約800ページの超大作で,「宮部みゆき」さんの直木賞受賞作品です。
作品の冒頭で事件が発生し,その理由が明らかになっていくのですが,読みながらどんどん引き込まれていきました。
まるで,刑事が聞き込みをしているかのような形式の作品で,描き方が独特です。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 登場人物
4. 本作品 3つのポイント
4.1 マンションの住人
4.2 占有屋とは
4.3 「家族」とは
5. この作品で学べたこと
● 本作品の架空の家族が「同じ屋根の下で生活している理由」について興味がある
● 「占有屋とは何か?」を知りたい
● 「家族とは」を考えさせられる作品を読んでみたい
荒川区の高級マンション「ヴァンダール千住北ニューシティ」のウエストタワー2025室で、4人の死体が発見される。1人は転落死で、残りは何者かに殺されたようであった。当初、4人は家族だと思われていたが、捜査が進むうち、実は他人同士だったことが明らかになる。彼らはなぜ家族として暮らし、なぜ死ぬことになったのか
-Booksデータベースより-
宮部みゆきさんの経歴
1960年生まれ。
東京の高校を卒業後,速記試験などに合格し,法律事務所に就職。
その後,小説を書き始めたそうです。また,ミステリー界の大御所で構成される「日本推理作家協会」の会員でもあります。
主な受賞歴
日本推理作家協会賞(龍は眠る)・山本周五郎賞(火車)・司馬遼太郎賞(模倣犯)・直木三十五賞(理由)・吉川英治文学賞(名もなき毒)など
受賞歴がすごいです。まさにミステリー界の大御所です。
宮部さんの作品の何を最初に記事にしようか迷いましたが,この「理由」にしました。
この作品は,あるタワーマンションの20階の部屋から、人が転落したというところから始まります。一体,このマンションで何が起こっていたのか。
石田直澄・・・小糸家のマンションを競売にて落札するが。。。
八代祐司・・・マンションから転落した男性。キーになる人物。
宝井綾子・・・一人息子のいるシングルマザー。実は秘密があった。
吉田達夫・・・今回の事件を捜査する刑事。ヒアリング役。
1⃣ マンションの住人
2⃣ 占有屋とは
3⃣ 「家族」とは
転落があった部屋にはもちろん住人がいました。
吉田という刑事が捜査を始めるんですけど,その部屋にはさらに遺体が。。。
中年の男女二人と老婆の合計4人がいきなり亡くなったのです。しかもさらに驚いたのは,この4人はこの家の住人ではありませんでした。
かなり混乱しました。「どういうこと?」
この家の本当の住人は「小糸家」という三人家族でした。
ただ,借金に苦しんでいて,自分たちの家を担保にしていたため,競売にかけなくてはならなかったのです。
競売にかけられたくない。
そう思った小糸信治は「占有屋」を住まわせることにするのです。
小糸家のマンションは,石田という男性が競売で手に入れます。
ところが先に書いたように,小糸は占有屋である「砂川家」という一家を住ませます。
実は,この砂川という一家が本当の家族ではないのです。
疑似的な家族を構成し,マンションに住んで競売を妨害するというのが「占有屋」です。世の中でもこういう占有屋の例はあるみたいですよ。
一番の目的は「立ち退き料」を請求させることですね。
競売にかけられた物件を、誰かが落札したとします。
そこで,その物件に短期契約で別の人間を住まわせてしまえば、そこを立ち退かせるために法外なお金を請求されるということが行われていたそうです。
買受人が正当な方法で落札したはずなのに、逆に脅されてしまうという、法律の未熟な部分に付け込まれるといことがあったらしいです。
やっぱりお金が絡んでるんですね。
2004年くらいに法整備がされてからは,だいぶ少なくなったようですけど。
ここから先は,是非「理由」を読んでみてください!
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ここで綾子という女性が現れます。
実は,彼女には八代との子供がいました。
石田と共に現れた綾子と,それに逆上した八代がベランダでもみ合います。
そして八代が転落してしまうのです。これが真相でした。
ただ,その真相を知ってから思うところがあります。
ここには,本物の住人が一人もいなかったということです。
全く関係のない人々が一時的に架空の家族となり,思わぬ出来事から立て続けに殺人事件が起きてしまいまいした。
「砂川家」を構成する人はどういう人たちだったのでしょうか。
今回の作品では、全員が殺害された偽装家族の一人一人はそれぞれ問題を抱えていました。
みんな自分の本当の家族と住むのが嫌になって。
そんな人たちが「砂川家」という架空の家族を構成していたのです。「家族ってなんだろう」考えさせられました。
血がつながった人間同士が同じ屋根の下で仲良く住んでいるところもあれば、毎日喧嘩が絶えない人たちもいます。
一方で,今回みたいに一見家族のように見えてしまう人たちもいるんですね。
ひょっとすれば,今まで家族だと思ってた人たちが,実は全く関係ない人たちの集まりだった,ということもあったのだろうか。
いや,可能性はかなり低いとは思いますが。。。
一時的ではあるが、不幸な過去を背負っている人間たちの集まりの方が、うまくやっていけるということも,実際にはあるのかも知れません。
でも,それは本当に一時的であって,ちょっとこじれれば今回のようになってしまうような気がします。
血がつながっているということは、人間関係の希薄さから生まれる争いを食い止める抑止力につながっているのかなとも思いました。
● 家族とは,基本的には夫婦や親子など近親者で成り立つものである
● 世の中には,担保の競売によって得た不動産の立ち退き料を迫る「占有屋」という存在がある
● 私利私欲のための集合体には「絆」がないため,関係が崩れやすい
砂川家が存在した「理由」は,私利私欲の目的のためだけだったのです。
絆というものはなかったのだろうと思います。