなすものを われらがゆるくごとく われらの罪をもゆるしたまえ

僕自身も,自分の人生の中で赦せないことがありました。

赦すことはできる日が来るのだろうかと思って生きてきました。

僕自身はキリスト教徒ではないですが,この言葉にはうなってしまいました。

この作品で考えさせられたこと

● 自分の娘を誘拐された人間を赦せるものなのか

● 濡れ衣を着せられた子供の心の傷は計り知れないくらい大きい

● 人は他人のしたことを赦せるのか,赦すべきなのか

この作品を読んで,僕は過去のことを赦すことにしました。

人間性というのはこういう意外なところで培われていくものなのかもしれませんね。

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