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【焦眉】今野敏|政治資金に関わる警察と検察の関係

焦眉

作者の今野敏先生と言えば「隠蔽捜査シリーズ」を思い出しますが,この「樋口顕シリーズ」も非常に好きなシリーズです。

「隠蔽捜査」の竜崎もすごいですが,樋口も結構似たところがあって面白い。

さすが警察小説の第一人者というべき今野敏先生には毎回楽しませてもらっています。

今回は東京地検特捜部の検事2人が,なぜか警視庁の捜査二課にちょっかいを出してきます。

捜査二課と言えば,詐欺の取り締まりや選挙に関する政治資金の不正利用など,県民の生活を大きく脅かす犯罪に対して動くところです。

確かに本作品では衆議院議員の汚職か? という話になりそうなんですけど,この検事2人が何をもって入り込んでいるのかがポイントになります。

こんな方にオススメ

● 警察の組織,検察との関係をもっと知りたい

● 警察・検察と弁護士とのかけひきを読んでみたい

● 政治資金について詳しく知りたい

作品概要

東京都世田谷区の住宅街で投資ファンド会社を経営する中年男性が刺殺され、捜査一課の樋口顕も現場に急行した。警視庁が特捜本部を設置すると、東京地検特捜部の検事・灰谷卓也が現れる。灰谷は野党の衆議院議員・秋葉康一を政治資金規正法違反容疑で内偵中だった。秋葉は殺された男性と大学時代から親しかったらしく、殺害現場付近の防犯カメラには秋葉の秘書が映ってもいた。それらの事実だけを理由に灰谷は秘書の身柄を拘束。樋口は証拠不充分を主張するも、灰谷は独断で逮捕に踏み切ってしまう……。
-Booksデータベースより-



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主な登場人物

樋口顕・・・・主人公。警視庁捜査一課の刑事

秋葉康一・・・相沢の友人で,国会議員

相沢和史・・・四つ葉ファイナンス社長。何者かに殺害される。

本作品 3つのポイント

1⃣ 殺人事件発生

2⃣ 犯行動機は政治資金?

3⃣ 事件の真相とは

殺人事件発生

東京都内で殺人事件が発生します。被害者は相沢和史という男性で,彼は「四つ葉ファイナンス」の代表をしている人物でした。パトカー四つ葉ファイナンスは主に資産運用を行っている会社でした。つまり,誰かがお金をこの会社に預け,相沢率いる人間たちが代わりにこの金を増やしてあげよう,というところでしょうか。

そんな中,相沢は殺害されたのです。どうもお金の匂いがプンプンしますよね。相沢が運用失敗して,それを恨んだ誰かがやったのかなって思いました。

さらに,この相沢は親からも数百万借りたり,他にも金を借りてた形跡があるんです。

でも最後はしっかり払っている。そして,返還直前になると「神風」が吹いて持ち直して返還しているのです。返還ん~,どうも運用失敗ではなさそうな気もするんだけど。。。

そんな頃,主人公の樋口顕が所属する警視庁に異変が起こっていました。

東京地方検察庁の灰谷と荒木という検事2人が警視庁捜査二課の人間にいろいろと聞き込みをしているんですね。

捜査二課というのは冒頭でも書いたように「政治資金の不正利用」などを取り締まるところです。検察官実はこの時,ちょうど樋口と仲のいい氏家という刑事が捜査二課に異動になってました。そして与えられた仕事が「選挙係」です。

つまり,選挙に関わる不正を取り締まる役目を担うことになっていたのです。これ,偶然なんでしょうか。

検事の2人は,強引に捜査二課の人間からいろんなことを聞かれるだけでなく,何かを調査しようとしていました。やはり,政治資金に関することなのか。

もしそうだとすると,検事2人は何かを掴んでいて,その証拠欲しさに警視庁に乗り込んできたということになります。警視庁そしてしばらくすると,相沢には仲のいい国会議員がいることがわかるのです。少しずつ検事たちの企みがわかってきます。

犯行動機は政治資金?

相沢の大学時代の仲間で,秋葉康一という国会議員がいました。相沢と秋葉は相当仲がよかったらしいんですね。しかもこの秋葉,市民運動家でした。つまり左翼に近い団体の人間だったということです。秋葉元々警視庁も,公安一課がマークしていたみたいです。この秋葉という男,あやしいですね。

どうやら相沢から秋葉に金が渡っていたみたいです。300万円。これが政治資金。

通常,個人から政治団体,あるいは候補者個人に対して寄付できるのは,年間150万円が限度らしいです。これは「政治資金規正法」で定められています。

政治資金規正法とは

議会制民主政治の下における政党その他の政治団体の機能の重要性及び公職の候補者の責務の重要性にかんがみ、政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするための法律

(1)政治団体の届出
(2)政治団体に係る政治資金の収支の公開
(3)政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正
(4)その他の措置を講ずる

これにより,政治活動の公明と公正を確保し、もって民主政治の健全な発達に寄与することを目的としています。

-総務省サイトより引用-

ちょっと難しいですね。

年間なんで,トータルで300万円行くこともあるとは思いますが,問題になっているのは献金したのが相沢個人からなのか,それとも四つ葉ファイナンスなのかがポイントです。組織からの献金は賄賂と受け取られ,基本的に認められてませんから。

なるほど,だから東京地検の検事2人はその調査に捜査二課を利用しようとしていたんですね。

警察から地検へ話がいくのならわかるんですけど,地検の検事たちが半ば強引に警視庁に入り込んでいっているのにはかなり違和感があります。

本当に不正な献金があったのか。相沢が殺害されたのはその政治資金と関係があるのか。そしてさらに新たなことがわかってきます。

秋葉康一の秘書の亀田が,現場近くの監視カメラに映っていたらしいのです。防犯カメラなぜ秘書が相沢の近くにいたのか。そこを思い切り突いてくる検事たち。

亀田は容疑を否認しています。確かに現場近くは通ったが,自分は殺していないと。

樋口の捜査一課,氏家の捜査二課,そして地検の二人。三つ巴のようですが,実際には警視庁 vs 東京地検の構図になっています。

警視庁側は,秋葉か亀田のどちらかが相沢を殺害したとは思っていないようです。でも地検の灰谷はその線で押し切ろうとしています。

どうも検事たちは下記のような結論ありきで動いているように見えます。

「秋葉と相沢が金でもめて,亀田が相沢を殺害した」

ということは,動機は政治資金がなくなったから? ん~,なんか無理があるような気がするけど。。。刑事と検事そしてとうとう,事件の真相が徐々に見えてきます。

事件の真相とは

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樋口たちは冷静に考えても「亀田は犯人ではない」と思っているようでした。

もし亀田が無罪だったら完全に「冤罪」であって,それを東京地検が押し込んだら世間が大変なことになってしまいます。冤罪それに,状況的に亀田には犯行は不可能に思えるんですね。監視カメラに亀田が映っていた時刻と,犯行時刻が一致しないんです。

それでも亀田を任意で引っ張って強引に行こうとする検事たち。なんか検事たちの勇み足のような気がするんだけどなぁ。

しかし,ここで検事たちの本当の狙いが見えてきます。

実は秋葉の選挙区には検事正の友人も立候補していて,その友人は落選して,秋葉が当選していたんです。立候補この当選を「無効」にしようと企んでいたわけです。でもなぜなんでしょう。彼らが独断で動いたとはどうも思えない。ということは検察側の上の人間が怪しいということになります。上層部からの命令で動いていたのか。

樋口という男は,警視庁からも信頼されているようで,何か上が困ったら樋口に任せるという部分があります。

今回は,亀田が殺人の容疑で拘束されているということに腹を立てた秋葉との対決になります。ここが一番の見どころでした。

秋葉は「なぜ亀田が容疑がかけられているのかを教えろ」と言ってきます。それに対し,樋口は「自分たちはそんなつもりはない」って言いますけど,秋葉は納得しないのです。

かといって,「東京地検の連中が勝手に容疑者扱いしている」と情報を漏らすわけにもいかない。

秋葉が怒り出すのも無理はないですよね。監視カメラだけで任意で引っ張ったわけですから。

樋口は覚悟します。そして今回の事件が検察側が独断で動いているということを伝えるのです。

徐々に怒りが収まっていく秋葉。さすが樋口だと思いました。だから上司も樋口を頼りにするんですね。

そして,真犯人はやはり亀田ではありませんでした。全く別の人間でした。その人物はこれまで一度も登場していません。

動機は「自分の全財産の資産運用を四つ葉ファイナンスに依頼したが,運用失敗し大金を失ってしまった」ということです。完全に怨恨だったということです。逮捕では検事の二人は一体何がしたかったのか。

それは高杉という検事正の友人が落選したことが原因でした。しかし検事正からの命令ではなかったのです。

あの検事二人が勝手に「忖度」し,秋葉の当選を無効にしようとしただけだったのです。
なんとも愚かな。。。忖度逆に言えば,検察というところは上下関係の非常に厳しいところなのかなって思いました。

上の機嫌を伺い,独断で動いてしまった検事の2人には呆れてしまいましたが,組織って,本当に何が起こるかわからない「生き物」ですね。

警察と検察は仲がいいというイメージがありますが,場合によってはそうでもないのかもしれないとも思いました。

よく法廷ものを読んだりしますけど,確かに法廷では検事は警察とつながりが深くて,まさに検事・警察 vs 弁護士という構図で描かれている作品はたくさんあります。

でも,本作品のように,警察を上から目線で見下ろし,自分たちが強く言えば警察は言うことを聞くって思っている部分もあるんでしょうか。専門家ではないから本当のところはわかりませんが。。。。

樋口が秋葉と対決した時の,樋口の頭の回転の速さには驚きます。怒り狂っている秋葉に対し,冷静にその状況を考え,何を出すべきで,出さないべきかを瞬間的に判断する力。

そして,自分の上司に確認をせずとも,必要とあらば自分の判断で伝えるべきことを伝える力。これって「責任負わされても仕方がない」という覚悟がないとできないですよね。

樋口の覚悟には本当にいつも尊敬してしまいます。

また「樋口顕シリーズ」を読んでみたいです。

この作品で考えさせられたこと

● 警察だけでなく,検察の上下関係にも相当な厳しさがある

● 警察と検察の微妙な縄張り意識

● やはり今野先生の警察小説が一番面白いかもしれない

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