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【父の声】小杉健治|娘に父の声は届くのか

父の声

小杉健治先生の作品の中には「父」という言葉が入ったタイトルがいくつかあります。

一番有名なのは「父からの手紙」でしょうか。「父と子の旅路」そして本作品「父の声」

「父からの手紙」のブログでも書きましたが,とにかく小杉先生の作品は読みやすいです。

文章がとても丁寧でわかりやすいんです。だからあっという間に読了してしまいます。

そして何と言っても得意の「大どんでん返し」。ストーリーの構成に巧みさを感じます。

本作品を読了して,今回も何か切なくなりました。

果たして,大好きな一人娘に「父の声」は届くのか。

是非,読んでもらいたい一作です。

こんな方にオススメ

● 麻薬の恐ろしさを知りたい

● 娘を想う父親の「声」とは何かを知りたい

● その声が娘に届くのかを読んでみたい

作品概要

地元を離れ、東京で暮らす娘ののぞみが婚約者の本間を連れて帰省した。 父親の順治は、二人を明るく迎えたが、娘のある変化に不審を抱く。 心配になった順治は、娘を追って上京することに。 どうやらのぞみは、男に騙されて覚醒剤に手を染めているらしい。 娘を救うため順治はある行動に出るのだが……。 感動のミステリー長編。
-Booksデータベースより-


主な登場人物

奥村順治・・・主人公。麻薬に手を出した娘を救おうとする

奥村のぞみ・・順治の娘。麻薬漬けになってしまう

篠田幸造・・・麻薬取締官。麻薬組織を追う

本間明・・・・のぞみと付き合い,覚せい剤漬けにする

沢本銀次郎・・覚せい剤をやっていると噂される芸能人

金子・・覚せい剤の売人

南条恭二・・・暴力団の組員

本作品 3つのポイント

1⃣ 娘を想う父親の気持ち

2⃣ 順治はのぞみを救えるか

3⃣ 父の声は届くのか

娘を想う父親の気持ち

奥村順治はある日,朝からソワソワと落ち着かない日を過ごしていました。順治の一人娘であるのぞみが,婚約者を連れて帰ってくるというのです。

仏壇に手を合わせる順治。それは妻であり,すでに亡くなった孝子の位牌でした。

仏壇順治と孝子の間に難産で産まれたというのもあるのか,順治はのぞみのことを大変気にしていました。約二年ぶりに会う順治とのぞみ。しかし,思ってもない展開になります。

婚約者の名前は本間明。何となくのぞみの父親には会いたくなさそうです。そして実家のある富山県高岡市の順治の家へやってきます。

いろいろと話しながら,順治は違和感を感じていました。そしてあるものが目に付きます。それは本間の腕に刻まれたタトゥでした。これにも違和感というか,何かしら嫌な予感がするんですよね。

そして嫌な予感は的中。のぞみは「今日帰ります」と言うのです。「あの男はダメだ」と返す順治。のぞみは本間をかなり愛しており,順治の言うことは聞きません。親子けんか順治は複雑な気持ちでのぞみを見送るのでした。順治は落ち込み,スナックで愚痴を言うようになります。

何度かのぞみに電話をします。いろいろと聞きたいことがあっても,のぞみは何かを隠しているようです。「また電話する」と言うのぞみ。この言葉は順治にとっては本当に辛いですよね。

視点は変わって,篠田幸造という人物の視点になります。彼は河原という芸能人を取り調べていました。どうやらこの河原,覚醒剤で捕まったようです。誰から仕入れたのかを篠田は聞き出そうとします。覚醒剤河原には恋人がいました。おそらくこの女性も覚醒剤をやっているのでしょう。

覚せい剤とは

覚せい剤取締法で規定された物質で、アンフェタミン、メタンフェタミン及びその塩類を指します。

覚せい剤の使用により交感神経が刺激され,疲労感の除去、気分高揚、食欲減退などが「大きな快感」として認識され,精神的な依存が形成されます。

-千葉県サイトより-

敢えて説明するまでもないとは思いましたが,体内でどういう作用が起こるのかを知ることはできます。そしてよく聞くのは,一度やってしまうとやめられなくなり,依存していまうということでしょうか。

芸能界でもよくこの類の事件ってありますよね。芸能界だけでなく,スポーツ選手なども。やはりプレッシャーがかかる時には頼ってしまって,依存してしまうのでしょう。

実際にこの取り調べの時も,覚醒剤を打てないので「離脱症状」が出ています。

彼はかつて薬学部に在籍していました。ある日,秋葉原で無差別殺人事件が起こるのです。現場にいた篠田は,何人かが倒れ,血を流し,現実のとは思えない光景を目の当たりにしたのです。

篠田にとって,この事件の衝撃が厚労省麻薬取締役官になるキッカケになったのでしょう。だから篠田にとって,覚醒剤,いや麻薬と呼ばれる類の者を売ったりすることは絶対に許せないわけです。麻薬取締役官粘り強く取り調べた結果,河原から「大柴」という名前を聞き出します。次のターゲットはこの大柴。尾行して,ある建物に入った大柴でしたが,表札は「金子」となっています。

ということは大柴は偽名か。。。大柴,いや金子が動き出します。今度はある料亭の女将である岡本まりえと接触します。実はこの女将も覚醒剤をしていました。

どうやら金子は完全なる売人なんでしょうね。でもどこからこの覚醒剤を仕入れているのか。岡本まりえも覚せい剤所持で捕まり,何としてでも金子を捕まえたい篠田。

しかし,ここで思ってもないことが起こってしまうのでした。

順治はのぞみを救えるか

麻取の篠田たちは金子の家を張り込んでいました。岡本まりえが自白し,金子が売人であることに確信を得た篠田は踏み込みます。

しかしそこには驚くべき光景が。何と金子が自殺していたのです。

リビング張り込んでいた面々は,金子以外の人間が出入りする姿は見ていない。その状況を聞きますが,篠田は金子が自殺したとはとても思えない様子です。家の中を捜査しますが,覚醒剤やその類のものは全く見つかりません。

そんな時,順治は娘のことを知るために,娘の友人である真名香と会うことになります。そこで出てきた名前が「本間」でした。のぞみと真名香は大学四年生の時に本間と知り合ったようです。

本間と会った時,同じ場所には芸能人である沢本銀次郎もいました。本間は「薬」をやっていたようなんですね。それを聞いて衝撃を受ける順治。ということはこの沢本も?

やはり本間は何かある。嫌な予感がするなぁ。。。

「孝子,すまない。のぞみが大変なことになっていた。俺は少しも気づかなかった。。。」

自宅の位牌に向かって亡くなった妻へ娘のことを報告するのでした。順治は東京へ向かいます。そして娘を探すことはもちろん,同時に繋がりがあると思われる人物たちから話を聞こうとします。

東京へ向かう沢本銀次郎の事務所へ向かいます。沢本に会って,本間の連絡先を聞くために。そして本間の電話番号を聞き出し,電話をかけるのです。本間はいきなりの電話に驚いた様子でした。

順治は脅しをかけます。「のぞみの居場所を言わないなら警察に通報する」と。これに本間は動揺したのか,順治と直接会うことにします。ん~,これも嫌な予感がかなりする。。。

実際本間に会うことには成功しますが,のぞみには会わせてもらえません。自分の娘がすぐそこまでいるのに,順治の切なさや怒りが伝わってきそうです。

ということは,現在別の場所で捜査している篠田と,のぞみを心配する順治はどこかでつながるのか。いや,本間は誰と繋がっているのか。読みながら想像するわけです。

篠田は岡本まりえからいろいろと聞き出します。

ある日,金子と同伴で「王府飯店」という中華料理屋である男女と会います。店主に問い詰めるとその男が「本間さんではないでしょうか」というのです。

ここでとうとう繋がりました。本間は薬をやっていないと主張していましたが,やはり売人と繋がっていたのです。それはのぞみや順治ともつながったことになります。麻薬売人本間はどこかの「組」とも関わっているようなんですね。だとしたら,なおさら順治やのぞみが危ない。順治は,のぞみが逮捕されることも覚悟しているようでした。

確かに,このまま本間との関係を続けていけば,いずれ「廃人」になってしまう。そうなってからは遅いから,何とか本間との関係を絶ちたい。そのための一番良い方法が「逮捕」と考えているようです。

その頃,本間をターゲットにしていた篠田たちは,今度は本間と一緒にいた女性をマークしていました。そう,順治の娘であるのぞみです。彼女の自宅に張り込み,出てきたところに篠田が問いかけます。ハンドバッグ奥村のぞみのバッグを調べます。そこには覚醒剤のパケと注射器が入っていました。そしてとうとう,のぞみは覚醒剤所持で逮捕されたのです。

父の声は届くのか

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篠田はのぞみを取り調べます。本間は「売人」なのか,と。しかしのぞみは否定します。どうやら本間には同級生で,現在は暴力団の組員である南条恭二という人物を知ります。

なるほど,この南条が黒幕だったのか。。。暴力団篠田はまずのぞみの父親である順治の自宅を訪ねるため,高岡へ向かいます。警察の手を借りて,奥村家に入る篠田たち。しかし,そこはきれいに片付いていました。まるで,順治がもう帰ってこないかと思えるくらいに。

手がかりを探す篠田たちは連絡を受けます。新高岡駅の駐車場に順治の車が置いてあったようです。しかも,車の中には本間の財布が落ちていたようなんです。

これは一体どういうことなのか。順治だけでなく,本間の行方もわからなくなってしまいました。そして,ある山中で遺体が発見されます。それは本間明のものでした。

とうとう大事件に発展してしまったようです。ということは,犯人は順治?

山の中その順治は自殺しているのではないかと篠田は考えます。例え本間が逮捕されたとしても,刑務所から出所して,またのぞみと会うかもしれない。そう考えた順治が自分の命と引き換えに本間を葬ったと考えても不思議ではありません。

本間が亡くなったことを聞きショックを受けるのぞみ。篠田は言います。

「お父さんはあなたのために自分を犠牲にしたんです!」と。のぞみは「それが余計なお世話なんです」と言います。な,何ということを。。。

そしてこの言葉を聞いた篠田が代弁してくれるように怒りを露わにします。

いい加減に目を覚ませ! お父さんをそうまで追い込んだのはあんたなんだ。

自分勝手なことばかり言い張って!

この篠田の怒りの言葉で,のぞみは我に返ったようでした。そしてのぞみの友人の真名香に,篠田は語りかけます。

奥村のぞみは近々起訴される。裁判では初犯であり,執行猶予がつく。

しかし,それからが彼女の覚醒剤との過酷な闘いの始まりです。

どうか彼女のために力を尽くしてほしい。

篠田はさらに関係者を逮捕します。芸能人の沢本銀次郎です。世間では大きなバッシングとなり,売人である本間との関係性を暴露されます。そしてのぞみは覚醒剤の更生施設である「高岡ダルク」に入所します。

薬物更生施設(ダルク)とは

・D:ドラッグ(薬物)
・A:アディクション(病的依存)
・R:リハビリテーション(回復)
・C:センター(施設)のCを組み合わせた造語

覚せい剤、危険ドラッグ、有機溶剤(シンナー等)、市販薬、その他の薬物から解放されるためのプログラムを行っております。

-日本ダルクサイトより-

必死で更生を続けるのぞみは,時々幻覚を見ているようでした。枕元には時々父親の順治が現れます。もちろん幻覚です。更生施設「父さんはこれから遠いところへ行くから,もう会えない」

これはどういう意味なのか。やはり順治は。。。

一方,篠田たちの捜査も大詰めに入ってました。黒幕である南条のいる暴力団への令状が出たのです。ところが「組」の中には覚醒剤は見つかりませんでした。おそらくどこかへ隠したのでしょう。しかし篠田は気づきます。南条が着けていた「ネックレス」がないことを。

のぞみはある日,自分の父親がある場所にいるということを話します。もちろんのぞみは外界とも断っているいます。幻覚として夢で父親の居場所のヒントを話すのです。対決そしてその場所に篠田たちは向かいます。そこは本間が亡くなっていた場所です。何と,本間が亡くなっていたその下に,順治の遺体が埋まっていたのです。

これは順治が本間を殺害していないことを意味しています。そして順治の手には南条の「ネックレス」がありました。つまり,南条が順治を殺害した後,本間にも手をかけたのです。

これが決定的で,南条逮捕! それを聞いて唖然とするのぞみ。のぞみの枕元に現れた父親の「声」は確かに届いていたのでした。父の声娘が麻薬に手を出してしまった時の父親の衝撃というのは相当なものだろうなと思います。

もし自分の子供が同じ目に遭ってしまったらどうするか。

やはりこの順治のように必死で娘を探し出し,どうやったら更生できるかをまず考えるのではないか。それが自分の命を投げうったとしてもです。

覚せい剤をはじめとした麻薬というものにハマってしまうと,そこから抜け出すことは途轍もなく大変なことであることも,改めて考えさせられました。

精神的に病んでしまい,薬を手にすることで気分を高揚させることはできても,それは一時的なものであって,そこからどん底が待っているのだなと。

麻薬に限らず,強烈な作用のある薬にはメリットもあるけど,デメリットはそれ以上に大きいのだと思います。それが依存であり,中毒であるわけなんですね。

誤って手を出さないようにすること,仮に手を出してしまった人がいたら必ず更生できるようになってほしいと思います。

この作品で考えさせられたこと

● 覚せい剤だけではなく,麻薬中毒の恐ろしさを改めて知った

● 父親が娘を命に代えてまでも護ろうとする思い

● 「父の声」の意味を知ることができた

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