みなさんは「平和警察」と聞いて,何を思い浮かべるでしょうか。
「平和」だから,その国は安全なのだと思うでしょうか。
日本の警察はとても優秀だと聞いたことがあります。日本の治安が良い一つの理由でもあるのでしょう。
本作品のタイトルを見た時「何かSF的な作品なのだろうか」と思っていましたが,全く違いました。
まさに日本の架空の警察の話です。いや,未来の警察の姿なのか。。。世の中にはたくさんの国があって,その国を護るための警察の在り方も千差万別だと思います。
というよりは,世界のどこかではこのような体制の警察が存在しているのではないかという既視感もありました。
舞台は伊坂先生の出身地である「仙台」です。地元を愛してやまない伊坂先生の作品は仙台を舞台にした作品が圧倒的に多いです。
仙台に住んでいる方にとっても誇りだと思っているでしょうね。
この平和警察の監視下,一人の「正義の味方」が現れるのです。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 「平和警察」とは
3.2 正義の味方参上
3.3 黒ずくめの男の正体
4. この作品で学べたこと
● 本作品の「平和警察」がどういう組織なのかを知りたい
● 「火星に住むつもりかい」の意味を知りたい
● 「正義の味方」の正体を知りたい
「安全地区」に指定された仙台を取り締まる「平和警察」。その管理下、住人の監視と密告によって「危険人物」と認められた者は、衆人環視の中で刑に処されてしまう。不条理渦巻く世界で窮地に陥った人々を救うのは、全身黒ずくめの「正義の味方」、ただ一人。ディストピアに迸るユーモアとアイロニー。伊坂ワールドの醍醐味が余すところなく詰め込まれたジャンルの枠を超越する傑作!
-Booksデータベースより-
1⃣ 「平和警察」とは
2⃣ 正義の味方参上
3⃣ 黒ずくめの男の正体
日本における警察とは
個人の生命、身体および財産の保護、犯罪の予防、鎮圧および捜査、被疑者の逮捕、交通の取締りその他公共の安全と秩序の維持を責務とする行政機関である
-Wikiより-
日本に「平和警察」なるものが存在していました。安全区に指定されている仙台ではこの平和警察が監視しています。街中の至る所,建物内にまで「防犯カメラ」が設置され,常に警察が監視しているのです。
そして,一度「危険人物」と判断された人間は強引な尋問を受けます。それだけでもキツいですが,最悪には公衆の面前で「斬首刑」つまり「ギロチン」が行われるというのです。
今の日本では絶対にありえない世界ですよね。
「疑わしきは罰せず」という言葉がありますが,全く逆です。
「疑わしきは罰せよ」本当に恐ろしい世界です。理不尽な平和警察に立ち向かう者もいるのです。何とかこの警察の横行を食い止めたい。
しかし逆に処刑されたくない人々は「あいつが怪しい」と密告するのです。
そして「危険人物」に指定され,処刑されてしまうのでした。
取り調べ中は,警官たちによる暴言や暴力は当たり前。他にも最低温度の冷房をかけた部屋に長時間放置したり、家族を人質にしたり。
人間にとって一番辛い部分を責めるという卑劣な組織。
それが例え無実であっても,強引に有罪に持っていこうとする平和警察。
「冤罪も罪のうち」という感じです。
中世の頃に「魔女狩り」というものが行われていたというのは聞いたことあります。本作品でもこの言葉が出てきます。
「魔女とされた被疑者に対する刑罰」
まるで,罪もない者が「生贄(いけにえ)」にされるような状況。
そんな時,金子という教授を中心に,平和警察に対抗しようとするグループが現れます。
メンバーに蒲生(がもう),水野,白井,田原という男性が加わります。
特に正義感にあふれる蒲生は自分が平和警察をやっつけ,ヒーローになる姿を思い浮かべていました。
どうやら,このメンバーで清掃員になりすまし,平和警察のあるビルに忍び込もうとしているようです。
しかし,この作戦は失敗します。あっさりと捕まるメンバーたち。
そして衝撃の事実が判明します。彼らはまんまと嵌められていたのです。
実は「金子教授」は平和警察とつながりがありました。
真壁という捜査官が送り込んだ刺客だったのです。
それを警察から直接聞いた時のメンバーは唖然とします。
平和警察,恐ろしい警察です。一般人を味方につけ,さらにその一般人が自分の株を上げようとわざと罠を仕掛ける。
警察どころか,誰も信じられないような状況になってしまうのです。
「この話と同じようなことが世界のどこかで行われているのだろうか」と思ってしまいます。ネット上の噂話ではよく聞きますが。。。。
しかし,ここで本当の正義の味方が現れることになるです。
自分がヒーローになることを想像していた蒲生の元に,ひとりの人物が現れます。
黒ずくめの「つなぎ」を着た男の登場です。彼はゴルフボールの大きさの球体を使って警察官を攻撃します。そして蒲生を救うのです。
その後,まるでヒーローのように,黒ずくめの男は姿をくらましてしまいます。
平和警察は完全にメンツを汚されました。汚名返上とばかりに必死の捜査が始まります。
平和警察を倒した男が使っていた球体の武器は、磁石のようなものでした。
ただの磁石ではなく,かなり強力な磁力を持った球体のようです。「黒ずくめの男」の足取りを捜査しますが,それ以外になかなか手掛かりになる物が見つかりません。
しかし警察はあることに気づきます。
「黒ずくめの男」が移動した後,銀行のキャッシュカードが使えなくなっている人々がいたことを突き止めるのです。
キャッシュカードは磁気でデータの書き込みを行っているので,おそらくあの強力な磁力でデータが破壊されたのでしょう。そして再度「黒ずくめの男」と遭遇します。ある人物を助けに来たようです。
「球体」を投げると,警察は自分のベルトなどに身に着けている銃などが引っ張られ、体勢を崩してしまうようです
また「黒ずくめの男」は武器を持っていました。
筒状の鉄砲のようなものから,磁力を使って小さな球体を猛スピードで発射させるものです。一体「黒ずくめの男」は誰なのか?
ここで警察は一人の重要人物に焦点を当てます。
東北大学で磁石について研究している青年の存在です。大森鴎外という青年でした。
磁石についての研究をしており,鴎外は大学に内緒で特殊な磁石を企業と取引をしている疑いが出てきます。「大森鴎外が正義の味方,いや『黒ずくめの男』なのか?」と警察は踏んでいるようです。
そしてとうとう鴎外の行方がわかりました。
以前,タクシーの運転手が警察により殺害されるという事件が起きた時、鴎外は殴られているタクシーの運転手を助けようとしていました。
警察の都合でこの映像は消去されていましたが,わずかに鴎外の姿を発見するのです。ところがその後,鴎外は警察によって射殺されてしまいました。
「えっ? 鴎外が正義の味方じゃないの?」
どうやら「黒ずくめの男」は別にいるようです。完全に騙されました。
そもそも同じ市民なのに,黒ずくめの男が救く人物とそうでない人物がいます。全員を救おうとしているわけではないようです。
警察は,黒ずくめの男が救おうとする人物に何か共通点がないかと調査します。
捜査官の真壁もいろいろと推理しますが,なかなか手掛かりが見つかりません。
そして,とうとう黒ずくめの男の正体が明かされることになります。
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鴎外が持っていた磁石。これを手に入れた人物がいました。理容師の店主である久慈洋介という男でした。久慈には正義感の血が流れているようです。
まず久慈の祖父は、かつて宝くじに当選し、その金を借金に苦しむ人々を助けるために使いました。
ところがこの行為が「偽善者」と罵られてしまうのです。そしてとうとう自殺していまいます。
また,久慈の父親、骨折で入院していた際,病院が火事に見舞われたことがありました。
正義感の強い父は,病院に残された患者を助け出そうとします。そして火事の中に飛び込んで亡くなってしまっていたのです。久慈も正義感を持っているようでしたが,正義感が強すぎると祖父や父親のようになってしまうと,ひっそりと暮らしているようでした。
しかし久慈の妻が病で倒れ、亡くなってしまいます。久慈は落ち込み、理容院も休みがちになります。
そんな時,久慈は大森鴎外が警察官に殺害される現場を目撃してしまいます。
鴎外が亡くなった時,そこにはあの球体の磁石と鉄砲がありました。
久慈は、はじめは使い道に困りましたが、これらは武器になることに気付きます。
久慈は平和警察の横行に我慢ができなくなり,眠っていた正義感が強まっていったようです。そして平和警察に反抗する計画を立てたのでした。
久慈が助けようとしていた人間とは。。。
それは理髪店の常連客でした。彼らは「金子ゼミ」に騙されて取り調べ中だという情報を入手します。
そして彼らを助けるために取り調べ室に乗り込みました。
久慈は、常連の社長にも頼みこんで、救い出した常連客をかくまう部屋を用意します。
救い出しても,追及されたら黒ずくめの男の正体がバレてしまいますもんね。
平和警察はこの久慈になかなか辿り着くことができないでいました。
そこで黒ずくめの男をおびき寄せる一つの案を出します。
佐藤誠人という少年を強制連行します。佐藤は以前、幼馴染の少年にいじめられていたところを「つなぎの男」に助けられたという過去がありました。
彼を処刑しようとすれば「あの男」がやってくるだろうという計画です。
大きな広場の処刑場に,佐藤は連れていかれます。ギロチンがセッティングされ,処刑が行われようという場面です。「今から10を数えます」とうとう警察のカウントダウンが始まりました。
「ここだぁ!」
間もなく処刑というタイミングでとうとう久慈が姿を現したのです。。
ようやく久慈を捕まえることができた平和警察。今度は久慈をギロチンにかけようとします。
ところがギロチンは磁石によって作動しませんでした。警察がギロチンを調べている隙をみて,久慈はギロチンに仕組まれていた鉄砲を取り出して発砲し、逃走しました。
発砲された銃弾は薬師寺警視長に向かっていきますが,薬師寺は何と自分の部下である上野刑事部長を盾しました。
これが警察に知れ渡ることになり,薬師寺の方が追及されてしまいます。
つまり,薬師寺があの久慈をおびき寄せ,自分に発砲させるように仕向けたと。
上野刑事部長は防弾チョッキを着ていたので無事でした。
薬師寺警視長の上司である警視監は,薬師寺のことを警戒していました。自分の手を汚さず,私利私欲の計画を立てた薬師寺の追及されるシーンが想像できます。
それでも「平和警察」はなくならない。自分たちの自由は制限される。どうにもならない。
久慈は自分の理髪店で客を相手していました。その客がいいます。
「世の中はよくならない。それが嫌なら,火星にでもいくしかない」と。
平和警察と言いながら,市民を徹底的に監視し,少しでも怪しい人物を処刑するという恐ろしい世界を描いた作品。
先にも書きましたが,こういう警察が世界中のどこかにはあるのかもしれません。
その警察に立ち向かうのは一握りの「正義の味方」たち。
でも警察の前には無力なのかなとも感じました。
そしてその組織の中にも私利私欲にまみれた人物もいるわけです。
本当の平和って何なのでしょうか。とても考えさせられました。
ちなみに,サブタイトルの「LIFE ON MARS?」は「デヴィッド・ボウイ」の曲らしいです。あとがきにも書かれていますが,「火星に住むつもりかい?」というのは伊坂先生が誤って解釈したもので,実際には「火星に生物はいるのか?」という意味らしいですね。
英語に精通していない僕自身も,伊坂先生と同じことを考えたと思います。
ロケットで火星に住む時代が来るというのが話題になっているくらいですからね。
ま,とにかく,今回の「平和警察」のようなものが将来の日本の姿ではないことを祈りたいと思います。
● 「火星にすむつもりかい」の意図を理解できた
● 本作品の警察が本当に実在する国はあるのかもしれない
● 市民を護る警察は,正当な組織であってほしい